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原発の底で働いて

カテゴリー:社会

著者  高杉 晋吾 、 出版  綜風出版
 いま、福島第一原発でたくさんの労働者が事故収集作業に従事しています。高濃度の放射能によって汚染されている場所での作業ですので、どんなに不安なことでしょう。でも、そうやって黙々と働いてくれる人のおかげで、日本という国は成り立っています。
 安倍首相の親族が、その一人でもそんな作業現場で働いているというなら操業再開を声高に叫ぶ資格があるのでしょう。でも、そんな人がいたなんて聞いたこともありません。自分はのうのうと快適な暮らしをしながら、原発は安全だなんてうそぶく首相をかかえる日本は不幸だというしかありません。
 この本は、かつて浜岡原発で働いていた青年労働者が放射能にやられて若くして白血病で亡くなった事件を改めて追跡しています。放射能汚染区域での作業の恐ろしさを実感させてくれる本です。
 それにしても、浜岡原発というのは、とんでもないところに立地したものです。地盤は脆弱なうえに、活断層が近くを走っている。冷却のための海水取水口は沖合にあるが、そのパイプは地震に耐えられそうもない。そうすると、冷却できなくなるから、福島第一原発と同じ事態になるのは必至・・・。
 どこの原子炉にもある高い煙突。これは煙突ではなく、気体性放射性物質の排気筒。
 放射能の一部はフィルターで吸着されるけれど気体性放射能は、そのまま大気中に放出されてしまう。
 浜岡原発の敷地は、南海地震が発生して津波が来たら、周囲が津波に囲まれ、放射能の泥沼と化してしまう。
 民主党政権の菅直人首相は、浜岡原発を「いったん停止」した。しかし、防波壁が完成し、その安全性が確認されたときには再稼働されるという条件がついていた。
 ところが、3.11のとき、釜石湾にあった防波堤は一瞬にして崩壊してしまった。浜岡原発では予想される津波の高さ19メートルに対して、防波壁の高さは18メートルの高さしかない。
 浜岡原発では、地震が来たらもたないと予測されていたが、データが変造され、地震にも耐えるかのように発表された。
浜岡原発のなかで働いていた青年労働者は白血病になった。
 白血病になると、神経部分が正常に機能しなくなる。そのため、脳神経障害から、さまざまな異常行動が見られるようになる。眼振、顔面の表情異常、行動異常、けいれんなど、さまざま。
 原発労働に入る労働者を斡旋する業者には暴力団関係者が多い。
 あまりにも前近代的な労働環境のようです。本当に心配です。
(2014年1月刊。2000円+税)

宇宙が始まる前には何があったのか?

カテゴリー:宇宙

著者  ローレンス・クラウス 、 出版  文芸春秋
 何もないところから何かが生じることはない。しかし、この常識は宇宙では通用しない。重力と量子力学のダイナミクスを考慮すると、常識はくつがえってしまう。それこそが科学の素晴らしいところ。私たちが目にするものすべてを、空っぽの空間から作り出すことが可能なのだ。
 この本で語られていることは、何年、何十年、何百年というものではなく、2兆年とか、まさしく気が遠くなりすぎるほどの次元の話です。もちろん、地球はおろか太陽だって50億年という寿命がとっくに尽きてしまっている先の話です。
 まあ、たまには、そんな雄大な宇宙の話に耳を傾け、目を見開いてもいいのではありませんか・・・。
私たちの身体を構成している原子のほとんどすべては、かつて爆発した星の内部に存在していたもの。私たちは、みな、文字どおり、星の子どもたちなのだ。私たちの身体は星屑(ほしくず)で出来ている。
光速より早く動くものはない。これが私たちの常識。しかし・・・。
 量子力学によれば、高い精度で粒子の運動速度を測定することができないほど短い時間ならば、その粒子は光よりも早い速度で動いてもかまわないということが示唆される。そして、もしも光より速い速度で動いているとしたら、アインシュタインによれば、その粒子は時間を逆行しているように振る舞うはずなのだ。
 なんということでしょうか。光速より早いと言うことは、時間を逆行することになるだなんて・・・。
アインシュタインが一般相対性理論を提唱したのは、わずか100年前のこと。そのころ、宇宙は永遠不変というのが世の中の常識だった。
 現代は、宇宙は膨張していることを知り、暗黒物質が宇宙にあることを知っている。空っぽのように見える空間エネルギーが含まれていて、それが宇宙の膨張を支配している。
 観測可能な宇宙は、これからどんどん光速より大きな速度で膨脹していく。つまり、未来になればなるほど、見えるものは減っていく。いま見えている銀河は、未来のある時点で、私たちからの後退速度が光速をこえ、それ以降は見えなくなる。その銀河は、地平線の彼方に消えてしまうのだ。
 これから、2兆年たつと、一部の銀河を除いて、すべての天体が文字どおり姿を消してしまう。つまり、今日、私たちの観測可能な宇宙にちりばめられている4000億の銀河は、すべて姿を消している。
 私たちの太陽は銀河系の辺境にある平凡な星の一つにすぎない。そして、銀河系は観測可能な宇宙にちりばめられている4000億個もの銀河の一つにすぎない。
 宇宙では、きわめて高い信頼度で、無から何かが生じることはありうる。
 空っぽの空間にもエネルギーが存在することが発見された。つまり、実は、空っぽの空間というのも複雑なものだった。適切な条件の下では、何もないところから何かが生じることは可能であるばかりか、必然だということ。
 高温・高密度のビッグバンの時期には、もともと物質と反物質とが同じだけ存在していたのだが、ある量子的なプロセスにより、物質の法が反物質よりもわずかに多くなるという小さな非対称性が生じた。そのおかげで、何もないところから、何かが生じた。それが、今日の宇宙にみられる星や銀河になっていた。
この本を読んで理解できたなんて思っていませんが、宇宙の始まる前には何があったのか、宇宙に終わりがあるのかという問いかけに対する答えの一つだと思い、最後まで興味深く読みとおしました。
(2014年2月刊。1600円+税)

足下の小宇宙

カテゴリー:生物

著者  埴 沙萠 、 出版  NHK出版
 NHKテレビで放映されて、大きな反響を呼んだそうです。私は残念ながらそのテレビ番組はみていません。
 でも、なるほど、ほんとうに見事な写真ばかりで、ついつい見とれてしまいます。
 著者は大分県出身ですが、今は群馬県みなかみ町の山里に住んでいます。82歳の植物生態写真家です。
 名前は、「はに しゃぼう」と読みます。シャボテンの研究からスタートしたことを反映した名前です。
ツチグリというキノコは、雨で濡れて、胞子袋も濡れて、膨らんで、雨つぶがあたると胞子が噴出する。
 著者は、なんと、その胞子が噴出する一瞬を写真に撮るのです。
カテンソウも同じ。花粉袋がオシベの柱からはずれると、「ピン!」と弾けて、その勢いで花粉が放り出される。
 花粉が飛び出る瞬間の撮影のときには、閃光時間が2万分の1秒という特別なストロボを使わなければいけない。
春先に我が家にも出てくるツクシの胞子を顕微鏡をつかって撮影する。
その胞子が散る様子を写した写真には躍動感があります。
二つに分かれた日本の手が、バネのように伸びたり、縮んだりする。息を吹きかけると、ダンスするように踊り出す。
シャボテンは、私も庭の一角で栽培しています。そのシャボテンが乾燥した地面にもぐり込んでいる写真があります。驚きのワザです。
ホームページもあるそうですので、私のお気に入りに登録して、ときどきのぞいています。
(2013年11月刊。1600円+税)

アウト・オブ・コントロール

カテゴリー:社会

著者  小出 裕章・高野 孟 、 出版  花伝社
 原子力発電所は安全だと言いながら、政府も東電も、原発を東京につくるとは決して言わない。なぜか?
 ここで燃やしているのがウランだから。そして、生み出される核分裂生成物の量が半端な量ではない。一つの原子力発電所は1年動くごとに広島原発の1000発分をこえるような死の灰を原子炉のなかにため込んでいく。
 原子力発電所は大変効率の悪い蒸気機関で、100万キロワットの電気を使おうと思うと、そのほかに200万キロワット分のエネルギーは使えないまま捨てるしかない。
 原子量発電所の別名は、「海温め装置」。1秒間に79トンの海水温を7度も上げる。
福島第一原発事故は、今も終息していない。溶け落ちた炉心が、今どこに、どんな状態であるかは分かっていない。
 4号機の使用済み燃料プールは、半分がまだ中吊りのまま、そこにある。使用済み燃料プールの中に1331体の使用済み燃料がある。これを一体ずつ、キャスクという巨大な容器の中に入れていく。
 1331体を1回もしくじらないで、本当に容器に移せるのか、大変な不安がある。その作業を終えるまでに何年もかかる。途中で再び大地震にあったら、どうなるのか・・・。
 1号機から3号機までで、広島原爆がばらまいた放射能の168発分を大気中にばらまいたと政府は言っている。本当は400~500発分だろう。
100ミリシーベルト以下の被爆なら、無害だという学者は、まず刑務所に入れるべきだ。
 大切なことは、これからの子どもを被爆させないこと。人間は年をとっていくと、被爆についてどんどん鈍感になっていく。ところが0歳の赤ん坊は、4倍も5倍も危険だ。さかんに細胞分裂しているときなので、敏感だ。
 日本の原発はもう安全なんだとか適当な嘘を言って海外へ輸出しようとしている安倍政権のインチキぶりを、私は絶対に許すことが出来ません。
(2014年1月刊。1000円+税)
 今朝おきて雨戸を開けると、向かいの山が真っ白になっていました。夜のあいだに降った雪が積もったのです。この冬はじめての雪景色でした。
 寒いなかをいつものように元気に走りまわっています。

新選組遠景

カテゴリー:日本史(江戸)

著者  野口 武彦 、 出版  集英社
 新選組の実態と歴史的位置づけを明らかにした本として、とても興味深く読みました。
 文久3年(1863年)2月、江戸から総勢240人余の浪士の一団が京都に向かった。
 服装はまちまちで、野郎頭や坊主もいる。一番目だったのは、「水戸天狗連」と称する水戸脱藩浪士立ちの20人のグループ。首領格は芹沢鴨(せりざわかも)。その黒幕は清河八郎。近藤勇たち多摩出身者は、その他大勢でしかなかった。
 ところが、京都に着いたとたん、江戸に大半の浪士が戻ることになった。前年の「生麦事件」の処理をめぐって、横浜沖に12艘のイギリス軍艦が来ており、幕府への謝罪と10万ポンドの賠償金を要求していた。
 しかし、江戸に戻らず京都残留を主張し、居残った一群がいた。それが芹沢鴨と近藤勇のグループだった。残留者はわずか14人(または13人)だった。これが新選組の草分けとなった。
 地方農村の郷土などが剣術道場を経て「武士になれる」という一念がうずくようになっていた。身分障壁にひびが入って、上昇ルートが見えてきた。このパトスを知らないと、幕末史の深層は理解できない。
 京の町を取り締まる役目にあった会津藩士の会津弁が京都人にはさっぱり通じなかった。
 そして人手不足にも悩んでいた会津藩にとって、言葉が通じ、腕に覚えのある連中は頼もしい即戦力だった。新選組は権威のある会津藩の部局となった。
 酒乱気味のうえ、粗暴な振る舞いの目立つ局長の芹沢鴨は、深夜、愛人とともに滅多切りにされた。会津藩の同意の下、近藤勇たちが斬殺したのだった。
 元治元年(1864年)6月、新選組が「池田屋」を急襲し、20数名の尊攘派志士を殺傷した。この池田屋事件が新選組の盛名を一夜にして天下にとどろかせた。
 ただし、新選組は、あらかじめ池田屋に志士たちが集まっているという情報を得ていたわけではなかった。三条方面をしらみつぶしに調べて歩いていた近藤隊が思いがけず、池田屋で密議中の浪士立ちに行きあたった。そのため、別方面にいた土方隊が来るのが遅れて近藤らは一時、非常に苦戦した。土方隊が明けつけて盛り返した。近藤勇が大声で「御用改めである手向かいする者は容赦なく切り捨てる」と一喝した。すごい迫力だった。近藤の天然理心流には気合い術もあった。大声でまず相手を畏縮させるのである。
 新選組は大時代な立回りはやらない。効率的に横面や小手を狙って斬り込んだ。
池田屋事件の悲劇性は、新選組が多くの人材をむざむざと殺しながら、どんな相手を斬ったのかの自覚がまるでないところに醸し出される。
 沖田総司は、天才的な剣術を惜しまれつつ、肺結核のため27歳の若さで死んだ。沖田総司の本領は道場剣法ではなかった。斬りあいの修羅場で発揮された。
 沖田総司は、近藤勇や土方歳三に命じられると、黙って相手が誰であろうと斬った。勤王浪士はもとより、裏切り者の成敗にも容赦なく刃をふるった。
池田屋事件における大量殺傷のあと。尊攘諸藩の新選組観が根本から変わった。たかが王生浪士という悔りから、恐るべき強敵として、激しい憎悪の対象となった。新選組は引き返し不能の一点を越えた。新選組に対する情け容赦ない報復が宣言された。
新選組は、それまでのローカルな「王生浪」から、一挙に天下公認の治安警察隊に昇格した。幕府や会津藩の扱いも、にわかに丁重になった。近藤勇には、「与力上席」の内意が示された。禁門の変では、新選組は戦闘現場に出ず、一人の犠牲者も出さなかった。その結果、何も学ばないことになった。
 禁門の変は、鉄砲が戦闘の主役を担ったことを意味している。市街戦に大砲が使用され、銃撃戦が勝敗を決した。ところが、新選組は池田屋事件のとき斬撃戦で勝利を得たことから、そこから脱皮する機会を逸した。
 慶応3年(1867年)11月15日に坂本龍馬と中岡慎太郎の二人が近江屋で京都見廻組に倒された。
11月18日、新選組から抜けていた伊東甲子太郎が暗殺された。
 12月18日、近藤勇は馬に乗っているところを伊東甲子太郎のいた高台寺残党から銃撃され、右肩に甚大なダメージを受けた。 強い相手は鉄砲で倒せばよい。正面から剣の勝負を挑むのは、とっくに時代遅れになっていた。
 慶応4年4月、近藤勇は大久保大和と名乗っていたのを見破られて、刑場で斬首された。土方歳三は、函館の五稜郭で、明治2年5月、戦死した。
 最後まで面白く、一気に読み通しました。
(2004年8月刊。2100円+税)

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