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小椋佳・生前葬コンサート

カテゴリー:人間

著者  小椋 佳 、 出版  朝日新聞出版
 小椋(おぐら)佳(けい)の歌は、心に沁みるものが多いですよね。
 この本には、歌詞がたくさん紹介されています。私の聞いたことのないものがほとんどです。本名は、神田こうじですが、小椋というのは、大学時代に訪れた学生村の所在地の名前です。
 学生村と言えば、私は、長野県の戸狩(とがり)村に一夏(ひとなつ)過ごしました。そこで司法試験の勉強を本格的にはじめたのです。長野の暑さを、たっぷり体験しました。
 「シクラメンのかほり」は有名ですが、著者の奥さんは幼ななじみで、名前は「かほり」さん。佳は、その「かほり」さんの一字をとったのでした。
26年間の銀行員生活を50歳になる直前にやめて、大学に入り直して哲学を勉強したというのです。すごいことですよね。ただ、二度目の大学生活のとき、毎日、昼に喫茶店でカレーライスを食べていたというのには、ちょっと残念な思いがしました。やっぱり、昼食だって、いろいろ変えて楽しんでほしいものですから・・・。
先日亡くなったセゾングループの総師であり、詩人兼作家だった堤清二氏と親交があったというのには驚きました。モノカキ同志として美食をとりながら、途中からは美女も混じえて。さぞかし話ははずんだことでしょうね。本当にうらやましい限りです。
 70歳になったのを記念して、なんと「生前葬コンサート」を企画し、そのための本を出版したという発想もすごいですよね・・・。
著者は、幼いころ、可愛い子だと言われたことがない。よほど、おかしな顔をしていたのでしょう。今では、愛敬たっぷりの、個性的な顔といえるのですが・・・。それでも、祖母は、「この子はいい顔をしている。絶対に食うに困らない顔だ」と、ほめていたとのこと。見る目があったのですね。
 実際、この70年間、著者は食うに困るどころか、その心配したことが一度もない。食うことに神経を使うことすらなく、幸運なめぐりあわせで過ごしてきている。
 小学校低学年のとき、著者は信じられないことに、劣等生だった。目立たず、人にほめられることが何ひとつなかった。ところが、ある日、女の先生から、「きみ、お歌、とっても上手ね」とほめられたのだった。この一言が、その後の人生を決定づけた。
 私も、中学生のとき、国語の先生(女性)から、あなたの文章は良く出来ているわよ、とほめられ、その一言で、文章に変な自信がついたのでした。
お金がない、お金の苦労と言えば、弁護士の卵(司法修習生)のとき、新婚旅行の途中でお金がなくなり、同じクラスの友人のアパートにころがり込んで借金し、旅を続けたことがあります。お金をもたずに旅行するなんて若くなければ出来ないことですよね。今は、いつも少しだけ余計に財布にお金を入れています。もう、変なことは出来ません。
 著者は57歳のとき、胃がんの手術を受け、胃の4分の3を切り取りました。ところが、その結果、糖尿病が完治してしまったというのです。おかげで元気に長生きできているのです。人生、何が幸いするのか、分かりませんね。
著者の長男が2歳になったとき、『ほんの二つで死んでゆく』というLPアルバムをつくった。この歌は、私も好きな歌です。
著者は、中学生になってからは優等生になって、夜まで勉強していました。すると、母親が、いきなり戸を開けて、「お止め。よしな、勉強なんてしていると、頭がおかしくなるから、よしな。早く寝な!」と言った。
 ええーっ、うそでしょ、と、叫びたくなります。
 なかなか「発展家」の母親だったようです。なにしろ、著者が40歳のとき、母親の生んだ子(いわゆる私生児)が別にいるのが分かったというのですから・・・。
 著者は東大法学部出身で、法曹を目ざしたことにもあるそうです。大学ではボート部での生活に明け暮れていたとのこと。私はセツルメント活動一筋でした。授業も真面目に出ず、川崎市内をうろうろしていました。本だけは、いろいろ読んでいましたので、司法試験には早く合格できたのです・・・。
 著者の生涯について、なんと、「挑み」と「挫折」の連鎖だったと本人が語っているのには驚きました。私とちがって成功の連鎖とばかり思っていました。だって、毎年50曲もの歌をつくりつづけ、総計200曲もつくったのですよ。そして、毎年、50回から100回ものステージ公演を全国各地で敢行しているのです。そのタフネスぶりには圧倒されますよね。そんな著者にも、「挫折」があったというのです。人生とは、こんなにも複雑怪奇なのですね・・・。
(2013年11月刊。2381円+税)

米国特派員が撮った日露戦争

カテゴリー:日本史(明治)

著者  「コリアーズ」 、 出版  草思社
 アメリカのニュース週刊誌『コリアーズ』が特派員を派遣して、日露戦争の現場でとった写真集です。
 8人の従軍記者、カメラマンを派遣したとのこと。なるほど、よく撮れています。
日本は開戦にそなえて万全の準備を備えていた。その用意周到ぶりは、各国の従軍記者や観戦武官たちを驚倒させ、ロシアとの違いを際立たせた。表面的には平和を維持しながら、実際には何ヶ月もかけて、開戦に向けて準備していた。
「朝鮮半島に出征する日本軍部隊」という説明のついた一連の写真があります。東京から列車に乗り込む若い兵士たちがうっています。その大半が戦病死したのでしょう・・・。
 同じように、ロシア皇帝がニコライ2世が歩兵連隊を閲兵する写真もあります。
 仁川(じんせん)沖海戦では、ロシアの巡洋艦「ワリァーク」と砲艦「コレーツ」が降伏を拒否し自沈します。あとで、ロシアは生きて帰国した兵士たちを大歓迎しています。
日本軍の仁川上陸の状況をうつした写真もあります。仁川に上陸した日本軍は、すぐに平壌へ向けて進軍を開始した。1日25~40キロの早さで朝鮮半島を北進した。途中、韓国人による抵抗はなかった。侵略者をただ呆然と眺めるのみだった。
 日本軍の弱点は駐兵部隊だというのが観測者たちの共通の意見だった。
日本の軍馬は小柄で、騎兵は乗馬が得意ではない。ロシア軍騎兵の優秀さは、日本軍騎兵をはるかに上まわっていた。騎兵の大半はコサックから徴用されているか、持って生まれた気質、日頃の訓練から斥候騎兵という仕事にうってつけだった。
戦闘の間合いに、日本赤十字社の活動を視察するため、イギリス王室から二人の女性が派遣されたときの写真があります。
 また、鴨緑江渡河作戦について、外国の観戦武官に日本軍の少佐が説明している状況を写した写真があります。信じられない、のどかな光景です。
 遼陽の大海戦は5日間続いた。日露両軍あわせて40万から50万。両軍の死傷者は3万人。ロシア軍は退去を余儀なくされた。
日本軍の大本営写真班による『日露戦争写真集』(新人物往来社)とあわせてみると、日露戦争の戦況がよく分かります。
(2005年5月刊。2800円+税)

反原発へのいやがらせ全記録

カテゴリー:社会

著者  海渡 雄一 、 出版  明石書店
 事故から丸3年がたちましたが、今なお、福島第一原発事故は「収束」していないどころか、大量の放射能が空中に、海中に広く拡散し続けています。マスコミのとりあげ方が弱くなって、なんとなく「おさまっている」かのように錯覚させられているだけなのです。
 それにもかかわらず、政府は着々と原発再稼働に向けて手続を進めていますし、海外へ原発を輸出しようとしています。まさに、日本が「死の商人」になろうとしているのです。
 この本は、これまで原発にかかわる関連事業者などが、反原発運動を押さえ込むために、いかに卑劣な手口をつかって嫌がらせをしてきたか、具体的に暴いています。本当に貴重な記録集です。
 いやがらせの手紙は、集めただけでも4000通にのぼる。全体では、数十万の手紙が投函されたと考えられる。
 高木仁三郎氏など、著名な反原発の活動家について、本人の名をかたって、「死んだ」とか「逮捕された」と書いたり、反原発運動の内部に混乱をひき起こすような内容の書面を大量にばらまいた。
 また、子どもが公園で遊んでいる写真を同封し、「危害を加えるぞ」と脅すケースもあった。
 いやはや、なんとも卑劣です。
これらは、警察の公安か電力会社内の住民運動対策部局の追尾作業の「成果」と思われる。
 高木仁三郎氏は、道を歩いていて車にひかれそうになったり、高価な宝石が届いたり、その名前で下品な内容の手紙を出したり、集中的に狙われた。
 真夜中に無言電話がかかってきたり、集会に公安が潜り込んで参加者の顔写真をとったり、いろんなことが紹介されています。本当に許せない話ばかりです。
 著者の一人である中川亮弁護士が久留米の出身なので、贈呈を受けました。朝日新聞の記者だったこともある人です。元気にがんばっているようです。これからも、ぜひ大いに情報を発信してください。
(2014年1月刊。1000円+税)

はじめてのヒマラヤ登山

カテゴリー:アジア

著者  目指せネパール登山チーム 、 出版  誠文堂新光社
 日本の女性はたくましい。ましてや、おばちゃんときたら天下無敵。失礼しました。おばちゃんというには早すぎる、女性陣5名が、目指せネパールを合い言葉に集まり、果敢にヒマラヤにアタックし、無事に成功したというツアーが写真とともに紹介されています。
 昨年(2013年)4月、ついに5520メートルのヒマラヤのピークに立ったのです。すごーい・・・。
 私は高山病も恐ろしいし、胃腸にもそれほど自信がないので、こんな体験記を読んで、体験したつもりになってガマンしています。
 いろいろ知らないことがありました。女子チーム5人は、高山病予防のため、入浴をずっと控えていたので、結局、11日間もシャワーを浴びることなく過ごしていた。
 それは辛いですね。やっぱり、湯舟に浸かって、足を伸ばしたいですよね・・・。
ネパールに行ったら、10人中10人が下痢をする。慣れない環境でお腹をこわすし、ミルクティーの粉ミルクにあたったり、ぬるいコーラにあたったり・・・。
ヒマラヤではロバに荷物を運ばせる。その重量は40~50キログラム。それより思い、と馬に運ばせる。
 夜のホテルで、いきなり停電。そんなときには、携帯用のソーラー充電器が活躍する。
 高山病の予防のためには、ともかく水を飲み、こまめに深呼吸すること。なにより呼吸することを意識する。吸うことより、吐くことを意識する。
 1日に3リットルから4リットルの水を飲む。そして、トイレに行く回数をチェックする。トイレに行く回数が少ないと要注意。飲んで、出す。これが大切。
 ヒマラヤのアタック当日は、午前2時半に起床。パンケーキとおかゆの朝食をとる。午前3時半に出発。夜空に満点の星がまたたいているはず。でも、見上げる余裕はない。そして、ついにヒマラヤ山頂に立つ。
 午前2時半に起きて、寝るまでに3回しかトイレに行っていない。うそーっ、うそでしょと叫びたくなりますよね。これが高山病なんですね・・・。
 ヒマラヤ・トレッキングの経験豊富な富士国際旅行社にツアーを組んでもらったとのことです。費用は50万円ほど。決して安くはありませんが、それほど高くもないということでしょうね。
 写真と図解ありの、楽しいヒマラヤ登山の解説本です。
(2013年10月刊。1800円+税)

パワハラに負けない

カテゴリー:司法

著者  笹山 尚人 、 出版  岩波ジュニア新書
 とても分かりやすい、労働法の入門書です.大学生向けの教科書として、広く普及できたら、日本は、もっとまともな国になるのではないかと思いました。
なにしろ、今の自民・公明政権は財界言いなりで、労働者の使い捨てをギリギリすすめていますから、労働者の権利なんて絵に描いた餅ほどの軽さでしかありません。ひどい社会です。そんな社会だから、秋葉原事件や食品工場での毒物混入事件が起きるのではないでしょうか。中国の毒入りギョーザ事件も同じだと思います。
自分が大事にされていると思わない労働者は、追い詰められたら、とんでもないことをして社会に報復してしまうのです。もっともっと、働く人を大切にする社会にする必要があります。
 それにしても、この本は読ませるストーリーになっています。まだ40代の若手(中堅)弁護士ですが、これで何冊目なのでしょうか。読みやすさと、解説の深さに息を呑んでしまいそうになります。
 主人公は、望まずして労働弁護士になった阿久津弁護士です。パワハラ事件の相談を受け、裁判を担当するなかで、事件と先輩弁護士たちに鍛えられ、物の見方がぐんぐん変わっていき、人間としても大きく成長していく姿が生き生きと描かれています。そして、話の途中では、なんと、自分自身がパワハラの加害者になったというエピソードまであるのです。心憎いばかりの筋立てです。いやはや、完全に脱帽です。
労働契約とは何か、が語られています。
 労働者は奴隷ではない。だから、対等の立場で契約する。これは、口で言うのは簡単ですが、実践するとしたら、それこそ血のにじむ思いをせざるをえなくなります。
 日本にはブラック企業が現に多く存在している。使用者と労働者が、まるで昔の殿様と家臣のような関係になっている。これは、おかしい。明らかに法律の考え方に合致していない。
身の危険があるようなら、労働者は、たとえ業務命令であっても就労義務は負わない。これは、千代田丸事件についての1968年12月の最高裁の判例。
パワハラ事件では、ICレコーダーによる録音が決め手になることがある。
 民事訴訟では、音声記録が相手の承諾を得ていないから証拠としての価値がないとされることはない。パワハラの被害者は、自分が今まさに人格の崩壊をさせられようとしているのだから、自分の身を守る手段として録音するのは、必要やむえをえざる対抗手段なのだ。
 まことに、そのとおりだと私も思います。大変基本的で大切なことが盛り沢山の入門書です。若手弁護士、そして子どもたちに大いに読んでほしいものです。
(2013年11月刊。840円+税)

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