法律相談センター検索 弁護士検索

シハーディストのベールをかぶった私

カテゴリー:ヨーロッパ

                              (霧山昴)
著者  アンナ・エレル 、 出版  日経BP社
 「イスラム国」にヨーロッパの若い男女が吸い込まれているのはショッキングな出来事です。
 インターネットをつかった勧誘がすすみ、現実世界とはかけ離れた仮想社会の空理空論に青年男女が惑われているのです。日本でいうと、かつての(今も?)オウム真理教のようなものなのでしょう・・・。
 インターネットばかり見ていると、その仮想社会が現実のように見えてしまい、ひとたびシリアに入国したら、もう逃れる術はないのです。なにしろ、自爆テロが推奨される「社会」なのですから・・・。その要員に、おだてられて、なりかねません。
ノルマンディー出身の女の子は、たった一人でインターネットを見ているうちに、人生すべての答えを見つけたと思った。数週間後、キリスト教からイスラム教へ改宗し、イスラム過激派の部隊に参加するために旅立った。
「資本主義っていうのは、この世の堕落の源なんだ。キミがテレビを見ながらお菓子を食べ、CDを買い、店のショーウィンドーを眺めているとき、イスラム教徒だけの国を建てて幸せに暮らすというささやかな夢を抱いた仲間たちが、毎日たくさん死んでいる。オレたちが命をかけているというのに、キミたちは一日中、どうでもいいことばかりに時間を費やしている。キミは、美しい心の持ち主なのに、不信心者の世界で生きている。そのままだと、キミは地獄で焼かれてしまうんだ」
女性は誰にも1センチであっても肌を見られてはいけない。ベールは顔を見せてしまうから不十分だ。だから、ブルカを着て、その上にベールをかぶらなければならない。
 「自爆戦士は、もっとも有能な連中だ。信仰心があり、勇気がある。アッラーのために自爆できる人間は、栄誉とともに天国へ旅立つ。
 自爆戦士は、自分の命を犠牲にする覚悟のある戦闘員である。ISでは、もっとも弱いものは物資補給などの兵站業務を担当し、『その次に弱い者たち』が自分自身を吹き飛ばす。その仲間は、日に日に増えている」
 フランス人の若い女性ジャーナリストが、年齢を20歳と偽って、「イスラム国」の幹部(フランス人)とスカイプで会話して、侵入しようとした顚末が記されています。
 インターネットだけの接触なのですが、身元がバレないように気をつけながらスカイプで会話していく様子がリアルに伝わってきます。そして、その身に危険が迫ってくるのにハラハラドキドキさせられるのです。そこには、バーチャルではない、怖い現実があります。
(2015年5月刊。1800円+税)

現実を生きるサル、空想を語るヒト

カテゴリー:人間

                              (霧山昴)
著者  トーマス・ズデンドルフ 、 出版  白揚社
 霊長類にとって、他者をじっと見るのは脅しのジェスチャーであることが多い。霊長類は、たいてい視線を合わせることを避ける。
チンパンジーの目には白目がない。人間の目は視線の方向を伝える。自分がどこを眺めるのかはっきりと表に出し、他者がどこを見ているのかを読む。霊長類は、視線の方向をカムフラージュしている。
 模倣は、正常な社会的発達と認知発達にとって欠かせない。
 人間は、しばしば知らないうちに、互いをまねる。相手の姿勢や動き、話し方を無意識のうちにまねる傾向がある。教育は模倣を裏返しにしたもの。
チンパンジーは、団結もし、争いがあれば、相互に助けあう。このような連帯が、チンパンジーの政治的闘争の基盤となっている。
人間と同じように、チンパンジーは、自分を助けてくれた者のほうをよく助ける。チンパンジーは、誰と協力するのが一番いいのかを知っている。
 チンパンジーは、表情で他者に合図したり、他者から何かをせびったり、服従や優越性を示したり、仲直りを求めたりする。
 心のなかでシナリオを構築する能力は、人間では2歳から急激に発達する。
 人間の子どもは、起きているあいだのかなりの時間を費やして空想して遊ぶ。子どもたちは、人形などをつかいながら、シナリオを思い描いて飽きもせずに、それをくり返す。
 思考とは、根本的に、行動や知覚を想像することである。
 子どもは、遊びのなかで仮説を試し、数々の可能性を検討し、因果推論をする。
 子どもは心のなかでシミュレーションすることを学ぶ。要するに、考えることを学ぶのである。
 他者を楽しませるヒトは、性選択で有利な傾向がある。芸術家や俳優・音楽家には、人を楽しませるのではないタイプの人に比べてパートナーが多くいることが多い。
 人間とは何者なのかを、サルやチンパンジーなどと対比させながら考えていった本です。
(2015年1月刊。2700円+税)

汽車ぽっぽ判事の鉄道と戦争

カテゴリー:社会

                               (霧山昴)
著者  ゆたか はじめ 、 出版  弦書房
 汽車や鉄道の好きな人を「鉄ちゃん」とか「鉄子」と呼びます。私の身近にも「鉄ちゃん」がいて、たまに見事な写真を披露してくれます。
 この本の著者は、福岡でも裁判官をしていました。引退したあと、東京のほか沖縄にも自宅を構えています。東京の自宅には、なんと払い下げてもらった汽車ポッポ客車コーナーまであります。4人掛けでボックスシートには網棚まであるのですから、本格的です。
 著者は祖父の代から裁判官をつとめてきました。そして、著者は幼いころからの筋金入りの鉄ちゃんなのです。小学生のころ、母ともども学校に呼び出され、「電車好きもいいが、ちょっと度が過ぎる。もう少しつつしむように」と訓戒されたというのです。これは、すごいことですよね・・・。
 父親は、裁判官だったのですが、広田弘毅首相の秘書官になり、著者は晴れて都内を電車通学するのです。
 戦前、終戦間近のころに、父親が東京から長崎地裁署長へ赴任するので、家族総出で汽車で移動したときの写真が紹介されています。
 1945年4月のときですから、アメリカ軍によって列車まで空襲されるのです。そして、父親は、官舎で被曝します。幸いにも、次は京都地裁署長へ栄転します。どうやら被曝による障害は軽かったようです。その経験から、平和を愛してがんばったものと思われます。
 そして、著者は、裁判官をしながら、全国の鉄道を踏破していき、ついに、昭和52年(1977年)に国鉄全線を乗り終わったのでした。最後は秋田県の角館(かくのだて)線の終点の松葉駅。角館の武家屋敷には行ったことがありますが、指宿や島原の武家屋敷よりスケールが大きいと思いました。
 エリート裁判官としてのコースを歩みながらも、趣味に生きている著者の楽しい思いの詰まった本です。福岡の岩本洋一弁護士からすすめられて読みました。今後ますますのご健勝を心より祈念します。
(2015年15月刊。1800円+税)

「イタリアの最も美しい村」全踏破の旅

カテゴリー:ヨーロッパ

                            (霧山昴)
著者  吉村 和敏 、 出版  講談社
 イタリアの「美しい村」234村を4年半もかけて全部まわり、紹介した写真集です。
 すごいです。立派です。楽しい写真集です。そして、いかにも美味しそうなスパゲッティがひそかに紹介されていて、ああっ、これ食べたいと思わせます。さすがプロの写真家による写真集です。そして、それぞれの村の故事来歴がよく調べてあるのにも驚嘆しました。
 私はフランス語なら、なんとか話せますので、フランスの「美しい村」めぐりはしたいと思いますが、イタリアは言葉の障害があるので、行く気にはなれません。この写真集で、しっかり行ったつもりになりました。
 「美しい村」というだけあって、すごい写真が満載です。チヴィタ・ディ・バンニョレジョという村は、まさしく「天空の城」です。一本の狭い橋が小高い山にある村を結んでいます。ただし、この村の住人は、今や8人という寂しさです。
モラーノ・カラブロという村は、小高い丘に至るまで、ぎっしりと家が建ち並んでいて壮観です。
 トスカーナ州にあるピティリアーノという村も、緑の樹海の上にそそり立つ岩全体が村になっています。フランスで私も行ったことのあるレ・ボーのような村です。ちなみに、レ・ボーは、松本清張の本の舞台にもなっています。
 このピティリアーノ村は、まったく観光地化されておらず(レ・ボーは完全な観光地です)、三毛猫がけだるそうに寝そべっています。
 2009年に出版された「フランスの美しい村」に続く、イタリア版の写真集です。
 この本には、強く心が惹かれるのですが、私は一人旅はしたくありません。安全面という理由もありますが、なんといっても一人で食事をしたくないというのが最大の理由です。
 おいしい料理を、これは美味しいねと言いながら、その日の感想を気楽に心を許して話せる人と旅行したいのです。
 それにしても、著者の敢闘精神には深く感謝します。まだ50歳にもならない、なかなかのイケ面の著者であることに気がつきました。いつも、ありがとうございます。
(2015年3月刊。3800円+税)

帰還兵はなぜ自殺するのか

カテゴリー:アメリカ

                               (霧山昴)
著者  デイヴィッド・ファンケル 、 出版  亜紀書房
 アメリカからアフガン・イラクへ戦争に行った兵士たち、小隊30人、中隊120人、大隊800人は、元気な人ですら、程度の差はあれ、どこか壊れて帰ってきた。悪霊のようなものにとりつかれずに帰ってきたものはひとりもいない。その悪霊は動き出すチャンスを狙っている。
 アメリカに戻ってきた元兵士の一人は次のように語る。
 ひっきりなしに悪夢をみるし、怒りが爆発する。外に出るたびに、そこにいる全員が何をしているのか気になって仕方がない。
200万人のアメリカ人がイラクとアフガニスタンの戦争に派遣された。アメリカに帰還したとき、戦争体験などものともしない者もいる。しかし、200万人の帰還兵のうち20~30%にあたる50万人の元兵士がPTSDやTBIを負っている。
PTSD・・・・心的外傷後ストレス障害、ある種の恐怖を味わうことで誘発される精神的な障害。
TBI・・・・外傷性脳損傷、外部から強烈な衝撃を与えられた脳が脳蓋の内側とぶつかり、心理的な障害を引きおこす。
苛立ち、重度の不眠、怒り、絶望感、ひどい無気力。なげやりな態度・・・。
繰り返し外国の戦場に派遣された兵士は自殺しやすい。既婚兵士は自殺しにくい。
戦争のあいだ、毎日が同じように始まった。兵士たちは幸運のお守りをポケットに入れ、最後の言葉にまつわる冗談を言い合った。素早く円陣を組んで祈りあげ、最後の煙草を吸った。
防弾チョッキのベルトをきつく締め、耳栓をし、耐破損性サングラスを下ろし、耐熱性グローブをはめた。「出発」という号令とともに、ハンヴィー(アメリカ軍の装甲車)に乗り込んで進んでいった。道路の先で自分たちを待ち受けているのが何か、よく分かっていた。
兵士たちは、ハーレルソンのハーヴィーが宙に高く吹き上がり、火に包まれるのを見た。エモリーが頭を打たれて倒れ、自分の血にまみれていくのを見た。兵士たちが脚を失うのを、腕を失うのを、脚を失うのを、手を失うのを、指を失うのを、つま先を失うのを、目を失うのを見た。
次々に起こる爆発音を聞き、何十台ものハンヴィーが消えて、凄まじい炎の雲と化し、死骸へと変わるのを見た。そして、しまいには、兵士たちの大半がその雲に取り込まれてしまう。恐怖の瞬間に、雲に囲まれて何も見えないまま考えた。
自分は生きるのか、死ぬのか、無傷のままか、ばらばらになるのかと。やがて耳鳴りがし、心臓が激しく鼓動し、精神が暗黙に落ち、目には時折涙があふれてくる。
彼らは分かっていた。分かっていたのだ。それでも毎日、戦闘に出かけ、戦争がどのようなものが分かってくる。
 勝者はいない。敗者もいない。勇敢なものなどない。ひたすら家に帰るまでがんばり、戦争のあとの人生でも、同じようにがんばり続けなければならない。
アメリカからイラクへ侵攻した兵士たちの多くが貧困家庭出身の若い志願兵だった。ある大隊の平均年齢は20歳だった。そして、毎年240人以上の帰還兵が自殺を遂げている。自殺を企てた人は、その10倍いると推定されている。なぜなのか。
本書では、そのいくつかのケースを家庭訪問するなどして明らかにしています。
 経済徴兵制というのは、アメリカにならって、日本でも取り入れられる恐れがあります。
 自民・公明の安倍政権のすすめている戦争法案は必ず廃案にしなければいけません。
 日本の未来を担う若者から、その輝かしい未来を奪わないようにしましょう。あなたも、ぜひお読みください。
(2015年6月刊。2300円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.