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虫と日本人

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 保科 英人 、 出版 三弥井書店

 著者は「あとがき」において、日本人の昆虫愛なるのが過大評価されていると書いています。それどころか、本書を読むと、日本人は史上空前とも言えるほどホタルを大虐殺してきたというのは決して言い過ぎではないことがよく分かります。むしろ日本人は、保全生態学的な意味で昆虫を大事にする民族ではないとしています。

 室町時代の守護大名である大内義弘は和歌にホタルを読み込んでいる。江戸時代の大名たちはホタルを積極的に保護していた。美濃大垣藩の戸田氏鉄、松江藩の松平不昧、笠間藩の牧野貞喜などが紹介されています。

 明治になると、カフェーや百貨店の客寄せとしてホタルが店内に放たれていたのです。カフェー店内に数千匹のホタルが飛んでいたようです。そして、百貨店の松坂屋では、なんと6年間にホタルを530万頭も消費していたというのには驚きます。

そんなにたくさんのホタルをどこから仕入れていたかというと、当初は山梨県、そして滋賀県の守山市がホタルの生産地でした。守山市は今も「ホタルの町」のようです。

 九州では船小屋温泉、そして基山と諫早がホタルの名産地として紹介されています。

 また、日本人のホタル好きに鉄道会社が目をつけて「ホタル狩り」旅行を大々的に広告・宣伝していました。「ホタル狩り」ツアーはビジネスとしてのリスクが低かったようです。

 ゲンジボタルは日本固有種。ホタルを大量生産して、各地でのホタル狩りで放つと、ホタルの種の交雑が起きるという問題点も指摘されています。たしかに10万匹とか20万匹でもすごいですけど、530万頭というと想像を絶してしまいます。

 皇居内にもホタルが放たれています。明治天皇と昭和天皇が好んだようです。

現代日本で、売られている昆虫というと、一般にはカブトムシとクワガタの2種のみ。ところが、戦前の日本では、この2種はほとんど売られていなかった。

戦前の日本人が好んでいたのは鳴く虫たち。スズムシ、マツムシ、クツワムシそしてカンタンなど…。今では、スズムシくらいしか売られていない。

江戸時代から明治時代にかけては虫売りが道を歩いていたようです。ただし、初夏から秋にかけての臨時商売。鳴く虫の出現時期の関係なので仕方ありません。

 戦前の日本にはカジカガエルを飼っていて「河鹿王」と呼ばれる人(木田氏)がいたそうです。カジカガエルは1頭10銭で仕入れて、売値は25銭だったとのこと。カジカガエルの鳴合わせ試合もやられていました。

 寛政の改革で有名な松平定信が隠居したあとに書いた随想集(花月日記)には、セミの「ミンミンと鳴きたる」ことを書いている。また、スズムシとマツムシの区別の難しさにも触れている。定信は、娘などからもらった虫を籠に入れて鳴き声を楽しんでいた。

さすが学者です。日本全国の図書館で古い新聞記事から昆虫に関するものを抜き出して比較・検討しています。たいしたものです。

(2025年7月刊。3960円)

 スイスのダボス会議でカナダのカーニー首相が演説した内容を西日本新聞が紹介しています。

 アメリカのトランプ大統領が「私に国際法なんか必要ない」と放言して、ベネズエラへの軍事攻撃(大統領夫妻の連行)、グリーンランド領有の野望を高言してヨーロッパを脅すなど、強い者が力をバックとしてゴリ押ししようとするなかで、アメリカ以外の国が「法の支配」をもとに集まって対抗すべきではないかと呼びかけたのです。各国の代表が拍手喝采しましたが、日本の高市首相は、その呼びかけにはそっぽを向いて、トランプ大統領べったりのままです。

 トランプ大統領が来日したとき、アメリカの空母の上で並んで飛んだりはねたり大騒ぎした高市首相は日本国憲法など、まったく念頭にないようです。

 今、ヨーロッパ各国(ドイツ、フランス、イギリス)の首相や大統領が中国を訪問して、経済協力を強めようとしていますが、日本は「高市発言」以来、中国との仲は険悪になるばかりです。

 そんな高市首相を総裁とする自民党が今回の選挙で伸びそうだと予測されています。とんでもなく危険なことではないでしょうか…。しっかり目を開きたいものです。

深海の図鑑

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 渡部 裕美 、 出版 KADOKAWA

 超深海は海の表面から11キロも離れているけれど、深海と私たちの住む陸上とはつながっていて、お互いに影響を及ぼしあっている。

 ええっ、わずか11キロの深さだし、陸上とつながっているって、どういうことなの……、つい疑問を感じました。超深海が11キロの深さというのが「わずか」と言われても、では地球最高峰のエベレストがどれだけ高いかというと、9キロもないのですよ…。ええっ、11キロしかないなんて言わないでよ…と思ってしまいました。

 海の深いところは光が届かない真っ暗闇の世界。なぜ、光が届かないかというと、水に光が吸収されるから……。水深1キロで光は届かなくなる。海の平均水深は3800メートルなので、海のほとんどは光の届かない暗闇の世界。

 音のほうは、海中では陸上の4倍も速く伝わる。空気抵抗のほうが水中抵抗よりも4倍も大きいということなのでしょうか…。ちょっと、これまた不思議です。

植物は太陽光で光合成する。光の届かない海中では、それに替わるものとして化学反応のエネルギーを使って有機物を生産する。これを化学合成と呼ぶ。

 水深5千メートルあたりは平らな海底となっていて、深海平原と呼ぶ。

ガラパゴス諸島沖の水深2400メートルの海中に発見されたハオリムシは、0も消化管もない生物。ところが、2年で体長1.5メートルまでに成長する。

水深8キロの超深海で発見されたクサウオの仲間のスネイルフレッシュという魚がいる。また、マリアナ海溝の一番深い水深1万1千メートルの海底に、カイコウオオソコエビという無脊椎動物が発見されている。

 ハワイ近くの海中には、アウナケアという、底辺からいうと高さ1万メートルの火山がある。

この本には伊豆半島沖の深さ1100メートルのところに、まるで犬そっくりの形をした生命体が紹介されています。偶然の産物とはいえ、恐ろしく犬そのものなんです。

クジラが死ぬと、遺体は海底に横たわる。そこに、深海生物が集まってくる。クジラの骨には、油が詰まっているので、ホネクイハナムシなどの生物を10倍も養うことが出来る。

 現在、日本が運用している深海調査船「しんかい6500」は建造から30年以上たっている。日本は、新造船の計画がなさそうです。軍事予算にはバカげたほど、税金を使っているのに、深海調査船を新造するときには、「お金がない」と、にべなく政府の感覚は間違っています。なにしろ深海の海底には人類に有益なものが未発見・未活用のまま、ごろごろころがっているのですよ…。

(2023年9月刊。1540円)

星の教室

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 髙田 郁 、 出版 角川春樹事務所

 著者の『あきない世傳金と銀』は何冊か読んだくらいですが、とても面白い時代小説でした。著者は、なんと中央大学法学部を卒業しています。法律の固い文章とは縁遠い、豊かなイメージの湧き出る文書に、読んでいていつかほっこりしてきます。

この本は時代小説ではなく、現代社会の片隅にひっそりと活動している夜間中学を舞台としています。ずい分前に、山田洋次監督の夜間中学を舞台とする映画がありましたよね。まさしく、その世界が見事に再現されています。

ルポルタージュ風の小説だよなと思って読み終わって、「あとがき」を読むと、本当に大阪の天王寺夜間中学に長期取材したと書かれています。

著者には漫画原作者の時代があったのですね。集英社のマンガ雑誌『YOU』誌上に2001年に連載していたのだそうです。

いま、全国に夜間中学が53校あるとのこと。決して多いとは思いませんが、それでもこれだけの夜間中学で勉強したい人に、その機会が与えられているのは立派だと思います。

元文科省の事務次官だった前川喜平氏も、退官したあと、どこかの夜間中学で教えていたことがありましたよね、確か……。

夜間中学に行こうという人は、さまざまな経歴と境遇にあります。

この本の主人公は、中学校のときいじめにあって、「シネ」とまで書かれて怖くなって不登校になったのでした。初めは、夜間中学の授業を遠くから眺めているだけだったのが、つい誘われて入ってみると、とても居心地のいい空間だったというのです。

学ぶというのは、自分の正解が広がることなんです。知れば知るほど楽しくなり、もっと知りたくなります。著者の筆力に押されて、正月休みの夜に一気読みした本です。

(2025年2月刊。1760円)

声を上げれば政治は動く

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 かばさわ 洋平 、 出版 Galaxy Books

 タイトルに惹かれて読みました。千葉市の44歳の市会議員の奮闘記です。

 この本はプリント・オン・デマンドです。つまり、客が注文してから印刷、出荷します。私のように大量の在庫をかかえて、事務所の底が抜けてしまいそうだという皮肉を言われることがありません。楽天ブックスで扱っているようです。

 でも、あくまで本屋にこだわる私としては、やはり本は本屋か図書館で手にとって、はしがき(まえがき)とあとがき、そしてもちろん目次を見たいのです。それで読むに値するかどうかを見きわめたいです。

 さて、声を上げたら何が変わるのか……。

 正月早々、トランプが軍事力にまかせてベネズエラに特殊部隊を送り込んで多くの護衛隊員殺害し、大統領夫妻を拉致してアメリカに連行しました。これに対して日本の高市首相はまったくトランプを批判しません。明らかに国際法を踏みにじっているではありませんか。なんで、きっぱり批判しないのでしょうか。信じられません。トランプの横で飛んだりはねたり、みっともないことをするより、腹をすえてトランプを批判すべきです。

 もちろん、市会議員の主な役目は、国際政治ではありません。小中学校にエアコンを設置してほしいという声を上げたのです。これに対して自民党の議員が「強い精神を身につける必要がある」からなどと言ってエアコン不要を唱えたそうです。まさしく戦前の帝国陸軍と同じで、まったく合理性のない暴論です。

 反対にめげず、くじけず声を上げていったら、ついに市長を動かし、2020年5月、すべての小中学校の教室にエアコンが設置されました。

 20年以上も前と思いますが、生活保護を受けている世帯にはエアコンの設置が認められませんでした。でも、粘り強い運動によって、今ではエアコンが設置されるようになっています。最近の異常な炎暑の夏を、エアコンなしでは乗り切れません。まさしく、「健康で文化的な最低限度の生活」を送るためには、エアコンは必須です。「お金がない」というのが、当初の反対の根拠でした。

日本の大学の学資は高すぎます。50年も昔、私の大学生のころは、授業料は月1000円、年に1万2千円でした。寮費も月1000円です。それでいいのです。北欧では大学の学費はタダどころか、学生には生活費まで支給されるのです。なので、アルバイトせずに勉強に専念できます。

 日本に「お金がない」なんて言えません。言えるはずがありません。だって、ついこのあいだまで、軍事費が5兆円になったと騒いていたら、今や9兆円なのです。しかも、その財源の手当てがありません。

 学費を無料にして、大学生に生活費を支給するのに1兆円もかかりません。「お金がない」のではなく、お金の使い方が間違っているのです。人を大切に育てる教育や福祉にもっとお金を使うべきです。アメリカの欠陥ヘリコプター(オスプレイ)を買うのをやめ、アメリカ兵を過保護にしている思いやり予算を削減したら簡単にできることです。

 著者は頭髪のツーブロックを禁止する校則の見直しを求めています。大賛成です。もっと伸びのび子どもたちが学校で安心して学べる環境をつくり上げましょう。それが私たち大人の責任です。

 著者は「かばっち君」イラストをふんだんに使ってSNSや動画を大いに活用しています。今やそんな社会なのですよね。街頭で著者が演説すると、小学生がわらわらと寄ってくるそうです。エアコン取り付けに取り込んだことが知られているのです。サインをせがまれることもありました。

 著書は、子どもたちが将来なりたい職業に政治家と思ってもらえるように努力しているそうです。そうなんです。日本の将来は、子どもたちの目の輝きにかかっているのです。今どきの若者を大いに見直すことのできる本でした。「かばっち君」は3期目の共産党の市会議員です。引き続き大いにがんばってほしいものです。

(2024年9月刊。1000円+税)

すごい科学論文

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 池谷 裕二 、 出版 新潮新書

 脳科学者として有名な著者は、実は薬学部出身なのだそうです。この本(新書)は、週刊誌での連載エッセイをまとめたもので、当初は「週刊朝日」(2023年5月に廃刊)、そして今は「週刊新潮」に連載しているとのことです。それはともかくとして、毎日100本から500本もの論文に目を通しているとのこと。すごいです。

 麻酔薬がなぜ効くのか、今もって解明されていない。不思議ですよね。同じく、意識も解明されていないそうです。人間の身体の不思議ということでしょうか…。

オランウータンは、傷つくと、「アカルクニン」という植物の葉をとって食べ、30分ほど丁寧にかみ砕きペースト状にしてから、その患部に塗りこんだ。ふだんは食べない植物の葉で、5日後に傷口は閉じて、1ヶ月後に完治したとのこと。スマトラ島の現地の人々にとってもこのアカルクニンは、薬用植物として利用しているそうです。不思議な話ですよね。

 老化は徐々に進むのではなく、ステップ式に進行する。老化が突如すすむ「加速期」と、それほど老化が進まない「停止期」が交互に訪れる。身体の老化は精神の老化とは異なるもの。

 アルツハイマー病は、遺伝的な要因にはよらない。ガンマ波をあてると、アルツハイマー病の原因物質の蓄積が抑えられ、認知機能が健康なレベルに保たれた。

 タコにもレム睡眠がある。タコは眠ると白っぽい色になるが、1時間に1回ほど、あたかも起きているかのように暗い色に変化する。

メスの老齢シャチは、若いメスのために生殖に必要な食料を確保したり、孫の世話をしたりする。

チンパンジーは50歳以降は出産しないが、それからも生きているのは珍しくない。そして、ホルモン量を調べて閉経を確認した。

ヘビは1億5千万年前にトカゲから分岐し、足を捨て、独自の感覚器や毒腺を発達させた。

カリブ海の島にすむアカゲザルは、もともとは攻撃的な性格で、社会的寛容性は低い。しかし、台風によって島の植物(森林)が破滅的被害を受けたとき、攻撃性は低下した。そして、社会的寛容性をもつ個体ほど生存率が高まった。

 世界で最大の生物は、アメリカのオレゴン州に生息するオニナラタケというキノコ。直径3キロメートルもの広さがある。このオ二ナラタケの寿命は、なんと数千年。そんなキノコがいるんですね。驚きます。

 人は、睡眠中に話しかけられると、きちんと聞いて、指示通りに正しく表情をつくる(この確率は80%)。眠っていても、意識はあるわけですね…。自覚していないだけなんですね。

名前をつけられたウシは牛乳の出がよいというデータがある。不思議です。でも、名前をつけるということは、それだけ飼主が愛情をもってウシと接し、育てることにもつながるということからだと解説されています。なーるほど、です。

 ミトコンドリア・イブは存在しない。人類は、ある特定の女性ではなく、現在では絶滅した多様なヒト種がいくつも混じりあって出来たもの。なるほど、そうなんだと素人の私も思います。

 ネアンデルタール人の遺伝子が混じっている純血種は、アフリカ系黒人、つまり白人のほうが混血なのです。

心を通わせる会話のコツは表情をマネすること。

私の知らなかった話、意外な話が盛りだくさんの本でした。

(2025年6月刊。960円+税)

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