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読書と日本人

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 津野 海太郎 、 出版  岩波新書
著者は、20世紀を読書の黄金時代と名付けています。なぜか・・・。
本の大量生産と読み書き能力の飛躍的向上によって、知識人と大衆、男と女、金や権力をもつ者ともたない者の別なく、社会のあらゆる階層に読書する習慣が広がり、だれであれ本を読むというのは基本的にいいことなのだ、この新しい常識が定着したのは20世紀なのである。
なーるほど、そういうものなのでしょうか・・・。
14.15世紀は、日本社会において文字が画期的に普及した。鎌倉時代の後期から室町時代にかけて、村の大名、主だった百姓は、だいたい文字が書けた。
16世紀、織田信長のころ、フランシスコ・ザビエルたちはキリスト教を普及するにあたって「きりしたん版」として知られる活版本を刊行した。
ほかのアジアの国々と違って、日本人の多くは読み書きができる。だから文字による布教や宣伝が効果的だと判断したのだろう。
ルイス・フロイスは、こう書いている。「ヨーロッパでは女性が文字を書くことはあまり普及していない。日本の高貴の女性は、文字を知らなければ価値が下がると考えている」、「日本では、すべての子どもが坊主の寺院で勉学する」
江戸時代には「正坐」という言葉は存在しなかった。明治になって礼法教科書に書かれ、大正から昭和初期に定着した言葉だ。それまでは、本を読むときには、ピタリと正坐していたのではなく、自由に膝をくむし、立て膝で読むことが多かった。
うひゃあ、そうだったんですか・・・。
明治に海外から来た外国人は、日本人の車夫や馬丁が本をむさぼり読んでいるのに驚嘆した。
明治のころの読書は、基本的に声に出して読む音読ばかりだと私は思っていまいした。それまでは、今と同じで黙読していたと考えていたのです。ところが素読に親しんでいた当時の人たちは音読を好んでいたようです。
しかし、著者は、実は、黙読も昔の日本にあったと主張しています。音読と併存していたというのです。
欧米中心の世界で本格的に始まった「読書の黄金時代」としての20世紀に、やや遅れ気味に日本も加わることになった。
大正から昭和にかけての雑誌「キング」は初版50万部でスタートし、90万部から140万部へ増えた。
この新書を読むと、日本人の読書好きはすごいと思います。ところが、今は電車のなかでは大半がスマホを眺めたり、いじったりしています。テレビを見ていたり、ゲームをしている人も少なくありません。以前のように本を読んでいる人は滅多に見かけなくなりました。若者にかぎらず、活字離れがすすんでいるようです。そして、電子書籍。いったい紙の本はこれからどうなるのでしょうか。私は絶対的な紙の本の愛好者です。なくなってほしくはありません。
昨年(2016年)は、単行本を550冊よみました。今年も500冊をこえるつもりです。
(2016年10月刊。860円+税)

籠の鸚鵡(かごのおうむ)

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 辻原 登 、 出版  新潮社
30年ほど前だったと思いますが、和歌山県の小さな地方自治体で収入役が商品先物取引(相場)に手を出して何億円も公金を横領(使い込み)したという事件がありました。その自治体は破産寸前になったと思います。相場の恐ろしさ、自治体の公金が個人によって簡単に引き出され、横領・使い込みによって自治体財政が破綻するという前代未聞の事件でした。
この本は、先物取引(相場)ではなく、暴力団が背後にいて色仕掛けで和歌山県の小さな町の出納長が陥落し、あられもない姿を写真に撮られて、それを恐喝の材料とされ、公金を使い込んでいくというストーリーです。
こういうことは、いったん「悪」の恐喝に屈してしまうと歯止めが利かなくなるものですよね。そこらあたりの心理描写が、見事に小説として再現されています。
山口組の組長がヒットマンによって殺害されるという事件が起きた当時を舞台とした小説ですが、今は暴力団はもっと巧妙になっているような気がします。そして、当時よりもさらに強大かつ潤沢な資金をもっているようです。
その最大の資金源が相変わらず大型公共土木工事の3%と言われる裏金だと思われます。暴力追放の官製市民の集会もいいですけれど、公共工事の談合と、その背後にうごめいている暴力団の姿をマスコミは勇気をもって暴き出し、報道して明るみに出してほしいと思います。
ストーリーのほうは、ネタバレはよろしくないと思いますので紹介しません。
特殊被害詐欺の手口もさらにブラッシュアップして巧妙になっているようです。その一端が、この本にも反映されています。
「クライム・ノヴェル」(犯罪小説)ですから、読んだら重苦しい気分になってしまうのも当然です・・・。
(2016年9月刊。1600円+税)

哲学する子どもたち

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 中島 さおり 、 出版  河出書房新社
フランスで子育て中の日本人女性によるフランス教育事情の体験レポートです。大変面白く、かつ、日本人として大いに考えさせられました。
フランスでは小学校から大学まで公立教育費は無料、そして、子ども代表は学校の成績査定会議に出席して意見を述べる。そして、高校生のデモはあたりまえ。
フランスでは子どもと教育が本当に大切にされている国だと思います。
今の日本は受験戦争、そして何でも自己責任、自己負担。国立大学の授業料は私のときは月1000円。そして、月8000円の奨学金(うち3000円は貸与制)がありました。今では年間の授業料が私立大学と変わらなくなり、奨学金は利子までついて、まさにローン地獄化しています。ハコものや軍事予算に使うお金はあっても、人材育成につかうお金がないなんて、日本の政治は根本から間違っています。
フランスでは、3歳での保育学校(日本の幼稚園)から高校まで、公立校だと授業料はタダ。国立大学(フランスに私立大学はほとんどない)は年に数万円の登録料だけで、授業料なし。
3歳児からの保育学校全入は、フランス女性の社会進出を大きく支えている。
フランスの教育の三大原則は、義務性、無償性そして非宗教性である。
フランスの高校生が卒業するときに受ける国家試験(バカロレア)のトップは「哲学」の試験。そのテーマは、たとえば「自由とは、何の障碍もないということか?」、「不可能を望むのは不条理か?」
こんな問題が出題されます。いったい、どう答えたらいいのでしょうか・・・。
これは論理的な文章を書く練習にもなっている。
高校で勉強するのは哲学ではない。哲学することなのだ。哲学を通じて自由に考える市民を養成すること。これが目的だ。
学校の成績会議には、保護者代表と生徒代表も参加する。これは1975年の改革以来、すっかり定着している。
中学から高校まで、留年制度があり、1割くらい留年しても、あまり強い抵抗はない。そして、飛び級も許されている。
生徒代表を選ぶのは生徒による選挙。かなり派手な選挙運動が学校内で展開する。
フランスには高校入試がない。中学の成績で決まる。決めるのは中学の教師たち。
これでは、日本よりも伸びのびとフランスの子どもが育つのも当然ですね。
(2016年11月刊。1600円+税)

車いす弁護士奮闘記

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 髙田 知己 、 出版  金融財政事情研究会
著者は茨城県弁護士会に所属する新60期の弁護士です。
高校を卒業してまもなく交通事故を起こし、そのために車いす生活となり、紆余曲折のあと司法試験を目ざして、法科大学院を経て弁護士を開業(即独)しましたが、今では弁護士6人、事務職員7人の法律事務所の所長としてがんばっています。
水戸地裁土浦支部のすぐ隣に事務所を構えていますが、いわゆる町弁(まちべん)です。一般民事、交通事故、労働問題、家事事件、借金問題、そして刑事事件を取り扱っています。恐らく土浦には大企業がないのでしょう。企業間の交渉や買収など、企業法務は掲げられていません。
弁護士の仕事は、人々が人生最大の危機にあるとき、その人の人生や生活に深く入って、一緒に考える仕事。とても大変で労力がいるけれど、その人の新たな出発の手伝いができるところにやりがいを感じる。
仕事だから辛いと思うことも少なくはない。でも、これほどやりがいのある仕事はないと思うくらい、夢中で打ち込める仕事だ。
弁護士は、なんといっても自由な仕事であり、どんな人でも、その個性を生かすことのできる職業だ。
この本では、車いす生活に慣れるまでの状況、そして司法試験を目ざしてからの生活ぶりが紹介されていて、司法試験へ向けてのガイドブックにもなっています。
さらに、車いす生活者からみた現代日本社会のさまざまな不便、問題点が具体的に指摘されています。たとえば、駅の自動改札口は幅が狭くて車いすの人は通れないというのを初めて知りました。
車いすというハンディキャップにめげることなく初志を貫徹して町弁の弁護士として地方都市で明るく元気に活躍している著者の姿には心うたれるものがあります。
この本を読んで、一人でも多くの若者(障がいをもつ人を含みます)が弁護士を目ざしてほしいと念じます。
(2017年1月刊。1500円+税)

企業内法務の交渉術

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  北島 敦之 、 出版  中央経済社
 弁護士にとって交渉をうまくすすめるのは大切な仕事のひとつです。でも、これがなかなか難しいのです。経験年数としては超ベテランに入るはずの私も、相手方と交渉するときは、とても緊張します。
 この本は、社内で信頼される法務部員になるためにとして書かれていますので、弁護士向けではありませんが、弁護士が読んでも大変役に立つ本として、少し紹介します。
 ビジネスにおける交渉は、まずビジネスとは何かを理解する必要がある。ビジネスは戦争ではなく、最後にはちゃんと仲直りができる「ケンカ」のようなもの。ビジネスは、信頼をベースにした合意によって形成されていくのであり、交渉は当事者間の主張を出しあうことで、お互いに合意できる着地点を見出すためのプロセスだ。
 交渉には陣取り合戦の意味もある。最終的にこちらの欲しい条件が得られたらよし、相手に何も残らないような交渉は無理がある。それは、時間がかかり、感情的なしこりが残って、よろしくない。
そうなんですよね。ゼロか100か、ではない、感情的なしこりの残らないほうがいいのです。
この交渉は誰のためにするのか、交渉相手方は誰なのかを、しっかり認識しておくこと。
 合意すべき相手側の心が、かたくなになるような雰囲気に追い込むのは得策ではない。
交渉する前に、きちんとしたシナリオをつくる。実際にはシナリオどおりに事はすすまないことは多い。それでも、シナリオを書きながら、交渉のシミュレーションをしている感覚になって、想定外の事態が起きても柔軟に対応できる。作成したシナリオは、交渉チーム全員で共有しておく。
交渉するときには、相手方の了解を得て録音する。ただし、無断で録音されている可能性があることを常に念頭においておく。
基本的に、相手側にはできるだけ話をさせる。これが交渉をスムーズにすすめるために欠かせない。忍耐を必要とするが、相手側が何を考え、何について心配し、どのように交渉を持ってきたいと考えているのかを理解することができる。そこからビジネスの合意形成に向けての交渉は始まる。
 当方に契約不履行の事実があることが明らかになったときには、交渉に入る前にきちんと謝罪することが欠かせない。文書を作成するときには、その内容・表現ともに、万一公開されたとしても非難の対象とならないよう、関係部署の確認を得ておくなど、慎重に対応する。
 弁護士に相談するときには、もし訴訟になったら、裁判所はどう判断するのか知見をもっている人に相談する。それをもっていない弁護士に相談しても意味がない。
交渉を上手にすすめるためには次の四つが大切。
 ①ごまかさない。②相手をミスリードしない。③交渉を楽しむ。④相手も楽しませる。
 交渉は人間が行うものであり、人間の心の動き、気持ちといったものについての理解を深めるほうが交渉を楽しむことができる。交渉力をあげることは、世間の出来事や事象に興味をもち、人に対する愛情や信頼を醸成していくこと尽きる。
 長く総合商社につとめ、法務部で活動してきた体験をふまえていますので、説得力があります。そして、文章が平易で読みやすいのです。一気に読めました。交渉力をつけたいと願う弁護士にとって、大いに読まれるべき本です。
(2017年1月刊。2500円+税)

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