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働く青年と教養の戦後史

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 福間 良明 、 出版  筑摩書房
今からちょうど50年前(1967年)の4月に上京して、大学生活を始めました。そして、高校の先輩に誘われて学生セツルメント活動に足を突っこんだのです。
私は、子ども会ではなく、青年部に所属し、地域の若者サークルにセツラーとして加わりました。私たちのサークルではグラフ「わかもの」という雑誌をつかっていましたが、近くに「人生手帖」をつかった緑の会という労働者のサークルがあり、その会合に私も参加したことがあります。いかにも真面目な労働者のサークルという雰囲気でした。やがて、そのなかのごく一部の人たちが「京浜安保共闘」を名乗り、赤軍派になり、連合赤軍へとつながっていったようです。もちろん、それはごくごく一部の人たちです。日本安保を考える無数の若者サークルが出来ていたころのことです。
この本は、その「人生手帖」と緑の会の歴史的な歩みを解明していますので、私にとっては、ぜひ読みたい本でした。
「人生手帖」は8万部近くを発行していたが、「中央公論」の12万部、「世界」が10万部、「新潮」6万部に比べて、決して少なくはない。
中卒で集団就職して大都会に出てきた勤労青年層には、進学への希望を抱きながらも、高校に進学できず屈折した思いを抱く人が少なくなかった。彼らは安穏に書物に親しめる環境にはなかった。長時間労働で、休暇は少なく、安い賃金は思う存分に書物を買うゆとりはなかったし、経営者から思想傾向を知られて警戒されたりもした。
それでも、彼らは学歴エリートとは異なる形で、教養を求めて駆り立てられた。
「人生手帖」のような人生雑誌には、知識人層へのいら立ちが吐露されていたが、同時に知や知識人への憧れも強かった。
「人生手帖」に対しては、「マルクスみかん水」という批判もあった。マルクス主義を水でうすめ、糖分や香料も加えて口当たりを良くしているというのだ。
高校進学率はどんどん上昇していた。1950年代半ばに5割ほどだったのが、1961年に62.3%、1963年に66.8%、1965年には7割をこえた。そして、1970年には82.1%に達した。
大学進学率は、1968年には、23.1%でしかなかった。今日の半分以下の水準である。
「人生手帖」のような人生雑誌は、高校進学率が70%をこえ、8割を上回るよいうになると、衰退していくしかなかった。進学できない理由が家計の問題から学力の問題へと移行していった。
私が「人生手帖」の緑の会を知ったのは1967年から68年にかけてだと思いますので、中卒の集団就職組のなかの知識への渇望に踏み出していた労働者の集団を目撃していたということになります。ちなみに、そのころテレビはもちろんありましたが、まだ白黒テレビでしたし、カラオケはなく、ボーリング全盛時代でした。オールナイト・スケートとか早朝ボーリング大会などを若者サークルの連合体として企画していました。もちろん、若者がたくさん集まり、それはそれはにぎやかなものでした。若者たちが群れをなして、話し合い、歌っている時代です。
(2017年2月刊。1800円+税)

保健と健康の心理学

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 大竹 恵子 、 出版  ナカニシヤ出版
日本は長寿国ですが、幸福度はそれにともなっていません。
平均寿命は女性87歳(世界2位)、男性81歳(世界4位)。ところが、幸福度は世界53位。
健康心理学は、人間の健康に関するさまざまな問題を心理学の観点から検討し、そこから得られた知見を社会に役立てることを目指した心理学の応用領域の一つ。
感情は、病気にかかる率だけでなく、寿命にも影響を及ぼしている。
ポジティブ感情には、ネガティブ刺激による交感神経系の活性化を速やかに活性化させる「元通り効果」をもっている。
日常的にポジティブな感情を多く経験しているほど、中枢神経系、自律神経系、内分泌系、免疫系に良い影響を及ぼし、これらのシステムの相互作用により、結果として健康状態や寿命に良い影響を及ぼす。
日本のうつ病の患者は、平成8年に20万人、その他の気分障害をふくめて43万人だった。ところが平成20年度には、うつ病患者が70万人、その他をふくめると100万人。3倍にも増えた。
同じ心的外傷体験をしても全員がPTSDになるわけではない。レジリエンスという、一時的に心理的不健康の状態に陥っても、それを乗りこえ、精神的病理を示さず、よく適応する人がいる。
交代制勤務は、睡眠覚醒リズムを乱れさせる。乳ガンのリスクが高まり、前立腺ガンのリスクが2倍から3倍も高まる。
望ましくない出来事はコントロールできるという信念は、健康的な生活習慣やストレスへの上手な対処をもたらし、健康への悪影響を少なくする。
首尾一貫感覚(SOC)は人生経験によって形成され、とくに一貫性、負荷のバランス、結果の形成への参加という3つの経験が重要である。
ルールや責任の所在が明確な一貫性のある経験は把握可能感の基礎となり、また、処理可能感を育む。
自分だって、やれば出来るんだという感覚は大切ですよね。
やや難しいところもありましたが、私の生き方から共感できるところが多々ありました。
(2016年12月刊。3400円+税)

果鋭

カテゴリー:警察

(霧山昴)
著者 黒川 博行 、 出版  幻冬舎
これも警察小説と言えるのでしょうね。といっても、活躍するのは現職の警察官ではなく、問題を起こして辞めた(辞めさせられた)元刑事なのです。
パチンコ屋を舞台として、暴力団や暴力団まがいの連中と伍角の危ない勝負をして、大金をせびりとっていきます。まるっきり、邪悪の世界です。
そもそも、パチンコと警察の関係は、「パチンコ業界が警察に天下り等で利益を提供し、その代わりに換金黙認や釘調整黙認などの利益を得る」というギブ・アンド・テイクの図式で成り立っている。この図式が2002年の日韓共催サッカーワールドカップで様相が一変した。このときパチンコ業界と警察が対立した。
70年代から80年代にかけて、ゲーム喫茶やゲームセンターを家宅捜索した保安係や風紀係の刑事たちが最初にすることは、店のさい銭箱やゲーム機の収納ボックスを開けて、仲に入っているお礼を自分のポケットに隠すことだった。
1982年に発覚した「大阪府警ゲーム機汚職事件」では、当時の巡査長や前任の大阪府警本部長が首吊り自殺をした。
パチンコ業界は、ヤクザからも警察からも喰われてきた。これは、私も、パチンコ経営者本人から聞いたことがあります。
今では、パチンコ店はホール全体がコンピューターと化している。したがって、素人がパチンコに勝つ方法はない。パチプロでも勝てない。パチンコ台がコンピューター化されるにつれて、釘調整の必要性が薄れ、今では釘師(くぎし)の存在は薄い。
今のパチンコ台は、一台で40万円もする。デフレの時代にもかかわらず、遊技機の単価は、20万円から、30万円、40万円の値上がりし続けている。
店は日によって還元率を変える。80%だと客は全滅。90%だと勝つ客もいる。日曜・祭日や年金支給日は80%、平日は90%にする。
客は生かさず殺さずだ。遠隔操作で、機械と客を騙くらかす。
私も、40年以上も前の司法試験の受験生時代には、図書館に向かうはずが私鉄駅前のパチンコ店に朝10時の開店と同時に入店して、パチンコしていた時代もあります。そのころは、玉を一発一発、手で穴に入れて打つ方式でした。今では、車を運転している途中にトイレを借りるために入店するくらいです。あの騒音が耐えられません。
警察組織において、監察は特異だ。彼らは上層部の指示で警察官の悪を暴き、世間に対しては隠蔽する。それは決して正義のためではなく、上層部の権力闘争やライバルを追い落とすためのシステムとして機能する。すべての警察官は、監察を畏怖し、嫌悪する。鑑察のメンバー自身は、強烈なエリート意識をもっている。監察はたしかにエリートであり、その閉鎖性は公安に似たところがある。他の警察官の恥部をにぎっているだけに昇進は早い。
警察にたかられて弱っているという人の相談を受けたこともあります。被害者だったり、加害者だったりして警察官と顔なじみになると、事件が終わってからも顔を見せるので、なにかと接待し、手土産を持たせるというのです。もちろん、何も問題のない企業であれば、そんなことをする必要もないのでしょう。でも、現実には日本を代表する超大手企業から、町の零細工場まで、たいてい叩けばホコリの出てくるものなのです。警察にたかられたら、もう逃げるところはないと、その人は苦笑していました。
小説なので、誇張とデフォルメがすごいのだろうなと思いながらも、こんな元刑事には近寄りたくないものだと思ったことでした。
(2017年3月刊。1800円+税)

テクノロジーは貧困を救わない

カテゴリー:アジア

(霧山昴)
著者 外山 健太郎 、 出版  みすず書房
アメリカで育った日本人が英語で書いた本です。著者は12年間、マイクロソフトで働いていました。
アメリカ政府は、テクノロジーは教育の分野に大変革をもたらし、万人の学業成績を向上させ、子どもにとっての公平性を増してくれるだろうと語っていた。ところが現実には、そうはならなかった。アメリカのテクノロジーの爆発的進歩は目ざましいものがある。しかし、アメリカの貧困率は12~13%という高水準のままであり、貧困層や中流家庭の実質所得は停滞したまま、上流家庭との格差はさらに増大している。
子どもを伸ばすには大人の指導が必要だ。指導にもとづく動機づけが必要なのだ。
子どもがやり通すためには、学校にいるあいだに、1年のうち少なくとも9ヶ月間は指導と励ましが常に必要であり、これを12年間続けなければならない。
子どもの教育の質における本質は、昔も今も、思いやりと知識に裏づけられた大人の注目だ。
テクノロジーだけでは、決して成果は得られない。新しい機器の開発と普及は、必ずしも社会的進歩を引き起こしはしなかった。
アメリカには、常に500万人もの子どもたちが安定した食事を得られずに苦しんでいる。テクノロジーの豊かさは、すべての人々にとっての豊かさにはなっていない。
インドで始まったマイクロクレジットは、ある程度の恩恵をもたらすが、貧困にとっての万能薬ではない。
アメリカが世界最強の軍事力を駆使してイラクのフセインのような暴君を追放し、選挙を支援しても、その結果は腐敗と暴力に終わることが多い。
マイクロクレジットも、学校におけるパソコンも、それだけでは効果を生まない。インターネットがいくら普及しても、裕福国アメリカでさえ、貧困や不平等を撲滅できていない。
ネルソン・マンデラは、あるとき、こう言った。
「教育は、世界を変えるために我々が用いることのできる最強の武器である。」
教育の恩恵は、経済的生産性の向上だけにとどまらない。
女の子が学校で1年間、教育を受けると、乳児の死亡率が5~10%削減できる。
5年間の初等教育を受けた母親のもとに生まれた子どもが5歳以上まで生きられる確率は40%高くなる。中等教育を受けた女性の比率が今の倍になれば、出産率は、女性ひとりあたり5.3人から3.9人に減少する。
女の子にもう1年余分に教育を受けさせれば、彼女たちの賃金は10~20%増加する。
ブラジルでは、子どもの健康に対して、より影響を及ぼすのは男性の教育より女性の教育のほうが20倍も高い。
若いウガンダ人が中等教育を受けると、HIV陽性になる可能性が3分の1になる。
インドでは、女性が公教育を受けると、暴力に抵抗するようになる可能性が高まる。
バングラデシュでは、教育を受けた女性は政治集会に参加する可能性が3倍高まる。
こうみてくると、女性に教育はいらないどころか、女性のほうにこそもっと教育の機会を保障すべきなんだということがよく分かります。
すぐれた教育とは、子どもたちが強い願望にみちた未来への展望をもてるようにすること。
自分自身に対する信念、学能力、さまざまな好奇心に対する内面的なやる気、そして自分をこえた大義に貢献したいという思い・・・、これらを育むことが教育の狙いなのだ。
効果的な教育では、「私にはできる」ということを学べる機会が繰り返し訪れる。日本の丸暗記教育は、この限りですぐれている。楽観的な意図、注意深い判断力、そして強い自制心をはぐくんでいる。
なるほどと思わせることの多い本でした。著者のインドで子どもたちに教えたときの実体験をふまえているだけに説得力があります。
(2016年11月刊。3500円+税)

人間力を高める読書法

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 武田 鉄矢 、 出版  プレジデント社
私は年間500冊以上の単行本を、この30年以上よんでいます。でも、それは私の人間力を高めようと思ってしていることではありません。基本は知的好奇心です。次から次に、世の中のことを知りたいと思って、本を読み漁っています。知れば知るほど、知らないことが世の中にいかに多いか、愕然とする思いなのです。
著者は私と同じ福岡県生まれで、私より一学年だけ下になります。もちろん、例の「タバコ屋の息子」のバラードは好きな歌ですし、『幸福の黄色いハンカチ』は泣けました。ですから、何年か前に、夕張に行き、現地にも立ってきました。
歌に劇に大活躍していることは私も知っていました(テレビは見ませんので、実は活字を通して、ということですが・・・)。ところが、この本によると、なんと23年間もラジオのパーソナリティをつとめて、ほとんど毎日、よんだ本を解説しているというのです。すごいですね。敬服します。
「この組を本にしないのは文化的損失です」という口説き文句で本になったとのことですが、この本の密度の濃さは半端ではありません。読書家を自称する私もついタジタジとなってしまいました。
ちなみに、私の書評コーナーも、9.11の年(2001年)に始めましたので、もう16年たっています。ところが、誰も「本にしなければ文化的損失になる」とは言ってくれません。トホホ・・・。
この本の圧巻は、私も書評で紹介した『狼の群れと暮らした男』(築地書館)です。
オオカミにさわられて育てられたという「狼少年・少女」の話はインドにありますが、青年男性が狼の群れに飛び込んでいって、受け入れられる過程が描かれている本ですので、その迫力にはド肝を抜かされます。少しでも犬に関心のある人には強く一読をおすすめしたい本です。
この本を著者はコメント付きで詳細に紹介しています。まさしく、ありえない過酷な状況に自らを置いて厳しい試練を受けるという、信じられない話なのです。この本は、この部分を読むだけでも大いに価値があります。
ノモンハンそしてミッドウェー海戦における日本軍の大失敗も著者は紹介していますが、この大失敗を今、安倍政権の暴走を止めきれなかったときには、現代に生きる私たちは同じ大きな過ちを繰り返すことになるでしょう。
この本の出だしは、「1行バカ売れ」です。なるほど、キャッチコピーは偉大ですよね。
著者の知的レベルの高さには完全に脱帽でした。この本を読んで、私の人間力が少しくらいは高まったかな・・・。
(2017年3月刊。1300円+税)

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