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私の愛すべき依頼者たち

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 野島 梨恵 、 出版  LABO
若手弁護士の奮闘記。なるほど面白いです。文才があるのでしょう、読ませます。
私の敬愛する中村元弥弁護士(旭川)の推薦文がついています。
クマチン先生こと中村弁護士は読み手の弁護士を挑発します。自分の扱った事件を、この本くらいに面白く伝える工夫と努力をしたか、そんな才能をもってるかと問いかけるのです。
すみません、たしかにそんな文才がないので、相変わらず、しがない田舎弁護士を続けています。
われらがノジマ弁護士は北海道は旭川ではなく、さらに士別市で法律事務所を開業します。旭川には行ったことが何回もあります(旭山動物園にも2回・・・)が、士別市には行ったことがありません。冬は大変のようです。自動車の運転は生命がけなのですね・・・。
そして、ノジマ弁護士も、冬道でスリップして死にかけ、夏にはスピード違反で、危く被疑者、被告人そして免許取消へ・・・(そうはなりませんでした・・・、えかった、えかった)。
私は国選弁護人として、ヤミ金をやっていた若者を弁護したことがあります。暴力団とは関係のない若者がネット情報だけで、ヤミ金をやっていたという調書を読んで驚き、かつ呆れました。
ノジマ弁護士は振り込め詐欺の一味に加わった若者の国選弁護人になるのです。「週休2日で手取り月収30万円。毎日、電話をかけるだけ」。こんなおいしいキャッチフレーズ求人誌にのっているそうです。今どきありえない好条件ですよね。何かウラがあるに決まっています。いったん入ったら、抜けようとすると、リンチされること必至のヤクザな暗黒世界。本当に怖い世の中です。そして、そんな若者の伴侶は、ベターハーフと言えるのか、単なる金の成る木なのか・・・。金の切れ目が縁の切れ目、男は実刑になって刑務所に行き、よよと泣いていた女はすぐに別の男を見つけて・・・。
こんなストーリーを短編で見事に描けるわけですから、文才のあること間違いありません。
刑事弁護人の次は、家事代理人。北海道は、九州と同じく離婚率が高くて有名です。雪に閉じ込められて冬にはすることがなくなるので、離婚が多いというのです。では九州・沖縄で離婚事件が多いのは、どうしたわけでしょうか・・。
北海道では不貞は、すぐにばれる。なぜか・・・。
第一に、人口密度が低いから、目立つ。
第二に、行動が車なので、所在が知られやすい。
第三に、デートする場所が限られている。
ふむふむ、ここでは不倫しようったって、すぐにバレそうなんですが、そこは恋は盲目なので・・・。そして、ノジマ弁護士は断言する。それこそ、まさしくメシの種。弁護士たるもの、正面切って、このどろどろの中に頭から突っ込んでいって、成功報酬を勝ちとらなければならない。
うんうん、そうなんですよ、ノジマ先生・・・。
そして、そうやって、このどろどろとした状況と、どろどろに浸り切った依頼者とに真正面から取り組んでいけば、きっと、それからの弁護士の長い人生の糧(かて)になるのです・・・。
交渉にのぞむときには、ぎりぎりに約束の時間位飛び込むのはまずい。交渉の舞台には先に到着しておくべき。交渉の場所と空気にある程度慣れ、ここに相手が来て、やりとりをする場所を想像して、イメージトレーニングをしておく。これが大切。
いやあ、ノジマ弁護士の言うとおりなんですよ。私も、絶えず、イメージトレーニングをしています。もちろん、すべては想定どおりにはいかないのですが、それでもそれができるくらいの心の余裕があるのがいいのです。
ノジマ弁護士は、今は東京で活動しているとのことですが、田舎弁護士の良さを忘れないでほしいものです。
(2017年6月刊。1500円+税)

スパイの血脈

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ブライアン・デンソン 、 出版 早川書房
信じられない実話です。アメリカ軍の兵士がCIAに入り、アメリカという国を守って活動しているうちに、家族(子ども)を守るためと称して、お金のためにソ連(ロシア)にCIAの機密情報を売り渡し、それが発覚して刑務所に入ったあと、今度は、その息子が父親に頼まれて同じようにロシアに父親からの情報を流して大金をもらっていたというのです。この息子もアメリカ軍の兵士でした。いやはや、スパイが父親相伝することもあるのですね。信じがたい実話です。
父親のジム・ニコルソンは1980年にCIAに入ったあと、マニラ、バンコクそして東京で勤務したあと、ブカレスト支局長に昇進した。そして、1994年、クアラルンプール駐在時にロシアの情報部員に接触し、情報を売り渡すようになった。そのあと、CIAの訓練所の教官になり、監視のためCIA本部につとめていたところを1996年に逮捕され、翌1997年に懲役23年7ヶ月の判決を受けて刑務所に収容された。
ここで物語が終わらないところが本書の目新しさです。父親がスパイとして逮捕されたとき12歳だった息子のネイサンを、受刑して7年後に、父親は獄中からロシアに連絡することが出来たのです。それほど、父子の関係は親密でした。ちなみに妻(母)とは離婚して音信不通、他の姉兄は関わってはいません。
いったい、刑務所に入れられた元スパイのもたらす情報がいかほどの価値があるものなのか、門外漢には理解できないところですが、ロシアのほうは気前よく100万円単位で息子に報酬を支払っていました。つまり、スパイを摘発したときのCIAの人事・役割分担などについて知ることはロシアにとっても有益な情報だったということです。
それにしても、CIAにはロシアに情報を売るスパイがいて、ロシアのKGBにもアメリカへ情報を流すスパイがいたというのに改めて驚かされます。いずれも、イデオロギーより、金銭目当てのことが多いようです。
本書の主人公の父親も妻と離婚し、子育てにお金がかかり、新しい女性との交遊のためにもお金がほしかったようです。
父が、子どもたちを養うためにロシアのスパイになったと高言したとき、それを聞かされた当の息子はどのように受けとめるのでしょうか・・・。
息子のネイサンは実刑判決ではなく、5年間の保護観察と退役軍人省での100時間の社会貢献活動が命じられただけだった。
CIAとFBIの関係、そしてKGBとその後身の関係も興味深いものがあります。
スパイする人、その家族、その監視をする人、その家族、いずれもフツーの平凡な家庭生活は保障されていないのですね。大変な職業であり、仕事だと思いました。だって、対象者の会話を24時間ずっと盗聴して異変をつかむのが仕事だというのって、やり甲斐というか、生き甲斐を感じるのでしょうか・・・。私にはとても我慢できませんね・・・。
人間の本質を知ることのできる貴重な本だと私は思いました。
(2017年5月刊。2000円+税)

シリアからの叫び

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ジャニーン・ディ・ジョヴァンニ 、 出版  亜紀書房
シリアで内戦が始まって、もう何年にもなります。
「戦争は、いつ終わるの?」 この子どもの素朴な質問に対して、「もうじき終わるのよ」と答えるとき、胸が痛むと書かれていますが、まったくそのとおりです。シリア内戦が始まってからの5年間で、シリア国民の平均寿命が79.5歳から55.7歳にまで20年以上も縮まったとのこと。哀れです。
推定死者は47万人。負傷者は190万人。殺害されたジャーナリストは94人。
イスラム教徒は、死者を死んだ当日の日没前に埋葬しようとする。死者の名誉を称えるた
めに。湯灌(ゆかん)させ、白い死装束を着せる。葬儀の祈りを唱える。頭がメッカの方向を向くように埋葬する。
普通の人々にとって、戦争は何の前触れもなく始まる。娘たちのために歯医者の予約を
し、バレエのレッスンを手配していたのに、突然、カーテンが下りる。ATMは機能し、携帯電話もつながり、日々の習慣は続いていたのに、突然、何もかもが停止する。
バリケードが築かれる。徴兵がおこなわれ、近隣では自衛団ができる。政府高官が暗殺
され、国は混沌に向かっていく。父親が消える。銀行は閉鎖され、富も文化も生活も一気に消滅する。
戦争とは、破壊。骸骨、そして人の生命の抜け殻。
昔の世界は、すっかり消えている。煙草の煙のように・・・。
戦争とは、延々と待つこと。
 終わりのない退屈。ここには電気もテレビもない。
本は読めず、友だちにも会えない。絶望が深まるが、それを燃やす方法はない。
ここには、ほとんど何も残ってない。パンを焼くための動力がなかった。料理をするガスがな
かった。ここでの生活は欠乏だらけだった。
ここで生きていくために重要な二つのルールがある。一つは、政府軍の摘発を受けずに身
を守ること。もう一つは、食料を見つけること。
戦時下の人々の生活はすさんだものだった。だれも停戦など気にかけない。戦時下では、
もっともなことだけど、犯罪と不信と悲嘆しかない。
シリアの人々の苦難な状況がなんとなく分かった気になりました。
著者は、シリアの現状を現地まで出かけて取材したのというのですから、その迫力は並み
たいていではありません。いったい全体、誰がこんな戦争するのか当たり前の状況になったのでしょうか・・・。シリアの近況を写真とともに見ることの出来る本です。
(2017年3月刊。2300円+税)

バッタを倒しにアフリカへ

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 前野 ウルド浩太郎 、 出版  光文社新書
いやあ、面白いです。文句なしに面白い本です。なにしろ、アフリカの地でときに大量発生して猛威をふるい大災害をひき起こすサバクトビバタの生態を解明し、その対策に貢献している日本の若手学者がいるというのです。その苦労話ですから面白くないはずがありません。私は1時間の車中、身じろぎもせず集中して、全身全霊を傾けて没入してしまいました。幸い、私の降りる駅は終点でしたから、乗り過ごすこともなく、無事に降りることが出来ました。車内放送も何もかも耳に入らず、ひたすらアフリカの大地を著者とともにサバクトビバッタを求めてさすらっている心境でした。
実は、著者の本を読んだのは2冊目です。前に、このコーナーで紹介しました『孤独なバッタが群れるとき』(東海大学出版部)も面白かったのですが、この本は、さらに面白い。というのも、科学者の論文づくりの裏話というか、苦労話が満載なのです。
ブログで人気を集めていいたらしいのですが、著者の本が面白いのは、プロによる文章指導があることも知り、なるほど、なるほどと納得しました。
私も、モノカキを自称していますから、文章を書くのは一向に苦になりませんし、そこそこの文章は書けます。ところが、人を泣かせる文章にまでは、はるか道遠しです。そして、後進の、とりわけ弁護士の文章は、見るも無惨なのです。少しは読み手のことも考えて読みやすい文章を書いてくださいな・・・。そんな気持ちから、せっせと赤ペンを入れています。
アフリカのモータリニアには、驚くほど親日家が多い。モータリニアでとれるタコは、日本のマダコと食感、そして味が似ていて、日本人好みだ。だから、「築地銀だこ」は誇りをもってモーリタニア産のタコを使っている。
砂漠にあるオアシスは、現実にはドス黒く濁った水を茶色の泥が囲み、そのほとりには、水を飲みに来た動物たちの足跡だらけの糞だらけで、とにかくクサい。オアシスの正体は、不愉快な水たまりでしかないというのが悲しい現実だ。
バッタは、漢字で飛蝗と書き、虫の皇帝。バッタとイナゴの違いは、相変異を示すか示さないか。相変異を示すものがバッタで、示さないものがイナゴ。
バッタの英語名は、ラテン語の焼野原から来ている。バッタが過ぎ去ったあとは、緑という緑がすべて消え去ることからきている。
サバクトビバッタは、混みあうと変身するという特殊な能力をもっている。まばらに生息している低密度下で発育した個体は孤独相と呼ばれ、一般的な緑色をしたおとなしいバッタ。お互いを避けあう。ところが、まわりにたくさんの仲間がいる高密度下で発育したものは、群れをなして活発に動きまわり、幼虫は黄色や黒の目立つバッタになる。これらは群生相と呼ばれ、黒い悪魔として恐れられる。
ふだんは孤独相のバッタが混みあうと群生相に変身するが、この現象を「相変異」と名づける。ひとたび大発生すると、数百億匹が群れて、天地を覆いつくし、東京都くらいの広さの土地がすっぽりバッタに覆い尽くされる。
そして、成虫は風に乗って、一日100キロ以上も移動するので、被害は一気に拡大する。地球上の陸地面積の20%がバッタの被害にあい、年間被害総額は西アフリカだけで400億円にもなり、アフリカの貧困に拍車をかけている。
著者は生粋の秋田っ子なのに、虫好き人間として、ついにはアフリカにバッタの大量発生を喰いとめる研究者の一員にももぐり込んだのでした・・・。いやあ、その涙ぐましい努力には身につまされるところがあります。
そのうえ、アフリカの地で日本人がサバクトビバッタの研究に日夜、全身で没入して少しずつ成果をあげていく様子に、読んでいて拍手を送りたくなりますし、こちらが励まされます。
また、表紙の写真がいいのです。緑色のアフリカ衣装を着て、バッタを今にも捕まえようと著者が身構えています。
バッタが大量発生するとしても、それがいつなのか、どこが始まりなのか、まだまだ十分に解明されていないということばかりだそうです。
380頁もある新書版ですが、少しでもアドベンチャー精神がある人には一読を強くおすすめします。ちなみに、私にはもはや冒険心は残念ながら乏しいです。身体の若さはなくしてしまいました。だから、こういう冒険小説のような本には心が惹かれるのです。
(2017年7月刊。920円+税)

アガサ・クリスティーの大英帝国

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 東 秀紀 、 出版 筑摩選書
アガサ・クリスティーの推理小説は、私も何冊か読んでいます。読むたびに、そのトリックと推理の見事さに驚嘆したものです。
アガサ・クリスティーを、観光ミステリ作家と形容する人がいるそうです。なるほど、「オリエント急行殺人事件」など、観光地を舞台としていますよね。アガサ・クリスティーの2番目の夫は考古学者で、オリエントの発掘現場にも行っていたそうです。その体験が本に生かされています。
日本で観光ミステリ作家と呼べれる一人に松本清張のミステリがある。あれほど登場人物たちに日本各地を出張の形で回らせなければ、戦後日本を代表するベストセラーにはならなかったのではないか・・・。多くの読者が、小説を読んで旅への願望を紛らわせ、出張の際に各所に立ち寄っていた当時の日本人をあわわしている。
松本清張の本のなかに、南フランスの「レ・ボー」という村を舞台とするものがあります。私も、タクシーに乗って出かけました。列車の駅から遠く離れているところですので、レンタカーを借りるか、タクシーに乗らなければいけないのです(もちろん、ツアーに加わればいいのですが・・・)。岩だらけのアメリカの西部劇映画に出てくるような村でした。
アガサ・クリスティーの描いた小説の舞台は、二つの大戦の間の束(つか)の間の平和。そして、その時期の大英帝国の栄華。
アガサ・クリスティーが前夫との離婚話の起きた1926年に失踪事件をひきおこしたということを初めて知りました。そして、本人は真相を死ぬまで明らかにしなかったというのです。よく出来たミステリーを考えた作家は、なんと自分の人生にもミステリーを秘めていたわけです。
1930年代に、アガサ・クリスティーは、毎年2作のペースでミステリを世の中に送り出した。1年に5作という年もあります。驚くべき多作です。私が読んでない本がこんなにたくさんあるかと思うと、ぞっとしてしまいました。
ヒトラーが登場してくる本もあるようです。その本のなかで、ヒトラーは、当時のイギリス人の多くが望んでいたように、平和を望んで引退するというのです。まさしくチェンバレン首相と同じく、著者もヒトラーへの幻想に踊らされていたのですね。
アガサ・クリスティーのミステリー小説を改めて読んでみようという気にさせる本でした。
(2017年5月刊。1600円+税)

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