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北斎漫画入門

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 浦上 満 、 出版  文春新書
私はテレビをふだんはまったく見ませんが、出張先のホテルで見ることはあります。そのとき、たまたま北斎の「赤富士」を拡大して解説する番組がありました。もちろん北斎が素晴らしい構図の画家だということは知っていましたが、この本を読んで、改めて北斎が世界的な画家だということを再認識させられました。
1998年、アメリカの「ライフ」がこの1000年にもっとも偉大な業績をあげた世界の人物100人を特集したとき、日本人としては北斎が一人選ばれたそうです。それほど北斎は世界に影響を与えたのですね・・・。北斎は86位、ピカソは78位でした。
世界で一番有名な絵は、ダヴィンチの「モナリザ」と、北斎の「大波」だという話も紹介されています。「大波」とは北斎の「神奈川沖浪裏」という絵です。逆まく大波に船が呑み込まれそうになっていて、遠くに白雪を頂上いただく富士山が見えるという有名な絵です。その北斎による「北斎漫画」を開設した入門書です。
「北斎漫画」は江戸時代のベストセラー。1編あたり5000冊から1万冊は摺られた。
シーボルト事件で有名なシーボルトは北斎に会って、肉筆画を直接注文したとのこと。知りませんでした。同時代の人なのですね。
そして、北斎は、5回も改名していて、6つの名前をもっているのですね。また、売れっ子画家だったはずなのに貧乏暮らしだったようです。100回近くも転居していますが、要するに長屋暮らしで引っ越しするのが簡単だったからのようです。家財道具を運ぶこともなかったのです。
北斎は大胆な構図で緊張感あふれる絵を描きました。同時代の広重は、平明で穏やかな作風の絵を描いています。
「北斎漫画」は、北斎がそれを刊行しはじめたのは55歳のとき。90歳で亡くなったあとも出版は続き、明治11年に15編が刊行されて完結した。人物、動植物、風景、建築そして妖怪幽霊まで、ありとあらゆるものが描かれている。まさしく「絵で見る江戸百科」になっている。これが、イギリス、フランスに大きな影響を与えた。ゴッホも影響を受けた一人なのですね・・・。実物はともかく、もっと詳しいカラー図版を買って拝むことにしましょう。
「北斎漫画」の世界的コレクターによる手頃な入門解説書です。
(2017年10月刊。1200円+税)

息子カムは今日もゆく

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 しおり 、 出版  セブン&アイ出版
難聴のため話せない、そのうえ発達障害、睡眠障害をもつ息子との日々の「格闘」が、ほのぼの系のマンガに描かれています。
母親になった女性の偉大さには、まったく頭が下がるばかりです。毎日毎日、本当に大変だと思うのですが、この4コマ、マンガに描かれているカム君は、まさしく愛すべき存在です。ママとの毎日のかかわりは、ほほえましいエピソードにみちみちています。なるほど、こうやってマンガのネタになるといいものですね・・・。
カム君は胎児のときにサイトメガロウィルスによって、生まれつき耳が聞こえません。そして、話せません。発達障害、睡眠障害、摂食障害があります。感覚過敏で、強いこだわりがあります。10歳になっても、まだオムツがとれないようです。それでも親は、カム君と一緒に大笑いしたり、喜びや楽しみがあり、こうやってマンガに描ける幸せがあるのです。これはこれで、本当に人間らしい素晴らしい生き方だと私は思いました。
インスタグラムで2万人がフォローしているということですが、なるほど、それだけの価値はあります。ほのぼの系のマンガ(絵)なので、なんだか見ている人の気持ちが、ほっこり、ゆったりしてくるのです。
実際の日常生活は、なにかと大変だろうと思いますが、こうやって幸せ感を世の中に広めてくれる「ママ」の力は偉大です。
一人でも多くの人の目に触れてほしいマンガです。
(2017年5月刊。1000円+税)

アンのゆりかご、村岡花子の生涯

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 村岡 恵理 、 出版  新潮文庫
「赤毛のアン」は、私も昔よみました。カナダのプリンス・エドワード島の大自然の描写に心が強く惹かれたことを覚えています。その訳者の村岡花子の生涯を孫娘にあたる著者が時代背景をきちんとふまえて丹念に文章化していて読ませます。
村岡花子が「赤毛のアン」を翻訳したのは戦前だったのですね。そして、出版されたのは、敗戦後7年たった1952年(昭和27年)5月のこと。1冊250円の本が圧倒的に人気を集めたのでした。日本中の若い女性たちの心をつかんだのです。それには訳文の素晴らしさもありました。なにしろ村岡花子はカナダ人教師たちから徹底して教育され、英語が抜群にできたうえ、実は日本語の素養も深かったのです。
翻訳するには単に英語ができるだけではダメ。日本の古典文学や短歌俳句に触れておくことも大切。季節や自然、色彩、情感を表現する日本語の豊かな歴史を体得しておく必要がある。豊富な語彙(ごい)をもち、そのなかの微妙なニュアンスを汲んで言葉を選ぶ感受性は、英語の語学力と同じくらい、いや、それ以上に大切な要素である。
村岡花子は、7歳のときに大病をした。そのとき、次のような辞世の歌を詠(よ)んでいる。
まだまだとおもいてすごしおるうちに はや死のみちへむかうものなり
す、すごいですね。これが7歳の少女の辞世の句ですか・・・。
幸い病気が治って学校に戻ったときに、次の歌を詠んだ。
まなびやにかえりてみればさくら花 今をさかりにさきほこるなり
村岡花子の父親は社会主義者だったとのこと。勉強のよく出来た花子をミッション・スクー
ルの寄宿舎へ入れたのでした。華族の娘たちのたくさん通う学校に入って、初めのうちは気遅れしていた花子は猛勉強し、英語力を身につけました。
東洋英和女学校時代の花子の友人に、柳原白蓮(燁子・あきこ)がいました。炭鉱玉と結
婚し、東大生の宮崎青年と駆け落ちしたことで有名な白蓮です。
 英語がとてもよく出来た村岡花子ですが、実はアメリカにもカナダにも行ってなかったとのこと。これには驚きました。そしてプリンス・エドワード島には娘たちとともに行く機会があったものの、「現実を目にすれば、心の中で慈(いつく)しんでいた想像の世界が失われてしまう恐れ」があるとして、「夢を夢のままで置いておく」ために結局、行かなかったというのです。これまた、すごい決断です。
 花子を取り巻く家庭と社会状況の変遷が大変よく分かる本になっています。
 クリスチャンだった実母が死んだとき、仏式の葬式を営んだということにも驚かされました。形式ではなく、実質を尊重したのですね・・・。
 「赤毛のアン」シリーズを再読してみたくなりました。
(2014年6月刊。750円+税)

R帝国

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 中村 文則 、 出版  中央公論新社
子どもたちへの道徳教育を強引にすすめる政権のトップが平気でしらじらしい嘘をつき、それをマスコミは何も問題としない。国民の4人に1人しか支持していないのに、選挙制度のマジックで、国会議員の4分の3を占め、堂々と「民意を代表して」と強弁する。
そんなクニ(国)に私たちは住んでいます。そして、それに多くの国民が疑問を抱かずに流されています。忙しいから行けなかったと言いながら、実際には居間でテレビを見たり、ネットでゲームをしたり、怪し気な映画を見ている。半分近くの人は、選挙なんて自分には関係ないと思い込み、思い込まされています。そして、気がついたときには、あれあれ、こんなはずじゃなかった・・・と反省する間もなく、戦争に巻き込まれている・・・。言ってみれば、そんな状況設定で進行する恐ろしい小説です。無荒唐無稽のフィクションであってほしいと願わずにはおれませんでした。
朝、目が覚めると戦争が始まっていた。旧式の核兵器があり、R帝国は環境に優しい核兵器をもっている。
緊急事態国民保護法のため、国民がインターネットへ接続するのは一時的に停止される。緊急事態国民保護法が厳密に施行されたことで、戦争を否定する言論は、当然、国民安全法違反として取り締まりの対象になった。戦争に反対することは、自国の一体感を動揺させることであり、敵国の思うツボであり、一刻も早い逮捕が求められた。
情報提供が呼びかけられ、誰でも気軽に密告できるようになっている。ただ会社や学校で嫌われているだけで反戦者つまり売国奴とされる危険がある。みな息を潜めて生活している。誰もが誰かの行動をかたずをのんで注視し、失脚を期待した。ここには、緊張と全体主義の喜びの熱風・・・、この二つが入り交ざっている。
自分たちの国は、報道表現の自由があると国民は勘違いさせられている。
本当は政府に都合の悪い写真だから載せないのに、誰も本当の理由は言わない。
小説とはいえ、そら恐ろしい寒々とした情景です。ジョージ・オウエルの本を思い出しました。気がついた人から声を上げていくべき、一歩前へ踏み出すべきときです、今は・・・。
(2017年8月刊。1600円+税)

偽装の被爆国

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 太田 昌克 、 出版  岩波書店
アイゼンハワー大統領が西側の抑止力を支える屋台骨として期待したのが、壮絶な破壊力を備えた核戦力だった。兵力・兵員の数で西側を完全に凌駕するソ連を相手に、通常戦力でまともに戦いを挑んだとしても、それはまさに多勢に無勢。ソ連が西欧諸国に攻め込んできたら、アメリカは核爆弾や核ミサイルを使って一気呵成に応戦する。
アイゼンハワー政権が1960年12月に策定した「SIOP-62」は、核を撃ち込む爆心地を1043ケ所に設定、最大3400発もの核使用を計画するものだった。
ソ連の奇襲攻撃を探知したら、まず1500発の核をソ連の核基地や軍事拠点に投下する。さらに、ソ連や中国の都市多数を核攻撃し、100万人単位の犠牲者を出す・・・。
アジア太平洋地域に持ち込まれた核兵器は最大3200発。沖縄には、1300発が配備・貯蔵された。ベトナム戦争ピーク時の1967年のこと。沖縄は、ベトナムへの重要なアメリカ軍の出撃拠点であると同時に、アジア最大の「核弾薬庫」だった。
1979年11月9日未明、ジミー・カーター大統領の補佐官ズビグニュー・ブレジンスキーに「ソ連の潜水艦が220発の核ミサイルをアメリカに向けて発射した」という情報が届いた。その直後に、220発でなく、2200発と訂正された。ところが、これは早期監視の運用システムに誤って訓練用のテープが挿入されたことによるミスだった。
アメリカは900発のICBMと潜水艦発射弾道ミサイルが即時発射可能な状態にある。軍事衛星などがもたらす早期警戒情報でロシアの核ミサイル発射を確認できたら、大統領はこれら敵のミサイルがアメリカに着弾するまでに「核のボタン」を押す即応態勢をとっている。着弾前に決断する必要があるが、そのために大統領に許された時間は、わずか6分から12分しかない。
北朝鮮を標的としてアメリカが本格的な核攻撃を加えたら、どうなるか・・・。韓国は北朝鮮と陸続きで、日本とは一衣帯水の地理的関係にある。フォールアウトによる放射能被害が広範囲に及ぶのは明々白々だ。北朝鮮への核使用は、あまりに非現実的。そう考えるアメリカの専門家はいる・・・。
日本国内にあるプルトニウムは9.8トンで、このほかイギリスに20.8トン、フランスに16.2トンをもち、合計すると46.9トンを日本は保有している。このプルトニウムが核爆弾をつくると5863発ができる。その結果、日本は核兵器をつくろうとしているのではないかと外国から疑いの目で見られている。
日本は21世紀までは原発輸入国だったが、最近では原発輸出国になろうとしている。
核兵器禁止条約を日本政府は敵視していますが、核兵器という悪魔の兵器で第三者を威嚇し、恫喝するような事態は直ちにやめる必要があるのです。それは北朝鮮との関係でも同じです。核には核を、いつまでもこんな発想でいたら人類の絶滅を早めるだけでしかありません。危険なウォーゲーム路線を走るアベ政権にストップをかけるしかありません。
時宜にかなった本です。ご一読を強くおすすめします。
(2017年9月刊。1700円+税)

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