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ペリリュー玉砕

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 早坂 隆 、 出版  文春新書
パラオ諸島の一つ、ペリリュー島を前の天皇夫妻がわざわざ訪問したのは、天皇としての戦争責任のとり方として、私は評価したいと思います。天皇夫妻がはるばる訪問したことで、私をはじめとする多くの日本人がパラオ諸島での日本軍のむなしい戦いを認識し、あえなく戦病死させられた日本人青年たち(兵士)を追悼する気持ちを抱いたのです。ペリリュー島の戦いはマンガにもなり、イメージをつかむことができました。
本書は、守備隊長の中川州男(くにお)大佐に焦点をあてています。ペリリュー島を守備する日本軍は1万人。生き残ったのは、わずか34人。攻めたアメリカ軍は4万2千人。圧倒的な戦力の差があった。 ところが、74日間に及ぶ激戦が続き、昭和天皇は11回も「お褒めの言葉」を贈った。そして、日本の敗戦後も残存兵が森の中にいて、1947年(昭和22年)4月に救出されるまで、「戦いは続いていた」。
 明治31年(1898年)生まれの守備隊長である中川大佐の出生地(本籍)は玉名郡玉名町大字岩崎。熊本地方裁判所玉名支部からほんの少し先の玉名市中心部です。そして、南関町の小学校から玉名中学に進みます。中学では剣道部。そして、久留米にある歩兵第48連隊に入ります。士官候補生です。八女工業学校に配属将校となり、4年をすごしました。そして、陸軍少佐として中国に渡り、大隊長をつとめます。陸軍大学校の専科を経て、連隊長となります。関東軍の一員として中国にいたところ、南方の第一線に投じられたのでした。
連隊長の中川大佐(46歳)の率いる連隊総員は3588人。
パラオ最大の町コロールにはデパートが2つあり、その一つは経営者は玉名郡岱明(たいめい)町の出身だった。
ペリリュー島では、住民を退避させ、地下に強固な地下複郭(ふくかく)陣地を構築した。
1944年(昭和19年)9月15日、午前5時30分、米軍がペリリュー島への上陸作戦を開始した。「アメリカ海兵隊史上、最悪の死傷率」という激しい戦闘になった。ペリリュー戦に参加した米軍兵士の4割がPTSDにかかった。
アメリカ軍は消耗の激しい第一海兵師団を後方に戻し、代わりに陸軍第81師団を投入した。海兵隊単独でのペリリュー島占領をあきらめたのだ。
日本軍による最後の電報は「サクラ、サクラ、サクラ」だった。ちなみに、「ウメ、ウメ、ウメ」が始まりだった。
戦死者は、日本軍が1万22人、アメリカ軍が1684人。戦傷者は日本軍が446人、アメリカ軍が7160人。アメリカ軍の戦死傷者は1万人をこえた。
天皇夫妻がペリリュー島を訪問したのは2015年(平成27年)4月28日のこと。海上保安庁の巡視船「あきつしま」に宿泊した。これも異例のことですよね。
戦没者の碑に向かって頭を下げている光景は、私も自然に頭の下がる思いでした。なにより、こんなところで戦死させられた日本人青年たちの悔しさに思いをはせてのことです。
戦争のむごさ、むなしさを実感させてもくれる本として読みすすめました。
(2019年6月刊。880円+税)

ふたつの日本

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 望月 優大 、 出版  講談社現代新書
在留外国人は、昭和の終わりの1988年に94万人だったのが、平成の終わりの2018年には3倍ほどの264万人になった。ところが、多くの日本人は今なお外国人や移民の存在を「新しい」もの、「異なる」ものとして捉えている。つまり、大きく変化した現実に対して、多くの日本人の感覚は追いついていない。
日本では長らく、「移民」という言葉自体がタブー視されてきた。日本政府は、深刻な人手不足に悩む経済界からの要請に応じて、外国人労働者の受け入れをさらに拡大しようとしている。しかし、その政策について、今なお、かたくなに「移民政策ではない」と言い張っている。
日本にいる更新不要の「永住権」をもつ外国人は100万人をこえている。韓国・朝鮮籍の人は全体の2割未満でしかない。
日本には、109万人の「永住移民」がいて、155万人の「非永住移民」がいる。そして、少なくとも131万人の「移民背景の国民」がいる。その合計は400万人だ。このほか、7万人の超過滞在者(非正規移民)がいる。
今や、日本は、世界第7位の移民大国になっている。アメリカ、ドイツ、イギリス、イタリア、スペイン、フランスに次ぐ。それでも、日本は、他国と比べて外国人が総人口に占める割合が1.7%と小さいため、目立たない。
日本政府は、永住権もつ人を増やさずに、出稼ぎ労働者を増やしたいと考えている。これをローテーション政策という。日本にいる在留外国人の6割は労働者だ。製造業の割合が低下し、コンビニなどの小売業や居酒屋などの飲食業で多く働いている。
外国人を「モノ」ではなく、「人」として扱うのには相応のコストがかかる。医療や年金などの社会保障システムの対象とするのかどうか・・・。
フィリピンからの女性は相対的に高齢化が進んでいて、もっとも多いのは40代後半だ。
技能実習生は、2011年に14万人だったのが、2018年には倍の28万人をこえている。来日前につくった大きな借金のせいで、多くの実習生は、「進むも地獄、退くも地獄」の状況に追い込まれている。しかも、多くの技能実習生が頼れる人・場所がなく、孤立している。
日本語指導が必要な児童生徒は4万4千人。そのうち1万人近くは日本国籍。日本国籍をもつ「日本人」の子どもにも日本語指導が必要な者がいて、その数はどんどん増えている。
日本における外国人、移民労働者のおかれている現実と、それへの対応が緊急に必要だということを痛感されられた新書でした。
(2019年3月刊。840円+税)

北朝鮮外交秘録

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 太 永浩 、 出版  文芸春秋
イギリスの北朝鮮大使館の公使だった著者は、妻と2人の子どもとともに北朝鮮を脱出することができました。大変な決断だったと思います。
いわば北朝鮮のエリート層の一員だった著者は、北朝鮮は封建社会どころか、奴隷社会にまで退行したと厳しく糾弾しています。
北朝鮮には憲法より上位の法がある。金日成・金正日・金正恩という三代の「お言葉」、「堂の唯一領導体系確立の10大原則」、「朝鮮労働党規約」という首領と党の政策だ。
北朝鮮は、国全体が金正恩一族のためだけに存在する奴隷制国家だ。
金正恩が一番恐れているのは真理の力だ。
北朝鮮の平均寿命は女性が73.3歳、男性は66.3歳だ。韓国と比べると、それぞれ11.3歳と11.7歳も短い。
この本のタイトルにもなっている「3階書記室」というのは、書記室が3階建ての建物を使っていることから、こう呼ばれている。金正日の執務室のある建物が3階建てだった。3階書記室とは、大統領秘書室みたいな存在だ。党中央庁舎は、中央党の幹部も近づけない完全な立入禁止エリアだ。
北朝鮮は、金一族という「神」と、いくつもの下部組織とのあいだの縦のつながりだけが存在する社会だ。横のつながりは、ほとんどない。省庁間の協議というのはない。
外務省は外務省、党国際部は党国際部で、それぞれ金正日に報告する。
党中央組織指導部がどんなに強大な権力をもっていても、対外政策については手をだせない。党組織の生活を管理する組織指導部と宣伝煽動部は、北朝鮮の体制が形づくられた日から今日まで、北朝鮮社会を動かす二大軸だ。
北朝鮮の権力に序列には意味がない。北朝鮮では、当該機関や傘下機関の人事権、表彰権、処罰権をもっているかどうかで権力が決まる。
金正恩が恐怖政治に頼りはじめたのは、コンプレックスのせいだ。金正恩は、自分の生年と学歴、生母などを公式に発表できないでいる。生母の高英姫は元は在日朝鮮人で、万寿台芸術団の舞踏家として活動していた。そのうえ、高英姫の父親は日本軍の協力者として働いていたと韓国では報道されている。
金正恩は、自分の家族の出自や経歴が北朝鮮の体制の不安要素であることをよく理解している。
北朝鮮の権力機構にいる人間にとって、一番重要なことは、金正日や金正恩が突発的に下す指示を無条件に執行しないということだ。厳密に計算したあと、たとえ遂行する場合でも、金正日に文書を作成して裁可を受けておく。こういう問題が起きるかもしれない、別の対応もありうる・・・と。無条件に執行すると、結果が良くなかったときには責任をとらされる。党除名と失職、下手すると処刑(銃殺刑)だ。
北朝鮮の政治の意思決定過程がよく理解できる本です。私は、朝鮮半島の平和的統一を心から願っています。
(2019年6月刊。2200円+税)

国家機密と良心

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ダニエル・エルズバーグ 、 出版  岩波ブックレット
ダニエル・エルズバーグというと、ペンタゴン・ペーパーズです。それはアメリカのベトナム侵略戦争の実態をアメリカ政府がひそかに調査してつくりあげた秘密報告書です。ペンタゴンとはアメリカの国防総省のことです。
1967年6月というと、私が東京で大学1年生としてまだまだ元気一杯、18歳のころです。
アメリカのマクナマラ国防長官は、ベトナム戦争には問題があるのではないかと疑って40人の調査チームをつくって調査研究させた。1年半後にできあがった報告書は47巻7000頁に及ぶ大部なものだった。
ベトナム戦争では、ベトナム人200万人が亡くなり、世界最強のはずのアメリカ軍も5万7千人という戦死者を出しました。韓国軍もベトナムへ出兵し、5千人近い戦死者を出しています。その見返りに韓国はアメリカから経済援助を受けました。日本は憲法9条のおかげで出兵を免れ、ベトナム特需でうるおいました。
ペンタゴン・ペーパーズは、要するに、アメリカのベトナムにおける戦争に大義はなく、敗戦必至ということを明らかにしたものです。ですから、ジョンソン大統領のひきいるアメリカ政府は公表できませんでした。それを、逮捕・失職そして投獄を覚悟してエルズバーグはマスコミに資料を渡して公表したのです。映画にもなりましたが、アメリカのマスコミも骨がある人たちがいたのです。
エルズバーグは、もともと誰もが知る反共主義者でした。マクナマラ国防長官の顧問に就任し、ソ連・中国を対象とする核戦争についての公式ガイダンスを立案していました。核戦争になれば、ソ連と中国だけで3億2500万人が死亡し、全世界で6億人が死亡するという計画。そして、この予想には、ソ連軍が反撃したときの死傷者数は入っていない。すなわち、核戦争は、地球に人類が住めなくなるという結果につながるのです。
日本には、岩国の沖合にアメリカの艦船が停泊していたが、それに核兵器が搭載されていた。そして、沖縄の嘉手納には核兵器が貯蔵されていて、有事の際には、日本本土の基地へ核を移送する計画をもっていた。
核戦争をひき起こしてはならない。日本の憲法9条は大きな意義をもっていると考える著者は核兵器のもたらす害悪を国民がみな等しく認識し、その根源を踏まえて運動をすすめようと呼びかけています。まったく同感です。
(2019年4月刊。740円+税)

東京大学駒場スタイル

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 東京大学教養学部 、 出版  東京大学出版会
私の大学生のころにも、金もうけが一番と考えている学生は少なくなかったと思います。でも、それを公然と言うのは恥ずかしいこと、はばかれる雰囲気がありました。
「貧乏人」の寄せ集まる駒場寮で私たちは読書会をやり、卒業後どう生きるかを真剣に議論していました。いえ、これは政治的に色のついたサークル(部室)のことではありません。いわば、ノンポリの寮生が岩波新書を素材として社会との関わり方を議論していたのです。そしてサークルノートを6人部屋で記帳し回覧していました。今も私はそのノートを持っています。
この本を読むと、教養学部長(太田邦史教授)が、「自分のことだけ考えてお金が入ればいいという感じの学生が増えてきているように思う。今の学生は優しい、いい子たちなんだけど、もうちょっと社会や世界のために生きるということも考えてほしいという気持ちがある」と嘆いています。
この発言にノーベル賞を受賞した大隅良典・名誉教授が共鳴して、「われわれの時代だったら、授業がなくなるくらいストライキがいっぱいあっていいはずのことに対して、今の学生はまったく敏感でない」と指摘しています。また、石田淳・前教養学部長も「学生は、もっと社会に対して関心をもってほしい」と注文をつけています。
幸いなことに、私のころには戦前からあったセツルメントサークルが戦後再建されて、地域に出かけて社会の現実に触れ、大いに議論する仲間がいました。社会との関わりも考えさせられました。そして、大学当局が無茶したり、政府が学費値上げを企むと、学生投票で過半数の賛成を得てストライキに突入して、授業がなくなりました。
まあ、無茶といえば無茶なのですが、学生のころには、そんな無駄も許されるし、必要なのだと今では思います。
大隅名誉教授の次の言葉は味わい深いものがあります。
「年齢(とし)をとるということは、切り捨てることなんだよ」
「失敗してはいけないという感覚は、科学とは相容れないもの。科学というのは、ほとんどが失敗の連続」
「いまの社会には、1回だって失敗してはいけないという感覚が若者にある。とくに受験に勝ち残った東大生には、失敗したらマイナスのスパイラルに落ち込んでしまうという恐怖感がすごく強い」
「『できました、先生』、『次は、何をやりましょうか』・・・。こんな感じの学生が東大生にも増えている。自分で課題を発見するより、提起された課題をいかに早く手際よく解く力が大事なことだと思い込まされている。それが問題だ・・・」
これって、本当に大切な指摘だと私も思います。弁護士だって同じことで、自分で物事を考え組み立てる能力が求められます。
この本のなかに、中世フランス語辞典を1人で、5年かけて完成させ、アカデミー・フランセーズから大賞を授与されたという松村剛教授の話があります。これは、すごいことです。学者って、すごいですね。9世紀から15世紀までの北フランス語を中世フランス語と呼ぶのですが、著者は十字軍時代のエルサレム周辺の文献まであたったようです。
毎日毎朝、NHKラジオのフランス語応用編を聞いて書きとりしながら、なんでこんなに進歩しないのかと自らを嘆いている身として、驚嘆するほかありません。学問の道は深く険しいことを少しばかり実感することができました。
駒場寮はなくなりましたが、1号館や九〇〇番教室そして話題の8号館は健在のようです。毎朝、学生気分に戻って浸るつもりでNHKフランス語講座を飽きもせず、聴いています。
(2019年6月刊。2500円+税)

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