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ルポ・トランプ王国 2

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 金成 隆一 、 出版  岩波新書
世界中に紛争のネタをばらまき、あおりたてているのがアメリカのトランプ大統領ですが、その支持者からの支持は依然として衰えていないようで、心配でたまりません。
私がトランプ大統領のやったことで唯一評価しているのは、北朝鮮の金正恩委員長との2回の直談判です。この会談が続く限り、北朝鮮は無茶しない(できない)と思うからです。
この本は、アメリカのトランプ支持者たちの本音を取材してまわった貴重なレポートです。
トランプ支持者は、トランプが職を保障すると公約したことに拍手喝采です。
ジョブ(仕事)。この町にジョブを戻してほしい。これがトランプ支持者の最大の切なる願いです。
トランプは、選挙戦において、「家を売らないで下さい。私たちが家の評価を上げます」と叫んで、公約とした。もちろん、そんなこと、ジョブの確保が簡単にできるはずもない。しかし、人々は、束の間の夢に心地よく浸ったのだ。トランプが約束の1割でもやってくれたら十分だと彼らは考える。
もう一つは、トランプがこれまでとは毛色のちがった政治家であり、ビジネスマンだということを評価している人たち。
政治家なんて、みなデタラメなことを言う人間ばかりだ。トランプもその一人だろう。しかし、トランプは楽しい。トランプは面白い。いかにも個性的だ。
この本を読むと、ヒラリー・クリントンを嫌いだというアメリカ人が少なくないことを実感させられます。
トランプは、大統領になって2年経過しているが、毎日のように誰かを攻撃し、精神の不安定さを露呈している。
アメリカで誰がトランプ大統領を支持しているのか、これを知り、その理由まで掘り下げている本書は、貴重なルポルタージュです。
(2019年9月刊。940円+税)

バタフライ

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ユスラ・マルディニ 、 出版  朝日新聞出版
17歳のシリア難民少女が、ブラジル・リオのオリンピックに出場して泳ぐまでの実話が語られています。
難民が生命がけでドイツにたどり着くまでの様子が刻明に語られていて、その悲惨さに思わず涙ぐんでくるのをおさえられません。水泳選手という自負心から、船が沈没して全員おぼれそうになったとき、海の中で船(ボート)を支えたという信じられないエピソードもあります。
シリアで水泳のコーチをしていた父親の下で、姉と妹は幼いころから水泳を始めて、やがてオリンピック出場を目ざすのです。ところが、シリア内戦が始まり、シリア国内では水泳の練習どころではなくなります。
シリアのアサド政権って、すぐにも倒れるかと思っていましたが、意外にしぶとく生き残っているようです。反政府派との激しい内戦は今どうなっているのでしょうか…。日本では、何が問題となっているのかを含めて、シリアの状況はまったく伝わってきませんので、この本を読んでも、基礎的知識がありませんので、もどかしい限りです。
敬虔(けいけん)なイスラム教徒だったら、女性はヒジャーブを着て肌の露出を避ける。しかし、水泳選手にそんなことを求めるわけにはいかない。水着の上に何かを着て泳ぐなんてありえない・・・。
市街戦が日常化するなかで著者たちはシリアを脱出し、ドイツに向かったのでした。
2015年9月の週末だけで、2万人の難民がバスや列車に乗って、ハンガリーからオーストリア経由でドイツに到着した。このときドイツは難民を受け入れていた。そして、難民として登録されると、ドイツ政府は毎月130ユーロの手当を支給してくれる。
シリアを脱出して、ヨーロッパまでたどり着けた人々は、故国ではそれなりに裕福に暮らしていた。シリアからドイツに来るまでに3000ドル以上のお金を使っている。家を売り、本を売り、何もかも売り払って旅費を工面した。
ドイツまで来れた人間は運が良かったといえる。それだけの金があったのだから。貯金がない人や売り払う家財のない人は、ヨルダンやレバノンやトルコの難民キャンプにまでしかたどり着かない。
ドイツ政府とドイツの人々が救いの手を差しのべてくれているのはありがたいこと。しかし、他人からの施しを受けなければ暮らせない境遇はつらい。故国では、他人から恵んでもらおうなんて考えたこともない人々なのだから・・・。
2016年のブラジル・リオのオリンピックのとき、IOCは「難民五輪選手団」を結成することを思いつき、それを実行した。そのなかの水泳選手として著者が選ばれた。
いやはや、こんな「サクセス・ストーリー」もあるのですね。難民という存在を改めて実感させてくれる本でした。
(2019年7月刊。1900円+税)

チョンキンマンションのボスは知っている

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 小川 さやか 、 出版  春秋社
チョー面白い本です。びっくりします。スワヒリ語の話せる著者が香港に生活するタンザニア人たちの社会に溶け込んでつかんだ、びっくりするような生態が分かる生きたレポートです。
スワヒリ語を話せることがこんなに「武器」になるなんて・・・。やはり語学は大切ですよね。
アングラ経済の人類学。このサブタイトルに異存はありません。
うまく騙すだけでなく、うまく騙されてあげるのが仲間のあいだで稼ぐうえでは肝要。
チョンキンマンションのボスを自称するカラマなる人物は、いかにも魅力的です。多くの人に一目置かれています。15ヶ国以上のアフリカ諸国の中古車ディーラーとネットワークをもっている。タンザニア香港組合の創設者で、現副組合長。
香港に長期に滞在するタンザニア人たちの主な仕事は、短期滞在型の交易人たちの輸出入のアテンド、仲介業と、インフォーマルな輸出・輸入業である。
これより先は、知りたくないという寸止めの態度がチョンキンマンションに長く暮らしている人々が実践していること。これは平穏に自らの人生をつむぐ知恵であり、いろんな事情をかかえた人々とつきあうための配慮にもなる。
タンザニア香港組合のメンバーは多かれ少なかれ「法」に違反している。それでも麻薬の売人や窃盗を兼ねて違法売春する者と、仲介業をしたり衣類や電化製品などの交易に従事する者とでは、「刑務所の近さ」あるいはトラブルの性質や頻度に違いがある。
彼らは、常々、「誰も信用しない」と断言している。
大切なのは仲間の数ではない。タイプの違う、いろんな仲間がいること。
他者の「事情」に踏み込まず、メンバーと相互の厳密な互酬性や義務と責任を問わず、無数に増殖し拡大するネットワーク内の人々が、それぞれの「ついで」に出来ることをする「開かれた互酬性」を基盤とすることで、彼らは気軽な「助けあい」を促進し、国境をこえる巨大なセーフティーネットをつくりあげている。
自分たちを対等であるとみなしていない人々に対しては、「扱いやすい人間」にならないことが肝要。そのためには、わざと約束をすっぽかし、彼らが会いたいと恋しがるころに会いに行くのがちょうどいい。
なーるほど、こんな人生哲学があるのですね・・・。
タンザニア人たちは、独立自営を好み、業者に労働者として雇われたり、他のブローカーと共同経営することは好まない。
カラマたちにとって、SNSに投稿するための写真や映像を集めるのは「遊び」であると同時に「大切な仕事」でもある。
彼らは他者に親切にすることで何らかの権力や地位を得ることには、ほとんど関心がないし、関心をもったとしても何の権力も地位も得られない。
香港のタンザニア人たちは、組合活動への実質的な貢献度や窮地に至った原因を問わず、組合員の資格や他者への支援にかかわる細かなルールを明確化せず、ただ他者の求める支援に応じるか否かを判断する。
彼らの日常的な助けあいの大部分は、「ついで」で回っている。
タンザニアに帰国するか、いつ帰国するかにかかわらず、彼らは「どこか」「いつか」のためではなく、「いまここ」にある人生を生きるために稼いでいる。
彼らの仕組みは、洗練されておらず、適当でいい加減だからこそ、格好いい。
著者は40歳の日本人女性で、立命館大学教授でもあります。すばらしいルポタージュですが、この一部は学術論文にもなっているとのことで、深みもあり、ともかく面白く読ませます。あなたも、ご一読してみてください。世界が広がりますよ・・・。
(2019年10月刊。2000円+税)

皮膚はすごい

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 傳田 光洋 、 出版  岩波科学ライブラリー
人間の身体がいかに良くできているか、またまた認識が深まりました。
人間の先祖であるアウストラロピテクスは全身が体毛で覆われていた。つまり、いまのように体毛がなくツルツルの肌というのではなかったのです。では、いつ体毛がなくなったかというと、120万年前のこと。体毛がなくなり、皮膚がむき出しになったことから、人間に何が起きたのか・・・。表皮を環境にさらすことで、さまざまな情報が全身を覆う表皮からもたらされるようになった。
人間の全身を覆うケラチノサイトの数は1層で200億あるので、少なくとも1000億個以上はある。これは脳の神経細胞数と同じレベル。その一つ一つが温度や圧力や電磁波などの物理現象、化学刺激のセンサーを複数もっていて、情報処理施設であり、かつ、身体や脳に指示を出す能力がありことを考えると、表皮からもたらされる環境情報は膨大な量になる。
瞬時の情報処理は、表皮とせいぜい脊髄でなされ、脳にもたらされた情報のあるものが記憶として脳に保存される。
表皮は可視光のみならず、紫外線から赤外線まで感知できる。音については、耳の限界、2万ヘルツを超えた超音波まで感知できる。表皮は大気圧を感じ、酸素濃度を感知し、地球の磁場程度の弱い磁気も感知し、電場にも応答する。
人間は、本来、自分の身体を守るためのものだった表皮から体毛をなくし、あえて外界にさらし、世界を、そして宇宙を知る装置に変えた。いわば、皮膚を世界に宇宙に向けて開放したと言える。
人間の皮膚やトマトの皮の表面は、死んだ細胞が重なって出来ている。
人間の皮脂には、水をはじくスクワレンという脂質が入っている。
人間の皮膚にいちばん似ているのはカエルの皮膚。
激しく運動したあと、身体を冷やすために汗をかくのは人間と馬だけ。
人間が体毛を失ったことの結果なのか、それを目的として体毛をなくしたのか、それも知りたいと思ったことでした。とてもとても知的刺激にみちた本です。
(2019年9月刊。1200円+税)

秋元治の仕事術

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 秋元 治 、 出版  集英社
私は、『こち亀』を読んだことは1回もありませんが、それが毎週連載を40年間も続けていた人気マンガだということは、もちろん知っています。
その著者が40年間も休まずに毎週連載を続けられた理由を大公開した本です。
読んでみると、著者の才能が大前提ではありますが、なるほどと思うことばかりでした。
マンガの世界は先のことが予想できない。突然、終わりを迎えてもおかしくない。そこで、とにかく面白いものを描き、1回1回、乗り切っていくことだけを考えてやってきた。先のことまで考えない。変化を恐れず、常に新しいネタを仕入れ続けてきた。
好きなことだけをやってきた。仕事を苦痛だと思ったことは一度もない。
漫画家はネタを考えるのが仕事の根幹。ネタを考えるのが不得意な人は、漫画家には向いていない。
漫画家はリスキーな職業なので、深く考えることができる人なら、まず選ばない道。
何事もなかったかのように、変化なくずっと毎日続ける。これこそが集中力を持続させるコツ。いつまでもくよくよ悩まず、ある程度悩んだら、さっと切り換えて次に行く。
『こち亀』のレギュラー連載は、十分なストックをもっていたので、落ちるというピンチを感じたことはなかった。
この書評も20年近く続けていますが、この間、1日たりとも切れていません(ときに飛んだのは、アップ担当者が急に休んでしまったからで、私が原因なのではありません)。
そのためのスケジュール管理を厳密にやっている。時間は、自分から積極的に生み出さないといけない。1本の『こち亀』に初めは7日間をかけていたが、6日間に短縮し、5日間で仕上げるというペースを確立した。
仕事をするのは朝9時から夜7時まで。昼と夕には食事のための休憩時間を1時間ずつとる。残業はなるべく少なくし、徹夜はしない。社員も、きちんと休みをとり、タイムカードで出退勤管理をしている。
著者は午前2時までには就寝し、起床は7時半。このようにして時間をきちんと守ると、社会的つきあいもできるようになる。
ギリギリの仕事はしない。原稿はいつも早めに担当者に渡す。
ながら族で仕事をする。マンガを描くときにはFM放送(ラジオ)を流しっぱなしにしている。ラジオから、新商品の情報や最新のニュースが頭に入ってきて、次のマンガのネタになっていく。
ネットでの評価は見ない。そしてつまらない批判は無視する。ファンレターは読む。
本屋には気分転換をかねて出かける。
眠いときは、無理をせず、しばし仮眠をとる。健康を保持し、仕事を続けるための一番の特効薬は、悩まないこと。
私より4歳だけ年下の著者ですが、私の考えと著者のやっていることに共通するところが多く、大変共感を覚えました。180頁あまりの本ですが、立派な仕事術がぎっしりの本ですので、あなたにも一読をおすすめします。
(2019年8月刊。1200円+税)

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