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母がしんどい

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 田房 永子 、 出版 角川文庫
母と娘の関係も、父と息子の関係にまさるともとらないほど難しいのですね。
この文庫は、コミック・エッセイなので、パラパラと読めますが、そこで描かれている情景は、あまりに重たくて、どうにもたまりません。
まわりから見ると、仲良し親子。だけど、「お母さん、大好き!」って思ったことがない。
なんの問題もない、しあわせ家族。だけど、実は、お父さんとしゃべったことがない。会話は、いつもお母さん越し。
お母さんは、いつも「あなたのため」と言う。だけど、本当に私のためなの? お母さんがやりたいから、やっているとしか思えない…。
マンガで描かれているので、視覚的に問題状況が理解できます。いやあ、これって、子どもには大変な試練だな…と思ってしまいました。
親がしんどいという気持ちに苦しんでいる人が、なぜ苦しいかというと、親からフェアではない目にあわされてきているから。一方的にいろいろされてきたうえ、なぜか「おまえが悪い」という言葉によって、その責任を押しつけられる、つまり、いきなりに「加害者」として扱われてきたことによる。
「自分が悪い」というのが基本にある考え方がしっかり身についているから、家庭の外に起きることまで、すっかり「自分が悪い」で片付けるようになってしまう…。
「おまえが悪い」という親の言葉を「自分が悪い」として生きていると、親と一心同体の状態にあるのと同じ。なので、まずは親から自分を引き離す作業が必要。「おまえが悪い」というけれど、そうしたのは親なのだ。つまり、ちゃんと被害者の立場に立ち切ることが大切。
ちょっと前まで、娘が母親を非難・批判するなんて許されないことだった。まして「毒母」なんていう言葉を投げつけるなんて、とんでもないことだった。でも、昭和が終わり、平成になってまもなくから、それが可能になった…。
「母の愛」と信じてきたものが、実は、「母による支配」だったと自覚することによって、母から離脱し、人間として自立できる。ということのようです。同性である母と娘の関係のむずかしさを少しばかり実感して理解することができました。
では、父親(夫)は、どうしたらよいのか…。この本の解説は、父親に期待することは、ただひとつ、ちゃんと母親(妻)をケアしてもらいたいということ。
うむむ、これまた簡単そうで、実は、そんなに容易だとは思えません…。
時宜にかなったマンガ・エッセイの文庫本だと思いました。
(2020年2月刊。600円+税)
「デンジャー・クロース」というベトナム戦争を扱ったオーストラリア映画を博多駅の映画館でみました。ベトナム戦争は私の大学生のころ、何度となく「反対!」を叫んでデモ行進をしたものです。
この映画は、オーストラリア軍がベトナム戦争に加担していたこと、南ベトナムで北ベトナム正規軍2000人からオーストラリア軍中隊108人が包囲・襲撃されて残った「ロングタンの戦い」を実写化しています。
オーストラリア軍がベトナムに派遣されていたことを詳しくは知りませんでした。陸・海・空の3軍あわせて5万人も派兵していて、450人の戦死者、そして2400人もの戦傷者を出しています。
この「ロングタンの戦い」は、まだオーストラリアでのベトナム反戦運動が盛んになる前の、1966年(昭和41年)8月18日に起きました。オーストラリア軍の戦死者は18人。みんな20歳前後の若者です。これは私とほぼ同じ年齢(1歳か2歳だけ年長)です。
そして、北ベトナム軍の戦死者は確認されただけでも245人。1割以上です。
「デンジャー・クロス」(極限着弾)とは、味方に対して超至近距離で砲撃することを要請すること。味方の小隊がこの砲撃で全滅してしまう危険もあるもの。
ベトナム戦争を描いたものとして、迫真の場面の連続で、すっかり固まってしまいました。

河口慧海

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 高山 龍三 、 出版 ミルネルヴァ書房
河口慧海(えかい)の『チベット旅行記』(講談社学術文庫)を読んだときには、その圧倒的な迫力に、ついたじたじとなってしまいました。禁断の地、チベットに苦労して入り、修行し、仏教問答をする求道士の姿に接し、ただただ呆れ、驚嘆したものです。
この本は河口慧海に関する総合文典のようなものです。驚くのは、1929年生まれの著者自身が1958年ころ1ヶ月も現地を歩き、チベット人村に滞在したことがあるということです。したがって、土地勘があるわけです。これは、やはり違いますよね…。
「探検記」としてもてはやされた『チベット旅行記』によって、多くの読者はこの本を探検談としても評価したが、本当は仏教の書として読んでほしいと著者は願っています。
河口慧海のチベット探究の目的は、真の仏教を求めたものだった。
河口慧海は、明治になる2年前の1866年、堺に生まれた。長男であり、小学6年生のとき、父の意向で退学し、家業である桶樽づくりの仕事を手伝った。それでも、勉学を志し、夜学校や晩晴書院などで勉強した。
そして、15歳のとき、慧海は、釈迦の伝記を読んで発心した。酒、たばこ、肉食をしない、女性に近づかないという三つの誓願を生涯にわたって実行した。
27歳からは、午後は食べない、非時食戒(ひじじきかい)という戒律を守り、それを守った。昼までにお茶を沸かし、麦こがし粉をバターや植物油とともにこねて食べた。一日一食主義だ。
1897年6月、友人有志からもらった530円をふところにしてチベットに向かった。この530円というのは、今のお金だといくらになるのでしょうか…。
インドに着くと、ヒマラヤ山麓の地で、チベット語とくに俗語の習得につとめた。
慧海がチベットのラサに到着したのは、日本を発って4年後、チベットに入って8ヶ月後だった。慧海はインドからまずネパールに密入国した。1899年1月のこと。ネパールの山村に1年半滞在し、モンゴル人のラマ僧からチベット仏教と文法を学び、チベット人のあいだで生活して、習慣を身につけ、風土順化した。すごいですね…。ずっと1日1食なのですよ。もちろんネパール語も勉強しています。
ネパールでは、外国人を部屋に入れたり、一緒に食事するのが禁じられていたので、家の外、岩の下、森の中で夜を明かさなければならなかった。
厳しい戒律を守る慧海は、村人から尊敬され、何人もの村人に授戒を受けさせた。村に居着いてもらおうと、慧海に娘を嫁にしてもらおうとした村長もいたようです。
慧海は、チベット人の風俗習慣を身につけるだけでなく、石を背負って山登りのトレーニングまでしたのでした。いやはや、なんとすごいこと。35歳のことです。
国境の峠で昼食をとる。背負っている荷をおろし、袋から麦こがしの粉を出して椀に入れ、それに雪とバターを加えてこね、トウガラシと塩をつけて食べる。これがチベット人のもっとも普通の食べ物だ。慧海は、これを「極楽世界の百味の飲食(おんじき)」と表現した。このあと、午後は、一切食べないのです。ああ、なんということでしょう。空腹に耐えるのも修行のうちなのです。
慧海はチベットのラサに滞在しているとき、二の腕の骨の外れた小僧を直してやったことから、それが評判となって「にわか医者」(セライ・アムチ)と呼ばれるようになった。地元の医者たちが、仕事を奪われて報復してこないか心配されたというのですから、並の評判ではありません。
1903年5月に慧海は無事に日本に帰国したのですが、それからは一躍、「時の人」として注目を集めたようです。それでも、日本国内よりも、ヨーロッパで高く評価されていたのでした。
南方(みなみかた)熊楠という明治の人物も突出した偉人ですが、私には河口慧海も同じようにケタはずれの人物だと思えます。このような先人がいるのを知ると、日本人も満更ではないと思え、少しばかり安心もします。なにしろ、無知・無能のくせに威張りちらすことにかけては天下一品のアベ首相とその取り巻き、そして50%前後の支持率を「誇る」という状況にガッカリさせられる毎日なのですから…。
(2020年1月刊。3800円+税)

心の進化を語ろう

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 松沢 哲郎 、 出版 岩波書店
哲学には2つの使命がある。一に、この世界はどうなっているかを知ること。その二は、人間はいかにふるまうべきかを考えること。
なるほど、それだったら、私も立派な哲学の徒ですかしらん…。
人間以外の霊長類でも死児を持ち運ぶものは少なくない。高崎山のニホンザル6000例のうち、157例の死児の運搬が観察されている。それも、生まれてすぐに死んだ子は持ち運ばない。生まれて1日でも赤ん坊が母親にしがみついていると、10例に1例の割合で、母親は死児を持ち運ぶ。
これも死を弔う行動と言えるのか…。
チンパンジーのアイは女性だが、昔から気が強い。幼なじみのアキラ(男性)はそれをよく知っていて、アイにはなかなか逆らえない。へたにケンカをしようものなら、アイがほかの女性たちを引きつれて逆襲してくる。
ゴリラはケンカしない。大騒ぎもしない。道具をつくらない。使わない。狩猟をしない。食物分配がない。群れ間での殺しあいもない。人間の狂気に近いものをゴリラからは感じとれなかった。
ボノボは女性優位で、ほとんど道具を使わず、隣りあう群れは平和共存している。
ボノボは、チンパンジーと違って、メスが集団の中心にいる。
ボノボの果実分配は、豊かな森で、独力でも手に入れられる果実をあえて分けあって食べている。
一般的にチンパンジーには、「おばあさん」という役割がない。死ぬまで自分の子どもを産み、育て続ける。
チンパンジーでは見張り役をするのは、おとなの男性であることが多い。
チンパンジーは好奇心旺盛だが、とても用心深い。
ボノボは、面と向きあうと、じっと目を見返してくれる。これに対して、チンパンジーは視線をあわせようとはしない。
チンパンジーには、複数の男性と複数の女性から成る共同体はあるが、家族はない。数十からときに200ほど近い個体が集まっているが、特定の男女の結びつきはなく、「乱婚」と形容される。
ゴリラには、シルバーバックと呼ばれ大人の男性がいて、複数の女性と子どもたちがいる。しかし、家族だけであって、それを束ねた共同体は何もない。
オランウータンは、母子の結びつきしかない。
人間は、親だけでなく、複数の大人が共同して手のかかる子どもたちを育てている、
人間とは何者かを考えるときに必須の本だと思います。京都学派は、この分野では世界をリードしてがんばっています。本書は、いわば百科全書のような内容になっています。
(2019年12月刊。2600円+税)

みんなの家

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 光嶋 裕介 、 出版 ちくま文庫
建築家1年生の著者が内田樹邸である「凱風館」を設計し、完成させるに至った過程を語った文庫本です。
著者はアメリカ生まれで、早稲田大学の理工学部を卒業したあと、ドイツの建築設計事務所で働き、そのあと日本に帰国しました。
施主である内田樹は、言わずと知れた大学教授、哲学者そして合気道の武道家でもあります。この本を読んで麻雀愛好家でもあることを初めて知りました。
駅近くの85坪の土地に、自宅兼合気道の道場(80畳)をつくる。道場は、能楽師として活動している配偶者のため、能の敷き舞台兼用にしてほしい。また、宴会や麻雀もできるセミパブリックな場所がほしい。1人でこもる個室としての書斎は不要。
いやあ、いろいろ大変な注文がついていますね…。
これを著者は1か月間かけて考えて、3つの案をつくったのでした。3つの模型をつくって東京から神戸へ運んだのです。結論として、3案のいいところを折衷して進めていくことになりました。
建築プランが決まったら、次は材木選び。京都の美山町の杉の木を使うのです。小林直人さんが丹精こめて育てた杉の木です。
そして、次には施工する工務店選び。岐阜県加子母(かしも)村を本拠とする、木造建築の技術に定評のある中島工務店を選びました。
中島工務店は山林も管理していて、その隣には「木曽ヒノキ備林」がある。伊勢神宮の式年遷宮のときに伐り出される樹齢400年の檜を育てている森だ。
内田邸をつくったのは、岩木棟梁(とうりょう)のもと、常時4人の大工がいた。
瓦は淡路島で焼かれたもの。山田修二さんの焼いた瓦。
カーテンは、テキスタイル・デザイナーの安東陽子さん。
道場の床下にはオルガヘキサを敷きつめた。備長炭の4倍の吸収力があり、水分、悪臭そして電磁波まで吸収するという。
さらに、エネファーム。家庭用燃料電池コージェネレーションシステム。都市ガスなどから燃料の水素を取り出し、空気中の酸素と反応させて発電する。その発電の際に生まれる熱で給湯もまかなう、配電ロスの少ない合理的システム。
「凱風館」は9ヶ月かけて無事に竣工。2011年11月12日のオープンハウスには、なんと400人以上が参加したのでした。
いやはや、こうやってプロの職人に建てられた家に住んでみたいものです。まあ、それは無理としても、見学くらいはしてみたいです…。
(2020年3月刊。960円+税)

やまと尼寺精進日記

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 NHK「やまと尼寺精進日記」制作班 、 出版 NHK出版
ただ今、NHKのEテレで放映中らしいですね。この本を読むまで知りませんでした。なにしろ、日頃はテレビをまったく見ないものですから…。
奈良の山深いお寺に暮らす2人の尼さん、お手伝いの女性1人の計3人。尼さんは、さすがに2人ともツルツル頭です。その笑顔の写真からは、愉快な笑い声まで聞こえてきそうなほど…。
奈良の山奥にひっそり3人の女性が住んでいるかと思うと、実は、いろんな人がこの山寺(尼寺)にやって来て、同時にいろんなものを持ち込みます。
そして、この山寺の庭や近くの山で四季折々に採れるものが、バラエティーに富んだ、美事においしい料理に生まれ変わります。
この料理の写真がまた実に素晴らしいのです。ぜひぜひ一度は味わってみたいと思わせる料理のオンパレード。こんな美味しそうな料理を自分たちでつくって食べていれば、そりゃあ自然に笑顔になるでしょうよ…と、いらぬやっかみまで生まれてきます。
住職は料理の達人。食べることへの情熱は誰よりも強く、どんな食材もおいしく調理してしまう。そばにいたら、食いっぱぐれのしようがない人。
わが家でも先月、梅の実がザル2杯分とれましたが、この山寺では採れた梅の実で、梅酒、梅味噌、梅干しの天ぷら、梅の甘露煮といろいろに味わいます。すごーい…。
秋のギンナンも、天ぷら、ギンナンご飯、かぼちゃ団子の上のアクセントに…。
冬には薪ストーブで焼くピザ。具材は、コーンに干しトマト、干しかぼちゃ、シイタケの煮物、じゃこピーマン、自家製チーズ。いやはや、なんとも美味しそうですよね…。
もう放送開始から2年になるそうですが、楽しそうな尼寺精進日記を私も近いうちに見せてもらうことにします。この本は、写真集としても人物も料理もピカピカ輝いていて、見事な出来映えです。
(2019年11月刊。1600円+税)

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