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永遠の化学物質、水のPFAS汚染

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 ジョン・ミッチェル ・ 小泉 昭夫 ・ 島袋 夏子 、 出版 岩波ブックレット
 日本にある米軍基地から有害物質PFAS(ピーファス)が大量にたれ流されています。いつものとおり日本政府は厳しく取り締まろうともしません。本当に情けない限りです。まるで植民地政府です。
 トランプ大統領は石破政権に対して、これまで以上に日本の負担を増やせと要求しています。「思いやり予算」というのは、何の法的根拠もなく、ひたすら奴隷が御主人様に差し出している大金のことです。おかげでアメリカ人(とくに軍人)はパスポートなしで自由に日本への入出国ができ、タダで優雅な邸宅に住んでいます。
 テフロン化工のフライパンがかつて大流行しました。このテフロンのもとがPFASです。
PFASは化学的に安定しているので、自然界で分解するのに数千年もかかる。まるで、放射能みたいです。この科学的安定性が危険性につながっている。
 ごくわずかな量でも、PFASは深刻な健康被害につながる恐れがある。ところが、日本では危険性の認識がゼロに近い。たしかに、私もアメリカ映画「ダーク・ウォーターズ」を観るまで、PFASの毒性を気にしたことなんてありませんでした。
 この映画では、デュポン社がテフロンの危険性を承知のうえで、もうかるからという一点で、販売規制することなく、大々的に売り出していたこと、その真実(危険性)が明らかにならないよう、あの手この手を使っていたこと、これをアメリカの企業弁護士が被害者側に立って地道な膨大な作業の末に、勝訴したという実話にもとづいています。
アメリカではデュポン社と3M。日本では、ダイキン工業と旭硝子などがPFASを製造し、使用していた(いる)。PFASは、アメリカの主要産業に莫大な利益をもたらした。
日本でPFAS汚染がもっとも深刻なのは、東京の横田米軍基地。多摩川のPFAS汚染に関連している。そして、沖縄。米軍基地から大量のPFAS汚染が広がっている。
通常のフィルターでは、PFAS汚染は取り除けない。なので、処理施設に堆積する。
アメリカでは、排水溝の汚泥を肥料として農家に販売しているため、そんなところで飼育された家畜の食肉や牛乳がPFAS汚染にさらされ、拡大している。
 そして、鳥類はテフロンの煙の影響を受けやすい。
瞬時に消火できるというPFASを含む泡消火剤を米軍基地は大々的に使ってきたし、今も使っている。2019年9月時点で、全国にPFASを含む泡消火剤が39万リットル以上あると公表されている。PFASによる発がん性、そして発達への悪影も心配されている。
 いやはや、なんということでしょうか…。アメリカ様の前では、国民の生命と健康さえも保障されていないということです。そんなの嫌です。かのトランプの奴隷になんか、絶対になりたくありません。
(2024年8月刊。680円+税)

「治安維持法100年」

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 萩野 富士夫・歴教協 、 出版 大月書店
 治安維持法が制定されたのは、今からちょうど100年前の1925年。その後、2度の改正を経て、猛威をふるった。そして、日本国内だけでなく、植民地として支配していた朝鮮と台湾にも運用された。
 日本では1945年に廃止されたが、朝鮮と台湾では戦後も長く戒厳令が敷かれたりして、人権を蹂躙する治安体制が続いた。
 1925年に制定された治安維持法は1945年に廃止されるまでの20年間、社会変革の運動や思想をおさえこみ、戦争遂行の障害とみなしたものをほぼ完璧に封殺した。
治安維持法の成立は、普通選挙法の成立と同じ時期。このことは私も知っていましたが、同時に日ソ国交の成立とも関連しているのこと、これは全く知りませんでした。ロシア革命が1917年に成功して、それからまだ8年しかたっていませんでしたから、日本の支配層が非常なる危機感をもっていたのでしょうね…。
弾圧のなかで思想転向者が多数うまれた。その方向で転向を促進するため、思想犯保護観察法が1936年に成立・施行された。
1925年に制定されたときの治安維持法はわずか7条だったのが、1941年3月、2度目の改正によって65条にまで増えた。それまで拡張解釈していたのを条文にした、つまり運用の実態を条文化した。これって、いかにも本末転倒ですよね。
1945年8月の日本敗戦後も日本政府は治安維持法を廃止など念頭になく、運用の継続を図った。驚くべきことです。そこで、GHQ(占領軍)が10月15日に「人権指令」を発して、ようやく治安維持法は廃止された。
1945年8月15日をもって直ちに収容されていた政治犯全員が釈放されたというわけではないのです。そのため、三木清などが敗戦後なのに、刑務所のなかで病死しています。本当に残念なことです。
特高警察の解体も、GHQの指令によってようやくなされたのでした。ところが、特高警察官たちは、しばらく野に伏せていただけで、やがて大手を振って表に出てきて、国政トップにまで出世していきました。ひどいものです。
朝鮮半島での治安維持法の運用は、日本以上に苛烈でした。
拷問もひどいもので、それによって得た「自白」により、死刑が科されていった。
日本では判決として死刑はなかったが、朝鮮では48人が死刑判決を受け、最終的に18人が死刑となった。
中国の「満州国」でも治安維持法と同旨の法令があった。七三一部隊の殺戮工場へ「マルタ」として送られた人々も少なくないようです。
この本には、治安維持法に抗した人々の運動が紹介されています。この人たちは、治安維持法に反対するためというより、自分たちの目ざすものを一生けん命に追い求めていたところ、官憲のほうが、それを許さず、治安維持法違反として次々に検挙していったのだと思います。京都学連事件。長野県の教員赤化事件、兵庫県の新興教育運動、唯物論研究会、北海道綴方教育連盟…。
そして、治安維持法が、今、再び生き返り、日本を戦争へもっていこうとする動きがあるという警鐘が乱打されています。この12月、長崎の人権擁護大会で、日弁連(日本弁護士連合会)は「戦争をしない、させない、長崎宣言」を採択しようとしています。
再び千雄の惨禍を受けないよう、過去の歴史に学ぶことの大切さを改めて認識させてくれる本です。ぜひ、あなたもご一読ください。ついては、昔学生の眼から見た昭和初めの時代を描く「まだ見たきものあり」(花伝社)もおすすめします。
(2025年3月刊。2200円+税)

冤罪、なぜ人は間違えるのか

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 西 愛礼 、 出版 インターナショナル新書
 元裁判官の若手弁護士による冤罪論です。
 冤罪(えんざい)って、難しいコトバですよね。手書き派の私(このコーナーの原稿も、すべて手書きです。清書・入力は秘書の仕事であり、私は、それに赤ペンで添削して完成させます)ですが、何度書いても自信がありません。か弱い兎を拘束したさまから、無実の罪を受けることを意味しているとのこと。
 冤罪被告は、この世における最大の理不尽。これは本当にそう思います。だって、自分は何もしていないのに、「お前は人を殺した。だから死刑だ」なんて言われて死刑が確定するなんて、最悪の事態です。
 「反省しろよ、少しは」
 「こんな見え透いた嘘ついて、なおまだ弁解するか。なんだ、その悪びれもしない顔は。悪いと思ってんのか」
 「ふざけるな」
 「検察なめんなよ」
 「あなたの人生を預かっているのは私なんだ」
 今は、取調状況が録音・録画されることがあります。それで明らかになった検察官の台詞(せりふ)です。恐ろしいですよね。これが一日中、しかも23日間も続いたとき、これに負けない自信のある人は、果たしてどれだけいるでしょうか…。もちろん、私も自信はありません。
 プレサンス事件では、疑われた山岸社長は保釈されるまで、なんとなんと248日間も身体拘束されていました。これはきついです。8ヶ月間も狭い部屋に閉じ込められるなんて、ぞぞっとします。こんなことを言った検察官は、職権乱用罪で裁判にかけられましたが、それも当然です。
 被疑者段階の取調状況が録音・録画されるのは、全事件の3%にとどまっている。実際、私は、まだ経験したことがありません。
人間は間違いから逃れられないし、人の心には「盲点」がある。
人間は常に予測を立てながら生活している。
 血液型と性格とは何の関係もないことが科学的に証明されているのに、多くの日本人は関係性があると信じている。
日本の犯罪事件は戦後明らかに減少しているのに、「最近はどんどん治安が悪化している」と思い込む日本人は多い。これは凶悪犯罪や異常な犯罪をマスメディアが大々的に報道するから、人々は、そのような印象をもってしまう。
 人間は、結論からエビデンスを評価してしまうこともある生き物。一つの疑惑があると、雪崩(なだれ)が起きたように他の争点に影響を与えてしまい、全体的に壊滅的な影響を与えることになる。
自分が関与したものは、自己正当化の心理から誤りを認められずに、以前の行動方針に固執してしまう傾向がある。
 正義感は不正をもたらすことがある。そして、組織もまた誤る。
人が同じ間違いを繰り返すのは、過去の失敗から学ばないから。
日本の刑事手続において、保釈されることが最近は前より断然多くなりました。でも、否認したら3分の1しか保釈されません。ええっ、3分の1も保釈されるようになったのか…、むしろ私はそう思いました。否認したら保釈されないというのが、これまでの私の「常識」だったのです。
人間は正常な判断ができない状況では、客観的にみたら自分自身にとって不利な行動もしてしまう生き物だ。
 これは、まことにそのとおりです。だからこそ、相談相手としての弁護士が必要なのです。
 冤罪なんて昔のことでしょ。そう思ったら、それは間違いなのです。ちなみに、最近、検察官のイメージが悪化したため、検察官志望は減っているとのこと。それも当然ですよね、先日の検事総長談話を見ていると、私はそう思いました。
(2024年12月刊。960円+税)

西日本鉄道殺人事件

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 西村 京太郎 、 出版 新潮文庫
 福岡から大牟田へと走る西鉄の特急電車の車内で91歳の元社長が殺された。
 ええっ、私もよく利用している特急電車のなかで殺人事件が起きて、その謎解きをしていくなんていうのが小説になるの…。
 まったく期待しないで読みはじめたのですが、意外や意外、けっこう読ませるのです。
 かつて三連覇に熱狂した西鉄ライオンズが出てきますし、ともかく鹿児島・知覧の特攻記念館と話が結びついていくのです。まあ、そうなると、ちょっと気になりますよね…。
 それにしても鹿児島へ行こうというのに、大牟田までの特急電車に乗り、大牟田駅で降りたら、かなり離れている新大牟田駅まで行って新幹線に乗るなんて、よほどのことがなければ、ありえないコース展開です。
 では、何をしに91歳の男性が知覧へ行こうとしたのか、そして、なぜ殺されなければならなかったのか…。これは、敗戦間近の知覧基地から飛び立った特攻機が関わっています。
 特攻機に乗っていたのは、学徒出陣した元学生、そして少年兵です。まったくの片道飛行ですし、もはやオンボロ飛行機しかなく、また、パイロットも訓練不足のまま、ともかく突っ込め…。日本軍は本当に生命を粗末にしていましたよね。そんな考えで戦争しても勝てるわけがありません。それじゃあ、何のため自分の生命を捨ててまで戦うか、わけが分からなくなってしまうじゃないですか…。
 特攻機は整備不良で飛べなかったり、エンジンに小石を投げ込んで不良機にしたり、整備優良機なのに、わざと不時着してみたり、いろいろあったようです。
 また、特攻兵が戦死することなく生き残って、戦後は西鉄ライオンズで活躍した人もいるようです。年代がそうなるのですね…。
 ということで、十津川警部シリーズは案外に読ませるものだから、シリーズものとして成功していることを実感しました。
(2020年1月刊。880円+税)

口笛のはなし

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 武田 裕熙 ・ 最相 葉月 、 出版 ミシマ社
 口笛の世界チャンピオンに「絶対音感」の著者がいろいろ質問している面白い本です。
 口笛も指笛も周波数が高い。指笛だと数キロ先まで音が届く。女性が口笛を吹いてはいけないというのは文化を超えて世界共通。霊や悪運を呼ぶという。
口笛のコミュニティは狭いので、口笛を吹けると、世界大会やオンラインでつながって、世界中の人とつながる。
口笛は楽器で、口笛音楽は器楽。
ビートルズのポール・マッカートニーは、楽譜の読み書きが苦手だから、作曲するときは、ジョンと口笛を吹きあったと話している。
 アメリカには職業口笛奏者を養成する学校があった。1909年に設立され、1990年代まで続いた。
ディズニー映画に口笛は欠かせない。「夕陽のガンマン」で楽曲を担当したエンニオ・モリコーネは口笛をテーマ曲に使った。
 口笛は、今も科学的には完全に解明されていない。口の中で何が起きているか見えないので、説明できない。誰もが学べる教育システムが確立していない。
声道全体が楽器と考えられている。その中を空気が通ったときに、出口のところで小さな空気の渦ができて音が出る。さまざまな周波数の音の一部が口の中の空間と共鳴して、音程をつくる。
口笛はヘルムホルツ共鳴だとされてきたが、今では間違いだとされている。口笛は非常に独特な原理で鳴っている。口笛に一番近いのはフルート。気柱共鳴の一種で音が鳴っている。
 声にはいろんな波が混ざっているが、口笛は単純、純粋な音と言える。
男性も女性も口笛に違いがない。そこは歌と違う。口笛は声帯の振動を使っていない。だから、男と女で違いがない。下とあごで音程が決まっている。
口笛は自分で音をつくる作音楽器。口笛はバイオリンやトロンボーンと同じで、機械的に音程が決まっていない。
 口笛で和音が吹ける。一人でハモれる。
 ハーモニカと同じで、吸っても音が出る。息継ぎをしないでずっと演奏が出来る、夢のような楽器。日本には全国各地に口笛教室がある。これは世界的には珍しい。
「上を向いて歩こう」の坂本九は、自分で口笛を吹いている。
 いやあ、口笛のことを初めて知りました。口笛が上手に吹ける人が、歌のほうは音痴だということもあるそうです。
 この本にはQRコードがのっていますから、聞いてみました。すごいです。読んで聞いて楽しい本でした。
(2025年2月刊。2200円)

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