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アウトロー・オーシャン(下)

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 イアン・アービナ 、 出版 白水社
「ニューヨーク・タイムズ」紙の記者が世界の海を駆けめぐって、海の「無法地帯」を暴いています。それはそれは、すさまじい犯罪のオンパレードです。
下巻でとくに印象深かったのは、豪華クルーズ船にかかわる犯罪です。
クルーズ客船稼業は、もうかるビジネスだ。なにしろ100万人をこえる乗組員が働く450隻以上もの大型客船が世界の海を駆けめぐり、年間で500万人超の客を乗せ、1170億ドルも稼ぎ出している。この産業も違法行為と無縁ではない。
クルーズ客船で起きている犯罪は、まず廃油や廃水の不法投棄。何千人もの乗客を収容する巨大クルーズ客船は小さな町の下水処理場ならキャパオーバーになりそうなほどの生活排水を海に流している。クルーズ客船は汚染物質をたっぷり含んだバンカー重油を燃料としている。この処理にはそれなりの費用がかかるので、生活排水と混ぜてたれ流している。
なにしろ、海は広大で、フツーの人には見えませんからね…・。
そして、乗客や乗組員への性的暴力。また、売春が横行している。クルーズ客船で働く100万人もの人々は、自分たちの職場は、天国と地獄とが共存する世界だと知っている。
次は、漁船における、すさまじい奴隷労働。タイの漁船で船員として働いているのは、不法就労者か、人身売買の結果としての奴隷労働。
タイの巻き網漁船の中の寝室にハンモックがある。床にはネズミがうじゃうじゃいるからだ。
タイの港の近くにあるカラオケバー兼売春宿の写真があります。人買いたちは、こんな店を経営し、国外からの出稼ぎ労働者に眼をつけて漁船で働かせる。売春させられる女たちも、漁船で働かされる男たちも、どちらも借金でしばりつけられる。
大半は人身売買で国外から連れてこられた女たちは、やはり人買いに連れて店にやってきた男たちに性サービスを提供して罠(わな)にかけ、最終的に漁船送りにする道具として使われている。
「海の奴隷」(強制労働)は、海に長期間とどまる漁船ほど、より顕著に見られる。
今のやり方で漁業を続けていれば、水産資源は遠からず枯渇してしまうだろう。海洋科学者たちは口をそろえて訴えている。
減量産業。年間2500万トンもの天然魚を魚油やサプリメントそして家畜用肥料の魚粉に加工している巨大産業。このサプリメントは健康にいいとされているが、実際には、それほどの効果が認められていない。しかし、依然として大人気だ。
海は広大だ。広大なため、違法操業船は、やすやすと政府が設定した漁獲割当量をごまかしたり、操業禁止区海域に侵入したり、海洋保護区の魚介類を略奪できる。
アメリカに輸入される天然魚介類のうち、違法操業でとられたものが20%をこえている。
日本のクジラとり大型漁船とシーシェパードのたたかいも紹介されていて、公海での違法操業は日本人とも密接な関わりのある問題だと痛感させられました。
(2021年7月刊。税込2640円)

昆虫学者の目のツケドコロ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 井出 竜也 、 出版 ベレ出版
昆虫学者って、昆虫との一期一会(いちごいちえ)の出会いを大切にしている人のこと。
ふーん、そうなんですね…。
空をヒラヒラと舞うように飛ぶチョウは幼虫のころはイモムシ。それが5回も脱皮して、さなぎとなったあと、空に飛び出すのですから、本当に不思議です。
完全変態のチョウは、イモムシ時代と生活スタイルがまるで違っている。口の形まで変化している。イモムシの口は鋭い歯のある一対のあごがついている。葉っぱを上手にかじりとるため。このイモムシは、どんな植物の上にでもいるというのではない。ナミアゲハのメスは、生まれてくる子ども(イモムシ)が困らないように、卵を産みつけるミカンの木を探し出している。
では、どうやって探すのか。眼なのか、鼻なのか…。ナミアゲハは色を見分けられる。しかし、決め手は舌。味が決め手だ。
植物を食べる昆虫の多くは、単色性や狭食性。植物なら何でも、どんなものでも…というのではない。そして、食べる植物の部位まで限定されている。
100万種いる昆虫の半数以上は、植物を食べている。なので、昆虫を知るためには、まず植物を知る必要がある。
ナナホシテントウやナミテントウは肉食性。カイガラムシなどの害虫を食べるので、畑づくりの頼れる味方だ。うどん粉病をひきおこすカビを食べるキイロテントウもいる。
アリは世界に1万種以上、日本には280種以上が生息している。アリはハチの仲間で、シロアリはゴキブリに近い。アリは基本的に肉食性。アリ植物というのは、自分の体内にアリが居住できる空間を用意し、アリを住まわせている。
ハチは15万種ほどもいて、その半数以上は寄生バチ。多くの寄生者にとって、寄生相手を見つけだす重要な手がかりとなるのは香りだ。
ノミは、れっきとした昆虫。ノミの足は6本、ダニは足が8本(ただし、幼虫は6本)。世界には1800種のノミがいる。シラミも昆虫だ。
日本のホタルでも、西日本と東日本では光る間隔が違っているし、遺伝子レベルでも違いが分かる。同じゲンジボタルであっても、性質が異なるし、外来昆虫を持ち込んだのと同じ。いろいろ混ぜこぜしてはいけないということなんですね。
昆虫の写真がたくさんあって、昔の昆虫少年にとって、とても楽しい本でした。
(2020年5月刊。税込2090円)

光源氏に迫る

カテゴリー:日本史(平安)

(霧山昴)
著者 宇治市源氏物語ミュージアム 、 出版 吉川弘文館
源氏物語って、日本中世の貴族社会における不倫のあれこれを描いただけなんじゃないの…、そんな妄想を、つい抱いてしまいます。でも、この本を読むと、平安貴族社会の実情をかなり反映していることがよく分かります。単なる貴族の不倫話ではありません。
まず、天皇の生母です。ときの天皇を産んだ母親ですから、たちまち「国母」となります。この国母はどれだけの力をもっていたのか…。国母となった母親は、内裏(だいり)で、天皇と同居していました。同居していたら、実母が息子に強い影響力を有するのは必然です。藤原道長の子である彰子は、後一条天皇と内裏で同居していて、天皇の後宮に主導権を握っていた。摂関期の国母は、我が子の天皇と同居していて、天皇を日常的・直接的に後見し、国政の運営に深く関与していた。
次に、頭中将(とうのちゅうじょう)。これは、蔵人頭(くろうどのとう)と、近衛中将(このえちゅうじょう)である。ともに四位の貴族が補任された職。もちろん、頭中将はエリート貴族。
頭中将は、主に天皇の随従の補佐をする。常に天皇のそばにいて、ボディガードの長であるとともに、秘書官長でもあった。頭中将は、蔵人頭としては蔵人所という組織の事実上のリーダーであり、近衛中将としては天皇に随従して補佐する役目を担っていた。
内裏(だいり)のなかでは、服装について、多くの制限があった。着るものの色には、厳格な決まりがあった。四位以下は黒。五位は「深緋(ふかひ)」といったように…。
蔵人頭には、禁色が許されていた。蔵人頭となった人は、ほとんど毎日、内裏に出仕していた。
奈良・平安時代の官人たちは、夜が明けて少したってから仕事を始め、昼ころには仕事を終えるのはフツーだった。これに対して、紫式部が生きた時代は、貴族や女房は、夜型の生活をしていた。朝に行われていた朝廷の政務、儀式も昼過ぎ、夕方に始まり、公事の夜儀化にともない、貴族や女房の生活リズムも朝方から夜型に変わって、そのなかで『源氏物語』は生まれた。
藤原道長は、自邸の造営を一間ずつ受領に割りあてていた。道長は、私邸を天皇の内裏のように造営した。
『源氏物語』の世界を実際に即して再現、考えた本として、大変勉強になりました。
(2021年7月刊。税込2420円)

文体の舵をとれ

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 アーシュラ・K・ルグウィン 、 出版 フィルムアート社
小説教室というのですから、モノカキを自称する私はすぐに飛びつきました。
なんと、この本の初版は1998年。そして、徹底的に書き直されているそうです。著者は3年前(2018年)に亡くなっています。
ともかく、まずは書いてみる。そして、1日か2日あけて、読み返す。すると、欠点と長所が見えてくる。
この本は、コトバのひびき、リズムを大切にすることを強調しています。なるほど、と思いました。
いい書き手は、いい読み手と同じく、心の耳をもっている。書き手は、ぜひ楽しく書いてほしい。遊ぶのだ。自分の書いた文章のひびきやリズムに耳を澄ませて、おもちゃの笛をもった子どものように戯(たわむ)れてみよう。自作は声に出して読んでみよう。
構文も簡単な短文ばかりで構成された文体は、単調でぶつ切れなので、いらいらさせる。
短文ばかりの文体のときには、会話のとき以上に、考えたうえで文章をつづる。
文体とは、つまりは、すべてリズム。アクションとプロセット(筋書き)しかない物語は、とてもお粗末な代物(しろもの)だ。プロットは、複数の出来事をふつう偶然という鎖でつなげて物語を紡(つむ)いでいく、ただの一手法にすぎない。
いつも似たような人ばかり書いてしまうときには、まったく別種の人物について書いてみるのが良い。ときに飛躍するのも大事だ。
神は細部に宿るというが、悪魔が細部に宿ることもある。詰め込みすぎの描写は、物語を行き詰まらせ、自分の首を絞めてしまう。いったん書いた文章を書き直すとき、出だしが削れるなら、削ったほうがいい。冗漫なところをすっきりさせると、かたちができあがっていく。
本の合評会に著者が参加するときは、沈黙するのが肝心。前もって説明や言い訳するのは、なし。そして、参加者のコメントとメモする。弁解はしない。最後にきちんとお礼を述べるのを忘れないこと。
自称モノカキの私にとっても実践的に大変役立つ本でした。
コロナ禍のせいか、相談も受任も減りましたので、事務所内の待ち時間で読みはじめました。私の読んでいない本、読めそうもない原書などがたくさん出てきています。
(2021年8月刊。税込2200円)

檻の中の裁判官

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 瀬木 比呂志 、 出版 角川新書
私より6歳ほど年下の著者の本は何冊も読んでいますが、巻末の著者紹介によると、私の読んでいない本が何冊もあることを知りました。この本は本年6月に続いて2回目の紹介になります。2度も読んだのです。
著者は裁判官として33年間を過ごし、そのあいだに最高裁事務総局にもいましたので、最高裁による裁判官の人事統制の実情については、内側から知る立場にもいたことになり、説得力があります。私は、著者の指摘は、おおよそあたっていると考えていますが、何かしらの違和感が絶えずつきまとっているのも事実です。そこの感覚を自分でも文字化できないところにもどかしさを感じています。
それまで比較的良心的でいい裁判官だった人が、所長になったら豹変(ひょうへん)することが、時にある。福岡では、あまりそれを感じたことはありません。おしなべて福岡地裁の所長には、いわゆる人格者が就任しているからです。
「お殿様的な高裁の裁判長」というのは、もうそれ以上「上」にはいかず、転勤もないので、「心穏やかに安心していられる地位にある」。定年間際の高裁の裁判長が世間的にあっと驚かす判決を書くことがあります。いいことなんですが、なんで、もっと早く、それを実行してくれなかったのか…という思いが、いつもあります。これは、ないものねだりなのかもしれませんが…。そして、良い判決が出ると、うれしくなります。
近年の裁判官の不祥事で目立っているのは、性的非行関係だという指摘には、まったく驚いてしまいました。ええっ、そ、そうなの…、という統計です。これには著者も大きなショックを受けたとのこと。そりゃあ、そうですよね。
裁判官会議は、実際上、完全なセレモニーと化している。もし、何か意見でも言おうものなら、所長から目のかたきにされ、評価に影響し、集団の中で孤立しかねない。むむむ…、本当に、そうなんでしょうか。まあ、そうなんでしょうね…。
東京地裁の所長代行は選挙で選んでいたそうです(今も、でしょうか…?)。このとき、誰に投票するか上から指定される完全な八百長選挙だった。こんなことが、本当に今も続いているのでしょうか…、ぜひ、教えてください。
裁判官だって、「人の子」だという心理が説明されています。たとえば、自分より優れているとは思えない後輩たちに先を越された時の裁判官たちの嘆き…。やっぱり認められたいよね、ちゃんと処遇してもらいたいよね、という当然の声が上がっている。当然ですね…。
この本を読んで、「怖さ」を感じたのは次の文章です。いえ、これは著者に対する「怖さ」では決してありません。そうではなくて、システム化されていることの恐ろしさを感じた、ということです。
「報復は必ず行われるが、いつ、どのようにして行われるのかはまったく分からない」というシステム(ルール)だ。このシステムは、人を極端に委縮させる。
この本で知って、問題だと思ったことは、最高裁判事のあと、原発裁判をかかえている東芝や東京電力に就職した人がいるというのです。これって、いやですよね。もう、そんなにお金は必要ないはずなのに、まだお金に執着する人がいるんですね…。嫌です、いやです、いったい誰なんでしょうか…。
東京地裁の労働部の裁判官に求められるものは、能力でも識見でもなく、法廷での精神的にまいってしまわないこと。な、なーるほど、ですね…。
多くの場合、きわめて保守的で、訴訟指揮も厳しい裁判官が部長になるが、たまに苦労人で話のわかる、かつ打たれ強い人を部長にする。権力というのは、それほどしたたかなものだ。この指摘は、きっとそうなんだろうなと納得しました。
みずからの良心を貫く判決の書ける裁判官がどれだけいるかという問いに対して、5~10%という答えがかえってきたとあります。これは、実は私の実感にもあっています。本当に、ときとしてそんな裁判官にあたることがあり、そのときには、裁判官も、まだまだ捨てたものではないなと思い直して弁護士を続けています。
弁護士任官がうまくいってないのを、著者は、最高裁の外向けのポーズに弁護士会がいちおう協力している傾向が強いと指摘しています。この点にはその手続に長く関わってきた一人として異議があります。弁護士会の責任を論する前に、裁判所は、自分の風土にあわないと思った弁護士が参入しようとするのと、それを全力で阻止してきたし、阻止しているのが現実なのです。だから、裁判官改革がまだまだ不十分だというのは私も同感なのですが、著者は、その点の十分な事実認識がないように思われます。でも、大変勉強になる本でした。
(2021年3月刊。税込1034円)

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