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世界一孤独な日本のオジサン

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 岡本 純子 、 出版 角川新書
日本は高齢者が世界一不幸な国だ。多くの国で、人の幸福度は50代で底を打ち、また上がっていく傾向を示している。ところが、先進国の中で、日本だけ右肩下がりに落ち続け、年をとればとるほど不幸に感じる人が増えていく。物質的に恵まれているはずの日本では、絶望的なほどの「不幸感」で覆いつくされている。
福岡の若者が大勢の人を殺して死刑になろうと思って上京し、電車の中で火をつけ、刃物を振りまわす事件を起こしたと思ったら、69歳の男性がそれを真似て九州新幹線の中で火をつけた事件が起きました。この日本社会に満たされない思いをかかえている中高年が多いことを象徴している事件です。
企業の相談窓口に不当なクレームをつける人(クレーマー)は、自らが品質管理・保証を専門にして、クレーム処理をやってきた中高年が多いとのこと。いやはや、なんということでしょう。
生活保護を受ける人を馬鹿にして切り捨てる発言を繰り返した維新の会の議員がいましたが、維新のコアな支持者は、タワマンに住むような、自らの努力だけで成功したと思っている「高収入・男性・管理職」に多いという分析があります。弱者切り捨てをあおりたてて面白がっている人は、いずれ年齢(とし)をとって身体が動かなくなって自分も弱者になるということを想像することができません。いつまでも、他人(ひと)に頼らず生きていけるという幻想に浸って日々を過ごしているのです。そんな人だって、退職して会社を離れたら、客観的には、たちまちみじめな境遇に陥ってしまうでしょう。仕事を失うと同時に生きがいを失い、そして、頼るべき友人がほとんどいない状況に置かれるのです。それで、クレーマー化し、またネットで炎上に参入して騒ぎたてるしか能がないことになります。哀れです。
日本を代表する証券会社でバリバリやっていた社員が退職して仕事をしなくなると、65%は70歳に届かないうちに亡くなっている。
都会の孤独は実に残酷。閉め切ってしまうと、何の音もしない。今や、高級マンションでの孤独死も少なくないというのが日本の現実。
孤独は、ありとあらゆる病気を引き起こす可能性のあるもっとも危険なリスクファクター。この孤独の犠牲者になりやすいのが、中高年の男性。
孤独のリスクは、①1日にたばこ15本を吸うことに匹敵する、②アルコール依存症であることに匹敵する、③運動をしないことよりも高い、④肥満より2倍も高い。
社会的なつながりを持つ人は、持たない人に比べて、早期死亡リスクが50%低下する。
多くの日本人男性にとって、職場を失うということは、人の根源的要求である、人として認められたい、必要とされたいという承認欲求を満たす場がなくなるとを意味する。
定年を迎えたら、プライドと驕(おご)り、そして肩書きを徹底的に捨てる必要がある。しかし、これはきわめて難しい。
競争心が強く、バリバリと仕事をして、出世していく「オレ様系」オジサンは、他人の話をあまり聞かない。話が長く、対話のない一方的な話をする。
女性は1日平均2万語を話すのに、男性は7000語しか話さない。女性は男性の3倍しゃべっている。
弁護士は定年がありませんので、いつまでも仕事ができるのは大変な長所です。しかし、仕事だけでない趣味をもって、人とのつながりをもつ必要があるわけですが、それには意識的、自覚的な努力が強く求められているということです。これって、言うのは簡単ですが、実行するのはなかなか難しいことですよね…。
(2021年4月刊。税込902円)

シャムのサムライ

カテゴリー:アジア

(霧山昴)
著者 幡 大介 、 出版 実業之日本社
昔、シャムと呼ばれていたタイ王国に日本人町があり、山田長政という元武士が活躍していたことは知っていました。でも、実際に、どんなことをしていたのかは、まったく知りませんでした。この本は小説ではありますが、巻末のたくさんの参考文献もふまえていますので、史実とかけ離れたものではないだろうと受けとめました。
要するに、この戦国時代の末から江戸時代の初めにかけて、日本人がシャムを含む東南アジアに大量に渡って生活していたのです。それは豊臣方の敗戦将兵であり、また海外でひともうけしようという商人であり、さらには敗戦で捕虜となって奴隷として海外へ売られていった日本人元将兵までいたのでした。
山田長政は、もとはと言えば武士というより駕籠(かご)かき。徳川方の武将である大久保忠佐に仕える駕籠かきでしかなかった。しかし、20歳と若く、体格が優れているので、旗本と名乗っても立派に通用する。
そのシャム王国に渡った山田長政の大活躍していく様子が見事に活写されていて、600頁もの大作を日曜日ごとのランチタイムに読みふけりました。まさしく至福のひとときではありました。
それにいてもタイ(シャム)王国は、仏教徒の国、微笑の国とは言いつつも、その内実はよその国と変わらず、ドロドロとした権力闘争がくり広げられる国(王朝)なのでした。国王と、その取り巻きに逆らうと、命の保障はありません。
王族の処刑は胸を木で打ち叩き、心臓を圧迫すること。また、土中に穴を掘って投げ込んで餓死させるという方法もあります。仏教国なので、簡単に打ち首にするわけにはいかないのです。
シャム王国には、ポルトガル兵が大量に雇われていて宮殿を守っていた。日本人町もあり、日本人も外人部隊として活躍していた。戦国時代に豊富な戦争体験をしてきた日本人元兵士たちは、生命知らずの戦闘員として高く評価されていたのです。さらに、日本人商人も中国人商人やスペイン・ポルトガル商人たちとはりあっていました。
日本人町は、徳川政府との結びつきをもとうとしていました。山田長政も出世していくなかで、徳川幕府の支配層に知己を得たようです。
江戸時代の初めって、意外にも徳川幕府は海外と積極的に交流していたのですね…。
この本によると、シャム王国は仏教とヒンドゥー教を国教としている。大切な儀式は、すべてヒンドゥー教の思想にのっとって、バラモン僧の指導によって行われた。シャムは造船業も盛んだった。船大工の技量も高い。中国(明)の商人も、日本の朱印船貿易商も、きそってシャムに船を発注していた。うひゃあ、そうだったんですか…。
シャム王国の首都のアユタヤの日本人町には、2種類の日本人がいる。商人と牢人。牢人とは元武士。関ヶ原の合戦で敗れて逃げてきた、キリシタン牢人だった。羽振りは商人たちのほうが圧倒的に良い。
シャムから日本へ輸出するものとして鹿皮があった。鹿皮は、当時の日本人の必需品。馬に乗り野山を行く武士は脚に行縢(むかばき)を巻く。これは鹿の皮。そして、鎧(よろい)の装甲板をつなぐ。縅糸(おどしいと)としても鹿皮は使われた。もっとも必要とされたのは、足袋の材料。とても丈夫で、2年はもつ。ところが洗濯が難しい。1613年、日本の朱印船は4隻で15万枚の鹿皮をシャムから日本に運んだという記録がある。
このころ、中国(明)では銅資源が枯渇していた。銅銭がつくれないのでは、国際通貨になれない。そのとき、日本が金と銀を豊富に産出していたことから、日本がアジアの国際通貨の供給源になろうとしていた。
シャムは隣国カンボジアとも戦った。カンボジア軍の有力な部隊は、なんと日本人元兵士たちだった…。そうすると、敵と味方の双方に日本人義勇兵の一団がいる。この連中を殺してもいいものか、一晩悩み、迷うことになる。
タイには、今も山田長政を記念する碑があり、日本人を祖先とする人々が存在するといいます。それにしても外人部隊というのは、危急時には役立ちますが、平時には無用どころか、危険な存在なのですね。よく出来たストーリー展開の本で、最後まで息もつかせぬ面白さでした。
(2021年5月刊。税込2640円)

原子力村中枢部での体験から

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 北村 俊郎 、 出版 かもがわ出版
この本のタイトルは、正しくは「原子力村中枢部での体験から10年の葛藤で掴んだ事故原因」です。著者は1949年生まれで、慶応大学経済学部を卒業して日本原子力発電に入社し、現場勤務そして、管理業務に従事した。そして、20年前に福島県の浜通りに終(つい)の棲家(すみか)をもった。3.11のあと、富岡町の自宅は今も避難解除されていないので、県内で避難生活している。
著者は安全神話に埋没していたわけではないが、やはり甘かった。組織内から、もっと切迫感のある警報を鳴らすべきだったと悔やんでいます。
国も東京電力も、3.11事故前に、海外の原発での全交流電源喪失の事例を知っていたし、大津波に襲われたときには重要設備が水没することも認識していた。
しかし、東京電力の経営陣は、現実性をもって感じられない大津波の襲来よりも、直面している経営士の問題を解決するほうが大切だと判断した。これは今考えると、まったく合理的ではなかった。
3.11事故より前10年間、日本の原発は、欧米そして韓国などトップクラス国の原発と比較して稼働率で10から20ポイントも水を開けられていた。これに追いつくことが関係者共通の悲願だった。
形式主義は、常に原子力の安全を脅かした。たとえば、日本人は、実際安全より心の平和・安心を求める傾向がある。その一例が、原発を見学する人に日本ではヘルメットを着用させる。ヨーロッパでは意味がないので、ヘルメットの着用はさせない。
原発推進派は、反対派と議論するのはムダで、相手にしないという態度をとった。
原発反対派が裁判にかけると、国と推進派は、追加の安全対策を言い出せない。「安全神話のワナ」に陥った。
東京電力の社員は、自分たちの仕事は管理業務だという意識が強い。実際の仕事は、請負先、委託先がするもの。なので、余計なことは言わないのが、自分の身のため。
電力会社が追加の安全対策をするのは、訴訟において後ろから鉄砲をうたれるようなこと。電力会社は裁判の被告に立たされ、現在の原発の安全性に不十分なところがあるとは、言えない状況に追い込まれた。
これは原発差止裁判に対する批判のような記述ですが、だからといって裁判の提起・追行が間違いだなんいうこととは言ってほしくありません。
ともかく、原発以外のエネルギーに一刻も早く日本も乗り換えるべきなのです。原子力は、人類のコントロールできないものだということが3.11によってはっきりしたのですから…。
(2021年9月刊。税込1980円)

アウトロー・オーシャン(下)

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 イアン・アービナ 、 出版 白水社
「ニューヨーク・タイムズ」紙の記者が世界の海を駆けめぐって、海の「無法地帯」を暴いています。それはそれは、すさまじい犯罪のオンパレードです。
下巻でとくに印象深かったのは、豪華クルーズ船にかかわる犯罪です。
クルーズ客船稼業は、もうかるビジネスだ。なにしろ100万人をこえる乗組員が働く450隻以上もの大型客船が世界の海を駆けめぐり、年間で500万人超の客を乗せ、1170億ドルも稼ぎ出している。この産業も違法行為と無縁ではない。
クルーズ客船で起きている犯罪は、まず廃油や廃水の不法投棄。何千人もの乗客を収容する巨大クルーズ客船は小さな町の下水処理場ならキャパオーバーになりそうなほどの生活排水を海に流している。クルーズ客船は汚染物質をたっぷり含んだバンカー重油を燃料としている。この処理にはそれなりの費用がかかるので、生活排水と混ぜてたれ流している。
なにしろ、海は広大で、フツーの人には見えませんからね…・。
そして、乗客や乗組員への性的暴力。また、売春が横行している。クルーズ客船で働く100万人もの人々は、自分たちの職場は、天国と地獄とが共存する世界だと知っている。
次は、漁船における、すさまじい奴隷労働。タイの漁船で船員として働いているのは、不法就労者か、人身売買の結果としての奴隷労働。
タイの巻き網漁船の中の寝室にハンモックがある。床にはネズミがうじゃうじゃいるからだ。
タイの港の近くにあるカラオケバー兼売春宿の写真があります。人買いたちは、こんな店を経営し、国外からの出稼ぎ労働者に眼をつけて漁船で働かせる。売春させられる女たちも、漁船で働かされる男たちも、どちらも借金でしばりつけられる。
大半は人身売買で国外から連れてこられた女たちは、やはり人買いに連れて店にやってきた男たちに性サービスを提供して罠(わな)にかけ、最終的に漁船送りにする道具として使われている。
「海の奴隷」(強制労働)は、海に長期間とどまる漁船ほど、より顕著に見られる。
今のやり方で漁業を続けていれば、水産資源は遠からず枯渇してしまうだろう。海洋科学者たちは口をそろえて訴えている。
減量産業。年間2500万トンもの天然魚を魚油やサプリメントそして家畜用肥料の魚粉に加工している巨大産業。このサプリメントは健康にいいとされているが、実際には、それほどの効果が認められていない。しかし、依然として大人気だ。
海は広大だ。広大なため、違法操業船は、やすやすと政府が設定した漁獲割当量をごまかしたり、操業禁止区海域に侵入したり、海洋保護区の魚介類を略奪できる。
アメリカに輸入される天然魚介類のうち、違法操業でとられたものが20%をこえている。
日本のクジラとり大型漁船とシーシェパードのたたかいも紹介されていて、公海での違法操業は日本人とも密接な関わりのある問題だと痛感させられました。
(2021年7月刊。税込2640円)

昆虫学者の目のツケドコロ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 井出 竜也 、 出版 ベレ出版
昆虫学者って、昆虫との一期一会(いちごいちえ)の出会いを大切にしている人のこと。
ふーん、そうなんですね…。
空をヒラヒラと舞うように飛ぶチョウは幼虫のころはイモムシ。それが5回も脱皮して、さなぎとなったあと、空に飛び出すのですから、本当に不思議です。
完全変態のチョウは、イモムシ時代と生活スタイルがまるで違っている。口の形まで変化している。イモムシの口は鋭い歯のある一対のあごがついている。葉っぱを上手にかじりとるため。このイモムシは、どんな植物の上にでもいるというのではない。ナミアゲハのメスは、生まれてくる子ども(イモムシ)が困らないように、卵を産みつけるミカンの木を探し出している。
では、どうやって探すのか。眼なのか、鼻なのか…。ナミアゲハは色を見分けられる。しかし、決め手は舌。味が決め手だ。
植物を食べる昆虫の多くは、単色性や狭食性。植物なら何でも、どんなものでも…というのではない。そして、食べる植物の部位まで限定されている。
100万種いる昆虫の半数以上は、植物を食べている。なので、昆虫を知るためには、まず植物を知る必要がある。
ナナホシテントウやナミテントウは肉食性。カイガラムシなどの害虫を食べるので、畑づくりの頼れる味方だ。うどん粉病をひきおこすカビを食べるキイロテントウもいる。
アリは世界に1万種以上、日本には280種以上が生息している。アリはハチの仲間で、シロアリはゴキブリに近い。アリは基本的に肉食性。アリ植物というのは、自分の体内にアリが居住できる空間を用意し、アリを住まわせている。
ハチは15万種ほどもいて、その半数以上は寄生バチ。多くの寄生者にとって、寄生相手を見つけだす重要な手がかりとなるのは香りだ。
ノミは、れっきとした昆虫。ノミの足は6本、ダニは足が8本(ただし、幼虫は6本)。世界には1800種のノミがいる。シラミも昆虫だ。
日本のホタルでも、西日本と東日本では光る間隔が違っているし、遺伝子レベルでも違いが分かる。同じゲンジボタルであっても、性質が異なるし、外来昆虫を持ち込んだのと同じ。いろいろ混ぜこぜしてはいけないということなんですね。
昆虫の写真がたくさんあって、昔の昆虫少年にとって、とても楽しい本でした。
(2020年5月刊。税込2090円)

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