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寅さんの「日本」を歩く

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 岡村 直樹 、 出版 天夢人
 私の周囲にいる若い人たちの中に映画「男はつらいよ」をみたことのない人が多いので、驚くと同時に悲しいです。
 私は大学生のころから映画をみはじめ、司法試験受験勉強では、「寅さん」映画の笑いに救われていました。弁護士になり、子どもたちが少し大きくなってからは、家族みんなで見に行くのが楽しみでした。
 そんな「寅さん」役の渥美清が亡くなったのは1996年8月4日。68歳でした。もう26年も前のことなんですね。でも、映画「お帰り、寅さん」は2019年12月に公開でした。すごいことですよね、主人公はとっくに亡くなって新しい演技はないのに、ついそこにいるかのようにして、映画をつくりあげるのですからね。まことに山田洋次監督の天才的な技(わざ)には心から感服します。
 そして、50作も続いたギネスブック級のシリーズものをよく見ると、日本社会の移り変わりがよくよく見えてくるのですよね。その一つの例が、列車です。
 いま、国鉄が分割民営化されてJRとなり、地方の不採算線が次々に廃止されて、地元の人々が困っています。大都会のもうけを地方の不採算線にまわして何が悪いのでしょうか…。なんでも効率至上主義が日本を住みにくくしてしまっています。
 そして、寅さんも若いし、女優さんたちもピチピチ輝いていますよね。ああ、もう一度、こんな若いころに戻りたい。そんな白昼夢にふけることもできるのが「寅さん」の映画です。
 日本全国のちょっとひなびた観光地が次々に登場しているのも魅力です。そして、それが今と違って、本当にうるおいの感じられる風景なんです…。よく出来た、カラー写真が満載の「寅さん」本です。
(2022年6月刊。税込1980円)

検察審査会

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 デイビッド・T・ジョンソン ・ 平山 真理 ・ 福来 寛 、 出版 岩波新書
 日本の検察審査会は世界でも類を見ない独特な機関である。GHQが提案した検察官公選制に対して日本政府が強く抵抗し、「半年のあいだ、もみにもんで文字どおりでっち上げてつくった」のが検察審査会だった。GHQは、日本側の強い反対にあって、アメリカ式の大陪審ではなく、この検察審査会制度に同意せざるをえなかった。
 この記述を読んで、GHQより当時の日本政府、つまり法務省側が強かったかのような評価には強い違和感がありました。いったい、どういうことでしょうか…。
 今では、アメリカの大陪審は、市民と政府の間の盾(たて)というよりも、検察官が刑事訴追を正当化するための道具となってしまった。アメリカでは検察官が大陪審のすべての手続をコントロールしている。大陪審の審理には、裁判官も弁護人も出席できない。大陪審は国の権力機関の一部と言われている。
 大陪審は国家の訴追権限を抑制するために設計されたもの。検察審査会は、より多くの刑事訴追を生み出すために設計された。ここに、もっとも基本的な違いがある。
 検察審査会は全国165ヶ所にある。地方裁判所と主な支部に設置されている。管内の選挙人名簿から無作為に選ばれた11人で構成され、任期は6ヶ月。半数が3ヶ月毎に入れ替わる。
 2000年代に入ってから、年間平均40件を審査しているが、これは、その前の12年間に比べると3分の1に減少している。
検察審査会は検察官の不起訴処分を審査し、その不起訴が相当なのか、起訴すべきだったのか(起訴相当)を判断し、意見を述べる。起訴を促すことを「検察バック」と呼び、検察は4分の1の割合で起訴に変更する。
 しかも、検察審査会は検察官の不起訴が不当であり、起訴すべきだと2回も判断したときには、強制的に起訴するよう改められた(2009年に施行)。ただし、その結果、過去に12年間で強制起訴されたのは、わずか10件であり、そのほとんどが無罪となった。しかしながら、無罪判決が出たからといって、検察審査会による起訴すべきだという判断が間違っていたことにはならない。
 検察審査会制度は、刑罰を決定するにあたって、市民の選択は、どのような役割を果たすべきなのかという問いかけでもある。なーるほど、そういうことでもあるのですね…。
 実は、私も検察審査会の審査補助員として登録しているのですが、残念なことにお呼びがかかりません。でも、東電トップの刑事責任を問う裁判は、結論として無罪にはなりましたが、民事裁判で13兆円の賠償が命じられた判決につながったと考えていますので、決してムダだったとは思えません。大変勉強になる本でした。
(2022年4月刊。税込946円)

世界パンデミックの記録

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 マリエル・ウード 、 出版 西村書店
 AFP通信(世界三大通信社)が変わりゆく世界をとらえた500点の写真がオールカラー愛蔵版として一冊にまとめられました。貴重な記録写真になっています。
 今、日本はコロナ禍第七波の猛威の下にあります。でも、政府は人々に対して何ら行動制限をしていません。病院はパンク状態になっているというのに、医療面でも何ら特別の手だてを講じていません。政府が今やっているのは、コロナ陽性患者の統計をとらないようにしようということ、そして、GoToトラベルの再開を延期したことくらいです。
 アベノマスクに始まった自公政権の無為・無策はひどすぎます。それでいて、「国土」防衛のための軍事予算は青天井で倍増するというのですから、呆れはてて、怒りの声も出なくなってしまいます。
 世界中、コロナ禍は至るところで無数の死者をうみ出しました。そして、死者との別れさえ困難にしてしまったのです。
ブラジルでは、霊柩車が墓地で渋滞し、墓地はあっというまに満杯になっていく。中国では、たちまちのうちに野戦病院がつくられた。 そして都市が封鎖され、町はすぐにゴーストタウンと化した。 完全防護服に身に固めた人々が町を消毒していく。ソーシャルディスタンスが常識となった。
そして、医療従事者はエッセンシャル・ワーカーとして社会から感謝される存在。しかし、過労のため、医師や看護師のなかにだって倒れる人が相次いだ。
いったい、いつになったら、このコロナ禍は終息するのでしょうか…。
身近な人々が次々に陽性となり、また濃厚接触となって、仕事を休み、自宅に閉じこもる。いやあ、本当に大変な世の中です。ロシアのウクライナへの侵略戦争と同じで、まったく明るい見通しをもてないというのは本当に辛いです。
  (2022年3月刊。税込3850円)

リセットを押せ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ジェイソン・シュライアー 、 出版 グローバリゼーションデザイン研究所
 ニューヨークタイムズがアメリカのベストセラーとして紹介したゲーム業界の栄枯盛衰の話です。私は今なおスマホは持たずガラケー、メールは見るだけで自ら発信することもない、もちろん、ゲームなんて、かのインベーダーゲーム以来、とんととんと無縁に生きてきました。
 ゲームの面白さを知らずして人生を語るな。こう言われてしまいそうですが、私に言わせてもらえば、他人(ひと)の手の平(ひら)の上で踊って(踊らされて)何が面白いの…、ということです。それでも、かくもたくさんの人々を惹きつけてやまないゲーム業界とはいったいどんな状況なのかは知りたいのです。なので、ざっとざっと読んでみました。
 ゲーム業界とは、どんなところなのか…。この業界で一番嫌いなところは、開発者たちの生き血をすすり、骨までしゃぶってから捨てる。
 ビデオゲーム業界に安定という言葉はない。確実なものは何もないのだ。ビデオゲーム業界で30年以上も働いたという人は、あまり多くない。
 ビデオゲーム業界で働いていて、一番辛(つら)いのは、友人ができても突然引き裂かれる可能性があること。
 ビデオゲームは楽しんでもらえることを目指して作られる。ところが、実際は、企業の冷酷な論理の下で製作されている。
 ビデオゲーム制作会社の社員たちは、自分の時間も家族との時間もあきらめて完成にまでこぎ着ける。その犠牲の代償が失業、だとしたら、あまりにも不条理なのではないか…。
 いやあ、ホント、本当ですよね。
 ビデオゲーム制作会社での不安定な労働環境はあたり前になっている。従業員は、5年間にフルタイム勤務で2.2社、フリーランスで3.6社つとめている。それほど雇用の不安定は際立っている。しかも、収入は良くても、燃え尽きてしまう。アパートの1室で1日16時間も働くという生活は、明らかに持続不可能だ。ときには休息が必要なのだ。
 年収10万ドルの高給取りでさえ、物価の高いサンフランシスコでは生活に苦労する。悪くない収入を得ていても、裕福というほどではなく、生きるのに精一杯というのが実際だ。
 ビデオゲームの開発は、2つの段階に分けられる。ゲームを設計するプリプロダクションと、実際に制作するプロダクションだ。ただし、2つのあいだに明確な境界線はない。時間と予算に応じて、短くなったり、長くなったりする。
 たかがビデオゲームをつくるのに、何日間も徹夜するなんて、まったく信じられません…。
 若さにかまけて、そんなことしていたら、年齢(とし)をとって、身体中が内臓をふくめてガタガタ、病気もちの身になってしまいますよ。気をつけてください。
(2022年6月刊。税込2420円)

七三一部隊と大学

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 吉中 丈志 、 出版 京都大学学術出版会
 七三一部隊を支えていたのは京大そして東大医学部の教授たち。彼らのほとんどは戦争犯罪人となることもなく、アウシュヴィッツの医師メンゲレのように身を隠すこともなく、それどころか戦後日本の医学界や製薬会社のトップを占めています。そして、彼らは、「戦争だったから仕方がないこと」だとウソぶいて反省することもなく、真実を明らかにしようともしなかったのです。それは医学界の大きなタブーとなっていました。それを打破したのは『悪魔の飽食』(森村誠一)でした。
この本は、中国・ハルビン市にある「七三一罪障陳列館」の副館長(楊彦君)の著書の翻訳を前編とし、後編は日本の研究者の論文集から成っている、550頁もの大著。お盆休みに早朝から読みはじめ、午後になんとか読了しました。
 七三一部隊とはどういう組織だったのか、総合的にとらえることができます。
 それにしても3000人もの犠牲者を生体実験して、堂々と医学文献に発表するなんて、並みの神経ではありません。犠牲者たちが面前で死んでいき、その遺体が焼却されていくのを知っていたのですから…。
 犠牲者は15歳から74歳までで、女性もいます。中国人、朝鮮人そして白系ロシア人。なぜか病気になった七三一部隊員まで被験者になっています。
 白系ロシア人が看守をだまして反乱を起こしたものの、すぐに鎮圧されたこともありました。なにしろ七三一部隊の実験棟は、外に3メートルもの深い溝があるうえ、その内側に2、5メートルの高い塀があるから、脱出なんて不可能なのです。
 そして、「マルタ」と呼ばれた被験者は憲兵隊がどんどん連れてきます。それは抗日分子だったり、ソ連のスパイだったりします。日本軍に友抗的な人はいくらでもいたでしょう。そして、そんな「反日」の人間は匪賊として、即決射殺してよいという法律が満州国にはありました。面倒な裁判を経ることなく、憲兵隊は即決処刑できたのです。そして、殺すより「人体実験」で役に立たせようと考え、七三一部隊に送り込んだのでした。
 七三一部隊の悪業が世間に知られなかったのは、アメリカ軍が七三一部隊のトップに君臨していた石井四郎軍医中将たちから医学的データの提供を受けるのと交換に免責したからです。取引が成立したのです。石井四郎は、部下たちには墓場まで秘密を持って行けと命じておきながら、自らはアメリカ軍の尋問にペラペラとしゃべり、データを提供したのでした。
 本格的な学術研究書です。大変勉強になりました。
(2022年4月刊。税込3960円)

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