法律相談センター検索 弁護士検索

バオバブの記憶

カテゴリー:アメリカ

著者 本橋 成一、 出版 平凡社
 実に心のなごむ写真集です。
 バオバブの木が、ひとり大平原にポツンと立っています。アフリカの昼間、熱い太陽光線をさえぎる木陰に、人々や動物たちがしばし憩いのひと時を過ごします。そこだけ、時間が停まったようです。
 バオバブの木は寿命4000年とか5000年とか言われています。何千年と生き延びてきましたが、このところ若木は育っていません。だから、今あるバオバブの木がやがて枯れたとき、そこには何も残らない心配があります。
 バオバブの木の中には年輪がない。満々と水を蓄えた空洞になっている。だから、朽ちて倒れてしまうと、やがて土に還るだけです。
 アフリカの人々は、昔からバオバブの木をとても敬い、大切にしてきました。霊感の強い木だとして、昼は近寄らないほどである。そして、その幹や葉をすべて薬として服用してきた。
 じっと写真を眺めているだけで不思議なほど心が落ち着きます。写真にキャプションがついていませんから、安心して写真に集中できます。どういう状態で撮られたのかのかなあと、知りたくなります。
 そして、その関心にこたえるようにして、巻末に写真についての解説がありますので、これらのバオバブの木がどんな状況で人々と共生しているのか、よく知ることができます。
 少し値段は張りますけれど、一見の価値のある写真集です。
 
(2009年3月刊。3400円+税)

兄弟(上)

カテゴリー:中国

著者 余 華、 出版 文芸春秋
 狂乱の文化大革命を生き抜く少年の話から始まります。母親はその前に北京の病院に入院しています。父親は文化大革命を歓迎していたのに、地主の子として、糾弾の対象とされてしまいます。地主といっても、ほんとに大した地主ではなかったのに、仕事を奪われ、収容所に入れられ、妻に会いに行こうとして、路上で殴る蹴るの暴行を受けて、ついに死んでしまいます。哀れ、子どもたちは、どうやったら生きていけるのか……。
 あまりに猥雑な出だしですので、とても女性にはおすすめできません。紅衛兵運動というのが、いかに理不尽なものであったのか、その体験が生かされているのでしょう。文化大革命の美名のもとで、中国古来の文化を台無しにしていった事実は消し去ることができません。今では、文化大革命というのは、要するに、失脚したも同然だった毛沢東による権力奪還闘争だったことがはっきりしています。
 それを新しい文化を創造する試み、そのために古い文化を破壊してもかまわないんだという理屈付けがなされていました。日本人の中にも、毛沢東の言うことならなんでも信じるという人々がいましたが、今となっては信じられない現象です。
 下巻は欲望の開放済のなかで主人公たちが生き抜いていくというのですから、楽しみです。
 それにしても、本当に中国は社会主義国なんでしょうかね。私も中国には何回か行ったことがありますが、とても社会主義国とは思えませんでした。観光客である私の前には、まさしく資本主義国家として登場していました。
 アメリカと違って、中国の治安は抜群に良かったし、今もいいようです。これも、アメリカの方が貧富の格差の増大が一歩先んじて際限もなく続いていることによるのでしょうね。
 
(2008年6月刊。1905円+税)

利休にたずねよ

カテゴリー:日本史(戦国)

著者 山本 兼一、 出版 PHP研究所
 さすが直木賞を受賞した作品というだけのことはあります。利休の心の動きが、ことこまかに憎らしいほど描写されています。作家の想像力のすごさに圧倒される思いを抱きながら(実のところ、私のイマジネーションの貧弱さを嘆きつつ)読み進めていったのでした。
 次は、利休の言葉です。
 わしが額(ぬか)づくのは、美しいものだけだ。
 いやはや、この文章を根底において、山あり谷あり、起伏のあるストーリーに仕立て上げる腕前はおみごとというほかありません。
 おのれの美学だけで天下人・秀吉と対峙した男・千利休の鮮烈なる恋、そして死。
これは帯にあるコトバです。
 千利休が秀吉の側に長く使えていたこと、そして、秀吉が死を命じられたことは歴史的な事実です。それを秀吉の心理描写とあわせて、緊張感あふれる場面が次々に繰り広げられていきます。
 そして、茶道の奥深さも実感できるのです。たまにはこんな本を読むのも忙しさを忘れていいものだと思います。
 小説にしては珍しく、巻末に参考文献が明記されています。
 春の庭は色とりどりです。見てるだけで心が浮きうきしてきます。いま咲き始めたのはジャーマンアイリスです。手入れをしてはいけない丈夫な花です。ぬれ縁の先に気品ある薄紫色の花を次々に咲かせます。深い青紫色のアヤメの花も咲いています。こちらは胸をときめかす高貴な花です。妖しげな魅力があり目を惹きつけます。
 庭のフェンスにからまっているのは朱色のクレマチスです。そのうち純白の花も咲いてくれるはずです。
 車庫のそばの地面は鮮やかな朱色の芝桜が覆っています。そして最後に、終わりかけていますがチューリップもまだ健在です。今、黒いチューリップが咲き、フリンジがあったり、変わりチューリップがまだいるよと誇り高く叫んでいます。
 みんな私のブログに写真をアップしているので、見てください。
(2009年3月刊。1800円+税)

派遣村・何が問われているのか

カテゴリー:社会

著者 宇都宮 健児・湯浅 誠、 出版 岩波書店
 「年越し派遣村」ほど、近年、私の心をうったものはありませんでした。私が毎月1回は通っている日比谷公園が、年末年始に派遣切りでホームレスになった人々などの救いの場となったわけです。テレビをまったく見ない私ですが、新聞を読んでいるうちに、九州の地で安穏としていいのか、という気になっていました。近くだったら、私も駆けつけて、少しはお手伝いくらいしたと思います。それくらい、居ても立っても居られない、切羽詰まった気になったのでした。
 実際、この派遣村に実行委員として関わった主要メンバーは、年末年始のあいだ、まともに眠れず、食べるものも食べずにがんばったようです。すごいものです。ついつい大学生時代、学園闘争の、それなりに厳しかったころのことを思い出してしまいました。もちろん、そのころ私は20歳前で、気力も体力もありましたから、少しくらい食べず、眠らずでも大丈夫でしたが……。
 貧困問題の主要な課題の一つは、可視化にある。見えないことから、貧困問題が「ない」ことにされてしまう。見えるようにさえすれば、誰も放置できない課題であることは明らかだから、対応がなされる。見えるようにすること(可視化)が、貧困問題の解決に向けた第一歩になる。派遣村は、そのことにかなり成功した。そして、このことは、現代の貧困の「見えにくさ」を痛感させる出来事であった。
 これは、湯浅誠氏の指摘です。その講演を私も聞いたことがありますが、決して激することなく、冷静・沈着な態度を崩さない話ぶりに、かえってほとばしる熱情を感じたものです。
 見えない貧困、しかし、現実にそこにある貧困。この事実を、私たちは正視すべきです。この本は、現代日本の抱えている深刻な状況を、実に分かりやすく目に見える形で教えてくれます。
日比谷公園には、もともと20人の野宿者がいる。近くの東京駅周辺には50人の野宿者がいる。
 派遣村の場所設定でについては、厚生労働省の目の前にある日比谷公園が最適だということになった。都心の日比谷公園は規制がきびしく、テントが張れない場所としてよく知られていた。そして、野宿者への炊き出しも行われていなかった。
 結局、派遣村にやって来た人は505人。女性は非常に少ない。ボランティアとして登録した人は1692人。のべ数千人になる。カンパは4400万円。リンゴ1.8トンなど、食材などの物品カンパも多かった。
 企業の違法行為の結果、多くの被害者が路上に放り出されてしまった。ボランティアと税金によって、企業の違法行為の尻拭いをさせられ、違法を行った張本人は何の責任もとっていない。そうなんです。トヨタもキャノンも、奥田も御手洗も、涼しい顔をして他人事(ひとごとのように自己責任だといいつのるばかりです。そのくせ日本人には道徳心が欠如しているなんて言って、子どもたちに道徳教育を押しつけているのですから、呆れるほどの厚かましさです。日本の財界人には道徳心はかけらほどもないのか、と叫びたくもなります。
 生活保護を受けようとすると、世の中の反応があまりにも冷たいことも指摘されています。甘えているというものです。私は、ヨーロッパのように、若い人が失業したら、次の仕事が見つかるまで何年でも失業保険をもらえるか、生活保護を受けられるように日本もしたらいいと思います。もちろん、年輩者には十分な年金が保障されるというのが必要です。そんな夢のようなことを言うな、という人がいるかもしれません。でも、それを実現するのが政治の役目ではないでしょうか。
 この本の面白いところは、派遣村に裏方として関わった実行委員の人たちの苦労話です。
 年末年始だったので、不足したテントを探すのに苦労したこと、せっかく見つけても運搬するトラックの運転手が確保できなかったこと。6人用テントを用意したけれど、持ってきた荷物と布団で4人が限界だったので、20張のテントに80人しか収容できなかったこと。テントを張るとき、下に石があると痛いし、平な場所が少なくて苦労したこと。実行委員は炊き出しにありつけず、寝るのもテントで寝れず、手足の先が凍傷になりかかったこと、などなど、その大変な苦労が伝わってきます。年末年始をいつものようにぬくぬくと過ごした私など、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
 そして、派遣村にやっとの思いで辿り着いた人の実情のすさまじさには息を呑んでしまいます。浜松から歩いて日比谷公園までやってきたとか、三日三晩、何も食べずにやって来たという人たちがいたのです。そして、派遣村で炊き出しを食べたら、とたんに体調を崩してしまう人が続出したのでした。
 これが豊かな国ニッポンの現実なのですね。改めて、その深刻さが伝わってきました。
 結局、派遣村にたどり着いた500人のうち、300人が生活保護を受けることになりました。それでも、外国人労働者や女性については、ほとんど手つかずというのです。
 派遣切り、ホームレス、野宿者の問題というのは、日本国民全体で考えるべき問題なんだということがよく分かる本でした。
 ホームレスの人は働く意欲がないという誤解がまかり通っているが、それは間違いだと強調されています。ぜひ、あなたも読んでみてください。ここに書かれていることは、まさに日本の現実です。私は、大学生のころから貧困問題に関心を持ってきましたが、現代日本にいまある貧困に光をあてた派遣村のことを知りうる、いい本が出たと、しみじみ思いました。
 
(2009年3月刊。1200円+税)

労働法はぼくらの味方!

カテゴリー:司法

著者 笹山 尚人、 出版 岩波ジュニア新書
 いやあ、実によくできたテキストです。若い人たち、パートで働き、派遣切りにあって泣いている人たちにぜひぜひ読んでほしいと思いました。ストーリーがあります。それ自体も無理なく読ませます。そして、労働法がすーっと入ってきて理解できます。若手というか中堅というべきか、弁護士による数多くの実体験に基づいた、労働基本権の解説がなされています。こんな分かりやすい本が書けるなんて、とても素晴らしいことです。
 ジュニア新書ということでひっかからず、大人も弁護士も読んでほしいと思います。弁護士にとっては、どうやったら難しい権利を何も知らない人に分かりやすく伝えるか、その見本がここにあります。
 ハンバーガーショップに高校2年生の真吾君がアルバイトを始めます。自給800円です。この店で正社員なのは店長だけで、あとは全員がアルバイト。ところが、身内の不幸があっても代わりの人が見つからないからアルバイトなのに休みがとれない。店のお金がなくなったら、アルバイトをふくめて全員の連帯責任として、給料から天引きで弁償させられる。店の売り上げ不振のため、賃金カットをする。
 ひどい話ですが、現実によくある話です。これって、みんな法律違反なのです。
 パートタイム労働者に労働条件を示すときには、第一に昇給の有無、第二に賞与の有無、第三に退職金の有無を明確に告知しなければいけない。
 うへーっ、そうだったんですか。ちっとも知りませんでした。ゴメンナサイ!
 そして、店長が労働法上の管理監督者にあたるかどうかも問題となります。例の、名ばかり店長という問題点です。
 そして、派遣と業務請負の違いも説明されています。要するに、仕事をしている現場での指揮を誰から受けるかによって違ってきます。今の世の中、あまりにも脱法行為が横行しすぎです。
 労働者の権利を守る上で決定的に大切なのは、労働組合です。残念なことに、日本の労働組合の力は悲しいほどありませんね。昔、総評という存在がありましたが、今の「連合」はほとんど力がありません。派遣切りの問題でも少し動いているという程度でしかないのがとても残念です。企業内組合の連合体から来る限界ということでしょうか。
 私は、若い人たちが労働者に入って、仲間と団体行動をともにして連帯感を深めつつ、少しずつ要求実現していくという日本になってほしいと心から願っています。
 
(2009年2月刊。780円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.