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東大駒場学派物語

カテゴリー:社会

著者 小谷野 敦、 出版 新書館
 私にとって昔懐かしい駒場の話です。大学2年生のとき、ちょうど東大闘争に突入して授業がなくなりましたから、まともに授業を受けたのは1年と2か月ほど。ところが私自身は、大学で授業を受けて勉強する意義が分からず(と称して)、地域(神奈川県川崎市です)に出かけて、若者(労働者です)たちと一緒のサークルをつくって、しこしこと(その当時の流行語です)活動していました。
 翌年2月に授業が再開されてからも、引き続き漫然と授業には出ずに、地域でのセツルメント活動に没頭していました。まさしく、人生に必要なことは、大学ではなく、地域におけるセツルメント活動で学んだという気がします。
 それはともかくとして、この本を読むと、駒場での教授生活も、内情はかなり大変だということを知ることができます。それは第一に、この本のように内情暴露する人が出てくる危険性は高い、ということです。この本は、学者のゴシップでみちみちています。
 といっても、『源氏物語』だってゴシップを載せているじゃないかと著者は反撃しています。なるほど、そうなんでしょうね。『源氏物語』が世の中に出たとき、この人は誰がモデルなのか、いろいろ話題になったことでしょう。だから著者は、次のように喝破するのです。
 文学はゴシップと不可分の関係にある。ふむふむ、そうなのか、うむむ。
 私が大学生のころ、渋谷駅から井之頭線に乗り、駒場東大前駅で降りていました。ところが、この駅は、なんと1965年(昭和40年)にできたものだというのです。なーんだ、まだ2年しかたっていないときに私は利用したんだ……。昔から、こんな駅があったとばかり思い込んでいました。
 駅の階段を降りると、真正面が駒場の正門に至るのです。回れ右をすると、麻雀屋やラーメン店などの飲食店が混じる商店街になっていました。
 駒場の春、という言葉が出てきます。五月病とは無縁な、未来へのなんとはなしの希望を感じさせるものです。しかし、その希望を現実化させた人は、どれだけいたのでしょうか……。
 私にとっての救いは、まず第一に駒場寮です。6人部屋でしたが、先輩のしごきなんて、とんと無縁の自由極まりない天国のような生活が、そこにありました。ただし、経済的には楽ではありませんでした。1ヶ月をわずか1万3000円あまりで生活したという収支ノートが今も手元に残っています。もらっていた奨学金は月3000円。学費は年に1万2000円でした。
 第二に、セツルメント活動です。ここで、素晴らしい先輩と素敵な女性たちに出会うことができました。残念なことに、私の恋は実りませんでした。
 著者は、35冊も著書を出したのに、駒場で不遇な目にあったのを嘆き、攻撃しています。そうなんでしょうが、きっと学者にも求められる協調性に欠けていたのでしょうね。
 著者は、本を書かない教授がごろごろしていると手厳しく批判しています。本当にそうです。私も本は何冊も書いていますが、モチはモチ屋で、何を得意とするかの違いがあり、私などは議論のとき、きちんと順序、論理だてて展開するのはまったく不得手のままです。この本を読んで、学者の世界の厳しいゴシップを聞いた気がしました。
 それにしても、天皇崇拝論者が駒場の学者にそんなに大勢いたなんて、驚きです。ご冗談でしょ、という印象を受けました。
 昨日の日曜日、福大で仏検(1級)を受けました。朝から「傾向と対策」を読んでフランス語の感覚を必死で取り戻す努力をしました。単語がポロポロと忘却の彼方に飛び去っているのです。試験は3時間かかります。1問目2問目と全滅していき、長文読解でなんとか得点して、最後の書き取り、聞き取りで少し点を稼ぎます。100点満点で30点そこそこという哀れな成績がつづいています。我ながら厭になりますが、それでもフランス旅行を夢見て続けています。
 休憩時間に庭へ出てみると、色とりどりのバラの花が見事に咲いていました。梅雨空の下で、フランス語にどっぷり遣った苦難の日でした。
 
(2009年4月刊。1800円+税)

ひょうたん

カテゴリー:日本史(江戸)

著者 宇江佐 真理、 出版 光文社時代小説文庫
 うまいですね。この人の本って、いつ読んでも感心させられます。しっとりした江戸の人情話に、敵味方で争うなかでガチガチになった身と心が、知らず識らずのうちに溶け出していく思いです。そして、下町で夕食を準備する匂いが漂ってきます。
 いえ、本当に、書き出しから店の前に七厘(しちりん)を出して大根を煮る風景が登場してくるのです。米の研ぎ汁で下茹でした大根を、昆布だしでさらに煮る。箸を刺して煮崩れるほど柔らかくなったら、さっと醤油と味醂で味をととのえる。それを昨夜からつくっておいた柚子味噌につけて食べる。うむむ、美味しそうですね。思わず舌舐めずりしてしまいます。
 五間掘沿いの道を行く人々も、いい匂いを漂わせている鍋に恨めしそうな視線を投げて通り過ぎて行く。うまそうな匂いには勝てませんからね……。
 主人公は、しがない古道具屋を営む夫婦。この夫婦をめぐる市井の人々の愛憎つながる話題が転々と展開していくのです。そこには切ったはったの血なまぐさい話はありません。今の日本でもありそうな、身につまされる人情話が繰り返し登場してきて、物語にひきずりこまれてしまうのです。
 そして、その気分に浸ると、それがまた浮世風呂にでもつかったようないい按配なのです。そうやって江戸情緒をしっかり味わっているうちに、やっぱり、いい本に出会えるって仕合せだなと思ってくるわけです。
 あとがきの解説に、次のような文章があります。
 けちな道具屋をしていても、心は錦だ。こんな江戸っ子の矜持(きょうじ)と心意気が表れている。
 そうなんです。気風のよさも感じられますので、読後感はあくまで高山の稜線にある草原を吹き渡る涼風のような爽やかさです。
 
(2009年3月刊。552円+税)

源氏物語(上)

カテゴリー:日本史(平安)

著者 瀬戸内 寂聴、 出版 講談社
 少年少女古典文学館として、現代語訳された古典です。古文として断片的には読んだことはもちろんありますが、読みとおしたことがなかったように思いますので(円地文子訳を読んだかな?)、上下2巻にまとまった、少年少女向けの現代語訳で源氏物語を久しぶりに読んでみようと思い立ったのです。
 いづれの御時(おほむとき)にか、女御(にょうご)更衣(かうい)あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際(きわ)にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。
 この書き出しはさすがに覚えていました。私は歴史ものに続いて、高校時代、古文も得意としていたのです。古典文学体系で、原典を一度読んでおくと、全体像がつかめて、断片的に切り出されて問いかけられる設問に対しても余裕を持って回答することができました。この点は、法律の勉強と同じです。やはり、全体のなかの位置づけが欠かせません。
 現代語訳だけでなく、欄外に言葉の解説もあり、写真や図もありますので、大いに理解を助けてくれます。いわば、字引つきの古典ですから、なるほどなるほどと思いながら軽く読み進めていくことができます。
 それにしても源氏の君はもて過ぎです。どうして、こんなに簡単に女性にもてるのか、いつのまにか中年さえ過ぎてしまった男の私としては嫉妬にかられるばかりです。
 紫式部は1014年ごろ、40歳ほどで亡くなったようです。ということは、今からちょうど1000年前ころ、宮中で権力を握っていた藤原道長(直接にはその娘・彰子、しょうし)に仕えて活動していたのです。
 今から1000年前の日本に住んでいた人々の気持ちが、生活様式こそ違っていても、現代日本とあまり変わらないことに気がついて、不思議な気持ちに包まれてしまいました。日本人って、変わらないところは、案外、変わっていないのですね。
 
(1997年6月刊。1650円+税)

マンガ蟹工船

カテゴリー:日本史(戦後)

著者 小林多喜二・藤生ゴオ、 出版 東銀座出版社
 30分で読める。大学生のための、という副題がついたマンガ本です。前から読んでみたいと思っていました。白樺湖に出かけたとき、やっと手に入れて読みました。
 もちろん、私は原作も読んでいます。でも、マンガって、すごいですね。よく出来ています。映画は前に見たようには思いますが、よく覚えていません。最近、リバイバル・ブームに乗って各地で上映されていますが、まだ残念ながら見ていません。その代わりにマンガを読んだのですが、それなりに視覚的イメージはつかめます。蟹工船のなかの悲惨な奴隷のような労働実態が、それなりに伝わってきます。解説をつけた人は、このマンガを読んでショックを受けた人は、ぜひ一度、一度読んだ人は、もう一度、原作小説をとくと味わってほしい、と注文をつけています。まさしく、そのとおりです。
 それにしても、今の日本で多くの若者が自分の置かれている状況は戦前の蟹工船で働かされていた労働者と似たようなものだと受け止めているという事実は、それこそ衝撃的な出来事です。それなのに、政府は、大企業の違法な派遣切りに対して、戸別の企業については論評を差し控えます、などと格好の良いことを国会で答弁して介入せず、野放しのままなのです。権力のやることって、戦前も戦後も変わらないというわけです。
 マスコミも、年越し派遣村こそ大々的に報道しましたが、企業で今やられていることについての追跡記事をまったく載せていません。本当に悲しくなります。ソマリア沖に派遣された自衛官の「活躍」ぶりを載せる前に、国内の若者の置かれている深刻な実態を紹介すべきではないでしょうか。そして、このことを総選挙の争点として大きく浮かび上がらせてほしいと思います。日本の若者が将来展望を持てなかったら、日本という国に将来はないと思いますよ。皆さん、ぜひ、このマンガを読んでみてください。
 
(2008年7月刊。571円+税)

トヨタ・キャノン非正規切り

カテゴリー:社会

著者 岡 清彦、 出版 新日本出版社
 日本の今の深刻な不況の引き金を引いたのは、トヨタであり、キャノンであると私は考えています。もちろん、その背景には、アメリカのサブ・プライムローン危機に端を発した世界的な金融危機があるわけですが……。それでも、トヨタとキャノンの責任は重大です。
 トヨタの期間従業員は、最長で2年11ヶ月の有期雇用契約である。最初の契約は4~6ヶ月で、その後も6ヶ月、1年と細切れ契約にして、いつでも期間満了で解雇できるようにしている。トヨタはカンバン方式で有名だが、その「人間カンバン方式」こそ、期間従業員の活動である。必要なときに、必要な労働者を、必要なだけ使う。派遣労働者は奴隷だ。昔、女性は女郎屋に売られたが、いま、オレ達は工場に売られる。
 トヨタは、この20年間、正社員を増やさず、期間従業員を増やして日本一の利益をあげてきた。1990年のトヨタの経常利益は、7338億円。2008年には、それが2.3倍の1兆5806年にのぼる。しかし、正社員は7万人から6万9000人に減っている。そのかわり、期間従業員は1万人をこえ、生産現場の3割を占めるようになった。
期間従業員の日給は1万円。年収は300万円。正社員の平均年収829万円の半分以下でしかない。トヨタは、期間従業員のマイカー通勤を認めていない。だから、会社のバスか、自転車で通勤する。
トヨタは株主への配当は継続していて、2037億円も配当した。首切りを宣言した6000人の期間従業員の雇用を守るためには、配当金の9%、180億円あれば可能である。
そして、トヨタの内部留保(貯め込み利益)は、13兆9000億円にのぼっている。
うへーっ、こ、こんな莫大な利益、そして株主配当金があるのに、労働者のほうは平然と首切りするのですね。ひどいものです。血も涙もないとは、このことですよね。
ところで、いったい、取締役のもらう年間報酬額はいったいいくらなんでしょうか?
今の日本経団連会長の出身母体であるキャノンの名前が、観音に由来するということをこの本で初めて知りました。
キャノンでは、ほとんど残業はない。しかし、ノルマ達成まで働くことには変わりない。それは、サービス残業として何の手当てもつかない。
キャノンは大分県から莫大な補助金をもらっている。総額48億円にものぼる。ところが、そこで働く大量の労働者がワーキングプアと呼ばれている。4553億円もの利益を上げていながら、貧困宣言を出す。これって、まったく矛盾そのものです。
キャノン労組は、上部団体に加わらず、賃上げ要求すらしていない。
派遣労働者の時給は1000円。結局、手取り11万5000円になる。正社員だったら、残業や交代制手当がなかったら、月10数万円から20万円程度の手取りとなる。
キャノンそして日本経団連会長である御手洗は、「3年たったら正社員にしろと硬直的にすると、日本のコストまで硬直的になる」と言って開き直り、法律のほうこそ変えるべきだと弁明し、主張している。いやはや、とんだ男です。こんな人物が財界人トップなんですから、日本の将来はお先真っ暗です。
キャノンも、株主への配当は、同じく前期と同水準にしている。
日本経団連って、ホント、自分たち大企業のほんの目先のことしか考えていない強欲な資本家集団なんですね。あきれてしまいます。こんな人たちに今時の若者は日本の国と郷土を愛する心が足りないなんて言われたくありませんよね。守るべき自分の生活があってこそ、守るべき郷土があり、国があるのですからね……。
(2009年3月刊。1400円+税)

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