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ジャーナリズムの思想

カテゴリー:社会

著者 原 寿雄、 出版 岩波新書
 テレビは最初から「茶の間劇場」としてスタートしたメディアである。
 「現状」をそのまま報道しようとするテレビで、事象の本質を的確にとらえるのはずっとむずかしい。
 事件、事故の結果は、そのまま絵になるが、原因を映像にすることは至難の業である。現代世界の実相を映像の具象性でとらえることが出来ると考えるのは、幻想にすぎない。真実は具象的にはとらえられない。事象の意味は絵にならない。
 映像によりかかり過ぎる「映像至上主義」は、やはり批判されるべきだろう。
 テレビの潜在的可能性は、4~5割くらい未開発のままである。
 先進国で、日本ほど組織的自己検閲がされている国はない。
 選挙で棄権が多いのは、誰が選ばれても変わらないという安心感と絶望感が反映している。マスコミが「不偏不党」に縛られ過ぎ、政党や候補者の公約と実績を具体的に点検し、報道評論しようとしない消極的な態度も大きな要因だろう。
 政治家蔑視が政治蔑視を生み、アパシー(政治的無関心)を強める。その陰で、政治はひと握りの政治家たちの勝手な振る舞いを許してしまう。
 権力者の「大悪」より、か弱い市井の庶民の「小悪」に矛先が向きやすい。
 テレビの潜在的可能性は、たしかに高いと私も思うのですが、それにしても郵政民営化、政権交代と単純2分論をあおり立てる豪雨型の報道はいかがなものでしょうか……。
 前にも紹介しましたが、28日(金)6時から、天神のアクロス国際会議場で、著者もパネリストの一人として参加されるパネルディスカッションがあります。弁護士会主催のシンポジウムです。ぜひご参加ください。
 サンモリッツからベルニナ特急に乗りました。片道2時間半ほどの旅です。イタリアのティラノという町が終点で、そこで2時間半あまり昼食をとって休憩し、夕方5時過ぎにサンモリッツに戻ります。
 ベルニナ特急は、スイスの山岳地帯を走りますので、広々と空いた車窓からの眺めはまさに絶景です。遠くに氷河を眺めたり、大きなループ橋があったり、楽しい旅となります。
 このベルニナ特急で、2組の日本人夫妻と一緒になりました。
 行きに出会ったご夫妻は、ベルニナ特急のリピーターだそうで、途中下車して山歩きを楽しむということでした。
 帰りにご一緒した夫妻は千葉出身で、地元名物という堅くて美味しいおせんべいをいただきました。ベルニナ特急から見える山の頂付近を、パラグライダーが飛んでいましたが、ご夫妻も筑波山あたりでハングライダーを楽しんでいるとのことでした。
 ベルニナ特急のあとはパリに一週間ほど滞在する計画だそうで、私もそれくらいゆっくりしたいものだとうらやましく思ったことでした。
 デジカメとビデオを夫婦して撮っておられました。
 
(2007年7月刊。700円+税)

カラシニコフ銃 AK47の歴史

カテゴリー:ヨーロッパ

著者 マイケル・ホッジズ、 出版 河出書房新社
 ロシアで開発されたAK47を「世界でもっとも愛された民衆の武器」と言っていいものかどうか、私には疑問ですし、ためらいがあります。いわゆる大量破壊兵器ではありませんが、大量殺戮兵器であることには間違いないからです。
 AK47の特徴は、ずば抜けた単純さにある。取り外しのできる部分は8つしかなく、つくるのにも安上がりで、使うのも簡単。あまりに簡単なので、大人だろうと子どもだろうと、非常に基礎的な訓練を受けただけで、毎分600発という膨大な弾丸を発射できるようになる。ほとんどどんな気象条件でも、ものの1分もあれば分解掃除ができる。どんな銃よりも故障が少ない。
 いま全世界に7000万挺のカラシニコフ(AK47)が存在し、使われている。実は、それよりさらに数百万挺が存在する。
 ロシア製の最新型カラシニコフは1挺500USドルする。ブルガリアでは、それが1挺100USドルで売っている。
ドイツの突撃ライフルとソ連のAK47は、外見こそよく似ているが内部はまったく異なっている。カラシニコフの発射メカニズムは、ドイツよりもアメリカに多くを負っていた。その発射メカニズムは、アメリカのMIライフルに似通っていた。カラシニコフがもっとも重要視したのは、簡単さと頑丈さだった。
 ベトナム戦争において、アメリカ軍兵士はM16よりAK47を好んで使った。だから、同士撃ちすることすらあった。
 1960年代を通じて、中国は数100万挺のカラシニコフを製造してベトナムに与え続けた。1970年代、パレスチナの戦闘的グループが、AK47をつかって、テロリズムを印象付けた。1980年代になると、アフリカなどで少年兵士がAK47をつかっていることが大々的に報道され、AK47のイメージがさらに歪められた。
 カラシニコフは、何百万もの人々に解放ではなく流血をもたらし、1990年代になると、絶望の叫びとなった。
 日本でもAK47が氾濫する時代が到来しないことを願うばかりです。
(2009年2月刊。1600円+税)

社長解任

カテゴリー:司法

著者 大塚 和成・寺田 昌弘、 出版 毎日新聞社
 株主パワーの衝撃、というサブタイトルのついた本です。経験豊富な中堅弁護士による実践を踏まえた解説ですので、面白く読めて大変勉強にもなりました。
 上場企業の社長が、いわゆるモノ言う株主からの圧力によって株主総会の決議でクビになる例が多発している。株主によって社長がクビになる時代が到来した。しかも、投資ファンド株主である。
 なぜ、そんなことが起こるのか?
①大幅な営業不振、②有効な対策を取らない、経営者としての能力の欠如、③株主軽視の姿勢。
 アデランス、シャルレ、すかいらーく、日本精密、テークスグループなどの実例が分析されています。
 株主構成が変化している。不特定多数の株主投資家の手に渡った。投資家の多くは、株式市場から利益(リターン)を挙げることを目的として投資している。だから、もちつもたれつ、お互いさま、という意識に乏しい。ファンド株主は、モノ言う株主である。
 結論として、買収防衛策やホワイトナイト、非上場化には一定の効用はあるものの、社長がクビになることを絶対に防げるわけではない。
 買収防衛策の本来的目的は、時間稼ぎと情報の引き出しにあり、効用もその点に限られる。
 議決権行使書面と委任状とでは、前後を問わず、常に委任状が有効である。
 金券と引き換えに委任状を得ようとする行為は、会社法に反する。会社法120条1項は、株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならないと規定している。
 うーん、ちっとも知りませんでした。少しだけ賢くなりました。
(2009年6月刊。952円+税)

共依存、からめとる愛

カテゴリー:社会

著者 信田 さよ子、 出版 朝日新聞出版
 ながくカウンセラーをしている著者は、ストレスがたまることはないそうです。すごいですね。私より少しだけ年長の団塊世代です。
 カウンセリングで疲れることはあっても、ストレスがたまることはない。この上なく悲惨で奇怪な話を聞くことで、人間の不可思議さに触れ、頭の中を秩序だてていたパラダイムが、音を立てて崩れ落ちる瞬間の解放感を味わう。これ抜きにカウンセラーを続けることはできない。なーるほど、そういうことなんですね。弁護士である私にも少しだけ分かります。
 親から虐待されている子どもが、親から暴力をふるわれて翻弄されながら、「すべて自分のせいだ」と認知する。わけのわからない痛みや混乱を、子どもなりに秩序だてられなければ、子どもの世界はカオスとなる。しかし、カオスの中では生きることができない。そこでシンプルな秩序を編み出すことになる。それが、「すべて自分が悪い」という究極の論理である。この論理で構築できない秩序はない。あらゆる出来事が自分の責任であり、悪い子だからだと認知する習慣は、幼児的万能感の裏返しでもある。それは成人後にも持ち越され、過剰な背負いこみ、過剰な責任感へとつながっていく。ふむふむ、そうなんですね。
 アダルトチルドレンの生きづらさの大半をしめるのが、このわけもなく過剰なままの自己責任感覚、自責感なのである。だから、これから解放されるためには、いったん、「あなたには何の責任もない」として、イノセンス(無罪)を承認される必要がある。うむむ、なるほど、なるほどですね。
 アルコール依存症者の平均寿命は52歳。美空ひばり、石原裕次郎、中島らもの享年は、みな52歳だった。うへーっ、それは知りませんでした。
 アル中の妻は、「私が見捨てれば夫は生きていけない」と考えている。夫の「妻に見捨てられたら生きていけない」というメッセージは、妻の考えとまるで鏡の裏と表のようにぴったり重なっている。妻を満たしているのは、ケアを渇望している存在にケアを与えることで得られる快感である。忍耐と苦労ばかりの生活にあって、この満足感だけが砂漠のオアシスのように感じられる。妻は、夫から振り回される存在から反転し、むしろケアを求めるように夫を操作するようになる。
 カウンセラーは妻に対して、「それは共依存です」と伝える。妻は、自分が良かれと思ってやってきたことが、夫をさらに依存させることになっていたことを自覚すると、長年のケアの与え手としての時間が否定されてしまうような感覚に襲われるだろう。しかし、そのあとに、やがて訪れるのは、途方もない解放感である。
 共依存という言葉は、日本の妻や母たちが当然のようにケアの与え手役割を強制されてきた忍耐の歴史に風穴を開けた。「これ以上ケアをしてはいけません」というシンプルなメッセージは、共依存という言葉に結晶して、多くの強制されたケアの与え手を解放した。
 女性のアルコール依存症者について、次のような指摘があります。 
妻は、夫の関心をおねだりして酒を飲んでいるわけではない。むしろ、人間として扱われなかったことへの怒り、そのような状況を変更する力のない自分への無力感が、妻を飲酒に駆り立てている。妻の冷徹な状況判断力、傷つきやすいプライドが、皮肉にも自らの現実を耐えがたくしている。
 そんな妻を見捨てずにケアをする夫は、妻が崩壊するのと反比例して、より正しく人間的な存在にのぼりつめる。自分が偉い人間になったという気分に浸ることが出来る。
 共依存の特徴は、よりかかる他者が必ず自分より弱者であること。強者であれば単なる依存にすぎない。飲み込まれるどころか、むしろ飲み込むために共依存は弱者を選ぶ。隠れた主体は巧妙に弱者である対象を操作する。
 共依存は、弱者を救う、弱者を助けるという、人間としての正しさを隠れ蓑にした支配である。その多くは、愛情と混同される。
 DV夫は、被害者意識に満ちている。逆にDVを受けている妻は、自分のせいで夫に殴らせてしまったという罪悪感を根深く持っている。これを加害者意識と呼べば、DVの加害者と被害者の意識は逆転している。したがって、DV被害者を共依存と呼ぶのは、逆転した加害・被害の意識を強化することになる。だから、DV被害者に対して共依存という言葉を用いることは、厳に慎まなければならない。
 大変教えられることの多い本でした。長年夫のDVで苦しめられてきた妻が、夫が動けなくなったときに復讐するという話がこの本に紹介されています。私も、そんな妻の弁護人になったことがあります。話を聞くと、実に悲惨でした。
(2009年5月刊。1600円+税)

「特捜」崩壊

カテゴリー:警察

著者 石塚 健司、 出版 講談社
 東京地検特捜部に対する、ここ数年聞かれる危惧の声は、これまでのものと次元が違ってきている。機能不全の兆候があるという。元特捜検事たちから、古巣の特捜部に対する不審や危惧の言葉を聞くことが増えている。
 特捜部の任籍期間が徐々に短くなっている。かつては10年以上がザラだったが、現在は特捜部長で6年、副部長で5年となっている。人材育成のシステムが失われてしまった。そして、特捜部長の前任地は法務省の行政職だというケースが最近は多い。
 現在の特捜検察の問題点として、上意下達型、悪者中心型、劇場型の3つのキーワードがある。
検事の隠語のなかに、自動販売機というのがある。取調官に迎合し、何でも言われるままに認める状態になった相手の人間を言う。相手が自動販売機になったとき、調子に乗って作文した調書に次々と署名させていった結果、明白な事実と反する内容の調書まで法廷に出す失敗を犯し、弁護側に矛盾を突かれて、調書全体の任意性を否定されたという例もある。だから、自動販売機の取り扱いには細心の注意が必要で、しつこく事実を問い正し、供述の裏付けを取らなければならない。ふむふむ、なんだか思い当たります。
 自民党の新井将敬代議士は、1998年2月、特捜部の捜査を受けていた最中に自殺した。新井代議士は、まったく面識はありませんが、私と同じ団塊世代であり、東大闘争のときには過激派というべき全共闘の闘士だったそうです。
 真実の究明よりも、有罪の判決を得ることのみに全力を注いだように見える取調べ。これが現在の「日本最強の捜査機関」の実態であることはさびしい限りだ。
 そもそも特捜部は、警察には適さない、専門的な法律知識が必要な捜査をすることを建前としている。現在、国税庁、証券取引等監査委員会、公正取引委員会という強制調査権限を持つ3機関からの告発事件の捜査を一手に扱うほか、情報提供や告訴・告発を受けて独自の捜査をすることができる。
 全国に50ある地検のうち、東京・大阪・名古屋の3地検のみに特捜部が置かれている。福岡にはないのですね……。
 東京の特捜部は、検事32人と副検事2人、事務官91人の計125人いる。警視庁捜査2課(知能犯を扱う)や国税局査察部とは、比較にならないほどの小さな組織でしかない。
 検察庁の捜査能力が低下したため、そのかげで高笑いしている政治家や財界人、そして暴力団などの闇の勢力がたくさんいるのでしょうね。残念です。
 お濠のハスの白い花の上を、赤とんぼがたくさん飛んでいます。ツクツクボウシが鳴き始めて、昼間から秋の気配を感じられるようになってきました。
 我が家の庭の秋明菊も、ツボミをふくらませつつあります。夜になると、虫の音も勢いを増してきました。今年は、セイケンコータイ、セイケンコータイと盛大に鳴くのでしょうね。でも、中身が良くなる政権交代でないといけません。看板だけ付け変わることのないようにしたいものです。
(2009年4月刊。1500円+税)

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