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絞首刑

カテゴリー:社会

著者 青木 理、 出版 講談社
 いまの日本には、悪いことをした奴はみんな死刑にしろと声高に叫ぶ人がいて、それに反対するのに勇気がいります。なんだか怖い社会風潮です。でも、死刑がどうやって執行されているのか、死刑囚の処遇がどうなっているのか、まったく知らないまま(知らされないまま)死刑肯定論が強まっている気がしてなりません。EU加盟国になるための条件の一つが、死刑を廃止していることだということを、日本人はきちんと認識して、受け止めるべきではないかと思うのです。ともかく、死刑制度が犯罪予防にならないことは古今東西の事実が証明しているのですから……。
 刑場の隣の小部屋には、壁に複数のボタンが横一列に並んでいる。5センチ四方の枠に囲まれた赤いボタンだ。古い拘置所の刑場なら5つ、新しい拘置所の刑場なら3つ。このボタンのうちどれか1つが、死刑囚の立たされる1メートル四方の床を開閉する油圧装置に連絡されている。その装置に誰のボタンがつながっているのかは分からない。だが、誰か一人のボタンは間違いなくつながっている。
 ボタンから少し離れた位置の壁には、金庫のダイヤルのようなものがある。どのボタンを油圧装置に連結するかは、そのダイヤルによって決められる。事前にベテランの刑務官がセットしておく。しかし、ボタンの前に立つ若い刑務官たちは、ダイヤルが導き出した結果を永久に知らされることはない。
 執行にかかわる刑務官の選択は、拘置所長が「それなりの配慮」をする。当日が誕生日に当たる者や、妻が出産を控えている者、近親者が重い病を患っていたり、親族の喪中である者などを除外して、最終的に10人のメンバーを慎重に選び出す。
数メートルもの落下による重力と自分自身の体重。そのすべてが首に集中する。通常の首つり自殺でも折れることのある甲状軟骨や舌骨は瞬間的に砕け、首を支える筋肉が切れ、7つの頸部脊椎が離断する。同時に、脳と身体の神経をつなぐ頸椎も断裂する。だから、おそらく瞬時に意識を失うはず。だが、真実は誰にもわからない。
 死刑囚が落下して、最終的に心臓が停止するまでの平均時間は13~15分間。
 2006年12月25日、クリスマスのこの日に、日本全国3か所の刑場で合計4人の死刑が一斉に執行された。長勢甚遠法務大臣の命令によって、東京2人、大阪1人、広島1人。東京の2人は、77歳と75歳だった。75歳の死刑囚は、自力歩行すらできない車椅子の障害者であり、敬虔なクリスチャンとなっていた。
この背景について、著者は次のように解説しています。死刑判決が急増し、2006年には21人に死刑判決が確定していた。そこで、確定死刑囚は12月段階で98人に達していて、法務省幹部は何としても100人を超えないようにしたいという打算が働いていた。その後、結局100人は超えたのですが……。
確定死刑囚との面会は法務省の通達などによって厳しい制約があり、親族など一部の例外を除くと、原則としてほとんど不可能だ。
2007年までの10年間に死刑執行された死刑囚をみてみると、判決確定から執行まで平均8年。ところが。2008年の1年間で執行された15人のうち、12人は4年未満だった。このうち2人は2年未満だった。
死刑執行を命令したのは、鳩山邦夫法務大臣が13人で最多、長勢甚遠法相が10人で2番目。
2007年の確定死刑囚は107人。死刑執行は2008年に15人で最多だった。
死刑囚の処遇と、判決の執行について、考えさせられる本でした。
 
(2009年7月刊。1600円+税)

知事抹殺

カテゴリー:司法

著者:佐藤栄佐久、出版社:平凡社
 7年ほど前のことですが、日弁連の人権擁護大会が福島で開催されたとき、著者は福島県知事として挨拶されました。それを聞きながら、自民党の知事(知事の前は自民党の参院議員)としては、かなり思い切って環境保護を強調していることに驚いたものでした。
 この本を読むと、JC(日本青年会議所)を基礎として政界にうって出て、参院議員のあと県知事になったものの、東京電力のいいかげんな原子力発電所を許さない取り組みに身を挺したことがよく分かります。著者は、東京電力ひいては国家権力のうらみを買ってしまったという思いが強いようです。これは、あながち逮捕され有罪となった人のひがみばかりとは片づけられないと私は思いました。
 著者は収賄罪で逮捕されたあと、宗像紀夫弁護士を弁護人として選任しています。高校の後輩にあたるというわけですが、宗像弁護士とは、知る人ぞ知る、東京地検特捜部長などを歴任した「大物ヤメ検弁護士」です。
 それにもかかわらず、著者は不本意な「自白」をしてしまうのです。
 福島県知事になってからは、原子力、教育、へき地問題、地方分権など、常に県民の視点から権力とたたかい、知事になってからはとくに霞ヶ関とのたたかいをしてきた。しかし、国家権力とのたたかいは、そろそろ店じまいしたい・・・。
 検事は取調べのとき一面トップで事件を報じる読売新聞を示し、自白を迫った。外部の情報から遮断され、弁護士との接見以外に情報に接する手段をもたなかったから、この記事がきっかけになって、事実無根であるにもかかわらず、最終的に罪を認める決意を固めた。
 検事は拘置所の取調室で言った。
 「佐藤知事は、日本にとってよろしくない。抹殺する」
 原子力発電所での事故隠し、データ改ざんを問題とし、国の原子力発電事業に従わなかった。知事会のなかで道州制に反対した。まちづくり条例で大型ショッピングセンターの出店を規制した。このようにして「霞ヶ関」の官僚とたたかった。これに対して、別のパンチが東京地検特捜部から繰り出されてきた。これが事件の本質である。
 本当だとしたら、恐ろしいことですよね。著者は結局、「自白」調書をもとに有罪となりました。懲役3年、執行猶予5年の判決です。
 東電サイドからすると、著者のせいで、社長経験者が4人、しかも経団連トップをつとめた人物まで吹っ飛ばされたという恨みがある。誇り高い東京電力からすると、このうえない屈辱だったであろう。東電には、佐藤栄佐久、憎しという感情が渦巻いた。
 なーるほど、そうかもしれませんね。それにしても、県知事の被告人、そして弁護人は元東京地検特捜部長という陣容であっても不本意な「自白」をするというわけです。ほんとうに世の中は恐ろしいものです。
 紀伊半島に行き、熊野古道をちょっとだけ歩いてきました。幸い天気に恵まれ、すがすがしい空気のなか、山深い古道を歩いて、少しは身も心も清められた気分を味わいました。
 夜はわたらせ温泉に泊まり、親しい友人たちと近況を報告し合い、明日への英気をたっぷりと養って帰って来ました。
(2009年9月刊。1600円+税)

建築する動物たち

カテゴリー:生物

著者 マイク・ハンセル、 出版 青土社
 ハキリアリというアリは、最近ではかなり有名です。南アメリカに住み、葉を切り取って巣に運び、専用のキノコ畑を栽培しているアリです。その巣は地下6メートル、800万匹の成虫と200~300万の卵や幼虫がいます。その巣にセメントを流しこんで型をとった写真が紹介されています。セメントを6.7トンも流しこんだのですが、そばにいる人間が小さくしか見えません。それほど、スケールの大きい巣なのです。
 シロアリの大きな塚がある。そこには、塚の表面を風が通ると、頂上部分では気圧が根元に比べて小さくなるから、空気が塚の上部から流れ出て、下のほうから侵入することになる。こうやって、塚の中の換気が実現する。うへーっ、す、すごいですね、これって……。
 ハチやアリといった社会性昆虫の巣作りにおける組織系統の実態がわかってきた。それは人間とは異なり、リーダーシップなるものが存在しない。責任者という個体や個体群はいない。階層的な構造や管理部門もない。
 たとえば、シロアリに理解や判断はほとんど要求されない。シロアリは仕事を探しまわるだけで、作業の方法については、自分のなかから、そしてつくる場所は建物自体から指令を受ける。いったん着手した仕事は、誰がやってもコミュニケーションの必要もないまま続いていくし、完成する。うむむ、そういうことなんですか……。不思議ですね。
 ニワシドリのメスにとって、配偶者の選択は、それを探す情報量においても決心するまでに注ぎ込む時間と労力においても複雑な過程である。メスは巣を作る前から、オスの不在の折を狙っていくつかのパワー(巣)を訪れて点検する。そして、次にオスがいるとき、そのうち、いくつかにもどって求愛ディスプレーを見る。しかし、まだ交尾しない。それから1週間ほどかけて産卵のための巣作りをしてから、前に訪れたパワーのいくつかに改めて戻って、再び、選ばれたオスの求愛を受ける。そして、最終的に、そのうちの一羽と交尾する。
 メスが慎重にオスを選ぶというのは、ゴリラやチンパンジーだけではないようです。もちろん、人間についても言えることでもあります。だから独身の男女が増えているのでしょうか……。
(2009年8月刊。2400円+税)

無人島に生きる十六人

カテゴリー:日本史(明治)

著者 須川 邦彦、 出版 新潮文庫
 小学生のころ、『十五少年漂流記』を読みました。この本は、日本版の『十六人おじさん漂流記』です。
 いやはや、明治の日本人の偉大さに、ほとほと感心しながら、一気に読んでしまいました。最後はレストランでランチを食べながら、頁を繰るのがもどかしいほどでした。
 『十五少年漂流記』はフランスのジュール・ヴェルヌによる、実体験を基にした創作です。ところが、このおじさん漂流記のほうは、あくまでも実録なのです。そして、著者が生存者から聞き書きしたものですから、とても読みやすいのです。
 なにより、16人の大人たちが難破して無人島に上陸したあと、どうやって生き延びたか。そこで、どんな工夫をして全員が生き残ったのか、実に分かりやすいのです。最後まで、何年かかろうと生き延びようとしたという執念には感動に心がうち震えてしまいます。
 16人は、無人島で規則正しい生活を送ります。決して生存をあきらめません。仕事は全員が順番にこなします。
 見張りやぐらをつくり上げます。その当番を毎日、交代でします。炊事、たきぎ集め、まき割、魚とり。かめ(海亀)の牧場をつくり、その飼育当番も決めます。海水から塩もつくります。宿舎掃除、洗濯、万年灯(いつでも火ダネは絶やしません)、雑用そして臨時の仕事。近くにみつけた宝島までの往復。よくぞ16人全員が病気せずに生き残ったものです。
 そして、感心することには、この無人島に学校まで開設したのでした。船の運用法、航海法そして、漁業水産、さらには数学と作文までありました。さすがは、わが勤勉なる日本人です。といっても、実は全員が生粋の日本人ではなく、もとはアメリカ人で、日本に帰化した海の男もいました。だから、英語と日本語の授業まであったんです。
 明治31年秋、ハワイの近く、ミッドウェー島の近くで遭難し、翌明治32年12月に日本に全員が帰国できました。
アオウミガメ(正覚坊)の肉は美味しい。それは、海藻を食べているから。アカウミガメの肉はにおいがあって、食用にはならない。魚など、肉食しているから、においがする。
野生のアザラシと仲良くなって、一緒に遊んでいたというのにも驚きます。
 ぽかんと手をあけて、ぶらぶら遊んでいるのが一番いけない。夜の見張り当番は、若い者にはさせられない。月を見ていると、急に心細くなって、懐郷病にとりつかれてしまう。
 無人島で16人の大人が生きのびたのは、次の4つの約束を守ったことによります。
 一つ、島で手にはいるもので暮らしていく。
 二つ、出来ない相談を言わない。
 三つ、規律正しい生活をする。
 四つ、愉快な生活を心がける。
すごいですね。明日、死ぬかもしれないという状況に置かれながら、絶えず笑いを忘れないように心がけたというのです。
 アザラシと友だちになれたのも、そんな約束を実践していたからでしょうね。
 毎日あくせく暮らしているあなた、南の島で一人取り残されたとき、こうやって生き延びられるというのを空想してみるのもいいことなんじゃないですか。
(2008年6月刊。400円+税)

熱帯の夢

カテゴリー:生物

著者 茂木 健一郎、 出版 集英社新書ヴィジュアル版
 アメリカ大陸、中央アメリカにある小さな国、コスタリカは、軍隊を持たない国として有名です。そして、熱帯雨林を積極的に保全し、観光資産としています。私も一度は行ってみたいと思いますが、言葉の問題もありますので、実際に行くのはフランス語圏に決めています。
それはともかくとして、コスタリカの国土は5万平方キロメートルですから日本の7分の1以下となります。そこに、1000種類もの蝶が生息している。日本の蝶は230種類でしかない。コスタリカの蝶は、日本の30倍以上の「種密度」となる。
 ヘレノールモリフォチョウは大きな目玉模様をいくつも持っています。そして、羽を開くと、その裏に怪しげなまでに輝く青色を示します。羽の鱗粉の構造と光の干渉によって
もたらされる輝きです。
 擬態について、次のように著者は説明します。はたして、この説明は完璧なものなのでしょうか。私には、いささか疑問です。
 ドクチョウやトンボマダラには、それに擬態した蝶や蛾がいる。これらの蝶そっくりの羽をしているが、ほんとうはまったく別の系統の種で、体内に毒もない。それが、長い進化の過程で似たような姿かたちになる。もちろん、あの蝶に似ようと意識してやるのではない。遺伝子の変異によって、さまざまな色かたちの個体が生まれるなかで、たまたま毒をもった蝶に似ている形のものが淘汰の中で有利となり、より多くの子孫を残す。そのような微小な変異が積み重なって、やがてそっくりの外見になる。
 どうなんでしょうか。蝶にも「種としての意思」があるのではないでしょうか。そして、「たまたま」ではなく、何かの意図にもとづいて毒をもった生物に似せようとしていると解すべきではないのでしょうか。著者は種としての生きものの「意思」を、あまりにも無視しているように思われてなりません。
 東大の理学部をでて、法学部を出て、さらに大学院で物理学を修めたという学者です。恐るべき優秀さですね。すごい学者が脳についてとても分かりやすく語ってくれますので、私はずっと愛読者です。
(2009年8月刊。1100円+税)

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