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カテゴリー: 生物

裏山の奇人

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 小松 貴 、 出版 幻冬舎新書
 新書版としては新刊なのですが、実は10年前に東海大学出版会から同じタイトルで出版されていて、その復刊本(新書)なのです。カラー印刷なので、見てるだけでも楽しい新書になっています。
10年前は九大につとめていた著者は、関東に移り、また、結婚して、2人の息子がいるとのこと。奥様のコトバがすばらしいです。
 「コマツは組織に飼われたら絶対ダメ。自由におやり、私が養ってあげる」
 そのコトバのおかげで、著者は相変わらず、裏山で自由に生き物(昆虫)たちとの悦楽の時間を過ごしているようです。すごいですね。幼いころから昆虫好きだったとのこと。私もアリの行列に見とれ、その行き先をたどった記憶はありますが、石をひっくり返し、巣穴をのぞいたことはありません。そして、著者はなんと、アリに寄生する虫を発見したらしいのです。好蟻性昆虫と呼びます。このアリヅカコオロギの研究で20数年後に、飯を食うなど想像もしていなかったとのこと。そりゃあ、そうでしょう…。
 昆虫観察を成功させるコツは地元の人を決して敵にまわさないこと。いかに地元の人たちに赦(ゆる)されるかが肝心。要するに、変な奴と警戒されないようにすることなんですね。
 わが家の庭にはモグラが棲みついています。先日もチューリップの球根を植えたところが大きく盛り上がっていて、球根が地上に放り出されていました。トンネル内にあった泥を地上に押し出した後です。モグラはミミズを食べて生きていますので、決して球根なんか食べませんが、球根を邪魔者扱いにして地上に放り出すので困ります。
 このモグラの小型をヒミズと呼び、著者はずっと観察しました。
 ヒミズは、ある面ではとても賢いけれど、別の面ではとてもバカな生き物らしい。
 著者は森の中で、野ネズミを観察しようと夜に待ち伏せした。たった1人、暗い夜の森にじっと座って待つ。足を動かすと地面を振動が伝わるので、足は動かせない。鼻水が流れてもすすると、その音で警戒されるので垂れ流しのまま…。いやあ、寒い中、大変な作業ですね。おかげで動かず、音を出さないと、人慣れしていない野生動物でも至近で観察できることを学んだそうです。
いま、西日本新聞に連載中の昆虫博士・九山宗利先生に手ほどきしてもらい、今は尊敬しているとのことですが、初対象の印象は次のとおり。
 その見た目の胡散(うさん)臭さ、まがまがしさ…。いやはや、なんということでしょう。でも、恐ろしく博識で頭が切れるというホメコトバが続くのです。
 好蟻性昆虫の研究なんかして何の役に立つのか、そんなもの研究する価値があるのか…。よくある疑問です。でもでも、すぐに役に立たなくても、ひょっとして何かの役に立つかもしれないし…。学問って、すぐ目の前の役に立つ者ばかりではありませんよね。
 好蟻性生物は、いずれもアリに寄り添い、利用するために特殊な進化を遂げた、選りすぐりの精鋭ぞろい。アルゼンチンアリのようなアリの放浪種には、1コロニー内に女王が何十匹もいるので、たった1匹でも女王を駆除しそうになったら、すぐに増えてしまう。
天敵というのは、害虫の密度を抑えるのには役立つけれど、滅ぼすことはできない。
ツノゼミは、アリに守られた状態でよく見つかる。ツノガミが排泄する甘露をなめるため、アリがたかるのだ。
 奇人・変人がいるからこそ世の中の進化はあるのです。常識人ばかりでは困るのですよね。そのことがよく分かる本でもありました。
(2024年7月刊。1400円+税)

ザトウムシ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 鶴崎 展巨 、 出版 築地書館
 クモみたいだけど、クモではない、脚長の生き物。このザトウムシを高校生のころから50年ものながいあいだ研究しているという著者による本です。すごいですね、まったく見上げた執念ですよね。
ザトウムシは座頭虫。歩くとき、最長の第2脚を前方に伸ばして周囲を探るような姿勢をとる。その姿が、前方を杖で探りながら歩く姿に似ていることから、江戸時代にザトウムシと呼ばれるようになった。
 ザトウムシは、山地の森の中で、人知れず、ひっそりと生きている。
 ところが、手塚治虫のマンガ「きりひと讃歌」に出てくるし、野田サトルの「ゴールデンカムイ」にもザトウムシが非常に正確に描かれている。手塚治虫は昆虫好きでも有名でした。
 クモとザトウムシの違いは、2つ。クモは腹部と頭胸部とのあいだが細くくびれているが、ザトウムシはずんどう。そして、眼はザトウムシは2個なのに、クモは8個か6個の単眼をもっている。
ザトウムシの細い脚は、古生代の化石として登場するときも今と同じく細く長い。
ザトウムシは、1年に1世代。
ザトウムシは、小型の昆虫やクモ、陸見、ミミズを食べる。食性幅が広いので、クモと違って食べ物には困らない。
 クモは消化した液体しか取り込まないので、不消化物が少なく、ほとんど糞が出ない。ザトウムシの糞は、白いペレットとして肛門から排泄する。
 ザトウムシを飼育するときの餌(エサ)は、カロリーメイト、食パン、魚肉ソーセージ、チーズなど、どれもよく食べる。そして、水をよく飲む。
 オスとメスは向きあって交尾する。オスはメスに餌を提供して長い交尾時間を確保している。この餌を婚姻贈呈という。メスは平均で7個体のオスと交尾している。
 ザトウムシには、メスしか見つからず、産雌単為生殖種と考えられるものが多い。日本産のザトウムシの1割にあたる8種がそうである。
 ザトウムシでは、子を保護するのをオス(父親)もする。
 ザトウムシは、世界には6300種いて、日本には80種いる。
ザトウムシは、人を咬んだり刺したりすることはないので無害だけど、人の生活に目立つ益もない。ただし、森林害虫を捕食している。
蛇足ながら、著者の長男は、TBSテレビのクイズ番組で初代の「東大王」だったそうです。マニアックなところが似たのでしょうね、きっと…。
(2024年8月刊。2400円+税)

農はいのちをつなぐ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 宇根 豊 、 出版 岩波ジュニア新書
 庭に植えたカボチャは花こそたくさん咲いたのに、ひとつも実がなりませんでした。なぜ、でしょうか…。残念です。来年はもう少し研究して植えつけ、育てるつもりです。
サツマイモのほうは、地上には勢いよく葉が繁っていますが、肝心の地中部分はどうでしょうか…。今月末から11月にかけて掘り起こすつもりです。実は、これまで何回もチャレンジしましたが、毎回、うまくいきませんでした。野菜育ての本を立ち読みすると、ツルの先端が少しばかり上向きになっているのが良いのだそうです。そこまでの目配りはしていませんでした。果たして、どうなることやら…。
 もう一つ、アスパラガスを昨年、植え替えました。今のところ、あまり調子良くはありません。来年の春に、太い芽を次々に出してくれたら、うれしいのですが…。
 「百姓」という言葉は、「日本書紀」に登場しており、決して差別語ではない。明治以降の歴史教育が差別を助長した。今では「百姓」という言葉のイメージは、明るさを取り戻している。そうなんですよね。また、士農工商も、以前と違って、格差を意味していないそうです。
稲株のまわりにはオタマジャクシが35匹いる。オタマジャクシは、10アール(1千平方メートル)あたり20万匹が生息する。しかし、カエルになって翌年また会えるのは1千匹。残りの19万9000匹は、いったい、どうなったのか…。きっと、その多くは食べられたのだろう。
赤トンボは、毎年、東南アジアから飛んでくる。海の上を20日も飛ぶことになる。
花粉はミツバチの幼虫の餌食になる。
 稲穂は刈り入れる直前、交雑したがっている。
江戸時代の百姓は80%、明治時代には64%、大正時代には57%、1960年には37%だった。ところが、1990年に14%、2020年には、わずか3.8%。
ごはん1杯は、米粒3000~4000粒、つまり稲3株となっている。
野の花が咲き乱れるには、適度な草刈りが必要。
食べるということは、「いのち」を奪いながら、「いのち」を引きつぐこと。すごい行為だ。
 農業の営みを私たちはもっと大切にしなければいけませんよね。自給率から3割のまま、大軍拡して、ミサイルをどんどんアメリカから買い入れても、日本人が生きのびることができるはずもありません。
(2023年11月刊。990円)

植物の謎

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 日本植物生理学会 、 出版 講談社ブルーバックス新書
 ショ糖の甘みを100とすると、ブドウ糖は70、果糖は80~150。果糖の甘みに幅があるのは、甘みが温度の影響を受けるから。果糖には2種類(αとβ)があり、β型の果糖は温度が低くなると、α型より3倍も甘く感じられる。ところが、これに対して、ショ糖やブドウ糖の甘さには、温度で変わる性質がない。
 マンゴーには果糖が糖の34%を占めているため、低温にすると甘みが増す。パイナップルとバナナには果糖の比率が低いので、低温にしても甘みは増やさない。
 イチゴの甘みは、含まれるショ糖の濃度に依存する。イチゴを栽培するとき、温度が高いと、甘みを主体とする美味しさの成分をじっくり蓄積できないまま、大きさだけどんどん成長してしまう。温度が低いと、美味しさの成分が十分に蓄積されるので、甘みの強いイチゴになる。
 ダイコンは、すりおろされて初めてイソチオシアネートを発生し、強い辛(から)みを感じる。そして、ダイコンの尻をすりおろしたときのほうが辛みを強く感じる。それは、維管束の密度が高いから。
 リンゴやジャガイモを切ってそのままにしておくと、酸化反応が起きて、タンパク質やアミノ酸などと結合し、赤や茶色に変わる。リンゴの切り口を塩水につけると、塩化物イオンがポリフェノール酸化酵素のはたらきを阻害するため。
 生き物のからだの形は、必ずしも必然性からそうなっているとは限らず、とくに良くも悪くもないので、とりあえずそんな形をしているという事例が多々あると一般に考えられている。
葉緑体の機能が低下して葉の老化がはじまると、植物は葉を落とすため、葉柄の付け根に「離層」という細胞層をつくる。
 植物は「積極的に」老化している。スイカは細胞の数は増えないまま、細胞の一つひとつが大きくなっている。
 バナナは「木」ではなく、多年生の「草(草木。そうほん)」。そして、一生に一度だけ果実をつける。果実ができると地上部は枯れるが、地下部は生きている。
 ニホンタンポポは、自家不和合性なので、雌しべの柱頭は、別の個体の花粉を受粉することが必要。
 「経験によって行動(反応)が永続的に変化する」というのを学習の定義だとすると、植物には学習する能力があると言える。
 オジギゾウにも人間と同じように体内時計があり、およそ24時間周期のリズムをもっている。植物の謎をたくさん解明することができました。
(2024年3月20日刊。1100円)

植物園へようこそ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 筑波実験植物園 、 出版 岩波科学ライブラリー
 わが家の庭にもサボテンがあります。北海道・阿寒湖のマリモのような丸い球型が、もう何十代と育っています。決して一定の大きさ以上は大きくならないのも不思議な気がします。
サボテンは2000種あり、その先祖は3500万年前に熱帯アメリカの林で暮らしていた木。乾きに耐える特殊な光合成を営み、茎には水を貯える細胞が発達していた。
 刺(とげ)は、サボテンの武器砂漠でさまよう動物に食べられないように発達した。
 最小の表面積で蒸散をおさえながら、最大の体積で水を貯えることができる形は球。
 その臭いで有名なショクダイオオコンニャク。この花粉を運んで、受粉するのは、腐った肉を食べる甲虫。シデムシの仲間。花を腐肉と勘違いしたシデムシを集め、受粉してもらうための臭い。
 満開となる深夜に突然、すさまじい腐敗臭を放つ。これは夜行性のシデムシの行動に適応した進化の結果。臭いがしているときは38度になる。発熱している。次に花が咲くまで何年もかかる。
 ラン科は、キク科と並んで、植物でもっとも種数の多い科。これまで2万8千もの種が記録されていて、今なお毎年500もの新種が発見されている。うひゃあ、すごーい、です。
 それは、ランの花粉を運んでくれる動物の種類が大胆に変わったことによる。確実に受粉できるよう、パートナーとする動物が近づきたくなる花の色、形、においがさまざまに進化していった。
 いったい、これは誰が、どうやって変えていったというのでしょうか…。神様がしたというのは一つの考えだと私も思うのですが、ではなぜ、神様はそんなに世の中を複雑にする必要があった(ある)というのでしょうか…。神様ではなかったというのなら、誰が、どうやってデザインを考え、工夫し、さまざまに変えていったのですか…。まったく不可思議の世界ですよね。
 前にもその名前を聞いたことがありますが、「奇想天外」という和名(本名はウェルウィッティア・ミラビリス)をもつ植物がいます。
 アフリカのナミブ砂漠を原産とし、1000年以上も生きるという植物です。まったく信じられないほどの長命です。屋久杉に匹敵しますよね。
 ランは、非常に小型の種子をつくるという特徴がある。種子が小型で軽いので、遠くまで飛んでいく。それと引き換え自力では成長できない。そこで、ランは菌類と共生する。共生菌との関係がランの種分化や生態に影響している。
 ランの種子には胚乳がなく、菌に感染して、菌から栄養を奪って発生するため、菌の感染なしには発芽できない。ランは、ひとつの果実に数千~数十万個の種子をつくるので、ひとつでも果実がとれて培養できたら大量に増やすことができる。
 さあ、植物園にも、動物園だけでなく、行ってみたくなりましたよね。でも、解説してもらわないと、その良さ、面白さが分からないのが、動物園とは違った点でしょうか…。
(2024年7月刊。1500円+税)

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