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カテゴリー: 中国

台湾のデモクラシー

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 渡辺 将人 、 出版 中公新書
 これは面白い本でした。「台湾危機」をあおり立てる風潮が強まっているのは、軍備予算を拡大させて自分の金もうけにつなげようとする腹黒い人間がいかに多いかということだと思います。まあ、それにしても、この本を読んで、つくづく私をはじめ日本人の多くが台湾のことをちっとも知らないことに気づかされました。
台湾には「四不一没有」がある。四つのノー、ひとつのない。中国共産党が台湾に軍事力を行使する意思がない限りは、台湾の独立を宣言しない。国号を変更しない。憲法に「二国論」を盛り込むことを推進しない。現状を変更する統一か独立かの国民投票を推進しない。国家統一綱領や国家統一委員会の廃止をめぐる問題もない。
 つまり、台湾の人々の多くは台湾の独立を望んでいるけれど、それが中国と戦争することを意味するのなら、もう少し先送りして様子をみようという賢明な選択をしているわけです。
 それなのに、自民党の麻生太郎のように「台湾危機」をあおりたて、いざとなったら日本は戦争しても台湾を守るなんてバカなことを放言したのです。戦争が起きないようにするのが政治家の勤めなのに、お金欲しさに馬鹿なことをヌケヌケと言ったのです。許せません。
 長く台湾を支配してきた国民党は一般庶民に直接訴える必要はなく、団体を通じて有権者を動員できると考えてきた。それに対して民進党は、社会的な草の根組織がなかったことから、市民を動かすために宣伝する必要があった。
 アメリカと違って戸別訪問文化のない台湾では、辻立ちするか、集会を開くしかなかった。台湾は38年間も戒厳令を体験している。日常が非日常という日々を生きてきた。
アメリカへの台湾人留学生は多く、年間2万人を維持している。アメリカ留学帰りが一番偉く、次にヨーロッパと日本が来る。
台湾は学者閣僚が多い。台湾では、教授は尊敬の対象だ。台湾の政治集会は、台湾特有の夜市文化と一体化している。夜市と政治は、台湾では選挙集会をライブコンサートに進化させてしまった。集会は政策を語る場ではない。地域と同じ体験を共有して確認しあう場。感情の共振こそが大切で、政策論は関係ない。だから音楽が欠かせない。
 テレビメディアが急に党派的になったのは、市場経済の競争原理が関係している。むしろ政治的に色があいまいな人はテレビに出演できない。政治討論番組は生放送ではなく、録画して、編集されている。
 若い人々は台湾語を理解できないことが増えている。
台湾には言論の自由があるため、偽情報も流通しやすくなるというジレンマがある。
台湾が日本と決定的に違うのは、台湾の運動が成果をあげ、成功体験が学生そして市民に共有されていることです。1990年の「野百合(のゆり)学生運動」、そして2014年の「ひまわり学生運動」は、いずれも成果をあげて成功体験が集団的記憶として積み重ねられている。いやあ、これは日本と決定的に違いますね。
10年前に安保法制法反対運動は大きく盛り上がりました。弁護士会も市民とともに集会を開き、パレードをしましたが、若者そして市民のなかに成功体験を共有化することはできませんでした。
台湾について、大変勉強になりました。ご一読を強くおすすめします。
(2024年5月刊。1080円+税)

中国拘束2279日

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 鈴木 英司 、 出版 毎日新聞出版
 公安調査庁のスパイとして中国で逮捕され、6年という実刑判決を受けた著者による体験記です。著者は公安調査庁には中国に内通している大物スパイがいて、今も活動していると推察しています。
 日本の公安調査庁は、オウム真理教のおかげで生きのびている、盲腸のような存在だとみられてきましたので、中国側の認定は誇大視だと思うのですが…。
この本で、中国の刑事司法手続の一端を知ることができました。
 その一が、居住監視。逮捕ではないけれど、拘束されます。その実態は監禁そのもの。3ヶ月間という制限があるが、延長が許されている。そして、この期間は、法律援助(扶助)制度による弁護人は付けられない(付かない)。
著者が居住監視生活に入ったのは2016年7月15日。正式に逮捕されたのは2017年2月。そして、同年5月に起訴され、2020年11月にスパイ罪で懲役6年の実刑判決が確定し、刑務所に収監された。著者が日本に帰国したのは、2022年10月11日。したがって、6年以上、中国で監禁、拘束されたわけです。
 著者に付いた弁護士は、著者からすると、「まったく期待外れだった」。著者が無罪を主張すると言っても、「それはやめよう、罪の軽減をめざしてがんばる」というだけ。著者の主張を否定も肯定もせず、応援することもなかった。「何もありません」「特にありません」としか言わなかった。スパイ罪の裁判だったからでしょうか。裁判は非公開。2回目の公判で判決が下された。
 中国には、「認罪認罰制度」というのがあり、罪を認めて謝罪したら、法律によって刑期が短くなる。しかし、著者はあくまで無罪を主張した。
 ちなみに、弁護士を依頼したら、40万元(820万円)かかるだろうとのこと。これはまた、べらぼうな金額ですね…。
裁判官、しかも最高人民法院の裁判官だった人が著者と拘置所で同室だったそうです。汚職で逮捕された元裁判官です。その元判事によると、中国の「依法治国」は、まったくのインチキ。そんなことは中国では不可能。中国に人権なんてない」とのこと。そして、中国の裁判官は最高人民法院の院長をはじめ、裁判官の全員が賄賂(わいろ)をもらっているとのこと。恐るべきことです。
かなり以前の韓国でも、弁護士が裁判官を接待するのが常識でした。今ではもうそんなことはないでしょうね…。でも、中国では、どうやら、今も、続いているようです。
 アメリカ人(アメリカ国籍を有する人)が中国で逮捕・監禁・拘留されることはないとのことですが、日本人はときどき拘束されています。2015年5月から少なくとも17人の日本人が拘束され、うち5人は起訴されずに帰国した。10人は起訴され懲役3~15年の実刑判決が確定し、3人が服役中、1人は死亡、6人が刑期満了で日本に帰国した。
 日本政府も、大使館、領事館も、日本人保護のためには何もやってくれない。日本人としては寂しい現実です。
(2023年5月刊。1600円+税)

中国農村の現在

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 田原 文起 、 出版 中公新書
 これは面白い本でした。中国については相当数の本も読み、何回か行ったこともありますので、それなりに分かったつもりでいましたが、実はまったく分かっていないことをこの本を読んで、よくよく自覚しました。
 韓国の、かの有名な「爆弾酒」ほどではありませんが、中国の宴会には酔いつぶれるまで乾杯を繰り返す儀式があります。私はそんなことはしたくありませんので、そんなときは、全然飲めないことにして逃げます。実は少しは飲みたくても、ガマンするのです。
 中国官界の宴会には、表向きの賑(にぎ)やかさの裏に、言外に秘められた意味がある。村幹部を含め、現代の「官場」に生きる人々は腹芸に長(た)けた役者であり、タヌキでもある。つまり派手な宴会にしておいて形式的に歓迎を表明しておくと、相手の本意を察した客人は気持ちよく引き上げてくれるだろうということ。だから、そんな腹芸を知らない、うぶな日本人は宴会の翌日、みんなが歓迎してくれていると思っていると、あわわ、まだここにいたの…という反応に出会うというのです。こんなこと、日本では考えられませんよね…。
 農村地帯に住む人々は、大都市の住民と自分たちを比べることはしない。あくまで身近な村人とのあいだで比べて競争する。なので、4階建の家が村のあちこちに次々に建つ。1階は物置きにして、2階に住む。3階と4階は、子どもたちが戻ってきたら、そこに住まわせる。それまでは内装せず、コンクリート打ち放しのまま。
 家は巨大であり、勇壮であり、豪華なものでなければいけない。周囲が4階建の家なのに、自分のところは3階建てというのは「面子(めんつ)を失う」ことになる。こうやって、村から大勢の人々が都会に出稼ぎに出ているところでは、次々に4階建の家が立ち並んでいく。
 中国で分家になるのは、日本と違って、本家が優位に立つことはない。あくまで兄弟間の徹底的な平等の関係が前提であり、兄弟は親の財産を公平に分配する。
 中国では古い古い昔から戦乱の時代が続いたため、非常に流動性の高い社会であった。ここが、日本社会と決定的に違います。日本には地縁的なムラ社会が古くからありましたが、戦乱に明け暮れた中国には、そんなものはありません。では何があるかというと、血縁。安全保障の最後のよりどころは血縁だったのです。すると、どうなるのかというと、血族の中の誰かが出世すると、その人は一族を援助する「道徳的義務」を負うのです。
 もちろん、これは日本にもないわけではありません。でも、韓国や中国ほど一族(血縁関係)に尽くすということはないように思います(私個人もそうですし、私の周囲にも見当たりません)。
 若い農村出身者にとって、大都市は憧れの対象ではあっても、自身との「引き比べ」の対象ではない。都市は働くだけの場所でしかない。
 伝統的な中国の農村には「村八分」はなかった。血縁にもとづく実力関係のほうが大事であり、地縁的な共同体が存在しなかったので、「村八分」というのは村民の行動を制御する力にはなりえなかった。
自分に関係のない人間と付きあうのは面倒くさい。これが家族主義者である中国村民の心情を的確に代弁している。
 中国の農村地帯に入り込んで聴き取りすることの難しさがひしひしと伝わってくる本でもありました。
(2024年2月刊。960円+税)

魔都上海に生きた女間諜

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 高橋 信也 、 出版 平凡社新書
 上海には、20年以上も前に2度ほど行ったことがあります。当時もビル建設ラッシュでしたが、外壁づくりの足場が竹製だったのには驚きました。そして、まさしく人海戦術で高層ビルがつくられていました。ともかく上海は巨大都市、しかも超近代的なビルが林立していました。ここは社会主義でも共産主義でもなく、まごうことなき資本主義の国だと実感したものです。
 この新書は、戦前の上海で母を日本人とする若い女性がスパイとして活躍していて、ついには日本軍によって処刑されてしまうという悲劇の人生を浮き彫りにしています。
 当時、心ある中国人の青年は日本軍の横暴さを許せなかったと思います。でも、それを表立って言ったりは出来ません。それで、人知れずスパイ活動をする青年男女も少なくなかったのだと思います。
 戦後、日本の国会議員にまでなった李香蘭こと山口淑子は、両親とも日本人ですが、父親と親交のあった中国人(藩陽銀行の頭取の李際春)の養女となって、「李香蘭」として歌手・映画俳優になったのでした。
 本書の主人公は、李香蘭より6年ほど早く生まれています。父親は日本に留学中に日本人女性と親しくなり、女性を中国に連れて行き、娘は当時の中国人女性として珍しい高等教育を受け、その美しさから上海では有名な女性となったのでした。日本語もできて、社交的で聡明なことから、国民党CC団のスパイとして活動するようになります。
 当時の上海は日本が全面的に支配することのできない大都会でした。租界として、欧米各国の勢力も無視できなかったのです。
鄭蘋如がスパイとして活動したのは、わずか2年半あまりという短い期間です。そして、その間に、ときの日本首相・近衛文麿の息子・近衛文隆と恋愛関係になったのでした。そして、このことを日本側が知ると、無理矢理、文隆を日本に引き戻してしまったのでした。双方にとっての悲劇だったようです。文隆は、その後、シベリアに抑留され、そこで病死したように思います・・・。
 当時の上海には10万人もの日本人が生活していた。そして、鄭蘋如は、和平派の日本人グループと深く交流していた。
彼女の処刑に至るまでには、日本軍の判断が深くかかわっていた。
当時、上海は、常に中国の政治の象徴的存在だった。1930年代の上海の人口は360万人。ユダヤ人も2万人が住んでいた。フランス租界の警察署長は青幇(チンパン)のボスであり、租界の影の実力者だった。
父親は、日本留学から戻ると、一貫して国民党員であり、抗日意識をもった法務官僚だった。
 鄭蘋如は、上海法政学院に入学し、23歳のとき、上海のグラフ雑誌の表紙を、その顔写真が飾った。なるほど、いかにも近代的な美人です。知的雰囲気にみちています。
 日本軍が設立した放送局のアナウンサーとしても働いたことがあります。
 鄭蘋如を「コミンテルンのスパイ」とした本もあり、当時の上海の混沌とした状況をうかがわせています。
1940年2月半ば、鄭蘋如は日本軍によって、上海郊外で処刑された。
母親は台湾に去り、そこで死亡。妹はアメリカへ移住。
ここにも悲劇の一つがありました。
(2011年7月刊。860円+税)

シン・中国人

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 斎藤 淳子 、 出版 ちくま新書
 今の日本では、「中国脅威論」なるものが大手を振るって通用し、自民・公明がすすめている途方もない大軍拡予算を支えています。
 でも、それって思い込みでしょう。自民・公明そして維新などの政治家、さらには軍事産業でもうけようとしている人たちによる世論操作に乗せられているだけです。私はそう思います。戦争のないようにするのが政治家の役目なのに、今にも戦争が起こりそうだと危機をあおって、自分たちはひそかに金もうけにいそしむ。それが自民・公明の政治家たちの正体ではありませんか…。
 この本は「脅威」の対象となっている中国の若者たちの実情の一端を伝えています。
 まず私が驚いたのは、中国には離婚にあたってクーリングオフ(「冷静期」)があるというのです。離婚手続申請後の30日間は、手続きをいったん凍結するのです。日本でも、「共同親権」なんて実情にあわない馬鹿げた、しかも怖い手続を導入するより、よほどいいかもしれません。
 さらに驚いたことは、恋愛中の(そして結婚している)男性は、女性にスマホのパスワードを開示する習慣があり、男性は断れないというのです。カップル間では一切の秘密があってはならないというわけですが、果たして現実的なのでしょうか…。
 そして、結婚するとき、男性側は新婦側に結納金を贈る必要があり、今では、その相場が18万元(360万円)になっているというのです。この結納金を新郎側から新婦の家に贈る習慣は2千年以上の歴史があるそうですが、昔はこんなに高額ではなかったのです。
 ところが、一人っ子政策、そして男性が女性より圧倒的に多くなってしまった結果、結婚したければ高額の結納金を支払えということで、年々、高額化していったのです。
 さらに、今では、結婚したいなら、男はマンションを準備しなければいけないという「新しい常識」が定着しているというのです。しかもそのマンションたるや、1億円だったら安かったよね…というほど値上がりしています。マンション購入はカップルではなく、新郎側のファミリー全体のプロジェクト化しているのです。いやはや、お金がなかったら、結婚できないというわけなので、これも恐ろしい社会だというしかありません。
 北京在住26年という日本人女性が、中国人の生活の変貌ぶりを生き生きと伝えていて、驚きながら一気に読み通しました。
(2023年2月刊。860円+税)

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