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カテゴリー: 社会

神さまとぼく、山下俊彦伝

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 梅沢 正邦 、 出版 東洋経済新報社
松下電器産業といえば、子どものころテレビのコマーシャルで、「明るいナショナル、……なんでもナショナル」という軽快なソングを耳にタコができるほど聞かされ、親しみのもてる会社ナンバーワンでした。テレビだって洗濯機だって冷蔵庫だって、みんなナショナル製だといって不思議ではなく、その高い性能にすっかり安心して生活していました。
日曜日の朝、起きてくると、パンの焼けたいい香りが家中に広がって幸せな気分に浸ることができました。自動パン焼き器は我が家も購入しましたが、あれは本当にクリーンヒット製品でしたね。月に5万台も売れたとのこと。1987年ころのことです。
ところが、今やパナソニックという名前に変わって、かつての松下電器の威光(栄光)は、みるかげもありません。本当に残念です。永遠に続くかと思われた大企業の繁栄が、わずか20年ほど、ガタガタと崩れ去っていくのをこの目で見て、驚くばかりです。
そういえば、かつて三井鉱山といえば、天下の三井の中枢企業でしたが、今は存在しません。日本コークスと社名を変更し、日本製鉄が買収した、単なる弱小の一私企業でしかありません。銀行にしろ、三井銀行という名のものは今ではありません…。世の中、変わりました。
日本のエレクトロニクス産業の生産高がピークだったのは2000年で、26兆円だった。それが、2018年には半分以下の11.6兆円に転落している。ピーク時に1兆円をこえていた薄型テレビは、2018年に494億円になってしまった。ケータイ電話は2002年に1.4兆円だった生産額が17分の1の822億円にまで縮んでいる。ちなみに、韓国のサムスン電子は23兆円の売上高。
松下電器は、強大な「家電王国」だった。そして、「家電王国」から総合エレクトロニクス企業への脱皮・飛躍に失敗してしまった。
山下俊彦が松下電器の社長になったのは1977年(昭和52年)のこと。私がUターンで首都圏から福岡に戻っていた年のことです。私は28歳でした。
山下俊彦は、取締役会の序列は26人いるうち、下から2番目。工業高校を卒業して学閥もなく、松下家とは縁もゆかりもない。松下電器に入社して、いったん退社して再入社している。冷機(エアコン)事業部長から社長に抜擢されたとき、57歳。誰にとっても意外な人事だった。「山下跳び」とか「22人跳び」と呼ばれて世間の注目を集めた。
山下に決定的になかったのは、権力欲求。自己顕示欲も出世欲もなかった。
なぜ、山下俊彦が社長になれたのか、そして9年も社長を続けられたのか、また、その後、パナソニックが急速にダメな会社になっていったのか…。この本は山下俊彦社長誕生の経緯、そして在任中のこと、退陣後を追跡していて、読みごたえがありました。ゴールデンウィーク中に読んだ本のなかでもピカイチです。
要するに、いくら大きな会社であっても、昨日までの実績にあぐらをかいているだけでは、足元をすくわれてしまい、明日はないということです。
山下俊彦を見出したのは松下幸之助ではありません。でも、先の見えない危機感が面識のない、工業高校出身の事業部長を社長に大抜擢したのです。
そして、山下社長の体制でビデオは大当たりしました。1980年ころのことです。
山下俊彦は社内報に「奢(おご)り」を戒めるメッセージを社員宛に書いた。
「ほろびゆくものの最大の原因は奢り。過去の栄光におぼれ、新しいもの、あるいは困難なものに挑戦する気迫を失ったため。強さは、そのまま弱さに転化する。企業は生きている。活力のある企業は栄え、活力を失った企業は衰える。いちどの守りの姿勢になった企業は衰退の一途をたどるのみ」
山下社長退陣のあと、パナソニックは、残念ながら活力を失ってしまったようだ。
山下俊彦は努力の達人だ。その一つは、「忘れる」努力。
私も自慢じゃありませんが、「忘れる」ことにかけては、他人にひけをとりません。今となっては、認知症になって、すべてを忘れてしまうことになりはしないかと心配してしますが…。
長い弁護士生活のなかで、私もたくさん嫌な思いをさせられましたが、幸いにも読書習慣のおかげで、さっと忘れることができ、ストレスをためることがほとんどありません。この書評を書いているのも、私のストレス解消法のひとつなのです。読んだ本で感銘を受けたら、文字にして、それで安心して忘れることができます。人間にとって忘れられるというのは病気にならないためにも、大切な資質の一つだと実感しています。
山下俊彦は9年間の社長で、売り上げを3兆4241億円、営業利益1467億円とした。それぞれ2.6倍に伸ばしている。
松下幸之助は山下俊彦を直接は知らなかった。幸之助は「ツキ」が大事だと考えていた。そして、幸之助は山下にこう言った。
「キミはツイとる。ツイとるヤツを、ワシは見つけたんや」
社長になる前、事業部長の山下は定時退社を実践していた。机の上に余分な書類は一切置かない。引き出しのなかにもハンコが1個あるだけ。
部下が山下にあげる報告書は1枚が原則。指示が求められると、その場で即答する。保留するときも、自ら期限を切った。
リーダーの役割は、早い決断だ。ダメだったら、やり直せばいいだけのこと。
山下は、仕事とは主体的にするものだと考えた。自ら意欲をもち、自ら計画を立て、さまざまに工夫し、前進し、目標を達成する。それが仕事だ。
社長になった山下は午前8時少し前に出社する。午前9時までは誰も入れない。午前9時から30分刻みで予定を入れていく。それ以下はあっても、延びることは絶対ない。それで、飛び込みのアポが入ってきても、まかなってしまう。
山下の考えは、自己責任の原則のなかに人間の主体性が生かされるというもの。
山下は欲がない、ウソがない、虚飾がない、人に対して分け隔てがない。
山下は若い社員にこう問いかけた。
「みなさん、毎日が楽しいですか」
「みなさん、仕事は面白い?」
山下はノイローゼにならないため逃げ方の道具の一つとして健全な趣味をもつことが大切だと強調した。山下には読書のほか、登山はあった。そのため、早朝4時に起きてジョギングした。
山下の松下電器は、ビデオVHSが大当たりした。年間生産10万台が月間14万台となり、累計200万台となった。
日本が世界の半導体産業のなかトップを占め「天下」をとっていたのは、わずか6年間だけだった。アメリカに再逆転され、韓国・中国に追い抜かされた。
松下家を守り育てるなんていう発想があったら企業は伸びるはずもありませんよね…。と書いたとたんに、トヨタ自動車を思い出してしまいました。トヨタでは豊田家が依然として重用されているようですね。これまた信じられません。ニッサンもカルロス・ゴーン逮捕以降、パッとしませんが…。もっと会社は従業員を大切にしないといけませんよね。
この本の著者も、「あとがき」で、非正規雇用が日本で4割になっているが、本当にそれでいいのか、人間がただのコストであってよいのかと問いかけています。
もちろん、その答えは断じて「否!」です。
500頁近い大作です。コロナ禍の連休中に所内の大整理のあと必死に読み上げました。
(2020年3月刊。1800円+税)

リープ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 ハワード・ユー 、 出版  プレジデント社
優位性が揺るがないような、独自のポジショニングを追及しても、それは幻想にすぎない。どんな価値提案も、それにどれほど独自性があっても、脅かされないことはない。よいデザインや優れたアイデアも、それを企業秘密にしても、特許があっても、結局はまねされる。
こうした状況の下で、長期にわたって成功するための唯一の方法はリープ(跳躍)すること。先行企業は、それまでとは異なる知識分野に跳躍して、製品の製造やサービスの提供に関して、新たな知識を活用するか、創造しなければならない。そうした努力が行われなければ、後発企業が必ず追い付いてくる。
「模倣の国」と呼ばれたスイスでは、化学会社は自由に海外企業のまねができた。それどころか、模倣が推奨されていた。模倣は大成功し、チバは1900年にパリで開かれた万国博覧会で大賞を受賞している。
企業の経営者は、複雑で、変化する環境を相手にしている。数年前にうまくいったことが、永遠にうまくいくとは限らない。企業は、まだ時間があるうちにリープすればよい。
正しいシグナルに耳を傾けるためには、忍耐力と規律が必要だ。チャンスをつかむためには、必ずしも最初に動くのではなく、最初に正しく理解することが求められる。そのためには、勇気と決断力が必要だ。リープを成功させることとは、一見すると矛盾するこの二つの能力をマスターすることである。この待つための鍛錬と、飛び込むための決断力をバランスよく組み合わせることができれば、その見返りは大きい。
自らが置かれた状況を理解しようと頭を悩ませ続けられる能力こそが、知的なマシンの時代に人間がもち得る最大の強みだ。
大規模で複雑な企業の生活を脅かす最大のリスクは、内部の政治的な争いと、誰も率先して行動を起こさないこと。
企業の寿命は、1920年代には67年だった。今日ではわずか15年だ。アメリカの大企業のCEOの平均在籍期間も、この30年のあいだに短縮している。
いま、私たちは変化が加速している世界に生きている。
そうなんですよね…。でも、昨日と同じ今日があり、明日があると、ついつい思ってしまうのです。その点も大いに反省させられるビジネス書です。
(2019年12月刊。2200円+税)

大東建託の内幕

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 三宅 勝久 、 出版 同時代社
大東建託は1974年(昭和49年)に大東産業として多田勝美が創業し、以来、36年間にわたって企業オーナーとして君臨した。
多田会長の年収は2億5800万円(ストックオプション含む)。田園調布の高級住宅地の敷地500坪に地上2階建、地下1階、のべ床面積300坪という豪邸に住んでいる。
2010年の時点で、大東建託のアパートは全国に6万棟超。戸数は60万戸。2017年では累計で17万棟。管理戸数は100万戸超。実は、私の娘もそのアパートに住んでいます。年間の売上高は9548億円、経営利益739億円、従業員1万3000人、という巨大企業。
そして役員報酬は、常勤取締役10人の平均は1億2000万円。社外取締役7人の平均は1650万円(2017年3月期)。
ところが、従業員の自殺が相次いでいる。厳しいノルマに追い込まれるのだ。朝8時から深夜まで、毎日15時間以上の長時間の労働で疲れてしまう。
建築営業は「終日時間」という飛び込み営業をさせられる。大変な苦痛だ。そして夜8時半に支店で終礼をする。
ノルマには、「契約のノルマ」と「プロセスのノルマ」の二つがある。「契約のノルマ」は、毎月、アパート建築の契約をとれというもの。「プロセスのノルマ」には「八六四三」と称されるものがある。「立地審査」を月8本、「家賃審査」を月6本、「プラン提示」を月4本、「最終業績」を月3本とれというもの。
支店の数字を上げるため架空契約するのは、よくあること。「テンプラをあげる」という。親しいオーナーに頼んで、本当は建てる気がないのに、契約書だけつくってもらい、それを支店の成績として報告する。
埼玉県の中央支店では7人が解雇され、所沢支店では支店長以下14人がクビになった。
30年間の家賃保証というが、実は、これは試算であって、この金額を継続保証するものではないと、小さな文字で契約書には書かれている。10年たつと、この条項によって家賃を減額し、それに応じないと「一括借り上げ」を解消されてしまう。すると、たちまちアパート経営による利益なんかないどころか、大赤字をかかえてしまう。
なので、大東建託でアパートを建てることを考えているのなら、やめたほうがいい。
そうなんです。素人がアパート経営に手を出してうまくいくと考えるほうが甘すぎるのです。世の中、甘い話は怖い話でしかありません。
(2019年7月刊。1500円+税)

幸福の科学との訣別

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 宏洋(ひろし) 、 出版 文芸春秋
幸福の科学の大川隆法の長男が父・隆法の実像を伝えています。まことに父と息子との関係は難しいものだという感想をもちました。
どうやら隆法一家は家庭的な落ち着きと親しみに貧しい雰囲気だったようです。
長男の著者は中学受験に失敗してから、隆法の後継者からドロップアウトしたとのこと。二男の裕太は麻布高校から東大法学部を卒業したのですが、離婚問題をおこしたので、一気に格下げされたとのこと。
今は、後継者として最有力なのは長女の咲也加。咲也加は2代目教祖を目ざしていて、名誉欲、権力欲、自己顕示欲の3つがとても強い。副理事長兼総裁室長。『娘から見た大川隆法』という本を書いている。咲也加は性格がきつく、内弁慶で、友達がいない。
著者は東大法学部に進んでほしいという父・隆法の期待を裏切り、青山学院大学法学部に進み、今は映画づくりにいそしんでいます。後継者候補からはずれたあとも、教団ナンバー3の理事長になったこともありました。3ヶ月でやめたあとは父親・教団のコネで、清水建設に入社しています。
著者は女優の清水富美加との結婚を父・隆法にすすめられ、断りました。清水富美加について、感情の浮き沈みが激しく、二面性がある人、幸福の科学の教義はほとんど読んでおらず、理解していない。しかし、非常にビジネスライクな人物なので、著者との結婚についても打算したのではないか…としています。
著者は大川隆法について、一度も神だと思ったことはないが、感謝の気持ちでいっぱいだとしつつ、自分にとっては、路傍の石の一つ、取るに足らないガラクタにすぎないと言い切っています。
大川隆法という人間は、自分だけよければいいという考えがすごく強い。自分の考えに異論をはさむ人間は徹底的に叩く。
大川隆法の妻・きょう子はずっと教団ナンバー2だった。きょう子本人は、自分のおかげで教団が大きくなったと主張しているが、組織が大きくなりすぎて、そのポジションをつとめることが能力的に難しくなり、隆法と夫婦ゲンカして教団から追い出された。
きょう子は、離婚するまで、警察に相談に行ったり、自宅保全の仮処分を申請したりしている。
隆法は妻きょう子とは実は離婚したくなかったのだと思う。
両親の離婚に際して5人の兄弟(姉妹)が集まり、「きょうだい会議」を開き、全員一致で父親につくことを決めた。稼いでいる父親につかないと、生活できなくなることが最大の理由だった。
きょう子はヒステリーがひどい人。これに対して、父・隆法の唯一良いところは、ブチ切れることがないこと。怒ったら、怒鳴りつけるのではなく、10分間も2時も、ネチネチ説教するタイプ。暴力は一切ふるわない。むしろ、母・きょう子は瞬間湯沸かし器みたいで、よくぶたれた。
幸福の科学の信者は、公称で1100万人というが、実数は1万3000人だと著者はみています。2019年の参議院選挙の得票は20万票だった。そして、信者の高齢化のため財政状況が悪化している。信者の平均年齢は65歳。これは64歳の大川隆法と同じということ。
2011年のお布施は300億円あった。このほか、本の売り上げや各種祈願の代金収入などがある。
大川隆法の話は、とにかく長い。聞いているうちに疲れてしまう。内容はたいしたことないけれど、何時間も聞かされると、「すり込み」効果があって、洗脳される。
著書は500冊をこえる。大川隆法の「霊言」は、台本もリハーサルもなく、全部アドリブで2時間は軽く話し続ける。
教団の信者は、自分の意思をもたず、自分では何も決めずに動くことができる。これがカルト宗教の一番の魅力だ。
教団から懲戒免職され、6265万円という巨額の損害賠償請求裁判の被告とされていることから、いくらか割引して受けとめるべきかもしれませんが、書いてあることのほとんどは、よく分かることばかりでした。あなたにも一読をおすすめします。
(2020年3月刊。1400円+税)

ふくしま原発・作業員日誌

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 片山 夏子 、 出版 朝日新聞出版
東京新聞の記者が9年間にわたって福島第一原発の後始末処理にあたっている作業員に取材したものが一冊の本になっています。
作業員は大きなフィルターの付いた全面マスクをかぶらされるが、この全面マスクは毎回、返却し、アルコール消毒はされるものの、使い回しになるので、臭いがする。納豆、にんにく、アルコールなどの強烈な臭いがすると、気持ち悪くなるほど。うへっ、これは困りますよね…。
この全面マスクは慣れないうちは、かなり息苦しい。隙間から放射性物質が入ってくるのを恐れて、全面マスクをきつく締めすぎると、作業できないほど激しい頭痛に襲われる。緩くすると、外気でマスクが曇るだけでなく、放射性物質が入りこみ、内部被ばくする恐れがある。
防護服の素材はポリエチレンの不織布(ふしょくふ)で、放射性物質の付着は防ぐが、ほとんどの放射線を通してしまう。防護服といっても、完全に身を守ってくれるものではない。
原発の仕事の受任は複雑に入り組んでいる。
東電が、日立や東芝、大手ゼネコンなどの元請企業に仕事を発注し、元請企業の下に、第一次下請企業、さらに第二次下請企業と、いくつもの企業が重なる多重下請構造になっている。実際には、7次や8次下請までいるし、下請企業のあいただに、作業員を紹介して紹介料や仲介料をとる仲介業者が入っていることもあり、何次下請企業までぶら下がっているのか分からない場合もある。そして、なかには暴力団関係者がからんでいることがある。
下請企業同士で仕事のとりあいをすることもあり、そんなときには、元請や上の下請の幹部を接待することがある。
福島第一原発の復旧工事の現場では、作業員が次々に亡くなっている。ところが、病名が心筋梗塞だったり、急性白血病だったりして、会社は責任ないと逃げるばかり。
作業途中で汚染れを頭からかぶってしまい、バリカンで丸坊主にされたという人もいる。
3.11のときは菅首相でしたが、そのあとの野田佳彦首相は、12月16日、「事故そのものは収束に至った」と、無責任に断言した。これは、安倍首相の東京オリンピック向けの「アンダーコントロール」発言につながるわけです。
現場作業員は被ばく線の上限がある。3.11の事故前は15~20ミリシーベルトだったのが、事故後は30~50ミリシーベルトへ大幅に緩和された。そして、5年で100ミリシーベルトという国の制約もあった。ところが、これは、年度で「リセット」されるのだった。もちろん、生身の人間への影響が「リセット」されたからといいてゼロになるわけではない。
3.11事故によって、1号機から4号機まで、みな「炉心溶融」したことは今では間違いない事実だ。ところが、今なお東電も政府も公式にはこれを認めていない。東電は清水正孝社長(当時)が、「炉心溶融という言葉は使うな」と指示していた。原発事故の恐ろしさをそのまま伝えてしまうコトバなので、あくまで軽く見せかけようとしたのです。
また、高濃度汚染水も、「滞留水」なるコトバに置き換えられました。これまた、ひどい隠蔽工作です。
3.11事故のあと、東電の社員は次々に辞めていった。社員数3万9千人のうち、例年だと130人くらいの退職者が460人にのぼり、29歳以下が4割超だった。
現場の作業員は仕事をしてお金を稼ぎたいがために、線量を低くしようと工作する。すると、将来、病気になったとき、こんな低線量では病気との因果関係はないと会社から反論される恐れがある。
日当が2万5千円だったのが、1万3千円となり、残業手当がつかなくなった。そして危険手当として1日1万円出ていたのが4千円になった。食費も1日1500円出ていたのがゼロになった…。
現場作業員にガンが多発しているのでは…というレポートがありますが、なんと著者自身が喉頭ガンと診断されたとのこと。これには驚きました。のどのポリープから出血し、吐血したのです。
460頁にのぼる大作ですが、この9年間はあっというまのことです。そして、肝心の原子炉のデブリはまったく手つかずの状態なのです。いったいあと、何十年、何百年と続くのでしょうか…。それでも原発が必要だと言いはる人の気がしれません。
フクイチの事故は決して他人事(ひとごと)ではないのです。
ちなみに、私は映画『フクシマ50人』もみています。吉田所長以下の皆さんが必死でがんばったというのはまったく間違いないわけですが、原発そのものは人間の手にあまる存在だというのを、もう少し強調してほしかったというのが私の感想です。
よく出来た本です。一人でも多くの人に読んでもらいたいと思いました。
(2020年4月刊。1700円+税)

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