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カテゴリー: 社会

本ができるまで(増補版)

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 岩波書店編集部 、 出版 岩波ジュニア新書
 私は地下鉄の電車の中で携帯電話で通話ができることが不思議でなりません。電波って、コンクリートも鉄も瞬時に通過するようですが、理解できないのです。同じように、カラー印刷ができるのも不思議です。いったい、絵の具を誰が、どこで、どうやって混ぜて多彩な色彩を再現できるのでしょうか…。
 黒一色の印刷なら分かります。極小の点々に分けてしまえば、印刷できるというのは理解できます。でも、カラー印刷となると、色を混ぜあわせるわけですが、その仕方がとても理解できないのです。多色刷りの版画なら、きちっと紙をおさえて何回も重ね塗りすれば出来あがるというのをテレビで見ましたし、理解できました。
 この本は、色再現には加法混色(かほうこんしょく)と、減法混色(げんぽうこんしょく)の二つの方法があるとしています。これは絵の具を混ぜるというのとは、根本的に違うもの。CMYK(Cはシアン、Mはマゼンタ、Yはイエロー、Kは黒)の各色について、網点(あみてん)と呼ばれる小さな点のパターンを生成し、それらを重ね合わせることで、色調を再現する。
 ということは、木版画と同じように何回も上から塗っているということなのでしょうか…。誰か教えてください。
 ルネサンスの三大発明は、火薬、羅針盤、活版印刷。このどれもが中国または朝鮮半島に起源がある。なるほど、1300年代に高麗で金属活字を使って印刷された本が今も残っている。すごいことですよね。
活字に用いた金属は鉛。この鉛には、炉から出た瞬間に固まるという特性があり、この性質を生かしている。
 溶けやすく、固まりやすく、かつ硬い金属。グーテンベルクは鉛にいくつかの金属を混ぜあわせて金属活字をつくり出した。そして、油性インキもつくり上げた。
 現代日本では、1年間に32万トンものインキを消費している。
 近代日本で、大量印刷物として出回ったのが、大正14(1925)年に創刊された『キング』。これは創刊号75万部、最盛期100万部というのですから、すごいものです。
オフセット印刷は、多色グラビア輪転機がつくられて始まった。
 インキの厚盛りが可能となり、豊富な色調再現が可能となった。塗り重ねているということでしょうか…。
 かつて印刷所には、金属の活字がたくさんありました。私も見たことがあります。それを取り出して、組み込むのです。その仕事をする人を文選(ぶんせん)工といいました。そして、植字(「しょくじ」と一般には読みますが、印刷業界では「ちょくじ」と読むそうです。初めて知りました)します。
 今では、みんなインターネット(パソコン)にとって代わられています。
 さて、本にするなら、背に接着剤を注入して、すぐに熱風で乾燥させなければなりません。雑誌は針金で閉じこみます。
 今や電子ブックの時代です。私の書いた本もいくつか電子ブックになっています。この電子ブックも進歩していて、「Eペーパー」というのは、液晶画面のように光を発するのではなく、紙に印刷された文字と同じように反射式で人間の目に入ってくるそうです。
私が電子ブックを読まないのは、赤エンピツで傍線を引けないし、フセンを立てることができない、一覧性がないからです。
 入院でもしたら、オーディオブックで落語か古典文学を聴くつもりです。でも、やっぱり紙の本が読みたいです。
 紙製の本がなくなることはない。私の絶対的な確信でもありますが、この本でも再三強調されていて、意を強くしました。
(2025年4月刊。1320円)

日本被団協と出会う

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 大塚 茂 、 出版 旬報社
 2024年12月10日、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)はノーベル平和賞を受賞し、代表社員の田中照巳(てるみ)氏がスピーチをしました。とても92歳という高齢者とは思えない、しっかりした足取りで演壇に立ち、明瞭な訴えそのものでした。
田中氏は長崎で、13歳のときに被爆しましたが、奇跡的に無傷でした。爆心地から3キロしか離れていない自宅にいたのです。このとき、田中氏は、被爆直後の長崎市内を歩いて、惨状を目の当たりにしました。
 「そのときに目にした人々の死にざまは、人間の死とはとても言えないありさまでした。…たとえ戦争といえども、こんな殺し方、こんな傷つけ方をしてはいけない。そのとき強く感じたのです」
 広島市民35万人のうちの14万人、長崎市民24万人のうちの7万人が年末までに亡くなりました。今、日本全国にいる被爆者は10万人を下まわり、平均年齢は86歳をこえる。なので、全国にあった被爆者組織が今では35団体にまで減っている。
 原爆を落としたアメリカ軍の将軍は、被爆の真相を覆い隠した。「死ぬべき者は死んでしまい、9月上旬現在、原爆放射能のために苦しんでいるものはいない」と言い放った。許し難い暴言であり、嘘八百です。
日本人が原爆被爆の悲惨な真相を知ったのは、1952年8月に「アサヒグラフ」が原爆被爆の特集号を出したから。この特集号は、なんと70万部も発行された。被害の惨状を知った日本人は大変ショックを受けたのでした。それから原水爆禁止運動が始まりました。
 しかし、被爆者が自らの被爆体験を語るのは、容易なことではなかった。たとえば、家の下敷きになって動けなくなった母親に火の手が迫っているのを「見捨て」て逃げ出した子どもは、とてもそんな体験を語れるはずがない…。被爆体験はとてもデリケートな問題であって、何年、何十年たっても気持ちの整理のつかない人は少なくなかった。
 そして、体験者が高齢化して人数が減るなか、継承者をつくっていこうという取り組みが進められています。この本のサブタイトルは、「私たちは継承者になれるか」なのです。被爆を自らは体験していなくても、原爆被爆の悲惨な状況を語り伝えることは出来る。私も、そう思います。
 「原爆は、人間として死ぬことも、人間らしく生きることも許さない悪魔の兵器である」
 先日の参院選のとき、参政党の候補者(当選したので、今は国会議員)が、「日本も核兵器を持つべきだ。安上がりの兵器なんだから」と主張しました。原爆被爆の恐ろしさを知らない、いかにも軽薄な主張です。参政党という得体のしれない極右政党が国会のなかで大きな顔をしていくのかと思うと、身の震える、凍える思いがします。
 日本政府は、今なお核兵器禁止条約に加盟していません。アメリカの核の傘に入っていたほうがいいと考えているのです。でも、アメリカが日本を守ってくれるなんて、単なる幻想でしかありません。トランプ大統領の嘘の多いハッタリばかりの発言が何より証明してくれています。それより、9条をもつ平和憲法を世界中に広めましょう。
 著者から贈呈していただきました。とてもいい本をありがとうございます。
(2025年8月刊。1870円)

三池炭鉱の社会史

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 猪飼 隆明 、 出版 岩波書店
 私は一度だけ炭鉱の中に入り、最前線の石炭を掘り出す切羽(きりは)まで行ったことがあります。坑口から、まず炭鉱電車に乗って地底におりて行きます。昭和天皇も炭鉱電車には乗ったようです。それを降りてからが大変なのです。そこから歩いたり、マンベルトに乗ったりして真っ暗闇の中を、頭につけたキャップランプだけを頼りにして、前の人について進みます。マンベルトというのは、ベルトコンベアーに人間が腰かけておりていくものです。なにしろ有明海の海底より更に200メートル以上も深いところに切羽はあります。坑口から切羽までは1時間以上かかったと思います。
坑内は真っ暗です。作業員(坑夫)は昼食とるのも地底で適当にとります。トイレなんてありません。すべては真っ暗闇の中なので、「必要ない」のです。暗闇に慣れるのは決して容易ではありません。正直言って怖かったです。落盤をふくめて坑内で死傷事故は頻発していました。炭坑の経営者は、いつだって出炭成績しか頭になく、安全管理はあと回しなのです。少しくらい給料が良くても、毎日、こんな地底で働くなんて考えられません。身内から相談を受けたら、やめとくように言います。
 オーストラリアの炭鉱は露天堀だと聞きました。すると、そんな暗闇の恐怖は無縁です。でも、イギリスもドイツも地下深く石炭を掘っていましたので、やはり事故は起きていました。
 今でも有明海の海底の地下には炭層があるようです。でも、今の技術ではとても安全に石炭を掘り出すのは難しいと思います。国内の石炭産業を復活させようという声が起きないのは幸いだと私は考えています。
 さて、三池炭鉱です。三井鉱山が国から競争入札に勝って、安く手に入れました。そして、安価な囚人労働を活用して三井資本はボロもうけしたのです。それを推進したのが、暗殺された団琢磨です。今、新幹線の新大牟田駅前に大きな像が建っています。
三井鉱山が直面したのは坑内から湧き上がってくる大量の水の処理問題。これを団琢磨はイギリスから最新式のデービーポンプを購入して設置して解決したのです。そして、石炭積み出しのために港を整備しました。そして囚人労働の活用です。囚人労働の労賃は一般鉱夫の1割ほどだったというのですから、三井はもうかるはずで、やめられません。
 坑内で出火したとき、坑内に鉱夫がいるのを承知のうえで坑口を閉鎖したこともあります。3年後に、水没していた遺体を発見したのでした。
 三井が三池炭鉱を引き継いだとき、鉱夫の7割が囚人だった。いやはや、なんということでしょう…。囚人を使役すると、三井資本は年に5千円以上の利益の差がうまれる。団琢磨は、こう指摘した。
 囚人は真っ赤な獄衣で、素足。そして、出役するときは足に鎖(くさり)でつながっていた。囚人処遇のひどさ、劣悪さを監獄医(菊池常喜医師)が告発するほどだった。
 いまの三池工業高校は、当時、集治監で、1200人前後を収容していた。
 ところが、炭鉱内の機械化が進むと、意欲も能力もない囚人ではまかなえなくなった。
港湾荷役の人夫は、深刻な台風被害を受けて生活できなくなった与論島の島民を連れてきた。
 三池争議のころ、私は小学生でした。自宅のすぐ近くにあった若草幼稚園が全国から駆り出された警官隊の宿泊所と化していました。各地からやって来たオルグ・応援する人々が大牟田市内にあふれました。
 指名解雇して労組の活動家を根こそぎ排除しようという三井資本のあこぎな手口に炭鉱労働者が反発したのは当然です。でも、中労委の斡旋案は、まさしく労組側に屈服させるものでした。
 争議終了後、会社は第一組合といを旧労と呼び、新労組を露骨にエコひいきしました。差別と分断のなか、第一組合員はみるみるうちに脱落していったのです。
 三池炭鉱について、頭を整理するのに、とても役に立ちます。資料価値の高い、貴重な労作です。
 著者は2024年5月14日、80歳で亡くなりました。
(2025年6月刊。3700円+税)

防衛省追及

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 石井 暁 、 出版 地平社
 今回の参議院議員選挙では、本当は日本の大軍拡予算を認めてよいのか、日本を守るためには軍事一辺倒でよいのか、真剣に議論すべきでした。ところが、明日の日本にとっての最重要な争点はすっかり置き去りにされて、外国人犯罪は少なく、外国人が日本人より優遇されている事実なんか全然ないのに、「日本人ファースト」と称して、排外主義を唱える政党が莫大な国民の「支持」を得ました。本当に残念な結果でした。
 この本は、今の日本で起きていること。大軍拡が日本を守るものではないことなどを、ズバリ明らかにしています。日本政府はごまかしのネーミングに長(た)けています。武器輸出は長く禁じられてきたのに、今では「防衛装備移転」と言い換えて、本質(実体)から国民の眼をそらそうとしています。航空母艦は「多用途運用護衛艦」と呼んでいます。なにが何だか分からないようにしているのです。航空母艦には、攻撃型も防衛型もないのに「護衛艦」なのです。
沖縄の辺野古周辺に新基地建設が着々と進められています。といっても水深90メートルもあり、しかも豆腐のように柔らかい地盤の上に軍事基地なんか造れるはずもありません。それでもいいのです。「新基地建設」名目でゼネコンなどはウハウハです。巨額の税金がジャブジャブと費消されています。急いで新基地をつくる必要なんてないのです。ゼネコンがもうかり、与党の政治家にバックマージンが入ってくればいいんです。とんでもない「税金泥棒」の面々です。
この本によると、辺野古新基地に陸上自衛隊の「水陸機動団」を常駐させるという日米間の密約(極秘合意)があるというのです。しかも、この密約は防衛省全体の決定を経ていない、つまり、文民統制シビリアンコントロール)を逸脱しているのです。
 水陸機動団は、団全体で2400人、3つの連隊(650人ずつ)を基幹とし、オスプレイや水陸両用車などを有している、アメリカの海兵隊の日本版です。この水陸機動団が、アメリカの海兵隊が沖縄から撤退したあとは、辺野古が陸上自衛隊の基地になるという計画なのです。これでは、日本政府が辺野古新基地建設を簡単に断念するはずがありません。
 「台湾有事」が声高に呼ばれています。もしも、台湾有事が現実に起きたとしたら、安保法制のもとで日本は戦争に巻き込まれるのは必至です。
 それは、こんなカラクリです。中国と台湾とのあいだで戦闘が発生し、アメリカが軍介入を視野に展開を決断した場合は「重要影響事態」に相当する。事態がさらにエスカレートして、中国と台湾の戦闘にアメリカが軍事介入し、アメリカと中国との戦闘が始まれば、「存立危機事態」と認定可能になる。最終段階は、沖縄本島の在日米基地や日米共同作戦計画にもとづいて、南西諸島を臨時拠点化したアメリカ軍部隊に攻撃があれば、「武力攻撃事態」になる。台湾有事のとき、日本が参戦できるように安保法制を安倍政権は制定したということ。  
「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」
 安倍元首相の言明は、まさしく日本を戦争に巻き込もうとするもので、あまりにも危険です。
日本の自衛隊はアメリカ軍との共同演習を重ねています。台湾有事のとき、アメリカ海兵隊は南西諸島に、陸軍をフィリピンに展開させてミサイル網を構築することになっている。南西諸島から住民11万人を九州・山口に避難させる計画はあっても、沖縄本島の住民160万人を避難させる計画はありません。建物内に退避しろというだけです。
 いったい、中国と台湾・アメリカで戦争が勃発したとき、アメリカ軍の基地のある九州そして本土が中国から攻撃されないという保障がどこにありますか。まっ先に、九州そして日本海沿岸にたくさん立地している原子力発電所(原発)がミサイル攻撃されるでしょう。そのとき、日本はたちまち壊滅してしまいます。だって、むき出しの放射能を誰が、どうやって抑えつけるのですか。まったく不可能なことです。福島第一原発のデブリ取り出しは、今から12年先の2037年に始まると報道されています。私は、それすら難しいと思います。
 日本は戦争なんか出来ない国なのです。
 先日、玄海原発の上空を大型ドローンが2機飛んでいたことが後日発覚しました。原発は上空から攻撃されたら防ぎようがないのです。
 「日本も核武装すべきだ」とか、「バリアーを張ったらいい」なんて、参政党の議員たちが能天気なこと、無責任な放言をしていますが、私は絶対に許せません。核兵器をまるでオモチャかのように、もてあそんではいけないのです。
 それはともかく、大変勉強になりました。
(2025年5月刊。1980円)

土地は誰のものか

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 五十嵐 敬喜 、 出版 岩波新書
 2014年、空き家等対策特別措置法が制定された。日本全体で空き家は2018年時点で849万戸あり、空き家率は13.6%。今後、空き家はますます増えて、まもなく1000万戸に達するとみられている。
 たしかに私の住む住宅団地にも空き家が何軒もあります。すぐ下の隣家も老夫婦が亡くなられて何年も空き家です。
空き家が倒壊する危険のある家屋でありながら解体されずに放置されているとき、所有者が承諾しないため強制取り壊しとなる行政代執行は、全国で年14件、所有者が不明のための略式代執行は年間40件ほど。つまり、ほとんど危険家屋も放置されているわけです。
私の住む街でも、前より減りましたが、いかにも危険だ、台風が来たら通行人等に危険を及ぼす心配がある空き家がまだまだあります。
 2018年、所有者不明土地の利用円滑化特別措置法が制定された。「所有者不明」とは、所有者がすぐには分からないのが3分の2、所有者は判明しても連絡がとれないのが3分の1.
 今、私は所有名義人の相続人が多数いて、うち1人はアメリカ在住、もう1人は生死不明(大正生まれなので、恐らく死亡していると思われるものの、戸籍上は存命だけど、その家族は不明)というケースをかかえて四苦八苦しています。
 このような「所有者不明の土地」は、410万ヘクタールあり、日本全体の10%を占める。これは九州と沖縄を足したほどの面積。これが2040年には720万ヘクタールに増えると予測されている。これは北海道と同じ面積。
 相続した土地の国庫帰属制度がある。2021年に制定された。ところが、とても要件が厳しく、厳重な審査を経なければいけないので、利用(申立)も認容も、とても少ない。
 重要施設周辺の利用状況調査と利用規制等に関する法律が2021年に制定されている。これは自衛隊の基地周辺に外国人や外国法人が土地購入するのを防ぐというもの。この法律については、立法事実(その必要性)の欠如、そして、構成要件があいまい(たとえば「機能を阻害する行為」というのはどんなものか不明)なので、日弁連は反対する会長声明を出した。
 マンションの老朽化が進んでいる。空洞化と老朽化が進むと、マンションは、いずれ廃墟になってしまう。
 タワーマンションだって、やがて老朽化したとき、莫大な修理・修繕費を住民が負担できず、速く逃げ出したものが勝ちということになることでしょう。
日本では、土地と建物がそれぞれ所有者の異なることは多い。なので、借地権で建物を所有するのは、あたりまえのこと。
 ところが、諸外国では、土地と建物とは原則として一体の不動産とみられている。
 ヨーロッパでは石造りの建物は、内装はしばしば変更されるが外観は何百年も継続している。そこには、土地と建物との分離という発想は生まれにくい。
 フランスに行ったとき、パリの石造りのプチホテル、そして、オンフルールという港町のホテルに泊まったとき、外装は何百年もたった石造りだけど、内装は近代的で便利なものでした。
日本では木造の建物は30年から50年で取りこわされる。築100年という建物には、滅多にお目にかからない。
 イギリスの「グリーンベルト」は、都市の膨張を防ぐために、都市の周辺を緑地帯で囲む計画があって、実施されている。日本では、ほとんど無規制のまま都市化の波が周辺の農地を覆い尽くしていますよね。
 また、日本では、地域の中に児童相談所や保育園・老健施設が建設される。そして、葬祭場が立地するとなると、猛烈な建設反対運動が起きる。これは、何より自分の所有する土地の「商品」としての価値が下がることに対する反発。
 そこで、著者は、「現代総有」という考えを提唱しています。簡単なことではありませんが、日本人も土地所有について、改めて考え直す必要があると痛感します。
それにしても、マンションという商品は、購入したとたんに「死」が始まるという指摘には、はっとさせられました。マンションの建て替えは、現行区分所有権のもとでは、ほとんど不可能なことを多くの人が気がついていない。それとも途中で売り逃げしたらいいとタカをくくっているのか…。でも、それも簡単に、誰でもやれることではないだろうに…。
 幸い、私は庭つきの家に住んで、ガーデニングも野菜づくりも楽しめていますが、考えさせられる新書でした。
(2022年2月刊。990円)

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