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カテゴリー: 社会

売れる作家の全技術

カテゴリー:社会

著者  大沢 在昌 、 出版  角川書店
売れる作家のプロ作家養成講座です。作家と名乗るのは我ながら恥ずかしく、いつもモノカキと自称する私ですが、小説にも挑戦中なので、ぜひ読んでみようと思って手にとったのでした。
 さすが当代有数の売れる作家の言うことは違います。含蓄のある指摘に、ついついうーんと心がうなってしまいました。同感、同感。でも、実行は難しい。トホホ・・・。ただし、『新宿鮫』などで今や大いに売れている著者も、かつては売れない作家だったのです。
 23歳でデビューし、11年間、まるで本が売れなかった。28冊の本がすべて初版どまり。だから「永久初版作家」とまで呼ばれた。うへーっ、それはそれは・・・という私も、再版したのは1回のみで、あとは初版どまりで、大量の在庫は、みな知人にありがたく贈呈してしまいました。
 初版4000部、定価1700円として、印税10%だとすると、作家の収入は68万円となる。半年かけて書いて68万円の収入をあげたとすると、コンビニのあるバイトよりも低い金額でしかない。うむむ、そうなんですね。現実はチョーキビシイのです。
 辞書は、いつも手元に置いておく。少しでも怪しいなと思ったら辞書を引くこと。一日に最低でも4、5、6回は辞書を引いている。
著者はパソコンはではなく、手書きです。これは私と同じです。
原稿をすばやく仕上げるには、毎日、必ず決まった分量を習慣を身につけることが大切。書いた原稿を、少し時間を空けて読み返す。時間をあけることによって、あたかも他人の文章を読むように自分の文章のように読み返す。
どんなに苦しくても、決められた枚数を書ききる。それがプロ作家である。
ストーリーも大事だけど、キャラクターも大事だ。
 アイデア帳をいつも身近に置いておく。何か思いついたら必ずメモをとる。私も、ポケットにはメモ帳を必ず入れています。車中にも、ペンとメモ用紙を置くようにしています。車中でひらめいたときには、交差点の赤信号で止まったとき、素早くメモします。
 ストーリーが進むにつれて主人公は変化する。ストーリーが登場人物を変化させていく。この変化の過程に読者は感情移入する。これをしっかり意識して小説を書くべきだ。
 私には、この点の意識が欠けていました。反省すべき点です。
小説の登場人物は論理的でなければいけないし、その論理には一貫性が要求される。
人物に過去を語らせない。回想シーンは、会話にもっていく。
ミステリーは、基礎知識のない人間が書いてはいけないジャンルだ。最低でも1000冊は読んでいないと、ミステリー賞に応募することはできない。自分の書いたものを何度でも疑う。とにかく、たくさんの本を読む。これしかない。今の作家志望者は読書量が圧倒的に不足している。
 作家になるというのは、コップの水である。コップの水に読書量がどんどんたまっていって、最後にあふれ出す。それがかきたいという情熱になる。
 編集者は、作家に対していろいろダメ出しするが、「こうすれば、もっと面白くなりますよ」とは言われない。それを言えるくらいなら、編集者のほうが作家になったらいい。最終的には作家の自助努力しかない。作家の作業は孤独なものである。
 自分が面白いと思わなければ、面白いものは絶対に書けない。
 主人公に残酷な物語は面白い。主人公が苦しめば苦しむほど、物語は面白くなる。読み終えたあと、読書の心の中にさざ波を起こすような何か、これを「トゲ」と呼ぶ。面白くするには、泣くほど考えるしかない。
 漢字を使うことによって、小説の雰囲気が変わってくる。小説を読んでいるとき、人は自分の年齢を忘れている。
 改行は、文章のリズムをつくるうえでの数少ないテクニックだ。
 冒頭の20枚の原稿用紙こそが長編小説の「命」なのである。説明なしで、いかに主人公を印象づけるか、魅力的な主人公だと読者に思わせるが、その点をとことん考える。
アイデアの出ない人はプロになれないし、万一プロのなれたとしても、とても食べてはいけない。
ある水準以上のものを必ず出せるのが、プロの条件である。何十冊も書きつづけなければならない。一作一作が勝負の作品だ。前の作品よりもいいものを書くことを常に求められる。それがプロの世界だ。根性のない人間は生き残れない。頼まれた仕事は絶対に断ってはいけない。そして締め切りは絶対に厳守する。
 本は商品である。4000部売れても、出版社はほとんどもうからない。
 ある程度売れるようになったらテレビは出ないほうがいい。なぜなら、作家はどこか神秘性をもっていたほうがいいから。イメージが合わないと読者は離れていってしまう。
 新人作家は、決してインターネットでの自分の評判を気にしないこと。なるほど、とても実践的なプロ養成講座でした。私もさっそくすこしばかり実践することにしましょう・・・。
(2012年7月刊。1500円+税)

ルポ・イチエフ

カテゴリー:社会

著者  布施 祐仁 、 出版  岩波書店
福島第一原発事故をマスコミは忘れたような気がします。でも、まだ依然として大量の放射能が出ているなかで、その後始末に大勢の労働者が働いているのです。その労働のすさまじい実情がほとんど報道されていません。この本は、その労働現場に迫っています。貴重な証言集です。
 僕らは被曝することを「食った、食った」と言う。作業が終わったあと、0.6(ミリシーベルト)も食っちゃったよ。キミは何ミリ食った・・・?
 これが原発現場で働く労働者の会話というのです。福島第一原発を「ふくいち」とも呼ぶが、原発作業員は「イチエフ」と呼ぶ。
 原発労働員の大半は日給月給の非正規雇用。
 2011年3月11日、フクイチには東電社員755人と下請け労働者5660人、合計6400人が勤務していた。
作業員が100人も並ぶ。というのも、免震重要棟に入るときには、なかに放射性物質を持ち込まないために、まず入り口でタイベックや全面マスク、ゴム手袋などを脱ぎ、そのあとに身体汚染のサーベイを担当する担当者が数人しかいないため、作業員が集中するとあっという間に行列ができてしまう。長いときは1時間近く、被曝しながら待たされる。
 ここでの食事は1日2食。朝食はビスケットと野菜ジュース。夕食は湯をかけて食べるアルファ米と野菜ジュースだけ。肉体労働で汗をかいてもシャワーを浴びるどころか顔を洗うこともできない。
 それでいて、もらう賃金は最高でも通常時の日当にプラス危険手当が10万円。大半は危険手当も数千円から1万数千円ほど。
 2011年5月23日まで、ホールボディカウンターによる内部被曝の検査を受けたのは、それまでに緊急作業に従事した7800人のうち1800人だけ。そして、内部被曝が1万カウントをこえた人が見つかった。それでも、誰も大騒ぎせず、そのまま、「どうぞ、お帰りください」と言われるだけだった・・・。
線量が高いため、作業は文字どおりの「人海戦術」で進められる。作業時間は、1班あたり30分。3回まで昇り降りする時間を差し引くと、現場で実際に作業できるのは、せいぜい10数分が限度。だから、大量の作業員を投入して、次から次へと交代して工事を進めていく。
 6次下請けで入っている経営者に5次下請けの会社が支払う日当は1人あたり1万8000円。そのうち、1万5000円を労働者に渡す。
 九州の原発で働く作業員の日当は1万4000円が相場だった。原発では、偽装請負は当たり前。しかも、実態は二重派遣、三重派遣。そして、中間に暴力団が絡んでいる。結局、そうしないと人が確保できない。
 東電が認めているのは三次までだけど、実際のところ、一番下は10次くらいまでいく。もし、完全に法人登録していないとダメとか、暴力団が絡んでいるのを排除しようとしたら、原発は成り立たない。放射性物質は、まだ漏れ続けているし、汚染水も地下水が流入してどんどん増え続けている。こんな状況で「収束」はありえない。
 「誰かがやらなくてはいけない」被曝労働が、これから数十年間にわたって続く。いえ、数十年では絶対に終わるはずがありません。何百年でもないでしょう。永遠に地球を汚染し続けるのです。原発、放射性物質を生みだすもとと人類の平和共存はありえません。
 今こそ、原発なんて直ちに「ノー」の声をあげるべきです。
 大変いい本でした。著者のご苦労に感謝します。
(2012年10月刊。1700円+税)

告発!隠蔽されてきた自衛隊の闇

カテゴリー:社会

著者  泉 博子 、 出版  光文社
自衛隊の内部では一般社会の想像を絶するいじめが横行しているようです。それは自殺者の比率が以上に高いことに示されています。
 2001年から2008年度まで、日本人の自殺者は10万人あたり27.4人。ところが、陸上自衛官は37.0人、海上自衛隊官は36.3人、防衛省事務官は28.2人。
直近の5年間では、自衛官の自殺率は日本国民の平均を45%も上回っている。
 今年3月末で自衛隊を定年退職した著者は、40年近く自衛隊に事務官として働いていました。ところが、平成6年に職場の不正を内部告発してからの18年間、組織ぐるみの陰湿ないじめを受け続けてきたのです。
 内部告発者が組織の敵、異端者として、徹底的なパワハラを加えられた。その結果、心身ともに疲れ果て、入退院を繰り返した。
 この本に顔写真がありますが、とてもお元気そうで、そんな入退院を繰り返した人だとは、とても思えない若々しさです。
 部隊は、奄美群島の一つ、沖永良部島にある航空自衛隊那覇基地の分屯基地。著者は、この沖永良部島で生まれ育ち、今も島に暮らしています。
 自衛官の不正とは・・・。
 コピーキャットを購入していないのに、納品をねつ造して、購入したことにして、業者に支払わせる。そのお金をゴルフ大会とか利用に使う。
 業者の印鑑を部隊が預かっているので、本人の知らないうちに見積書や納品書がつくられ、納めてもいない品物が納品されたことになっている。
 私物の不正購入や補給物品の持ち帰りはあたりまえだった。息のかかった出入り業者に対し、実際の物品購入代金よりも多目に振り込み、業者がその差額をプールして自衛官の遊興費に充てる。
 地元業者とは特異な関係にあり、競争入札はせず、調達担当の独断で発注する。自衛隊と業者は持ちつ持たれつの関係にある。
 こんな不正を内部告発したあとは、「同僚を犯罪者にしたてた怖い人」というレッテルを貼られ、隊員が近寄らなくなった。
 著者は、23年間、一度も昇任しなかったといいます。これは辛いです。悔しいですね。明らかに報復措置です。それでも、3人の娘さんからは高く評価されているというのは、うれしい限りです。
 そして、TBS報道特集でも全国放送されたとのこと。北海道の佐藤博文弁護士からもアドバイスをもらったとあとがきに書かれていました。佐藤弁護士とは、日弁連で一緒の委員会ですので、とてもうれしく思いました。
(2012年9月刊。1500円+税)

七つの会議

カテゴリー:社会

著者  池井戸 潤 、 出版  日本経済新聞出版社
私も実は一度だけ会社の就職面接を受けに行ったことがあります。大手製造メーカーでした。司法試験を受けている最中でしたが、少しヒマのできたとき、同級生に員数あわせとして誘われて興味本位についていったのでした。司法界にすすむつもりでしたので、会社の雰囲気を味わいに行っただけですが、こんな大きな会社に入ったら息が詰まってしまうだろうなという思いで、圧倒されてしまいました。
この本を読むと、中小企業に入ったら勤め先がいつまであるか不安を味わうことになるし、大企業にはいると組織の倫理が優先して汚れ仕事も頼まれたら断れなくなるし、とかくサラリーマンは気楽な稼業どころではないと身につまされます。
同じような企業の欠陥製品を扱った著者の『空飛ぶタイヤ』を思い出しながら、身に迫ってくる緊張感を味わいつつ車中で一心に読みふけりました。往復2時間の車中で一気に読みあげたときには、緊張感がようやくほぐれていく思いでした。
 『鉄の骨』も『下町ロケット』もよく出来ていましたし、『ルーズヴェルト・ゲーム』も読ませましたが、この本も大企業の社内のさまざまな人間模様をいくらか図式的ではあると思いつつも、よく描きわけているものだと驚嘆しました。
推理小説ではありませんが、ネタバラシするのは私の趣味ではありませんので、ストーリーの紹介はしません。
 ともかくノルマに追われる営業部のなかで、ノルマを達成していた課長がある日突然、左遷され、万年係長で働かない男がのうのうとしていて、それを上司が許しているという不可思議な職場から話はスタートします。
 夢は捨てろ、会社のために魂を売れ。
 客を大事にせん商売は滅びる。顧客を大切にしない行為、顧客を裏切る行為は自らの首を絞めることになる。顧客に無理な販売をせず誠実に顧客のために思って働くこと。
会社であっても、企業の大小を問わず、我が身大切を優先させたら、我が身もいつかは滅びるのですよね。天知る、地知る、我知る、です。それを肝に銘じるべきだと思い至りました。
(2012年11月刊。1500円+税)

幕が上がる

カテゴリー:社会

著者  平田 オリザ 、 出版  講談社
爽快な気分にさせてくれる青春小説でした。
 高校生がマラソンでも合唱コンクールでもなくて、演劇コンクールに出場する話です。
 立派な大人が高校生の演劇部を描いても、この本のように現代高校生の気分を見事に反映できるものなんだと改めて驚嘆したことでした。
 もちろん、高校生たちにも綿密な取材をしたのでしょうね。結論は見えているようなものなのですが、そこに至る経過が若者の心理と置かれている社会環境(入試など)を反映した会話とともに、生き生きと描かれているので、作中人物になりきってしまえるのです。ここらは作家の腕前ですね。
東京近郊の海のない県にある高校という設定です。山梨県のつもりで私は読みすすめました。演劇に関心があり、大学でも演劇部に入りたいという高校生が主人公です。ここらあたりは私には無縁の世界です。私にとって、音楽も劇も自分の人生にはまるで向かない分野でしかありません。映画をみるのは大好きなのですが、コンサートも劇も久しく縁がありません。
部員の少ない弱小演劇部に福顧問として若い女性美術教師が就任したことから、話は急転回をとげます。なんと、その女性教師は大学時代に演劇の女王だったというのです。
 高校演劇はクラブ全体の力が集まらないと勝てない。俳優はそんなにうまくならない。だから、本当にうまい顧問の創作劇は、下手だけどがんばっている子には、短いセリフで確実に受けがとれたり泣かせるような役をつくる。
 静か系というのは、静かな演劇といって、大体、日常生活を描いている。
 口語系というのは、セリフはリアルで、話がちょっとファンタジーとか、ファンタジーでなくてもリアルでないとか・・・。
 宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を題材にした演劇を主人公につくりあげていく過程がまた読ませます。これは、ベースに宮沢賢治のイメージがあるのでぴんと来るのでしょうね。
 久しぶりに心の洗われる思いのする本でした。
(2012年11月刊。1300円+税)

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