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カテゴリー: 社会

中学生の声を聴いて主権者を育てる

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 佐々木 孝夫 、 出版 高文研
 とてもいい本に出会いました。中学生が社会にしっかり向きあっている教育実践のレポートです。この本を読むと、日本の中学生も捨てたもんじゃないんだな…、ついついうれしくなりました。やはり、大人の側にこそ問題があるのです。大胆に働きかけていくと、必ず中学生はこたえてくれるのですよね…。
 たとえば、模擬投票です。架空の政党をつくってやるのではなく、実際の政党の公約をもとに中学生でディベートをして、投票してみるのです。開票するのは、本当の選挙の開票のあとにします。そうすれば何ら問題はありません。中学生たちは自分の選んだ政党がどうなったか、現実に関わって比較し、考えることができます。きっと、選挙と投票が身近なものに感じられるでしょう。
また、市長に手紙を出し、その反応をみる。返事が来たら、それをみんなで検討する。そして可能なら、市長に代わる人に学校に来てもらって話を聞き、質疑応答する。
 外国の大使館と交流するというのも関東近辺だからできるのでしょう。大使館や公使館にも代表が出かけていって話を聞いてくる。また、中学校に大使館の人に来てもらって、質疑応答する。ちょっとした国際交流ですよね。こんな機会があったら、ヘイトスピーチなんて、とんでもないことだと中学生は実感すると思います。
 著者は早稲田大学法学部を卒業していますが、学生時代は学生セツルメント運動に没頭したそうです。私も学生セツルメント運動に3年近く、どっぷり浸っていましたので、この経歴を知ってとてもうれしくなりました。今は見かけないセツルメントですが、社会への目を大きく開かされました。
 「本当」の模擬投票では、中学生たちがアンケートを送ったところ、6つの政党から返事が返ってきたのでした。みんな喜びました。すると、中学生たちはどう考えたか…。
 「自分も国を変える一人だという責任を知りました。政党によって考えや方針が異なっていて、日本が投票によって大きく変われることが分かったからです」
 「今の政府に文句がある人もない人も、政党の考えをしっかり知って、自分の手で政治を動かすべきだと思いました」
 どうですか、これだと何も「偏向」した政治教育だと文句をつけられないでしょう。こんなホンモノの模擬投票を全国の中学校でやったら、日本も大きく変わると思います。
 各国の駐日大使館に手紙を送ったところ、まずドイツ大使館から返事が来た。そこで、中学生の代表7人がドイツ大使館に出かけて話を聞いたのです。脱原発の取り組み、難民・移民に関する政策などを質問すると、しっかり回答してもらいました。
 その前、ガーナ大使館とも交流しています。ガーナ大使が中学校までやってきて、中学生の質問に答えたのです(同時通訳)。カカオがチョコレートになるとき、児童労働があるというテレビ報道にもとづく質問にも答えてもらいました。
 ほかにも、コスタリカ、韓国などの大使館とも交流しています。まさしく国際的です。こんな意欲あふれる教師のもとで学べる中学生は本当に幸せだと思いました。
 市長への手紙を出したときには、市長からのメッセージが中学校に届いたとのことです。そうなんです。中学生だって、市に対して要求したいことはたくさんあるんです。エアコンを全教室に設置する、きれいな洋式トイレにしてほしい。スポーツ施設を充実してほしい、給食費を無料にしてほしいなどなど…。
 それぞれの部署から回答が来ました。無視はされなかったわけです。
 主権者教育というのは、こうやるものだということを教えられました。残念なことに、著者は現役の教員を退職させています。でも、こうやって実践記録としてまとめられたわけですので、心より敬意を表します。多くの人にぜひ読んでほしい元気の出る教育実践です。
(2024年11月刊。2200円)

世界の果てまで行って喰う

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 石田 ゆうすけ 、 出版 新潮社
 地球三周の自転車旅というサブタイトルがついています。そして、オビには「衣食住の一切を自転車に鬼積みして、スマホを持たず旅をする。ペダルをこいで極限まで空かせた腹にメシと旅情が流れ込む!」とあります。
 前に『行かずに死ねるか!』という本を出しているそうです(私は読んでいません)。サラリーマンを辞め、自転車で7年半ぶっ通しで世界をまわって書いたとのこと。その本が売れたおかげで、文章だけで三食、ご飯と納豆なら食べていける目算が立ったので、それからは専業のモノカキだそうです。いやあ、同じくモノカキを自称する私には、うらやましい限りです。
 自転車の旅は「線の旅」になる。その国の素顔に会え、素の人とたくさん触れあえる。体ひとつでその世界に飛び込み、自分の足でゆっくり進むことで、景色を全身で味わい、異国の空気やにおいを体中で吸い込める。旅が色濃く記憶に刻まれる。
 自転車は運動効率がいいので、カロリーも効率よく消費され、体中のエネルギーが根こそぎもっていかれて腹が減る。食べ物が目の前に来ると、我を忘れ、無我夢中で喰う。食欲と感受性がむき出しになり、味が良ければ、泣きそうになる。
 著者はそれほどお腹が強いわけではないとのことですが、現地で生水(なまみず)も飲むそうです。生水を飲むか飲まないかの指標は、地元の人。地元の人が飲んでいたら飲む。現地に長くいたら身体が順応し、胃腸も慣れるとのこと。いやあ、私はまったく自信がありません。カキ氷とかコップに製氷器でつくった氷のカケラが入っているジュースも飲むのを遠慮します。
メキシコでは現地の人も生水は飲んでいなかったので、コーラやビールを飲んでいた。
 インドではナンはあまり食べていない。インドの大衆食堂で食べられているのはチャパティ。ナンを日常的に食べているのはパキスタン。
 インスタントラーメンは、世界の隅々にまである。アフリカや南米の僻地(へきち)にもあった。
ウズベキスタンの砂漠の中の小さな町のボロい食堂でうどんに出会った。スープには肉、ジャガイモ、トマトなどが入っていて、シチューと肉じゃがの中間のような味がする。麺は太めで、短くて不揃い。表面は少しぼそぼそしているが、中心にもっちりとした食感があり、スープとよく絡んでいる。ズルズルとすすると、やっぱりうどんだ。うどんを食べながら生きて帰ってきたという実感に浸った。
 キューバの田舎町の路上でフェスティバルが開かれていた。子豚の丸焼きが焼かれている。それを注文すると、丸焼きを削いだ肉、ご飯、芋、サラダが皿に山盛り。これが30ペソ。外国人用だと3600円になるが、国民用の人民ペソだと、なんと日本円にして150円。これはいくらなんでも安過ぎだろ…。
著者は世界中をまわって、日本に帰ってから、日々の一番のご馳走は、なんとなんと、みずみずしいサラダ。キャベツ、レタス、にんじん、玉ねぎ、セロリ、ルッコラ、春菊、パプリカ…。朝晩、欠かさない。
 そうなんですね。南極の越冬隊員にとっても生のキャベツが食事に出てくると、基地中が沸くそうです。たしかに、私も昼食に生野菜サラダをよく食べます。マヨネーズ、ドレッシングをかけると最高なんですよね…。
 世界中を自転車で走ってまわるって、若いときにしかやれませんよね。すばらしい体験です。私は、こうやって本を読んで追体験して楽しむのでいいと考えています。
(2024年10月刊。1760円)

地図なき山

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 角幡 唯介 、 出版 新潮社
 北海道の日高山脈を地図を持たず、ひたすら漂白の山行を楽しむという壮絶な冒険登山記です。これまで、著者の『空白の五マイル』や『極夜行』を読み、そのすさまじいまでの迫力に息を呑みましたが、人間って、ここまで生命(いのち)がけの冒険登山ができるものなんだ…と、圧倒されてしまいます。
 ただ、チベットやアラスカのような極地と違って、地図をもたないとはいっても、そこは北海道だし、読んでいるほうも、なんとなく既視感はあります。むしろ、山中でヒグマと出会ったらどうするんだろう…、ヒグマから夜寝てるところを襲われたりしないのかな…、そんなことを心配しながら読みすすめました。
冒険の本質とは、何なのか?
 命を落とす危険がある主体的な行動であれば、それはとりもなおさず冒険である。
 冒険とは、まず脱システムだ。地図のない世界はカオス。地図を捨てて日高山脈に向かったのは、よりよく生きるためだ。
 雨が降るなかで、ぶるぶる震えながら濡れた薪(タキギ)に必死で火を起こす。消し炭を集めてライターで火をつけ、フーフーと息を吹きかけて熾火(おきび)を大きくする。
 消し炭をつくっておくといいようですね。
 夜は白米を一合炊き、味噌汁と釣った川魚を塩焼きや刺身や素揚げにする。調理用の油と味噌・醤油などの調味料は必須で、とくに塩は魚の保存用にも使うので多めに準備する。
 渓流釣りは、テンカラ釣り。テンカラ竿(さお)と毛鉤(けばり)を用意する。
 テンカラは竿の穂先に糸をつけ、先端に毛鉤をくっつけただけのシンプルな伝統釣法。毛鉤が前に飛ぶようになったら、あとは実践するのみ。
 野営するのには時間がかかる。夏でも午後4時には行動を終えて、仕度を始めたい。
雑食性のヒグマは人を襲撃したことのある特殊な個体をのぞいて、人を避けるのが普通。なので、鉢合(はちあ)わせを避けることが基本。それで、「ホウ、ホウ」と大きなかけ声をかけて進む。万一のときは、剣鉈(けんなた)で対応する。いやあ、それだけですか…。臆病な私には、とても真似できません。
野営する場所として、河原は原則として避ける。しっかりした植生のあるところを選ぶ。
 著者は日高山脈への地図なし登山を足かけ6年に及んで敢行した。41歳で始めて、46歳で終了。
40代は人間としての最盛期(頂点は43歳)だというのが著者の持論です。
 弁護士も体力勝負のところはありますが、山登りほど肉体を酷使しないのが普通です(睡眠時間が毎日4時間しかないという弁護士がいますが、これは弁護士界でも異常です)から、まあ50歳台から60歳台までがピークではないでしょうか。私のように「後期高齢者」になると、体力の衰えを体験と知力でカバーすることになります。少なくとも私はカバーしているつもりです。
 それにしても詳細な山歩き行です。「山日記」をつけていたそうですが、山行当時の感動など、心の動きまで事細かく再現してあるのはさすがです。まあ、それがあるので、読まれているわけですし、読みたくなるのですが…。
 事故と健康に気をつけて、引き続きのご健闘を祈念します。
(2024年12月刊。2310円)

虚の伽藍

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 月村 了衛 、 出版 新潮社
 古都京都に巣食う坊主、フィクサー、そしてヤクザの生々しいからみ合いが描かれ、まったく息もつかせぬ迫力の展開でした。
 坊主は、伝統仏教最大宗派である包括宗教法人の末寺出身。
 地方の貧乏寺出身者は、宗務を司る総局部門にいても不利な末端の一役僧でしかない。寺格が低いと宗門での出世は望めない。宗教界でも出自の上下は厳然として存在する。
坊主に必要なのは、読経の際の声の良さ。およそ名僧は読経の声に極楽を見せるもの。そして、人の上に立つ坊主は、まず見てくれがよくないといかん。
 まあ、たしかに読経の声がほれぼれするお坊さんに出会ったことが私もあります。
バブル期に計画された再開発事業によって、京都の街の景観も人心も、そして闇社会の勢力国も一変した。
 日本中の金融機関に闇社会が広く深く浸透したのは、政財界との蜜月期間ともいえるバブル期の癒着によってである。
 地上げは宋門とヤクザの役割分担によって、えげつなく進められていった。その大義名分は、宗門の生き残りのため、というもの。
 そして宗門のトップである貫首についての選挙では、実弾が乱れ飛び、怪文書がスキャンダルを広めた。
もちろん、フィクションだと断りがありますし、私もフィクションだとは思うのですが、それにしてもヤクザの食い込みといい、宗門の全権まみれの腐敗ぶりといい、さもありなんと読ませるド迫力に圧倒されてしまいました。今年の直木賞候補作品だそうです。
(2024年10月刊。2200円)

杉並は止まらない

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 岸本 聡子 、 出版 地平社
 読んでいると、自然に元気になっていく気がしてくる本でした。
杉並区長になった著者は区内のアパートに住み、区庁舎まで電動自転車で通勤しているそうです。もちろん、ヘルメットをかぶって…。オランダで生活していたときも自転車で行動していたそうです。くれぐれも安全には気をつけて下さいね。環境問題に取り組んできた著者の選挙の公約の一つが区長公用車の廃止だったそうです。
 著者の名前は「聡子」。公の心に耳を傾けるということ。つまり、人々の意見に耳を傾けるという意味です。なので、区民との直接対話を重視しています。
 そして、駅前での「一人街宣」も実行しているそうです。プラカードを掲げ、マイクなしで区民に訴えるのです。たいしたものです。
区長選挙で当選したとはいえ、投票率は4割なので、区民の6割は投票に行っていない。そして、対立候補との票差はわずか187票。すれすれで当選したのです。区民の多くは著者に反対あるいは選挙に関心をもっていない。だから著者は、区長に就任したとき、こう言ったのです。
 「私に投票されなかった区民の声、投票に行かなかった区民の声を意識的に聞き、対話と理解を深めてまいります」
 いやあ、すばらしい呼びかけです。区の職員との対話を重視し、その賃金アップにも取り組み、目に見える成果を上げています。月に1回、区長室の隣の応接室に自分の飲み物をもって集まった職員8人ほどと1時間、対話する。
そして、会計年度任用職員という非正規労働者の賃金を年間50万円もアップさせたというのです。いやあ、これは本当にすばらしいことです。大拍手です。やろうと思えば出来るのですね。職員はコストではなく、財産。まさしく、そのとおりです。公務員を減らせ、多すぎるという財界側の音頭とりに多くの人がうまうまと乗せられ、公務員が大幅に減らされてきました。
 杉並区でも全職員の41%が会計年度任用職員であり、そのうち85%が女性。そして、正職は女性のほうが多いのに、管理職には2割しか女性がいない。著者は、この比率を3割に引き上げることを目指している。
 杉並区がすごいのは、女性区長の誕生に続いて、区議会議員も女性が半分を占めていることです。もちろん、それには著者を初めとする市民の運動が盛り上がったからです。まずは投票率を高めなくてはいけません。前回より4.2ポイント上昇、2万人も増えたというのです。なかでも30代女性の投票率が9%近く上昇したというのです。すごいです。48議席のうち新人が15人当選し、女性が24人、50%というのは画期的です。そんな議会が日本には他にあるのでしょうか…。
 ただ、著者が区長になったから、その公約の全部が実現できるわけでもないという現実もあります。児童館や高齢者のための施設の一部は廃止せざるをえなかったようです。そのときも区民とは十分に協議したようですが、やはり何事も一直線にはいかないものです。
 地方自治に多くの住民が参加して、地方の政治は変えられると確信したとき、国の政治も変えられる方向に動いていくのだと思います。
 著者の今後ますますの健闘を心より期待します。とてもいい本でした。
(2024年11月刊。1760円)

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