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カテゴリー: 生物

マグロの最高峰

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 中原 一歩 、 出版  NHK出版新書
本当に旨(うま)いマグロは人生観さえ変えてしまう・・・。
本当でしょうか。私の町にも、昔から美味しいマグロを食べさせてくれる鮨屋があり、大変気に入っていて、年に数回は食べるのですが、本書によると、どうやら大間(おおま)のマグロの旨さは、格段の違いがあるようです。どこが、どう、なぜ違うのでしょうか・・・。それが知りたくて読んでみました。
著者は、マグロにこだわって取材し、人並み以上にマグロを食べたと自負しています。
マグロほど、人間の食指を動かし、前のめりにさせる別格の旨さを秘めた魚はない。しかし、こう言えるのは、マグロ界の頂点に君臨する生の本マグロ(クロマグロ)のなかの一握りの魚でしかない。
本マグロの値段は、平時でも1匹あたり国産車1台分に相当する。
2019年正月には1匹で3億3360万円という史上最高値がついた。この「3億マグロ」事件は、全世界で大々的に報道された。
大間といえば、今はマグロだが、かつては鮑(あわび)だった。大間産の鮑を乾燥させてつくる干し鮑は、高級食材として中国に輸出されていた。
津軽海峡のマグロが好むのはサンマとスルメイカ。海底の地形が起伏に富んでいて、プランクトンが大量発生する温床になっている。
マグロは、とても気まぐれな魚だ。マグロは十数匹から百匹単位の群れをつくって、時速数十キロで移動しているが、その回遊については謎が多く、すべてが明らかになってはいない。
大間にある漁協の組合員のうち200人がマグロ漁に出る。そのうちマグロ専業で生計を立てられているのは20人いるかいないか。マグロ漁だけで食べていける漁師はほとんどいない。
大間漁協では、年間2000本のマグロが水揚げされている。そのほとんどが東京に送られる。大間漁協の年間売上15億円の6割をマグロが占める。つぎは昆布とスルメイカ。
マグロ漁は博打(ばくち)だ。大間のマグロといっても、そのキロ単位は5000円から10万円超まで、いろいろ。平均キロ単位は8000円。ところが、年末には2万円、3万円へと上がる。
マグロ漁のスタイルは、大間では伝統の一本釣り。漁師とマグロがテグスを介して一対一で対峙する。大間では、一本釣りが7割を占める。残り3割は延縄(はえなわ)漁だ。日の出から日没の「日中」は一本釣り、日没から日の出までの「夜間」は延縄漁と区分されている。
一本釣りの餌は、マグロがその日に捕食しているもの。サンマ、アジ、イワシ、スルメイカ、トビウオ、ブリの子(フクラギ)。すべて生き餌(え)だ。一本釣りの場合、少なくとも一日でスルメイカ50杯、サンマ60匹を消費する。漁師の1日の労働時間は15時間をこえる。
一本釣りでは、「守り」ではなく、あらゆる方法をつかってマグロの群れを探し出す「攻め」の釣りをする。マグロの群れはGPSを使って特定する。最新式のソナー(魚群探知機)は1台300万円以上もするので、容易に設置できない。
マグロが釣れたら、電気ショックを与えて瞬時に仮死状態にもちこみ、マグロのこめかみに銛(もり)を打ち込んで、とどめを刺す。そして、すぐに血抜き、神経締めそして「冷やし込み」をする。
マグロ漁は洋上での命がけの漁だ。ときに命にかかわる事故が発生する。
豊洲市場には500軒の仲卸があり、うち200軒がマグロを扱っている。日本近海でとれた生の本マグロだけを扱うのは「石司(いしじ)」など数軒のみ。回転寿司で使われているのは、「ビントロ」とよばれるビンチョウマグロ。
マグロの養殖では近畿大学が有名だ。
マグロは、商品にできるのは7割ほどしかない。実は非常に歩留まりの悪い魚だ。
マグロの良し悪しは、次の4つの要素で決まる。色、香り、食感、値段の4つだ。
大トロは、口の中に入れると、人肌の温度帯でシャリといっしょに融けてなくなる。まさしく別格の味だ・・・。
回転寿司の「すしざんまい」は、年商192億円、本来は51店舗となっているが、その売り上げの3割の占めるのがマグロだ。ところが、高価な大トロは一皿398円。お客様に転嫁はしていない。
東京・銀座の高級寿司店は1人前で1万5000~2万円だったが、今や4万円から6万円ほど。
一度は「銀座・久兵衛」の寿司を食べたいと夢見ているのですが・・・。
(2019年12月刊。900円+税)

猫脳がわかる!

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 今泉 忠明 、 出版  文春新書
日本では、2017年に猫のほうが犬を上回った。単身世帯の増加にともない、犬ほど飼育に手がかからないとの理由から猫を飼う人が増えている。
猫の方が犬よりも野生に近く、それだけ自立性が高い。猫は原始脳が発達しているので警戒心の強さ、反応の敏感さがある。危険を察知する本能がしっかり機能しないと、猫は生き抜けなかった。
猫の記憶持続能力を実験すると、16時間も覚えていることが判明した。
猫は縄張りをパトロールしたがる。単独で生きてきた猫は縄張りに何か異変があると命にかかわるので、少しでも自身が関わった場所はパトロールせずにはいられない。
猫は、人と違って季節繁殖を行う動物。猫の発情は春だけではない。発情するのはメス猫だけ。オス猫は、メスの発情期の鳴き声やその時期に発するフェロモンに影響されて発情が誘発される。
猫は交尾のあとに排卵が起こるため、ほぼ100%、確実に妊娠できる。しかも、交尾が終わったメスは、別のオスと交尾することがあり、交尾後、排卵するまで数時間あるため、続けざまに交尾したメスは、一度の出産で父親ちがいの子猫を生むことがある。これも猫の強い生命力を物語っている。
猫の睡眠時間は長い。1日16時間も眠る。「寝子(ねこ)」なのだ。猫は眠りの浅いレム睡眠の時間が長い。人は20%なのに、ネコは75%。猫が丸まったポーズで寝ているときはノンレム睡眠で、熟睡している。
猫はパニックに陥りやすい動物。
猫の視力は0.3以下で、強度の近視。静止しているモノはあまり見えていない。しかし動体視力は人間の10倍ある。色の識別は苦手。
猫は、人の3倍の音域の音を聞きとることができる。
猫同士がお互いのニオイをかぐときは、猫社会のルールにのっとって、優位な猫が先に相手のお尻のニオイをかぐ。逆にする猫は礼儀知らずだとして嫌われる。ニオイのなかのフェロモンの存在を確認する行為でもある。
猫の味覚の大半を占めているのは、猫脳が子猫時代に記憶した、食べても安心な味。
猫には、同じものを食べ続けて飽きるという感覚はない。猫用に調整されたミルクにする。
猫のヒゲや肉球は大切なセンサー。
肉球と鼻にだけ、汗をかく。
猫は深夜にスイッチが入ったように目をランランとさせながら走り回る。獲物は暗いと動きが鈍くなるので、捕まえやすい。過去の習性が今のイエネコにもしっかり受け継がれている。
猫の集会では、情報交換していると考えられる。
猫はヒトの2~3歳児より知能が高く、単語も200語くらい覚えられる。
さすがは動物学者です。猫のことがいろいろ学べました。
(2019年9月刊。800円+税)

海と陸をつなぐ進化論

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 須藤 斎 、 出版  講談社フィールドバックス新書
海中の巨大生物クジラが、かつて陸上で生活していたのに、海に戻ったというのは定説です。それも、もともと海で生活していたのが陸上にあがり、それから海に戻ったというのです。信じられません。本当なんでしょうか、どうしてそれが証明できるのでしょうか・・・。
クジラ類の祖先は、現在のアフリカに生息しているカバと共通。
インド亜大陸がユーラシア大陸に衝突し、ヒマラヤ山脈が隆起するまで、この地域には「テチス海」と呼ばれる浅い海が広がっていた。このテチス海に、クジラ類の祖先である「原クジラ」が暮らしていた。原始的な種は、頑丈な四肢をもつ完全な陸生動物であり、5400万年前に陸から水中へ進出していった。
インド亜大陸に生息していた原クジラ類は、斬新生に入ってそれまで暮らしていた河畔から海洋へと生活の場を移した。当初は半水・半陸の二重生活を送っていたが、次第に完全な水中生活に適応していった。
なぜ、かつて陸上で生活していたクジラ類が海へ帰っていったのか・・・。その理由として、インド亜大陸の衝突によって、それまで暮らしていた場所が消滅したこと、珪藻類の繁栄によってエサとなる動物プランクトンや魚類などが増加したことが考えられる。
すごいですね、こんなことが科学的に証明されているというのです・・・。
プランクトンという言葉には、「小型」という意味はふくまれていない。エチゼンクラゲもプランクトンに含まれているが、傘の直径が2メートル、重さは150キロにもなる。
植物プランクトンは、光合成をするため。光があたる範囲の深さにいなくてはいけない。つまり、植物プランクトンは、太陽光が届く水深100メートルからせいぜい200メートルほどの「海洋表面」に多く生息している。
大気に存在する二酸化炭素の一部は、海面から海洋中に取り込まれて、海洋表層に生息する生物、とくに植物プランクトンの光合成によって有機物に変化する。
海洋生物によって海洋の中層・深層部へ炭素が運ばれる。最終的に深海に貯蔵される炭素は70~80億トンの達する。
速く生長して、早く再生産し、さらに早く死ぬのが海の生産者である植物プランクトンの特徴であり、一次消費者の動物プランクトンの特徴だ。
単細胞の植物プランクトンは、平均して6日に1回、分裂する。そのうちの半数は、死ぬか、あるいは他の生物に食べられる。そのため、植物プランクトンの全量は1週間に1度、そっくり入れ替わっている。
プランクトンのなかには、葉緑体をもっていて光合成ができるのに、肉食動物のようにエサを狩る、植物なのか動物なのか、よく分からないものもいる。その一つが夜光虫。
海と陸とはつながっていることが分かった気にさせてくれる新書です。
(2018年12月刊。1000円+税)

クモのイト

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 中田 兼介 、 出版  ミシマ社
わが家のなかには、大小いろいろのクモが出没します。芥川龍之介の「くもの糸」を読んで以来、自分だけは助かりたいという思いから私は決してクモを殺すことはしません。あまりに大きなクモはホウキで外へ掃き出してしまいます。でも、その姿は少し気味悪いですよね。
セアカゴケグモはともかくとして、クモの毒は人間には効かないことを本書で知って安心しました。
クモは、成功した生物の一つ。陸上のあらゆるところに住んでいる。
クモは空を飛び、水中にすむクモだっている。
「朝のクモは殺すな」と昔から言われてきたように、昔の日本人はクモをありがたがっていた。
クモのオスは、大人になると網を張らなくなり、エサも食べずにメスを探して子づくりに全精力を注ぐ。クモは他の動物をエサにする肉食動物だが、異性に対しても猛烈な肉食性。
メスは交接相手のオスを食べてしまうことがある。うひゃあ、カマキリと同じですね・・・。
クモの魅力は、その賢さと複雑さにある。
クモの糸は直径数マイクロメートル(1ミリメートルの数百万の1)しかないにもかかわらず、自然界で最強。
クモのほとんどは孤独に生き、好き嫌いのあまりない肉食動物。
クモの糸で服をつくった。4年以上の月日と30万ポンド(4000万円強)のお金、6000人時の労力、のべ100万匹をこえるジョロウグモが使われた。
これまで16個体のクモが宇宙旅行した。日本人で宇宙を飛んだのは12人のみ。
クモの祖先が出現したのは3億8000万年前。クモの化石は3億年前のものが最古。
網を張ってエサをとるクモの種類は半分ほど。
クモの糸はタンパク質でできている。
母グモは子グモにエサを与えていて、自分が弱ると、自分の身を子グモに食べさせる。
クモが空を飛べるのは、地球の表面がマイナス電気を帯びていて、クモの糸もマイナス電気なので、お互いに反発しあって、空中に浮かぶことになる。
長生きするクモの寿命は40年というのもいる。ジョロウグモやコガネグモは1年。
クモは、からだを分解する酵素をたっぷり含んだ消化液を口から出して、哀れなエサの中に注ぎ込む。しばらく待つと、溶けてどろどろになるので、それをクモは飲む。
からだの外で消化が起こるおかげで、クモは自分よりずっと大きな動物でもエサにできる。
クモは毎日、網を張り直す。古い網は食べる。これはリサイクル。
クモは地球上に12万種いると見込まれている。150種近くが絶滅危惧になっている。
クモは、ほとんど昆虫を食べている。
世界中で4億トンから8億トンのエサを食べている。
身近なクモについての面白い話が満載の本です。
(2019年11月刊。1800円+税)

深海―極限の世界

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 藤倉 克則・木村 純一 、 出版  講談社ブルーバックス新書
太陽光のうち赤っぽい光は水深3メートルまでにその大半が吸収され、それより深くには届かない。短い波長の光も水深200メートルまでに吸収されて、ほとんど人間の目で見えなくなる。ただ450ミリメートル前後の波長の青色領域の光のみが水深1000メートル付近の中層まで達している。水深1000メートルより深い海は暗黒の世界であり、自ら光を発する生物(発光生物)以外に光を見ることはない。
深海では、光が届かなくなるうえ、水圧が上昇する。
今では、海底下2.5キロメートルにまで微生物が存在していることが判明している。
地球表面の7割は海、水深200メートルより深い海が深海、海の平均深さは3800メートル。水深200メートルの水中には、植物プランクトンや動物プランクトンの死骸、生物の排泄物が凝縮し、埃(ホコリ)のかたまりのようになって沈降する「マリンスノー」が見える。このマリンスノーは、深海に降り注ぎ、深海生態系を支える食物となる。
深海の暗闇では、発光は生存に有効。発光の役割は、エサをおびき寄せるため、捕食者に襲われたときの威嚇、同種間のコミュニケーション、カウンターイルミネーションで姿を消して捕食者から見つかりにくくするため・・・と考えられている。
深海は水圧が高いため、100度以上になっても海水は沸騰せず、水深1000メートルでの沸点は300度以上になる。
深海では有機物の量が少ないため、一般に生物群の生息密度は低く、生物の種の多様性は高い。
海底にある湧水域はプレートの沈み込み帯で、沈み込むプレートの上側のプレート上に存在する。
世界中の海底の95%は太陽の光が届かい深度にあり、温度は4度以下、圧力は数十気圧から100気圧になる。そして、酸素がないところがほとんど。大気中に放出された二酸化炭素は、2分の1が大気中に残り、4分の1は陸上の森林が吸収する。最終的に残った4分の1は海洋に吸収される。
海中のプラスチックが海洋生物にどのように影響しているのか、少しずつ究明されている。しかし、マイクロプラスチックが深海に堆積していることの研究は遅れている。
プラスチックは大変便利なものなので、私もずっと使ってきましたし、使っています。ところが、生態系に大きな悪影響を与えていることを知り、なんとかしなくては・・・と思いはじめました。
深海にうごめく生物に光をあてた貴重な新書です。私が大学生のころは、まだプレートテクトニクス現象について、そんな馬鹿なと一笑に付されていました。今では、大陸が動くものだというのは完全に定説になっています。これで世の中の見方が私のなかでも、すっかり変わってしまいました。
「しんかい6500」に乗ったら水深6500メートルまで潜航できるそうですが、暗黒な闇のなかにずっといたら気が変になってしまいそうです。学者はえらいですね。
(2019年5月刊。1100円+税)

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