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カテゴリー: ヨーロッパ

独ソ戦

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 大木 毅 、 出版  岩波新書
今年の最良の新書として高い評価を受けていますが、読んだ私もまったく異議ありません。
ヒトラーのナチス・ドイツとスターリン率いるソ連赤軍の死闘の実際が多角的にとらえられていて、なるほど、そういうことだったのかと得心いくことの多い本でした。
ソ連は2700万人が死傷し、ドイツは、戦闘員が444~531万人が死亡し、民間人も150~300万人の被害と推計されている。
ヒトラー以下、ナチス・ドイツ軍は、対ソ戦を世界観戦争とみて、撲滅すべき存在だとしていた。ヒトラーにとって、世界観戦争とは、みな殺しの戦争、つまり絶滅戦争であった。そして、これはドイツ国防軍の将官たちも共有していた。
そして、スターリンも大祖国戦争というとき、ドイツ軍は人間ではないと高言していた。
有名なドイツ軍事史の著者であるパウル・カレルの本は、今ではすべて絶版とされている。パウル・カレルはナチス政権のもとで要職にあったことを隠して、ドイツ国防軍を免責する意図のもとに歴史を歪曲して書いていたことが明らかにされた。そうだったんですか・・・。
スターリンがヒトラー・ドイツ軍の侵攻について、情報を得ながら信じなかったのは、イギリスがドイツ軍を対ソ戦に誘導しようとしていると疑っていたことによる。
そして、スターリンによる大静粛の結果、ソ連軍が著しく弱体化していたため、ドイツ軍が攻めてくるとは考えたくなかった、現実逃避思考に陥っていた。
スターリンは、目前に迫ったドイツの侵攻から眼をそむけ、すべてはソ連を戦争に巻き込もうとするイギリスの謀略であると信じ込んだ。あるいは、信じたかった。いやはや、スターリンのとんでもない間違いのため、ソ連国民は多大な犠牲を払わされてしまいました・・・。
ヒトラー・ドイツ軍がソ連侵攻を正式決定したのは1940年12月18日のこと。
ドイツ国防軍、とくに陸軍は、対ソ戦に積極的だった。当時、国防軍の戦車や航空機をはじめとする近代装備の多くは、ルーマニア産の石油で動いていた。そのためハルダー陸軍総参謀長は、ルーマニアの油田を守るためには、対ソ戦やむなしと判断した。それにはソ連軍の実力についての過小評価もあった。
ヒトラーが開戦を決意し、命令を下す前からドイツ陸軍のトップはソ連侵攻の準備をすすめていた。ドイツ軍は、自分の能力の課題評価とソ連という巨人にたいする過小評価、蔑視から傲慢な作戦計画を立てた。
ドイツの侵攻を受けた時点でのソ連軍は、反撃や逆襲できるほどの練度になく、将校の指揮能力も貧弱だった。ソ連軍はスターリンによる大静粛のため人材不足にあり、独ソ両軍の司令官(師団長など)の平均年齢はソ連軍のほうが11歳も若かった。この差は驚異的ですよね・・・。
独ソ戦全体を通して、570万人ものソ連軍将兵がドイル軍の捕虜となった。捕虜の多くはドイツ軍の虐待で死亡していますし、無事に帰国しても、スターリンによって「裏切り者」扱いされたのでした。
ドイツ軍には「電撃戦」を規定したドクトリンなど存在しなかった。
ドイツ軍が「バルバロッサ」作戦で前進していったとき、現場のソ連軍はなお頑強に戦い続け、容易に降伏しなかった。ドイツ軍の大将は次のように評した。
「ソ連兵はフランス人よりはるかに優れた兵士だ。極度にタフで、狡知と奸計に富んでいる」
ドイツ軍はソ連領内で補給不足に苦しみ、掠奪していった。そのため、現地住民の憎悪の対象となった。結局、ドイツ軍は、戦争に勝つ能力を失うことによって失敗した。すると、有利なのは、回復力に優ったソ連軍だった。
とても読みやすく、本質をついた独ソ戦通史だと思います。
(2019年9月刊。860円+税)

アウシュヴィッツのタトゥー係

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ヘザー・モリス 、 出版  双葉社
実話をもとにしたフィクションです。それにしてもすごいんです。アウシュヴィッツ絶滅収容所で被収容者たちに数字のタトゥーを入れていたユダヤ人青年がいて、戦後まで生きのびたのです。そして、カナダと呼ばれる場所で働いていた女性と仲良くなり、ともども戦後まで生きのびたという信じられない奇跡が起こったのでした。
カナダとは被収容者たちから取りあげた持ち物を整理・処分していた場所です。そこには宝石や金があり、食べ物に換えることができました。
タトゥー係は特別な技能をもつ者として収容所では特権的な地位にありました。そのおかげで主人公は生きのびることができたのです。
主人公のタトゥー係(ラリ)は、まわりを冷静に観察し、必死に頭を働かせて、しぶとく、したたかに生き残る。それはカナダで働く彼女(ギタ)と結婚するためであり、永遠に返せない借りをなんとかして返すためでもあり、そしてナチスに抵抗するためでもある。
ただ生き残ること、それ自体が英雄的行為になるような状況のなかで生き残ること、これがいかに厳しいか、いかに辛いか、それをタトゥー係(ラリ)は身をもって実感する。
タトゥー係(ラリ)は、ナチスによって無意味に殺されていく人々を見ていく。そして最後には運よく、故郷に帰り着くが、それは本当に「運よく」と言えるのかどうか・・・。タトゥー係という特殊な立場にいたため、普通の被収容者たちが目にしなくてすむものまで見てしまうし、見せられてしまう。家畜を運ぶ列車でアウシュヴィッツに運ばれてくる途中で死んでいたほうがましだったかもしれない・・・。
戦後、ラリは、感情が欠けているようなところと、生存本能が高いところが残っていたと息子が語った。
ラリは、スロヴァキア語、ドイツ語、ロシア語、ハンガリー語、それからポーランド語を少し話した。いやあ、すばらしい。ラリって語学の天才だったんですね・・・。
タトゥー係のいいところは、日付が分かること。毎朝渡され、毎晩返却する書類に書かれている。日付の手がかりになるのは書類だけではない。日曜日は、仕事をしなくてすむ。
生きのびたあとの戦後、ギタはこう言った。
何年間も、5分後には自分が死んでいるかもしれないと思いながら過ごしたことがあれば、たいていのことは切り抜けられるようになるのよ。生きて健康でさえいれば、すべてはうまくいくものなの。
ぜひ、あなたも読んでみてください。今を生きる一日一日がますます大切なものと思えるはずです。
(2019年9月刊。1700円+税)

消される運命

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 マーシャ・ロリニカイテ 、 出版  新日本出版社
リトアニアにおけるユダヤ人虐殺の話です。読んで、とても悲しくなります。まったく救いがありません。
リトアニアは第二次世界大戦の前は、一応、独立国だった。1939年、ソ連軍がリトアニアに進駐して、リトアニア人をシベリアに送ったりして恐怖支配した。
ところが、1941年6月22日、ソ連軍は撤退し、ナチス・ドイツ軍がリトアニアに侵攻してきた。そして、すぐにリトアニア人の協力を得て、ユダヤ人を組織的に殺害しはじめた。
「男狩り」として、「収容所に送って、労働従事に従事させる」と言いながら、ナチス・ドイツ軍はすぐにユダヤ人の男性全員を森に連行して銃殺した。
ヒトラーの占領軍は、3年間に10万人のユダヤ人を銃殺し、森の中に埋めて隠した。そして、敗色が濃くなると、ナチス・ドイツ軍の残酷な証拠を残さないよう、1943年12月から埋めた死体を掘り起こして焼却した。
作者は、ゲットーに収容されつつも、戦後まで生きのびて、過去のことを記録して語り伝えた。わずか140頁の本ですが、読みすすめるのがとても辛くて、とても読み飛ばすことはできませんでした。
リトアニア人がナチス・ドイツ軍のユダヤ人殺害に手を貸していた事実が淡々と描かれていて、大変気が重くなります。
ドイツの占領前に23万人のユダヤ人がリトアニアにいたのですが、1941年末までに17万5000人が殺害され、戦後の今はリトアニアにユダヤ人はほとんどいないようです。悲しい話ですが、目をそむけるわけにはいきません。
(2019年8月刊。1800円+税)

よい移民

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ニケシュ・シュクラ 、 出版  創元社
移民、外国人、在日コリアン、台湾生まれ、元植民地出身者、ハーフ、ダブル、ミックス、2世、3世、4世・・・。日本にもたくさんの人々が「移民」として入ってきています。
そして、日本でもヘイトスピーチのような排外主義的風潮が強まっていて、本当に残念です。日本では安倍首相本人が「美しい国ニッポン」とか愛国心とか言って、その排外主義をあおりたてているのですから、最悪です。そのうえマスコミの多くがその尻馬に乗って嫌韓・嫌中で金もうけしようなんて考えているのには涙があふれてしまいます。
では、イギリスではどうなのか・・・。
この本は、ロンドン生まれのインド系イギリス人作家が編者となり、黒人、アジア系、エスニック・マイノリティの人々が自分の生い立ちや家族の歴史、日常生活や仕事のうえで直面する不安や不満、そして未来への希望を語りながら、21世紀のイギリス社会で「有色の人間」(パーソン・オブ・カラー)であるとはどういうことなのかを探究しています。
マイノリティの一員であると、貼り付けられたレッテルを磨きあげ、大事にするすべを習得するやいなや、それは没収され、別のものと取り替えられる。闘争で勝ちとったはずの宝石は、永遠に貸し出されたまま。折に触れて、自分で選んだわけでも、つくったわけでもないレッテルがぶら下がったネックレスを首にかけるようにと手渡される。それは束縛でもあり、装飾でもある。
多種・多様の民族が共生しているようにみえるイギリスでも、その内実は本当に大変のようです。それでも人々はそこに生きて格闘しています。日本も近い将来、直面すること間違いない状況です。いろいろ考えさせられる本でした。
(2019年8月刊。2400円+税)

バタフライ

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ユスラ・マルディニ 、 出版  朝日新聞出版
17歳のシリア難民少女が、ブラジル・リオのオリンピックに出場して泳ぐまでの実話が語られています。
難民が生命がけでドイツにたどり着くまでの様子が刻明に語られていて、その悲惨さに思わず涙ぐんでくるのをおさえられません。水泳選手という自負心から、船が沈没して全員おぼれそうになったとき、海の中で船(ボート)を支えたという信じられないエピソードもあります。
シリアで水泳のコーチをしていた父親の下で、姉と妹は幼いころから水泳を始めて、やがてオリンピック出場を目ざすのです。ところが、シリア内戦が始まり、シリア国内では水泳の練習どころではなくなります。
シリアのアサド政権って、すぐにも倒れるかと思っていましたが、意外にしぶとく生き残っているようです。反政府派との激しい内戦は今どうなっているのでしょうか…。日本では、何が問題となっているのかを含めて、シリアの状況はまったく伝わってきませんので、この本を読んでも、基礎的知識がありませんので、もどかしい限りです。
敬虔(けいけん)なイスラム教徒だったら、女性はヒジャーブを着て肌の露出を避ける。しかし、水泳選手にそんなことを求めるわけにはいかない。水着の上に何かを着て泳ぐなんてありえない・・・。
市街戦が日常化するなかで著者たちはシリアを脱出し、ドイツに向かったのでした。
2015年9月の週末だけで、2万人の難民がバスや列車に乗って、ハンガリーからオーストリア経由でドイツに到着した。このときドイツは難民を受け入れていた。そして、難民として登録されると、ドイツ政府は毎月130ユーロの手当を支給してくれる。
シリアを脱出して、ヨーロッパまでたどり着けた人々は、故国ではそれなりに裕福に暮らしていた。シリアからドイツに来るまでに3000ドル以上のお金を使っている。家を売り、本を売り、何もかも売り払って旅費を工面した。
ドイツまで来れた人間は運が良かったといえる。それだけの金があったのだから。貯金がない人や売り払う家財のない人は、ヨルダンやレバノンやトルコの難民キャンプにまでしかたどり着かない。
ドイツ政府とドイツの人々が救いの手を差しのべてくれているのはありがたいこと。しかし、他人からの施しを受けなければ暮らせない境遇はつらい。故国では、他人から恵んでもらおうなんて考えたこともない人々なのだから・・・。
2016年のブラジル・リオのオリンピックのとき、IOCは「難民五輪選手団」を結成することを思いつき、それを実行した。そのなかの水泳選手として著者が選ばれた。
いやはや、こんな「サクセス・ストーリー」もあるのですね。難民という存在を改めて実感させてくれる本でした。
(2019年7月刊。1900円+税)

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