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ながい 窖(あな)

(霧山昴) 

著者 手塚 治虫 、 出版 法政大学出版局

手塚治虫のマンガはかなり読みました。この作品は全集にもれているものです。1970年初出といいますから、まだ私は大学生のころです。司法試験の受験 勉強をしているところでしょう。マンガなんか読むヒマもゆとりもなく、精根つめて法律書と取っ組みあいをしていました。

このマンガの主人公は戦中、鉱山で働かされていた朝鮮人です。 「チョーセン、帰れ」と叫ぶ日本人がいます。本当に残念です。私の父も「三井」の労務係として朝鮮へ「人狩り」に行っていました。戦時中、多くの 朝鮮人は日本に来たくて来たのではありません。甘言につられ、 欺され、そして強制的に連れてこられたのです。そんな事情も知らずに「帰れ」だなんて、無神経すぎます。

ヘイトスピーチをしている人の大半は、自らが差別されているという不満を心のうちにかかえ、 そのうっぷん晴らしで、差別的な言動によって、一時的な優越感に浸って、心の安らぎを保とうとしているのだと思います。可哀想ではありますが、許されないことです。

考えてみれば、差別用語は私たちの身の回りにはごろごろころがっています。アカ、オカマ、あいのこ…、いろいろあります。そして、戦時、日本人はアメリカ人から ジャップ とか イエローモンキーと呼ばれていました。映画「猿の惑星」に出てくる「猿」は日本人をイメージしたものだと知ったとき、私は少なからずショックを受けました。

なお、私の父が連れてきた朝鮮人は化学工場では使えなかったと言っていました。それはそうですよね。化学工場では化学反応を基本としますので、相応の知識が必要になります。そこで 炭鉱や鉱山で働かされました。それは、連合軍俘虜房も同じです。危険な仕事内容で、させられるので 重労働ですから、病死や死亡者が続出するのも当然です。

大牟田の捕虜収容所では連合軍の捕虜の死亡者が続出したことから、所長2人が戦後 、死刑宣告され、実際に処刑されました。ところが、朝鮮人労働者の虐待は裁判にかけられることもありませんでした。

この本の主人公は厳しい鉱山での労働を生きのび、戦中は土地投資がうまくいって大会社の専務にのしあがります。しかし、息子や娘とは、関係がうまくありません。

手塚治虫の「失敗作」だと評されているようですが、 いつものさすがの絵とストーリー展開で、ぐいぐい引っ張られていきました。考えさせられるマンガです。発売2ヶ月で6刷ですから、やはりたいしたものです。

(2026年8月刊。2200円)

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