(霧山昴)
著者 高倉良一 、 出版 さくら舎
ロマンス詐欺などの特殊詐欺の被害にあった人の相談を受けるのは、しばしばです。残念なことに、手も足も出ません。だって、詐欺集団の素性がまったく分かりませんので、誰を相手に闘ったらいいのか、何の手がかりもないからです。
カンボジアに詐欺集団の拠点となる「町」があるという報道があります。でも、かけ子は国外にいても、受け子と出し子は間違いなく国内にいます。恐らく、その頂上には暴力団のトップが君臨していると思います。それこそ警察はもっと本腰を入れて取り組み、検挙すべきです。
今の警察上層部は、どうせ騙されるのは「欲に目のくらんだ馬鹿な連中」などとしかみていないのではないでしょうか。でも、それは明らかな間違いです。たちの悪い詐欺集団がいて、巨額の不法利得を得ているのですから、それを見逃したら、何のための警察か…ということになると思います。日本の警察は世界一だと自負しているはずなんですが…。
このタイトルで本を書いた著者は勇気があります。大したものです。70歳で一人暮らしのようです。離婚して寂しいところにつけ込まれたのです。
「自分だけは絶対に大丈夫」「騙されることなんて、ありえない」。そんな過信が崩されてしまったのです。
ちなみに、私はスマホは利用していませんし、見知らぬ電話に出ることもありませんので、「大丈夫だ」と確信しています。
詐欺師が狙うのは頭ではなく、心だ。
著者はわずかな期間で、1000万円近い大金を騙しとられてしまいました。
ささやかなプライドがズタズタにされ、人を信じるという当たり前の気持ちを奪った。
「この話は、私たちの未来に関わる大切な話なので、誰にも言わないでください」、そう言うんです。誰にも相談させないように仕向けます。そして、「愛情たっぷり」のささやきに身も心もうっとり、とろけさせられるのです。
フランス人もロマンス詐欺でやられています。騙すのはナイジェリア人の学生たち。格好のアルバイトになっているのだそうです。
大金を巻き上げるのには、投資という舞台がつきものです。どんどんもうけてはふくれ上がっていきます。なんと、著者は1億円ももうかったことになっていました。女性の伯父という人の指南で投資を始めたのです。すると、次々に投資のお金をすすめられます。1億円もあるのなら、それをまわせばいいはずなんですが…。
著者は法学部教授を定年退職し、静かすぎる日々を送っていたのです。女性とのメールの交換のみが生き甲斐になっていました。頼られていることの「心地良さ」に浸り切っていました。著者も、心のどこかで、おかしいんじゃないか、これって…と疑ってはいた。でも、真実から目をそむけ、気づかないふりをした。甘い夢の心地良さに浸り、現実を見ないようにした。
送金先は、見知らぬ男の口座。おかしい。胸騒ぎがする。でも送金した。
「今すぐ決断しないと、このチャンスは二度とありません」、今すぐとせかし、ゆっくり考えるヒマを与えない。これは、昔からの常套的な騙しのテクニックです。
「さすがですね」と、心をくすぐられます。
小さな要求から始め、次第に大きな要求へ導かれていく。最初に、ちょっとした成功体験を味わうことによって、次の大きな「投資」への心理的な抵抗を減らす。
ロマンス詐欺では、可愛らしい女性の写真が送られてくる。実は、男のことが多いのに…。
声を聞いたこともない。彼女の言葉(メールの文章)は暗闇の中の一筋の光。
「君がいないと、彼女は生きていけない」という。自尊心がゆさぶられる。
手持ちのお金がなくなると、友人・知人から借金するようすすめられる。そのときの方便の嘘も教えられます。
友人が騙されているんじゃないの…と言っても、著者はまだ目が覚めない。そして、結局、1000万円もの大金が詐欺集団に渡ってしまいました。
いやはや、本当にこんな詐欺集団を野放しにしてはいけません。「優秀」なはずの日本の警察はいったい何をしているのでしょうか…。
(2026年6月刊。1760円)


