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2009年10月 の投稿

今日を生きる

カテゴリー:社会

著者 大平 光代、 出版 中央公論新社
 『だからあなたも生きぬいて』の著者による、久しぶりの本です。
 著者が大阪市助役に就任したことは知っていましたが、この本を読むと、助役として活動中に、部課長連の強い抵抗にあってかなり苦労されたようです。周りは敵だらけ、とまで書かれています。そして、めでたく先輩弁護士と結婚して出産。ところが、ダウン症の赤ちゃんでした。その子育ての苦心が紹介されていますが、なるほど、なるほどと感心しながら読みすすめました。その工夫がすごくて、参考になります。何事にも前向きな姿勢が共感を呼びます。
 人生には、いろんな選択肢、いろんな時期がある。
 子どもには見返りを求めない。
授乳するとき、赤ちゃんが飲んだミルクの量をノートにつけるのは、精神衛生上、よくない。親が何としても飲まさなアカンという心理状況になると、赤ちゃんはそれを敏感に感じていやがる。それに気づいて、記録をとるのはやめた。
子どもにはいろいろ経験させて、親は手を出さずに見守ることが大切。根気のいる仕事だし、時間もかかる。しかし、幼いころの経験が足りないと、引きこもりになってしまう。
 赤ちゃんは言葉が分からない。でも、どんなときでも赤ちゃんに話しかけ、言葉で説明する。そして、その言葉どおりに実行する。いやあ、これって、ホント、大切なことです。
 そして、たまには赤ちゃんを甘えさせることも大切なこと。大人が寄り添って喜怒哀楽をちゃんと表出させる。これは、子ども時代に欠かせない大切なこと。うんうん、思わず頭を上下に振ってしまいました。
 大平弁護士が赤ちゃんとともにお元気な様子に、安心しました。いい本です。元気が湧いてきます。
 
(2009年7月刊。1300円+税)

さとし、わかるか

カテゴリー:人間

著者 福島 令子、 出版 朝日新聞出版
 なんとなんと、すごい母と子がいたものです。感嘆、感心、感激の本です。
 目が見えないだけでも大変なのに、耳も聞こえなくなるのです。それも9歳のときに失明し、18歳で失聴したというのです。まさに思春期のときに、そんな重大な身体的ハンデを負いながら、明るくやんちゃに育っていったのです。その母親って、どんな人(女性)だろうと知りたくなりますよね。テレビでも出演されているようですが、私はテレビを見ませんので、分かりません。本の表紙にちらっと出ている顔は、失礼ながら、どこにでもいそうなフツーのおばさんです。だけど、この本を読むと、とてもとてもフツーのおばさんがここまでできるとは思えません。
 東大教授になった三男もすごいと思いますが、その上のお兄ちゃんたちも偉いと思いましたね、私は。だって、母親は障害を持つ三男につきっきりなんですよ。お父ちゃんは、残る二人のお兄ちゃんにスパルタ式で厳しく接していた気配です。よくもグレなかったものですね、二人とも……。障害を持つ弟の我がままにひたすら耐え忍んだ兄貴の辛さが、ちらっと出てくるところが愛敬です。
 どんどんと目が見えなくなり、ついに失明する。次第に耳が聞こえなくなっていき、ついにまったく音が聞こえなくなる。いやあ、とんでもないことですね。
 実は、うちの息子も思春期失明症にかかって、しばらく視力を失ったことがありました(今は見えています)。そのとき、関西のK病院に入院しました。この本に出てくるO病院と同じ療法です。完全生菜食療法をするのです。生体の本来持つ生命力を活性化させる療法なのです。今でも私は、これを決してインチキ療法だとは思いません。ただ、万能ではないことも確かなのです。著者の子についても、失明も失聴も防ぐことはできませんでした。
 失明し、失聴した我が子との会話は、偶然の機会にお互いの両手をとって、指点字で始まりました。
 智(さとし)の両手をとった。手の甲を上にして、前に出させた両手の人差し指から薬指までの6本の指先を点字タイプライターの6つのキーに見立てることにした。
 6つの点に対応させて、智の指をポンポンとたたいてみた。智の左手の人差し指、中指、薬指。右手の人差し指、中指、薬指。それが点字の1の点から6の点だ。
 そして、ゆっくり、はっきりと、智の指に点字の組み合わせでタッチした。向かい合っているから、じつは、智にとって左右逆の組み合わせになるけれど、それを考える余裕はなかった。
「さとし、わかるか」
 聡は即座に、「ああ、分かるで」と答えた。
 いやあ、泣けるシーンですよね。ヘレン・ケラーがサリヴァン先生との出会いで「ウォーター」を学ぶシーンに匹敵します。
 声をつかわなくても、言葉が智に通じた。私は有頂天になった。
 著者の夫は、まだ若いうちにくも膜下出血で倒れ、ついに亡くなってしまいました。教員でしたから、過労によるものかと想像します。惜しかったですね。
 現役の東大教授として活躍中の、福島智氏の母親がつづる子育ての記録です。感動の日々が語られています。ああ、お互い、それでも生きていて良かったと実感できます。
 
(2009年5月刊。1600円+税)

弁護士のマインド

カテゴリー:司法

著者 田中 宏、 出版 弘文堂
 私もよく知っている札幌の熱血弁護士が法科大学院で院生を相手に、弁護士とは何かを熱く語った講義内容を本にしたものです。いやはや、さすがによく勉強しています。感心しました。
 弁護士が知っておくべき法曹倫理が、過去の歴史を踏まえて具体的に語られています。あげられている実例が、すさまじいのです。
 六本木ヒルズに事務所を構えていた国際弁護士は、証券会社に130億円以上の損害をあたえて失踪し、いまもって行方不明だといいます。奈良の弁護士が10億円もの横領で懲役6年4ヶ月の実刑。山梨県弁護士会の元会長は、2億円の横領で懲役6年の実刑。
 事件屋みたいな人物と提携して債務整理に弁護士名義を貸して懲戒処分を受けた弁護士は、60代(68人のうち33人)、70代(11人)、80代(2人)、90代(2人)と高齢者が多い。弁護士経験25年以上が53人もいます。そして、再犯率は高く、半分近くが再犯し、3回も4回も懲戒処分を受けた弁護士が12人もいる。
 うへーっ、実にあきれてしまいます。著者はアメリカのアンビュランス・チェーサーを情けない限りだと非難しています。先日、私の読んだアメリカの弁護士は、いいじゃないですか、それで保険会社の横暴が止められるのであれば、と語っていました。なるほど、それにも一理ありますよね。
 弁護士の報酬については、弁護士会の報酬規定が独占禁止法違反に該当するという指摘を受けたことから廃止され、今や自由契約となっています。そうはいっても、裁判に経験のない一般市民の便宜のため、報酬の目安を示すためのアンケート調査を実施し、その回答を集約して、コメントをつけた簡単なリーフレットを作っています。私は、その作成に8年ほども関わっています。かつては、報酬契約書を取り交わすことは全くありませんでしたが、今では、取り交わさないことが特殊な状況にあります。
 弁護士をめぐる状況について論じるなら、やや観点は異なりますが、弁護士業務妨害も触れてほしかったと思いました。大阪の弁護士だったと思いますが、ちょっとした「ミス」から脅迫されるようになり、その支払いのために横領を重ねていたという事件がありました。横領の原因が「ミス」であり、それをネタに脅しをかけてくる「依頼者」も存在するという現実があります。弁護士の職業が生易しいものではないことを、多くの法科大学院生に知ってほしいと思いました。
 それにしても、400頁ほどの本に、法曹倫理をよくぞコンパクトにまとめていただきました。ありがとうございます。今後ますますのご活躍を祈念します。
 著者は、良い弁護士になるためには、謙虚な人、誠実な人、器の大きい人、そして努力し続けることを心がけることだと強調しています。私も同感です
 対馬に行ってきました。5月に全島を真っ白に染めるというヒトツバタゴは葉を落していました。
 宗家の墓所に参りましたが、お寺の裏山のようなところに階段が一直線に続いています。樹齢1000年という大きな杉の木が3本たっていました。
 武家屋敷跡の石壁が見事でした。町のあちこちに残っています。
 夜は海に漁火が見えました。イカ釣り船の集漁灯です。半月が皓々と輝き、そのすぐ下に金星が見えました。
 壱岐は何度か行きましたが、対馬は初めてでした。ニホンミツバチのハチミツを一瓶(3000円)おみやげに買って帰りました。
 
(2009年10月刊。2800円+税)

公平・無料・国営を貫く英国の医療改革

カテゴリー:ヨーロッパ

著者 武内 和久・竹之下 泰志、 出版 集英社新書
 イギリスといえば、ゆりかごから墓場まで、福祉を大切にする国と学校で教わったことを思い出します。それでも、鉄の女サッチャーが福祉をメチャクチャにしたというイメージが強くありますし、なにしろ、いつもアメリカに追随して海外派兵する国だと思っていましたので、映画『シッコ』(マイケル・ムーア監督)を見たときは大変おどろきました。
 ええっ、イギリスって医療費がタダなの……?この本は、イギリスにおける公平・無料・国営の医療制度の現状を知らせ、その動向を分析しています。
 日本は、低医療費国家である。先進国のなかで、日本は30カ国のうち21位、G7のうちで最下位。
 無料で公平な医療を全国民に、これがイギリスの医療制度の理想だ。ただ、発足して60年がたち、非効率、悪平等、画一的という欠点も目立つ。
 イギリスの医療制度は、社会保険によらず、税方式で運営されている。治療には患者負担がなく、無料でサービスが受けられる。イギリスでは、出産も無料である。いざというとき、病院に無料でかかれるというのは何より安心だ。国民の絶大な支持がある。
国民はまず、地元からの診療所で、かかりつけ医(GP)の診察を受けなければならない。GPは、住民1500人~2000人に対して1人の割合で、全国的にほぼ平均に配置されている。医療費全体の3分の1がGPで使われる。
 イギリス医療システム(NHS)は、150万人を傘下に収める世界最大級の雇用主だ。サービスや医師の水準は、他の先進国と遜色ないと評価されている。
 イギリスも社会階層間の平均寿命の格差が拡大し続けている。1971年時点で、死亡率は最大2倍の差があり、1998年時点では、さらに3倍に拡大していた。
 医師は完全な公務員ではなく、意欲的な医師は自分で収入を増やす選択肢が残されている。NHSで働く医師は、ある程度の生活と労働環境は保障されているが、大きな収入を得る可能性は低い。そして、イギリスの医師には国家試験がない。
イギリスの医療制度に日本は学ぶべきところが大きいと思いました。オバマさんが苦労しているアメリカなんか、手本にしてはいけません。
 雲仙で久しぶりに地獄を見て廻りました。朝早かったのでまだ誰もいませんでした。空漠として白いゴツゴツした岩肌がむき出しです。硫黄臭い白煙があちこちから噴き出しています。白い濃霧に包まれて一寸先も見えなくなることがあり、しっかり地獄を体験しました。
 可愛いキビタキを見かけたのが救いでした。地獄に仏のような、救われた気がしました。
(2009年7月刊。680円+税)

自民党幹事長室の30年

カテゴリー:社会

著者 奥島 貞雄、 出版 中央公論新社
 自民党本部の奥深いところで30年もの間働いていた人による本です。やや物足りない感もあります。つまり、もっと赤裸々にしてほしかったということです。それでも、それなりに有力政治家たちの実情が紹介されています。
 なかでも、いま再び政権党の幹事長として君臨している小沢一郎に対して、容赦ない酷評が加えられています。まずは、そこから紹介しましょう。
 ワーストワンの幹事長には、ためらうことなく小沢一郎の名前をあげる。ベストは、田中角栄である。小沢一郎が自民党の幹事長になったのは、47歳のとき。田中角栄と同じ年齢だった。
 小沢一郎はもともとしゃべるのが得意ではなかった。せいぜい、雑誌という媒体が似合っていた。ゲラの段階で手直しできるからだ。
 小沢一郎は、自民党幹事長でありながら、どうにも我慢ならない行動が目についた。昼時になると、決まって自派の若手代議士を5~6人ほどと一緒に幹事長室の奥の個室で食事をとりながら懇談していた。幹事長室に議員を引きずりこんで、自分のシンパ拡大工作に励んだ政治家はほかにいない。
 小沢は通産省の官僚を接待した二日酔いのため、年に一度の自民党全国幹事長会議をすっぽかしてしまった。それでも、夕方からの総理との会議には出席していた。このように小沢一郎のウラオモテの極端な落差の大きさは、許容限度を超えるものがあった。
 世の中を、なめるんじゃないぞ。
これは、そのときの著者の小沢一郎への怒りの言葉です。
 小沢一郎は、東京都知事選で自民党から候補を立てながらも、自身は告示のあと外遊に出かけていた。うむむ、なんということ……。
 小沢一郎は、苦労らしきものをしていない。
 田中を見限った小沢は、やがて金丸信や竹下も裏切る。
 小沢一郎は、自民党の幹事長としては不適任な人材だった。
 いやあ、ここまで悪口かかれるかと思うほどです。小沢一郎に、いかに人徳がないかを示しているのでしょうね。
 自民党内のお金の流れなど、もっともっと知りたいことはあり、もどかしくなってしまうのですが、自民党政治家の正体を知る手掛かりにはなる本だと思いました。
 島原半島の雲仙に行ってきました。帰りに少し足をのばして、原城跡へまわってみました。初めてです。国道からせまい道を入っていくのですが、くねくねと曲った道でした。だんだん高くなっていきますが、西側は畑になっています。奥まった高台が本丸跡ということです。海に面した絶壁です。海からの上陸は難しかったことでしょう。遠くに天草の島々が見えました。ここに3万人もの人々が立てこもり、80日ほどの籠城戦をもちこたえ、ついに全員虐殺されたかと思うと感無量でした。
 赤い可愛いコスモスの花が、本丸跡への道路脇に咲いていました。
 
(2002年12月刊。2200円+税)

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