弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

人間

2018年12月10日

語りかける身体

(霧山昴)
著者 西村 ユミ 、 出版  講談社学術文庫

「植物人間」との対話が可能なんだと実感させる本です。
植物人間状態とは、一見すると意識が清明であるように開眼するが、外的刺激に対する反応、あるいは認識などの精神活動が認められず、外界とコミュニケーションを図ることができない状態をいう。植物人間状態になる原因は、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞などの脳血管障害、頭部外傷、脳腫瘍などさまざまである。このような患者の脳組織は、大脳皮質のうちの新皮質や辺縁皮質の機能が遮断された、あるいは脱落した状態である。
睡眠と覚醒のサイクルが区別され、自力による呼吸も心血管系の機能も正常である。これは、自律神経機能(植物性機能)が比較的よく保たれていることを意味する。そのため、適切に管理されると、長期にわたって生存することが可能となる。植物人間状態になって10年以上生存している患者が報告されている。1986年に全国に植物状態患者が7000人いると推定されていた。
ところが、担当する看護師が声かけして、「分かったら、目パチッとしてください」とか「口を動かしてください」と言ってコミュニケーションをとると、それに答えてくれるようになる。
医療現場での癒しというのは、患者だけが癒されているのではなくて、その周りにいる者も癒されている、患者によって癒されている。
お昼よって持って来るご飯と、おやつよーって持って来るケーキとでは、まったく患者の笑顔が違う。ケーキを見せてやろうと思うワクワク心を察知してくれて、それって超能力に近いけれど、ニヤーっと笑ってケーキにかぶりつく。
この本に映画『ジョニーは戦場に行った』が紹介されています。私も何十年か前に観ましたが、衝撃を受けました。ベッドで寝たきりで、生ける屍(しかばね)と思われていたジョニーが、実は意思ある人間として生きていたことが判明するというストーリーなのです。例のホーキング博士のように、身体のわずかな動作によって意思表示はできるものなんですね。
視線が絡む(からむ)というコトバがある。視線は、単に五感の一つである視覚の働きとして機能しているのではなく、視覚に限定されない感覚として働く。
ところが、視線が絡(から)まないとは、底なし沼、真っ暗で、その先に何もないような気がする。
人間とは何か、人が生きるとはどういうことなのかという根源的な問いかけがなされている本だと思い、最後まで興味深く読み通しました。
(2018年10月刊。1110円+税)

2018年11月23日

ねないこは わたし


(霧山昴)
著者 せな けいこ 、 出版  文芸春秋

絵本。私は絵本が大好きです。ごく最近のものだと、『あらしのよるに』ですね。福岡で舞台劇になるといいます。ぜひ、みたいものなんですが・・・。古くは滝平二郎の『八郎』とか、かこさとしの『どろぼう学校』も良かったですね。子どもたちに一生けん命に読んでやりました。繰り返して読みましたので、すっかり暗記できるほどでしたが、それでも子どもたちは「読んで、読んで」とせがむのですよね。心地いい、ひとときでした。
そんな絵本のひとつが、この著者のものです。『ねないこ だれだ』、『いやだ いやだ』、『あーん あん』・・・。素朴な絵に心が惹きつけられました。
「おばけになって 飛んでいけ・・・」と言われたら、子どものなかには、「いいよ、飛んでいくよ」と答える子もいるとのこと。ええっ、おばけって怖くないのかしらん。一人じゃなくて、親と一緒なら、おばけなんか子どもは怖くないんです。
著者は「貼り絵」が得意です。なんだか身近な新聞紙などを無造作にちぎって並べて貼りつけているように見えますが、どうしてどうして、簡単なものではありません。この本を読むと、やはり基本はデッサン力だと痛感します。
『いやだ いやだ』の絵本。子どもはみんな、やがてこの時期に突入します。なんでも『いや』と言って、抵抗し、親を泣かせ、怒らせます。それでも子どもは「いやだ」と言って、したばたするのです。まさしく親の忍耐力が試されています。若い私はガマン力に欠けていましたので、ずいぶんと乱暴に対応してしまい、今では深く反省しています(時おそしなのですが・・・)。
楽しい絵本づくりの本でした。本当にありがとうございました。大変お世話になりました。これからもどうぞお元気に絵本を描いて世の中に送り出してください。孫に読んでやりますので・・・。
(2016年7月刊。1450円+税)

2018年11月18日

悪童(ワルガキ)


(霧山昴)
著者 山田 洋次 、 出版  講談社

「悪童日記」というと、アゴタ・クリストフを思い出します。フランスのベストセラー小説です。フランス語を勉強していて出会いましたが、すさまじい悪口雑言のオンパレードでした。
こちらは、いたってつつましやかなワルガキの話です。我らが寅さんが少年時代を振り返って語ったという趣向です。
先日、法廷のあいまに立会書記官に映画「男はつらいよ」を観ましたかと尋ねたところ、二人とも「ノン」という答えが返ってきました。いえ、テレビでは観たことはあるけれど、映画館で観たことはないということです。
寅さん映画のはじまりは、私がまだ東京にいて大学生のころです。その後、弁護士になってから、お盆と正月には子どもたちと一緒に欠かさず観ていました。全部とは言えませんが、ほとんど映画館で観ました。大笑いしながらも、ほろっとさせるシーンが各所にあって、さすがに落語に詳しい山田監督のつくった映画だといつも感嘆していました。司法試験の受験中にも最大の息抜きとして寅さん映画を新宿まで出かけて観ていました。
寅さんは、実母ではなく、育ての母親を深く愛していました。父親は飲んだくれで、寅さんをちっとも可愛がってはくれません。そんなことから勉強せず、イタズラばかりの日々・・・。それでも妹さくらのことは人一倍気にしていたのです。
戦中・戦後の情景がよく描かれています。山田監督が体験した事実ではありませんので、取材の成果だと思います。満州(中国東北部)で育った山田監督の原体験と共通するところもあったのでしょうか・・・。
来年、再び新作の寅さん映画に出会えるとのこと、胸がワクワクします。今から楽しみです。山田監督の初の小説とのことです。あなたもぜひ、ご一読ください。
(2018年10月刊。1300円+税)

2018年11月10日

ソウルフード探訪

(霧山昴)
著者  中川明紀 、 出版  平凡社

 東京では、諸外国のソウルフード(魂食)が食べられるんですね。
現在、日本には255万人もの在留外国人がいる。これからもっともっと増えることでしょう。安倍首相のように「美しい国・日本」とか「日本古来の伝統を守れ」なんて言っていると、それはヘイト・スピーチにつながり、嫌韓・嫌中そして排外主義に結びつきます。テニスの大坂なおみさんの活躍は目を見張るものがありましたが、それまで少なくない日本人がハーフだとか言って、日本人だとは認めてこなかったようにも思いますが、いかがでしょうか・・・。でも、日本に住む人は昔から決して単一民族ではなかったのですから、認識を改めるべきなのです。
最新の新聞(2018年9月25日の日経)によると、東京に住む外国人は54万人近くで、この5年間に4割も増えた。一番多い新宿区には4万2千人もの外国人がいる。大久保1丁目の住民の半分は外国人。東京都下で外国人の住民がいないのは、八丈島の隣の青ヶ島村だけ。江戸川区の西葛西あたりにはインド人が4千人近く居住しているし、新宿区の高田馬場あたりにはミャンマー人が2千人をこえる。北区の東十条にはバングラデシュ人が1千人をこえ、横田基地のある福生市にはベトナム人が9百人近く住んでいる。葛飾区にはエチオピア人が70人以上いる。
となると、東京都内にそれぞれのお国自慢の料理があって、何も不思議ではありません。著者は、その一つ一つを食べ歩きます。楽しいソウルフード探訪記です。
それにしても、南米原産の唐辛子が、はるか遠いブータンの人々の料理に欠かせないものだなんて、驚かされます。唐辛子は韓国料理とばかり思っていました。ピラフはフランス語だそうです。そして、そのルーツはトルコ料理のピラウにあるとか。
今、日本には2300人ものヴズベキスタン人がいるそうです。ロシア料理の定番のボルシチは、実はウクライナ料理。ウクライナ語でボルシチは草を意味し、転じて薬草の煮汁を表しているとのこと。
著者が東京で食べた異国のソウルフードは60ヶ国にのぼるそうです。胃腸が相当丈夫でないとやっていけませんね、きっと・・・。
(2018年5月刊。1600円+税)

2018年10月27日

佐藤ママの子育てバイブル

(霧山昴)
著者 佐藤 亮子 、 出版  朝日新聞出版

学びの黄金ルール42。これがこの本のサブ・タイトルです。
佐藤ママの本は、その配偶者よりいつも贈呈されて読ませていただいていますが、さすが子育てのプロだと、いつも感嘆・驚嘆しています。
この本の「はじめに」を読んで、私は思わず、のけぞりそうになりました。いえ、これは単なるたとえではなくて、本当に机の前から腰を浮かして、うしろにそりくり返ったのです。そこに、いったい何が書いてあったのか・・・。これを知るだけでも、この本を読む価値があるというものです。
長男が生まれるとき、わが子が生きていく社会を具体的に把握するため、小学1年生から6年生までの、体育、家庭科、美術まで、すべての学科の教科書を購入し、その教科書をじっくり読み、わが子がこれから生きていく学校教育の世界を理解することが出来た。
いやはや、これって、並の人間の発想ではありませんよね・・・。小学6年間の全教科の教科書を母親が買って読んだ、そんなこと聞いたことはありませんし、考えられもしません。
著者は高校の英語教員だったのを止めて育児に専念する主婦になることを選択したとのこと。ものすごい決断です。
子育てのスタートは、童謡と絵本。IT化がすすみ、SNSが発達するなかで、人間らしさはますます大切になるという発想もすばらしいです。
子どもは、すぐには賢くならない。人間の脳力を開花させるのは積み重ねなのだ。絵本を読み聞かせるときには、読み手も心から楽しんでいること、親が読み聞かせる。機会にまかせてはいけない。
佐藤ママの配偶者は、私もよく知る弁護士です。結婚当初の若々しい青年弁護士の写真も載っていますが、日本共産党の国会議員候補になったこともあります。映画『男はつらいよ』の主題歌もよく歌います。
父親が朝早く、駅頭で街頭宣伝している前を通学途中の息子たちが手を振って行ったという光景もあったそうです。
なかなか、そこまではとてもやれないと思えますが、大変参考になる、ヒント満載の本です。買って読んで損をすることは絶対にないと思います。それより何より、元気が出ますよ。ぜひ、手にとってみてください。
(2018年7月刊。1500円+税)

2018年10月22日

分かちあう心の進化

(霧山昴)
著者 松沢 哲郎 、 出版  岩波書店

有名なチンパンジーのアイをパートナーとして40年以上も研究をしている学者の本ですから、面白くないはずがありません。しかも、NHKのラジオ放送をもとにしていますので、分かりやすく語りかけていて、最初から最後まで知的好奇心をすっかり満足させてくれました。2017年10月から12月にかけて、13回にわたって、毎回40分間、1万字ほどの原稿をもとに話したのです。それにさらに手を加えていますので、充実した内容は文句なしです。
研究の狙いは、人間とそれ以外の動物の心を操ることで、「人間とは何か?」という問いを自らに投げかけて考察することにある。
人間とチンパンジーのゲノムは98,8%が共通していて、違いはわずか12%。
チンパンジーには人間とりも優れた記憶能力がある。一瞬に数字を記憶することができる。
チンパンジーには石器を使う文化がある。
チンパンジーは、目の前にない物に思いをはせることは苦手。ことばの学習もむずかしい。
チンパンジーは、人間と同じように色が見えている。視力は両眼で1,5。
逆さま顔写真の認識は、人間は苦手だが、チンパンジーには簡単。
チンパンジーは、人間と目と目を合わせるし、物のやりとりができる。
霊長類学は日本が世界のなかで常に先頭を走ってきた。今も先頭集団にいて、その拠点が京都大学。山極寿一・京都大学総長もゴリラ研究の権威者である。
チンパンジーにも利き手があり、3人に2人(チンパンジーは1頭とは言いません)は右利き。
チンパンジーは、石器をつかうほか、アリを木の枝で釣って食べる。
アフリカの村では、チンパンジーは祖先とあがめる信仰の対象であり、恐ろしい生き物だ。チンパンジーは村のパパイヤの木にのぼって、パパイヤの実をもぎとる。2個を両手にして持ち去ると、うちの1個は必ず女性(チンパンジー)にあげる。相手は母親か、お尻がピンク色に腫れた魅力的な女性(チンパンジー)。
チンパンジーの平均寿命は50年。女性の初潮は8歳で、子どもを産みはじめるのは13歳前後。出産間隔は5年。
野生のチンパンジーは、女性全員が無事に赤ん坊を産んで母親になる。野生だと、日々の暮らしのなかで、出産や子育てを見たり、参加したりしている。
チンパンジーは、235日で赤ん坊が生まれる。そして、赤ん坊が母親にしがみつくので、母親は赤ん坊を抱き、母性が発動する。
チンパンジーには、おばあさんはいない。女性は生涯、現役で子どもを産み続ける。
チンパンジーの赤ん坊は、決して夜泣きをしない。する必要がない。なぜなら、母親はいつもそばにいるから。
サルは真似をしない。「サル真似」というコトバは事実と違う。サルは教え込まれた動作しかしない。
チンパンジーは、鏡にうつった像が自分だと分かる。人間がする動作を見ただけで真似ることも、ある程度はできる。でも、何でもできるというのではない。
チンパンジーでは、互恵的な利他性が成立するのは難しい。つまり、お互いに相手のために働くのは難しい。
チンパンジーは、子どもに教えることはしない。教えない教育、見習う学習がある。
チンパンジーは、うなずくこともしない。子どもをほめることもしない。
チンパンジーも笑う。しかし、身体的な接触がないと、笑い声をたてることはない。
チンパンジーは薬草を利用している。下痢をしたときだけに食べる葉(ボンレー)がある。
チンパンジーになく、人間にあるのが想像するちから、そして希望をもつこと。その想像するちからによって、人間は心に愛を育んできた。
200頁あまりの本ですが、人間にとって大切なことがぎっしり詰まっていると思いました。ご一読を強くおすすめします。
(2018年8月刊。1800円+税)

2018年10月21日

手塚番、神様の伴走者


(霧山昴)
著者 佐藤 敏幸 、 出版  小学館文庫

手塚治虫とは、天才というより神様ですよね。60歳で亡くなったのが、本当に残念でたまりません。
この本は、手塚治虫を担当した編集者たちへのインタビューから成っています。いわば、天才というか神様の実像をあばき出したような本なのですが、本当に憎めない神様の実体の一面を知ることができます。車中で読みふけってしまい、乗り過ごしを警戒しました。
横で見ていると、手塚さん、わがままだし、やきもち焼きだし、原稿遅いし、約束守んないし、「こんな野郎とは、1日でも早く別れたい」と思う。でも、遠く離れてしまうと、富士山ではないけれど、その高さ、姿の美しさが分かる。
手塚さんの記憶力は、直感像という、デジカメと同じで、思い出そうとすると、原稿のどの場面でも、瞬時に、たぶん見開き単位で頭の中に出てくるのだろう。
原稿の催促のために、そばに編集者が山ほどいてくれるというのが、手塚さんのベストコンディションなのだ。
手塚さんは、平気でウソつくところがある。まあ、可愛げのあるウソなんだけど・・・。
手塚さんは、寂しがり屋だね。ずーっと自分のことを思っていて欲しい人なんだよね。
すべて自分の思いどおりに持っていくんだけど、ものすごく心の弱い人なので、担当者に相談する。「これでいいです」というコトバを聞きたいんだ。担当者がいいと言わない限り、できない。必ず聞いてくる。
原稿が遅いと、テヅカオソムシ。それでも着かないと、テヅカウソムシ。これが、デンポーの文言だった。うひゃあ、そ、そうだったんですか・・・。
手塚さんにしてみると、担当編集者がいないと、「何なんだ、ぼくだけ働かしておいて・・・」という気持ちになる。寝ずにやっていると、被害者意識が出てくる。だから手塚番は、手塚さんが起きているときは、絶対に起きている必要がある。
編集者は、描き手に気持ち良く描かせるのが、絶対条件だ。
手塚先生は、宇宙のかなたから地球にきて、使命を終えて帰っていったんだ・・・。
こんな弔電があったそうです。60歳にして、かぐや姫のように月世界か宇宙の果てに帰っていったのでしょうね。残念です・・・。
とても面白い文庫本でした。ありがとうございました。
(2018年6月刊。610円+税)

2018年10月15日

世界一美しい人体の教科書

(霧山昴)
著者 坂井 建雄 、 出版  ちくまプリマ―新書

私は1990年から1泊の人間ドッグを利用しています。平日に2日間、読書ざんまいの時間を過ごすのです。日頃は、なかなか読めない大部の本を持参し、必死で読みふけります。そして、なんとか6冊を完読します。その入院のおまけとして持ち帰るのが、私の内臓のカラー写真です。胃と腸が見事にうつっていて感動します。もちろん、日頃の仕事のストレスから来る異変も見つかります。
人間は、結局のところ管(くだ)から成り立っていると喝破した人がいますが、私も、人間って、本当にそういう存在なんだなと思います。
人間の身体は、37兆個の細胞でできている。唾液(だえき)腺を備えているのは哺乳類だけ。唾液腺をもたない動物は、そしゃくできない。唇(くちびる)は、哺乳類だけがもつ筋性のヒダで、乳を吸うためのもの。
筋肉で出来たチューブのような食道は、ふだんは前後につぶれて閉じているが、食物が通過するときには、蠕動(ぜんどう)運動によって、先へ先へと送っていく。
胃は、ビール瓶2本分に相当する1600ミリリットルの量を貯めておける。胃液にふくまれている塩酸は、強い酸性をもっているが、この働きによって食物を殺菌消毒し、腐敗や発酵を防いでいる。そして、胃粘膜から特殊な粘液も出ていて、この粘液が胃を保護している。
ピロリ菌は、私も除去しましたが、しばし苦しい思いをしました。
ピロリ菌は、ウレアーゼという酵素を出して自分の周りをアルカリ性のアンモニアに変えることで中和して生きのびるので、除去するしかない。そうなんですか・・・。
小腸の消化器は、効率よく栄養を吸収するために、他の臓器よりも細胞の入れ替わりが早い。腸上皮細胞は、栄養の吸収力を維持するため、24時間と、人体でもっとも寿命の短い細胞だ。腸壁からは、毎日200~300グラムの細胞が新陳代謝によって脱落していく。
24時間しか寿命のない細胞が、私たちの身体にあるのですね。まったく感謝、ひたすら感謝するしかありません。
肝臓は、体内で最大、最重量、最高温の臓器で、栄養素の分解と合成、貯蔵、有害物質の解毒、胆汁の生成などを行っている。50万個といわれる肝細胞によって構成される、いわば化学工場だ。そして、この肝臓は、4分の3を切除しても生命が維持でき、数ヶ月後には、肝細胞が増殖して元の大きさに戻るほど、再生能力の高い臓器である。
人間の身体は不思議そのものです。その身体が細胞レベルまでカラー写真で見せつけられると、いったい人間とは、いかなる存在なのか、それこそ考えさせられます。
新書版ですので、手軽に読めますが、その人体内部のカラー写真には、思わず息を吞むほど圧倒されます。
(2018年4月刊。1800円+税)

2018年9月29日

読んでも忘れる人のための読書術

(霧山昴)
著者 印南 敦史 、 出版  星海社新書

正しいタイトルは、読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術、です。
私は、この20年間、年間に読む単行本は500冊です。ところが、書評家でもある著者は年間700冊よんでいます。実は、私も、弁護士会の要職にあったときは旅行の連続でしたから700冊以上を読んだことがあります。でも、さすがにそれは疲れます。50代の初めでしたから出来たことです。フツーに生活して年に500冊のペースを維持しているのが、今ではぴったりの生活リズムになっています。
もちろん、たくさんの本を読むのは楽しいからです。義務感とかノルマではありません。今度、あの本が車中、機中で読めるなと思うと、楽しく、待ち遠しくなります。そして、本屋で前に読んだ本を見つけると、ああ、この本って面白かったよね、そんな思い出がよみがえってくるのも楽しいひとときです。
私が、このコーナーで紹介しているのは、1年間一日一冊なので、要するに読んだ本の7割ほどを紹介していることになります。そして、このコーナーにアップすることで、私は安心して忘れることができます。
読書習慣が身につくと、本を読むこと自体が楽しい。1冊よみ終えると、ちょっとした達成感が得られる。
読書の義務感から解放される必要がある。読書は、つらい勉強でも修行でもない。自分にとって心地よく、そして楽しい読み方をすべき。
大切なのは、その本を読んだことによって、自分の内部に何か残ったか、ということ。結果として残ったものは記憶のひだに刻まれ、自分の新たな価値観を形成する。
要は、自分にとって有意義なことだけを吸収できれば、いいやと考えるのだ。それだけのこと。大切なポイントは二つ。一つは、忘れる自分を肯定すること。二つは、次に進むこと。
読書は楽しい。すべての仕事の憂さを忘れさせてくれる。そして夢幻境へと導いてくれる。何かを創造しようという気にさせてくれる。もう少し、元気で何かをやってみようという気にさせてくれる。
それが読書なんです。どうですか、ご一緒に・・・。
(2018年5月刊。960円+税)

2018年9月18日

ゴリラからの警告

(霧山昴)
著者 山極 寿一 、 出版  毎日新聞出版

ゴリラと比較して、「人間社会、ここがおかしい」というサブタイトルのついた興味深い問題提起が満載の本です。
ゴリラ学者の著者がゴリラ集団に受け入れてもらうためには相当な苦労があったようです。
近づくときには、グックフームという挨拶音を出す。「だれだい」とゴリラ特有の音声で問いかけられたら、必ずこたえる。顔をのぞきこまれたら、視線をそらさず正面から見つめ返す。これがゴリラ社会に受け入れられるときのマナー。
ゴリラは食べるときには、個々ばらばらに分散する。人間は、集まって一緒に食べようとする。
ゴリラは顔と顔を近距離で向かいあわせて挨拶するが、人間は少し距離を置いて、じっと向かいあう。
ゴリラの赤ちゃんは2キロ以下で生まれ、3年から4年は母乳を吸って育つ。人間の赤ちゃんは3キロくらいと重く、2年以内に離乳する。
人間の目には、サルや類人猿の目とちがって白目がある。この白目のおかげで、1~2メートル離れて対面すると、相手の心の動きから心の状態を読みとることが出来る。
ゴリラは3~4年、チンパンジーは5年、オランウータンは7年も母乳を吸って育つ。だから、出産間隔が長く、生涯に数頭しか子どもを産めないし、大人になる子どもも2頭前後。そのため数が増えず、絶滅の危機に瀕している。
人間の赤ちゃんは2年足らずで離乳し、母親は年子を産むことも可能。私も年子です。生涯に10人以上の子どもを育てることが出来る。
人間の祖先は、捕食によって高まる子どもの死亡率を補うために多産になった。
人間の赤ちゃんとちがって類人猿の赤ちゃんは、とても静かだ。ゴリラのお母さんは、生後1年間、片時も赤ちゃんを腕から離さない。赤ちゃんは、ずっと母親にしがみついているから、泣いて自己主張する必要がない。人間の赤ちゃんがけたたましい声で泣くのは、産まれ落ちてすぐに母親以外の手に渡されて育てられるから。
人間がゴリラと違うのは、自分が属する集団に強いアイデンティティーをもち続け、その集団のために尽くしたいと思う心があること。これは、子ども時代に、すべてを投げうって育ててくれた親や隣人たちの温かい記憶によって支えられている。そして、人間が他者に示す高い共感能力も、家族をこえた子どもとのふれあいによって鍛えられる。
相手に何かしてもらえばお返しをしなければという思いや、何かすればお返しがあるはずだという思いは人間独特のものだ。
人間の笑いの多くは、サルたちの遊びの笑いに由来する表情だ。そこには相手と楽しさを共有しようとする気持ちがふくまれている。
アフリカで野生のゴリラとつきあっていると、だんだん自分の顔の表情が乏しくなっていくことに気がつく。人間が類人猿と共通なのは、胃腸が弱く、子どもの成長が遅いこと。
人間が類人猿と違うのは、離乳が早く、思春期に成長が加速して心身のバランスが崩れる時期があること。
生れてはじめて出会う人間に身の回りの世話をしてもらい、何もかも頼って暮らした経験が、人間を信頼して生きる心をつくる。逆に、幼いころに虐待を受けたり、裏切られたりした経験は、子どもの心に大きな傷を残す。
サル真似というコトバがあるが、実はサルは真似ができない。
中身は紹介しませんが、京大理学部のチームが中高生中心の女子タレントのチームと競って京大チームが2度も惨敗したというのが紹介されています。思わぬ発想が世の中では高く評価されることがあるのですね・・・。
京大総長の著者の指摘には、常にうむむと頭をひねって考え込まざるをえません。
軽く一読できる、大変コクのある話が満載の、ゴリラと人間を比較した本です。
(2018年8月刊。1400円+税)

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