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バイバイ・フォギーデイ

カテゴリー:司法

著者  熊谷 達也  、 出版   講談社
 面白い本です。まったく期待せずに、読み飛ばすつもりで読み始めたのですが、案に相違して抜群の面白さでした。なんだか函館の町にいて、高校生に戻った気分で本に没入し、最後まであっというまに読みふけっていました。いやはや、すごい書き手です。
なにしろテーマは憲法改正なのです。こんな堅苦しいテーマをじっくり面白く読ませてくれる手法には、恐れいりました、としか言いようがありません。
舞台は函館のH高校。そして五稜郭が出てきます。私も一度だけ五稜郭に行き、タワーにものぼりましたし、五稜郭の周囲の池の端を少しだけ歩いてみました。もう、20年近くも前のことです。
オビの裏には、こう書かれています。
一見ミスマッチな青春と政治が、鮮やかな恋物語を紡ぎだす。
憲法改正についての国民投票実施が決まった春、函館H高校女子生徒会長の杉本岬は、全国の高校生による模擬国民投票に向けて動き出す。メディアに取り上げられ、有名人になった岬だが、掲示板サイトには彼女を批判する書き込みがされて苦境に陥る。岬の同級生の田中亮輔は、地元パンクバンドのギタリストだが、憎からず思っている岬を助けたいと願いながらも、なすすべがない。国民投票の結果は? そして、二人の恋と未来はどうなるのか?
すごいんです。なにしろ焦点は憲法9条なのです。国民投票で否決されたら自衛隊は解体されるのか、という重大な問いかけがなされます。その点にきちんと答えないまま国民投票で勝負しようというのはインチキじゃないかと高校生が迫るのです。まことに、そのとおりです。
そして、日本の海上保安庁の船が不審船に沈没させられると、世論は一気に憲法改正に賛成するムードになっていきます。そして、ネット社会で有名人になった女子高生の岬は、憲法改正による賛否を明らかにせよと迫られるのです。
憲法改正は9条がメイン。それ以外にも環境権とかいくつかあるけど、あくまでも憲法9条をどうするかが議論の中心よね。
改正案は、最小限度の項目にしぼられた。そして、国民投票については18歳以上のはずだが(今は、まだ決まっていません・・・・引用者)、今年度末までに満18歳になる人は、18歳以上とみなすということになった。
これまで、我々は憲法9条の解釈に常にふりまわされてきた。霧とか靄(もや)とかがかかったような状態に長いこと置かれてきた。それが、今度の国民投票で、よかれ悪しかれ、霧が晴れてすっきりした状態になる。どういう方向に向かうかは投票の結果によるけれど、いずれにせよ、視界が良好な世界へと踏み出すことができるだろう。だから、バイバイ・フォギーデイ。もやもやした霧の日よ、さようならというわけです。
今回の憲法改正案が否決されたとき、現行憲法を文字どおりに解釈して、自衛隊を解体するのか、あるいは改正案が否決されたのだから、現状維持でよしとするのか。
私は、自衛隊なんていう軍隊は日本からなくなってほしい、必要なのは災害救助隊だと、3.11東日本大震災のあと、痛切に思います。
インターネットの世界では抜きさしならない事態に見舞われ、大きな危機に瀕している。なのに、実際の風景は、いつもと変わらず、いたってのどかなものだった。
そして、いよいよ国民投票の日が迫ります。改正キャンペーンはやや下火になったものの、結局、改正賛成が多数を占めます。ああ、こんなことにならないようにしようと思ったことでした。
巻末に主要参考文献のリストがあります。ぜひ多くのみなさんに読んでほしい本ばかりです。
(2012年4月刊。1600円+税)

魚は痛みを感じるか?

カテゴリー:生物

著者   ヴィクトリア・ブレイスウェイト 、 出版   紀伊國屋書店
 魚が痛みを感じているのか?
 この問いかけに対する答えは、イエス。ではなぜ、一度エサにかかって釣りあげられた同じ魚が、再びエサで釣れるのか?
それは、ひもじいのに、ほかにエサが見つからなかったから。うーん、魚も痛みを感じているのでしたか・・・。モノ言わない魚も、実は痛みを感じていたなんて。
 痛みとは、単一のプロセスではなく、一連のできごとが集まったもの。皮膚の特殊な受容体が刺激を受けると、それは何かが皮膚にダメージを与えているという情報を身体に伝える。たとえば、最初にやけどが検出され、その情報が伝達する信号が脊髄背角へと伝わり、そこで反射反応が引き起こされる。そして、ヒトはやかんのふたを落とす。ここまでは、すべて無意識のうちに生じる現象だ。信号は、脊髄に到達して反射反応を引き起こしたあと、脳に至る。そのときはじめて、ヒトは痛みを感じはじめる。
 やけどによって引き起こされた不快な情動的感覚に意識的に気づき、脳はたった今自分がとった行動が痛みをもたらしたのだと告げる。何らかの痛みが感じられるまでに2秒ほどかかることがあるが、ほとんど痛みはそれより早く感じられる。
 マスに深い痲酔をかけて活動を完全に停止させ、何が起きているかをまったく関知できない状態にする必要があった。しかし、神経系は依然として機能している。ヒトの場合には、痛みを経験すると、呼吸と心臓の鼓動が速くなる。魚の場合には心拍数が早くなることが、エラ蓋の開閉数を数えることで分かる。
 マスをハチの毒や酢で処置したとき、エラの開閉数は、休息していたことに比べて、ほぼ倍になっていた。したがって、マスは痛みを検知する。そして、それが刺激されると、その情報が三叉神経に伝達される。それによって魚の行動が変化する。
 では、魚は感情を経験しているのか、苦しむ能力をもっているのか?
 魚はエサを迷路のなかでも素早く見つけるようになる。つまり、魚は学習できるのである。エサを早く見つけるため迷路のなかで、どこで曲がったらよいのか、そのときの目印は何かを魚(キンギョ)は学習し、記憶することができる。
フィルフィンゴビーという小さな魚は、満潮時に周辺の地形を覚え込んでいて、干潮のときには海水のたまるくぼみを記憶している。そして、捕食者が来ると、水たまりから水たまりへと飛び移って逃げる。周辺の環境を学習するには、満潮をたった一度だけ経験すればよい。
魚にも「知能」があって、学習できること。そして、魚も痛みを感じていることを実証した面白い本です。
(2012年5月刊。2000円+税)

「地」的経営のすすめ

カテゴリー:社会

著者   佐竹 隆幸 、 出版   神戸新聞出版センター
 大変面白く、また勉強になる本でした。企業って、やっぱり人の役にところでこそ価値があるのですよね。大企業の経営者ばかりが、とてつもない高給とりであるアメリカを日本の経営者がマネしていますし、それを日本経団連が恥ずかしげもなく後押ししているのを見て、苦々しく思っていました。そんなときに、こんなビジネス本を読むと、ほっと一息ついて、救われる気がします。
 経営品質のいい企業とはいったどんな企業なのか?
 こう問いかけられたら、挨拶のできる企業だと答える。従業員が本当にきちんと挨拶ができる、そんな企業こそ経営の質がいいということである。なるほど、そうですよね。
 従業員が、自分の属する企業に誇りを持てるようになれる、誇りをもてるようになれば従業員は当然に挨拶ができるようになり、それば発展して企業は信用力が高まり、さらには成長発展していくことができるようになれる。
 神戸には有名ケーキ店をめぐる観光タクシーがある。有名ケーキ6店を2時間でまわり、3人で6000円(飲食代は別)。
 なるほど、これなら乗ってみようかなという気になりますよね。
 三重県四日市の宮崎本店は日本酒と焼酎メーカー。清酒「宮の雪」と焼酎「キンミヤ」のメーカーとして、東京で下町の居酒屋では熱狂的なファンがいる。北村薫の『飲めば都』にキンミヤは「素直で口当たりのいい」として紹介され、また大前研一の『サラリーマン・サバイバル』に、「日本酒は三重県の『宮の雪』だ」と書かれている。
 この会社の偉いところは、これまで一度もリストラしたことがないということ。そして、社員の安全を重視してきたこと。社員も会社の株をもち、1割配当してきた。すごいですね。
 日本経済が全体として冷え込んでいるなかでも、こうやって地元に根づいて着実に前に向かって歩み続けている中小企業がいることを知ると、うれしくなりますね。
 キャノンの御手洗会長そして住友化学の米倉会長といった日本経団連のトップはあまりにも視野が狭すぎます。自分たちさえよければ、あとは野となれ山となれといった経営者がもてはやされすぎているのではありませんか。そして、そんな金もうけで本位の経営者が教育問題でもっともらしい説教をするのですから、世の中、間違うはずです。
(2012年3月刊。1600円+税)

インド・ウェイ、飛躍の経営

カテゴリー:アジア

著者   ジテンドラ・シンほか 、 出版   英治出版
 インドの企業はすごい。
 2010年に、インドはアメリカ、中国、日本に次ぐ世界第4の経済大国となった。日本のGDPは4兆3100億ドルに対して、インドは4兆100億だ。インド経済は、年7~8%の成長を続けている。
 日本とインド企業との連携の好例は、スズキだ。インドの自動車市場の45%のシェアである。
インド・ウェイとは、よその国とは異なるインド企業独特の組織能力、マネジメント慣行、そして企業文化の複合体だ。それは、作業員とのホリスティック・エンゲージメント、ジュガンドの精神、創造的な価値提案、高度な使命と目的の4つの原則から成っている。
 アメリカのMBAプログラムに入学するために必要なGMATの受験者は、10年間にアジアで74%増加したが、中国は161%、インドは341%も増えた。
インドでの販売の最大の課題の一つは、従来のマスメディアが人口の半分にしか届かず、5億人をこえる人が企業の製品やブランドについてほとんど知らない。およそ60万の村落の分散している農村部の住民は、新聞、電子メディア、鉄道につながっておらず、また半分以上は道路でさえ都市と接続していない。
 インド企業の驚くべき成功にもかかわらず、多くのインド人が貧困に窮しており、3億人以上の人々が1日1ドル以下で過ごしている。幼児期の死亡率は依然として高く、1000人の出生について57人が死亡する(アメリカでは7人)。
インドの中間層は急激に増えており、田舎の生活から離れ、新しい格差を生み出している。政府における汚職だけでなく、ビジネスにおける汚職も、インドでは日常的となっている。
 ごく低収入の人々に、ごく安い価格でアプローチするビジネスが生まれました。
 きわめて多数の顧客人口に対して、非常に低コストの通信サービスを提供した。世界でもっとも安いケータイ料金が1分10セントのとき、インドでは1分1セントというものだった。
 なーるほど、数は力なりですね。どんなに安くても、数が多ければ商売として成りたつというものです。
 世界に冠たるインド企業の内実を少しだけ知った気にさせる本でした。
(2011年12月刊。2200円+税)

介護と裁判

カテゴリー:社会

著者  横田  一  、 出版   岩波書店
 ちょっととっつきにくいタイトルですから、本のタイトルとしては失敗しているんじゃないかと思います。それでも、読むと介護施設の寒々とした実情と問題を鋭くえぐった本です。みんな年齢(とし)をとったらお世話になるはずの介護施設の実態がこんなにひどいものだったとは、思わず身震いしてしまいました。
「あすにも社会的入院や寝たきりはなくなる」という標語は見事に幻想に終わった。いやあ、本当に残念です。
 介護保険制度は、保険料や公金など、年に7兆円以上もかけているのに、うまく機能していない。少なくとも合格点からは、はるかに遠い。うむむ、困ったことです。
 その理由の一つは、介護殺人や介護心中がなくならないどころか、逆に増えている事実にある。介護事故についての報告件数も年々増えている。
パンはこわい。パンを丸々一個口に入れて、ノドに詰まらせて死亡する例があとを絶たない。そこで、ケアの場では、日頃から歌などで声を出す練習をする。食べ物を飲み込むときに使う筋肉が、発声に使う筋肉とほぼ同じだから。舌を出し、頬をふくらませるなど、「お口の体操」をしてから食事に入る施設が少なくない。
介護保険法によれば、正当な事由なくサービス拒否することは禁じられている。しかし、実際には、施設は「客」を選ぶ。介護施設のよし悪しは、ヘルパーの力量いかんによる。質のよいところほど、スタッフのできのよいほど、できること、できないことをはっきり答えてくれる。有料老人ホームも玉石混交。肝心の職員研修が、手間や時間、経費がかかるためか比較的貧弱で、事故がじわじわ増えている。
 認知症の介護ではヘルパーが冷静にしていられるには、かなりの習練が必要となる。
世界最長寿のわりに、日本はリハビリ後進国といわれる。医療と介護をどうつなげてリハビリするかの検討も不十分だ。
 床ずれは、病院でおこせば「療養上の世話」のミス、つまり看護過誤。じつは、床ずれの有病率は、在宅高齢者に一番高い。
 支配されるお年寄り、介助者は王さま。これがケアの力関係である。
介護施設は、夜に20対1(ヘルパー1人で20人をケアする)というのはざら。
 拘束あるいは虐待の輪を断ち切るのは、看護師でもヘルパーでも、経営者でもない。身内なのだ。家族やまわりの善意の声が大きいかどうかで、対応は変わっていく。これが現実である。
 認知症の患者は、識別能力こそ弱っているものの、感情はある。
虐待発生のリスクは、ケア現場すべてに内在している。虐待するのは、20~30代の若手の介護士たち。そこで家族は、いろんな時間帯に面会するとよい。とくに、食事どきに食堂にすわる。そのとき、家族のいない年寄りがどう対応されているのかをよく見る。
 介護職場の大変さと、それを放置してごまかしている政府のインチキさがよくわかる本でした。
(2012年1月刊。1700円+税)

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