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毛沢東、大躍進秘録

カテゴリー:中国

著者   楊 継縄 、 出版   文芸春秋
 毛沢東の最大の罪状の一つが大躍進政策下で3600万人もの中国人が餓死したという事実です。その後の文革大革命の過ちに匹敵する罪悪です。
著者は中国共産党のエリート記者として活躍していたのですが、大躍進時の中国の実情を暴いたこの本は中国では発禁となっているとのことです。
止むことのない革命的大批判、見たり聞いたりする残酷な懲罰、それらは怯(おび)えの心理状態をつくり出す。それは毒蛇や猛獣を見たときの瞬間的な怯えとは異なり、神経や血液のなかに溶け込んで生存本能となる怯えなのである。人々は、熱い火を避けるように政治的危険を避ける。
皇帝が一番偉いという考えの強い中国では、人々は中央政府の声を権威とみなす。中国共産党は、中央政権という神器をつかって、全国民に単一の価値観を注入する。経験の浅い青年たちは、この注入された価値観を心から信じ、世間を知る親たちは、あるいは神器に対する迷信から、あるいは政権に対する怯えから、自分の子どもが政府と異なる考えをもたないよう、常に子どもが従順でいうことを聞くよう要求する。
 1958年から1962年の間に中国全土で3600万人が餓死した。餓死者の特徴は、死に瀕して発熱はなく、反対に体温は下がる。
 死の前の飢餓は、死そのものより恐ろしい。トウモロコシの芯、野草、樹の皮を食べ尽くし、鳥のフン、ネズミ、綿の実、それらすべてを口にした。白い粘土(観音土)も口に入れた。死者の肉は、他人だけでなく、その家族すら食糧にした。当時、人肉食は特別なことではなかった。
公共食堂制度は、大量の餓死者を出した主要な原因である。公共食堂を始める過程は、家庭を消滅させる過程であり、農民から略奪する過程でもあった。
 公共食堂が始まった最初の2ヵ月あまり、人々はどこの食堂でも、やたらに飲み食いした。食糧が浪費された。公共食堂は、幹部特権化の基地にもなった。
 公共食堂のもっとも大きな効能は、プロレタリア独裁を一人一人の胃袋にまで徹底させたことである。公共食堂を始めてからは、生産隊長は「法廷」の長となった。そのいうことを聞かないものには飯を与えない。公共食堂とは、実際には、農民たちが飯茶碗を指導者に渡すことである。つまりは、生存権を指導者に渡すことであった。飯茶碗を失った農民は、まさに生存権を失った。
 
 農民が大量に餓死しているとき、幹部は分け前以上に食べている。これは普遍的な現象であった。
 1958年の夏秋以降、毛沢東は、公共食堂を何回となくほめたたえた。
 1960年12月に事実上、公共食堂は解散した。しかし、毛沢東は公共食堂が次々につぶれていく状況に非常に不満だった。
劉少奇や周恩来は毛沢東に反対したことはあったが、毛沢東には逆らえず、ときには、毛沢東よりもっと過激なことさえ言って火に油を注いで、さらに助長した。毛沢東に積極に加担した者、保身のために余儀なく支持した者、権力にとりいった者、無知蒙昧だった者、ドサクサに紛れてもうけた者など、いろいろいた。
 1958年の「人民日報」は完全にホラ吹き競技大会の紙面となっていて、ホラ吹きを組織していた。農民が農村で大量に餓死する一方で、都市の需要をまかないつつ、豚や卵は輸出されていた。政府の買い上げ目標が高いため、買い上げ作業は困難をきわめた。政府は、農民が食料を上納できないのは生産隊が食料を隠匿しているからだと考えた。
 1959年の廬山会議において彭徳懐は毛沢東を批判する私信を毛沢東に送り届けた。このころ、毛沢東は両目を失い指導者の地位を失うかもしれないと心配していた。
 毛沢東は、軍の高級将校たちの間に団結がないことから安心して手が打てた。周恩来や林彪は、毛沢東が彭徳懐を批判したとき、その保身に走った。周恩来も彭徳懐に対して、井戸に落ちた者にさらに石を投げつける態度をとった。
 毛沢東は1940年8月の百団大戦について否定的評価を下していた。これも彭徳懐の歴史的に重要な誤りとみなしていた。
 中国とはどんな国なのか、毛沢東の誤りはなぜ生前にただされなかったのかという点を学ぶことのできる本です。
(2012年3月刊。2800円+税)

医療クライシスを超えて

カテゴリー:ヨーロッパ

著者   近藤 克則 、 出版   医学書院  
 イギリスと日本の医療制度を比較した興味深い本です。
 イギリスの医療が荒廃し、国会で大問題となった。かつてのイギリスでは医療費を抑制しすぎて、100万人を超える入院待機者が生まれ、手術しても1年半以上も待たされるという医療の荒廃を経験した。医療費水準は低いほどよいのでは決してない。そこで、世界の他の先進国に比べて異常に抑えすぎた医療費が主因であるという認識が広がった。その結果、医療費を5年間で1.5倍にするという医療改革にイギリスは取り組んだ。
 医療費が抑制された1990年代半ばに看護師数やGP研修医は減少していたが、増加に転じた。1999~2004年の5年間に、看護師は33万人から40万人へ7万人も増えた。医師は9万人から11万人へと2万人ふえた。医学部の定員は4千万人から6千万人へと6割アップした。
カナダも、同じように医療費を増やす道を選んだ。日本より医療費の水準が高いにもかかわらず・・・。このように、先進国では、むしろ医療費を増やすかたちで必要な投資をし、質を高めつつ、効率を高めるという医療改革をしている。医療費を抑えている日本は世界の流れに逆行している。
 患者の自己負担を増やすのは、短期的には効果があるようにみえても、意外なことに長期的にみると、公的医療費の削減にはつながらない可能性が高いというのが国際的な経験である。
 自己負担を増やせば、それを払えない人も増える。それを公的に補う結果、公的な医療費は増える。国民皆保険でないアメリカのほうが、医療費が高いこともあって、GDPに占める公的医療費に限っても日本以上に大きい。
 自己負担を増やした結果、公立病院の未収治療費が3年間で1.5倍にも増えた。
 日本の医師は偏在している。そして、医師不足は深刻だ、もっとも医師の多い京都府は(272.9人)であっても、OECD加盟国の平均310人に達していない。平均並みにするには12万人も医師が足りない。
 日本より人口あたり医師数が少ないのは、韓国、メキシコ、トルコの3ヶ国である。
 自己負担増は病院の未収金を増やすだけでなく、患者の受診抑制を招く。
 患者は低所得層に多く、自己負担できる富裕層には患者は少ない。
 日本社会は、子の50年のあいだに平均寿命を10年以上も伸ばすという「長寿」を実現した。今では「健康寿命」も世界一の長さを誇っている。これは介護予防政策が強化される前に起きたこと。つまり、健康医療制度の拡充だけでなく、経済発展や教育水準の向上、他国に比べて少ない失業率、終身雇用制、1980年代まで貧困の減少や年金制度など社会保障の拡充による格差の是正など、多くの社会経済的要因が寄与したと思われる。
「社会保障との一体改革」の名のもとで、いま、社会保障制度の改革がどんどん進められています。そこでは、私たちの団塊世代が諸悪の根源であるかのような議論も出ていて、とんでもないことだと怒りに燃えてしまいます。
この本で、イギリスとの非核で日本はアメリカのような医療保険会社だけがもうかる、いびつな社会になってはいけない、公的医療制度の充実こそ大切だと実感させられました。
(2012年3月刊。2800円+税)

愛犬が教えてくれること

カテゴリー:生物

著者   ケヴィン・ビーアン、 出版   早川書房
 犬について、改めてよくよく考えさせてくれる本でした。
 犬の行動は、たとえどんなものであろうとも、常に飼い主の心に訴えかけているのだ。なぜなら、人は、自分では気づいていなくても、潜在的に犬と同じ動物的な意識を心のなかにもっているから。犬と飼い主の心を結びつけるのにもっとも重要なのは、人が動物の中に人間性を読みとることではなく、動物が人間の中にある動物性を読みとることである。
 犬は人の感じることを感じる。これによって犬は自分の立場やこの世界に適応していくためにしなければならないことを「知る」。
犬は、あるもの、あるいはある瞬間をほかと比較してみるという世界観をもっていない。犬の心はエネルギーの回路である。
 犬と人間は、基本的に同じ環状構造をもっている。犬は、人から発散された潜在的エネルギーに非常な興奮を示す。
犬は人が注目しているものに心を奪われる。飼い主が棒を指差し、「取ってこい」と命じると、犬にとって棒は手や足と同様、飼い主の体の一部となる。犬は飼い主が棒に対して発した感情のエネルギーを感じとる。犬からみると、棒は生き物であり、飼い主の体そのものなのだ。
 犬と人の意識は、犬のいる場所で交わる。犬は「心のエネルギー」である。心のエネルギーとは、肉体と神経のエネルギーが交わり、頭と体が結合し、人間が自然とつながる場所である。こうして、犬は人間の内面を映す鏡となる。犬は自分が欲しいと思ったものは、人間も欲しがっていると「感じる」。
 わがままな犬を飼っている家庭では、しばしば子どももわがままである。
犬は、きわめて社会的で協調性に富んだ動物である。だが、狩りの最中は、リーダーを識別するのは容易ではない。
 きちんと育てられ、訓練された犬は飼い主のライフスタイルに適応する術を身につけている。
去勢された雄犬は、されていない雄犬より問題が多い。犬に不妊治療は必要ない。
犬には思い出すことがなく、それでいて、忘れることがない。犬に時間の感覚がないのは、犬が感情に動かされる生き物であり、完全に感情によってのみ動くから。
犬がなにをするにしても、そこに意図はない。犬は、まさに今の瞬間のみを生きており、犬の行動と学び方は、感情が犬の体の中でどう動き、そしてどう発展して特定の感覚を引き起こすのかによって決まる。犬には時間という概念が全くなく、他者がどんなものの見方をするかを想像することもできない。
 感情こそが犬の全意識であり、認識するすべてだ。感情の流れが犬の意識の流れだ。犬は感覚そのものだ。
 犬にとって、一瞬は永遠と同じであり、物事がどうやって、なぜ起こるのかを犬が「考える」ことはない。
犬が生まれつき社会的なのは、個々にもつはずの感情の回路が半分は相手の中にあるからだ。犬はみな、持ちつ持たれつの関係を築いている。
犬とは、どういう生き物なのか?
 犬とは自然界で最も共感力の強い生き物である。犬は心で理解する。犬は感情そのものなのだ。犬は飼い主の姿を映し出している。
 犬は飼い主を心で理解する。犬の行動は、飼い主いや自分のグループの心を写し出す感情の超音波映像のようなものだ。
犬は感情を理解する達人として高度に進化した生き物だ。
犬と飼い主との関係について、これほど深い関係があることを指摘した本を読んだことがありませんでした。犬好きの人には犬という生き物を深く理解するため一読をおすすめします。
(2012年3月刊。1800円+税)

がん放置療法のすすめ

カテゴリー:人間

著者  近藤 誠 、 出版   文春新書  
 がんが見つかっても、あわてて治療を始めないこと。放置しておくのも一つの対処法だと著者は力説しています。
 がん放置療法の主人公は患者。監視療法は、医者が患者を監視、支配し管理する。
 がん放置期間中は、がんであったことを忘れて、何も検査しないのがベスト。
 前立腺で、骨転移で痛みがあれば、治療を受けるのが妥当。そして、抗がん剤治療(化学療法)は、寿命を縮めてしまう。高齢者には、抗がん剤は特に危険。
 鎮痛目的で、2種類以上の方法を同時に始めないこと。
CTは放射線検査の中で線量が多く、被曝による発ガンの危険がある。胸部レントゲンによる被曝線量はCTのそれの数百分の一でしかない。
実のところ、健診は受けないのが平和に長生きするコツなのである。
抗がん剤治療は縮命効果が大きい。実は、スキルス胃がんは、手術さえしなければ、人が思っているよりずっと長生きできる。
 ええっ、と思いました。私の親しい弁護士は30代で亡くなってしまいましたが、手術しなければもっと長生きできたのでしょうか・・・。
そもそも胃がんの手術で胃を全摘したり、大きく切除したりするのは、原則として間違いである。
 そうなんですか・・・。ちっとも知りませんでした。
 がん放置療法の要諦は、少しの期間でいいから様子をみる点にある。その間にがん告知によって奪われたころの余裕を取り戻す。
がんは老化現象なのである。老化現象だから、放置した場合の経過が比較的温和なのである。
 がんについて、改めて考えさせられる本でした。
(2012年4月刊。780円+税)

有罪捏造

カテゴリー:司法

著者   海川 直毅 、 出版   勁草書房  
 大阪で2004年(平成16年)に起きた大阪地裁所長に対するオヤジ狩り事件についての本です。その犯人として警察が捕まえた人たちが実は無実だったという衝撃的な話なのです。ええーっ、大阪の警察はいったいどうなってんの・・・と思ってしまいました。警察の思い込み捜査のひどさがここにもあらわれています。
 大阪地裁所長が自宅に帰ろうとして、夜8時半すぎに歩いているところを4人組の若者から襲われ、所持金6万円を奪われたという事件でした。犯人は高校生風の4人組ということだったのに、29歳の、身長184センチ、体重90キロの成人が犯人とされたというのも納得できないところです。ところが、検察官は犯人像にまったくあわないのに起訴してしまうのでした。
 当然のことながら、弁護人は苦労します。被害者が現職の大阪地裁所長だけに、裁判官は被害者の尋問をなかなか採用とはしません。先輩に対する遠慮(保身か・・・?)が先に先立つのです。それでも、なんとか法廷での被害者尋問は実現しました。
そして、決定打は近くの民家に備え付けてあった防犯ビデオでした。その映像に犯人と思われる4人の人物が走り去る様子がうつっていたのです。どう見ても細身の少年風の四人組でした。29歳で巨大の被告人とはマッチしないのです。
 そこで、ビデオ映像を鑑定してもらうことにしました。すると、被告人の身体の特徴とは合致しないことが判明しました。
さらに、事件当夜、共犯とされていた少年と交際していた少女のケータイにメールのやりとりが残っていたのです。結局、これが決め手となりました。そのケータイ・メールは後から作為できるようなものではありませんでした。
 犯行当夜のアリバイが確実に裏付けられたのです。逆にいうと、これほど、明確なアリバイ証拠が出てこないと、被告人が無罪になるのは難しかったのではないかとも思いました。
 それほど、裁判所は警察や検察庁を信頼しているということです。この世は、信じられないことばかりですよね、まったく。
(2012年5月刊。2400円+税)

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