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聞く力

カテゴリー:人間

著者   阿川 佐和子 、 出版   文春新書
 著者はたくさんのインタビューをしていますから、さぞかし自信をもっているのかと思うと、意外にもそうではないとのことです。
インタビューするときは、質問を一つだけ用意して出かける。
 もし、一つしか質問を用意していなかったら、当然、次の質問をその場で考えなければならない。次の質問を見つけるためのヒントはどこに隠れているだろ。隠れているとすれば、一つ目の質問に答えている相手の、答えのなかである。そうなれば、質問者は本気で相手の話を聞かざるをえない。そして、本気で相手の話を聞けば、必ずその答えのなかから、次の質問が見つかるはずである。
 なーるほど、真剣勝負の世界ですね。
資料を万全に読み込んで、すべての情報を頭に入れていくと安心すると同時に、油断もする。だから、事前の準備はほどほどにする。相手に失礼な知識は頭に入れておくにしても、すべてを知ってしまったかのような気持ちにならないよう、未知の部分も残しておくのが大切だ。事前の勉強は大切だけれど、相手の前で知ったかぶりはせず、にわかに勉強であることを素直に認め、相手に失礼のない範囲で素朴な疑問をぶつけるようにする。
 インタビューをうまくすすめていくうえでの体験談がとても実践的で参考になりました。
(2012年2月刊。800円+税)

ルーズヴェルト・ゲーム

カテゴリー:社会

著者   池井戸 潤 、 出版   講談社
 『下町ロケット』で直木賞を受賞した著者の第一作ということです。何となく『下町ロケット』の雰囲気に似たところがありますが、最後まで一気に面白く読み通せたのは、さすが著者の筆力です。
私が草野球をしたのは小学生まで、あとは夏の甲子園大会で高校野球をたまに見ることがあるくらいです。私の子どもが小学生のころ、世間の親と一回くらいは同じことをしてやらないと可哀想だと思ってナイターに連れて行ったことはあります。弁護士になって、付きあいで仕方なくドームで野球観戦をしました。私にとって野球は全然興味をひかないものの一つでしかありません。ですから、この本で取りあげられる社会人野球なるものは見たことがありませんし、見るつもりもありません。
 そんな私ですが、著者による野球試合の展開の描きっぷりはすごいですよ。思わず手に汗を握るというものです。次はどうなるのか、息を詰めてしまいます。
 タイトルになっているルーズヴェルト・ゲームというのが、そういうものなのです。
 社員1500人、年間500億円超の中堅企業。このところ業績が低迷し、銀行から大胆なリストラが求められている。整理の対象に年間3億円も喰いつぶす野球部があげられ、ついに社長は廃部を約束させられてしまう。廃部となれば、野球部にいる10人ほどの正社員はともかくとして、その他の40人もの契約社員はみな退社せざるをえなくなる。ええーっ、これは大変なことですよ・・・。
 ルーズヴェルト・ゲームとは、野球好きのフランクリン・ルーズヴェルト大統領が、一番おもしろいと言った試合のこと。つまり、逆転して8対7で終了した試合のことである。
 そうなんです。この中堅企業も苦しいなか、ついに画期的な新商品の開発に成功し、ライバル企業を出し抜き、生き残りに成功したのでした。しかし、野球部の廃部が取り消されたわけではありません。それではハッピーエンドにはなりません。そこを、著者は何とかひねり返すのでした。うまいものです。爽やかな読後感の残る小説です。現実は厳しいのですが・・・。
(2011年10月刊。2800円+税)

謎とき平清盛

カテゴリー:日本史(平安)

著者   本郷 和人 、 出版   文春新書
 著者はNHK大河ドラマの時代考証も担当する学者です。その指摘には、はっとさせられる鋭さがありました。
日本の歴史には二つの特徴がある。
第一に、平清盛が鎌倉に幕府を開いて以降、明治維新に至るまで、700年間ものあいだ武士が社会の支配者として、大きな役割を果たした。
 第二に、伝統が重んじられ、世襲が社会の基本原則として機能してきた。
 第一の点では、戦前の日本で軍人が偉そうに威張って、日本という国を破滅に導いた愚をくり返したくないものです。昔も今も自衛隊出身の国会議員がいますが、彼らが偉そうに言っているのを聞くと、虫酸が走ります。
 第二の点では、会社はともかくとして政治家の世襲なんて嘆かわしい現象だと思います。これは日本だけではなく、ブッシュ父子のようにアメリカでも起きています。
 黄櫨染(こうろぜん)と黄丹(おうだん、おうに)。前者は赤みを帯びた肌色で、天皇だけが用いることのできる色。後者は赤みをおいたオレンジ色で、皇太子だけに許されている。いわゆる禁色(きんじき)の色である。うひゃあ、こんな色が禁色だったのですね。
 中世の本質は、統一性ではなく、多様性にある。
 税を徴収するために、郡司(ぐんじ)、郷司(ごうし)、保司(ほうし)が任じられた。彼らは、存置の有力者で、国の役所である国衙(こくが。現在の県庁)の役人である在庁官人に任じられた。国衙では太田文(おおたふみ)という台帳が作成されていた。米で収める「年貢」、特産品で収める「公事」(くじ)、労働力を提供する「夫役」(ぶやく)の三つが当時の税を構成していた。幾内の国では「夫役」は、「京上夫」(きょうじょうふ)として、実際に京に行っていた。
 国司に任じられた貴族は、自身は京都にいて、家礼(けらい)を現地に派遣した。この家礼は目代(もくだい)とか眼代(がんだい)と呼ばれ、在庁官人を指揮して、国を統治した。
朝廷は官僚をもたなかった。日本では中国・朝鮮・ベトナムのような科挙の制度を導入しなかった。そのため、才能よりも世襲が政府における支配的な原理となり、貴族だけが政治に関わった。
 また、朝廷は軍隊も保有しなかった。常備軍は消滅した。
朝廷の正式な儀式においては、天皇よりも上皇がえらい。政治の実権を握っているのも上皇だった。
 「精兵」(せいひょう)と形容した強い武士、優れた武士とは、まずは強弓を引ける人。弓の上手に大変な敬意が払われている。戦いで倒れる兵は多く、古くは弓で射られ、また、鉄砲でうたれて命を失っていた。
 日本列島の西方を重視する政権づくり、経済重視、海外交易の推奨。そして改革者だという武士として、平清盛と織田信長の2人があげられる。
 平清盛は、既存の知行国制を有効活用し、いわば朝廷のなかに将軍権力を生み出そうとした。ただ、身分の低い武士が結集する場としては、伝統ある京の都はふさわしくなかった。そのため、清盛は福原への遷都を強行したのではないか。
 平清盛と武士たちについて、いかにも鋭い分析がなされていて、驚嘆しながら面白く読了しました。
(2011年11月刊。750円+税)

キレイならいいのか

カテゴリー:アメリカ

著者   テボラ・L・ロード 、 出版   亜紀書房
 アメリカの女性弁護士の書いた本です。ABA(アメリカ法曹協議会。日弁連みたいな団体ですが、強制加入ではなく任意加入)の女性法律家委員会委員長もつとめました。
 容姿に関して、男性と女性は別々の基準が適用される。ダブルスタンダードがある。
 男性は買い物代行サービスや美容のプロの世話にならず、そのための費用を払わずともちゃんとした身なり整えることができる。それなのに、なぜ女性はそれが出来ないのか。
 たとえば、女性のはくハイヒールはひどい腰痛や足の障害の大きな原因になる。女性の5分の4がこうした健康問題をいつかは経験する。
 アメリカ人は、年間400億ドルを投じてダイエットに励んでいる。
 ダイエットに励む人の95%は1~5年のうちに体重が元に戻る。
 消費者が化粧品に投じる180億ドルのうち、材料費が占める割合は7%にすぎず、残りは高価な包装費や、科学者に言わせると効果のない商品の広告費である。
 身だしなみへの投資額は全世界で年1150ドル。ヘアケアに380億ドル、スキンケアに
240億ドル、美容整形に200億ドル、化粧品に180億ドル、香水に150億ドルである。
 だが、このようにお金を使っても、効果はめったに上がらない。
 アメリカの女性は、毎日平均45分かけて基本的な身づくろいをする。
 アメリカでは、成人の3割、思春期の女性の6割がダイエット中だ。
 アメリカ人の1%弱が無食飲症を患い、4%がむちゃ食いをする。
きれいになるための努力から満足感を味わうこともあるだろう。だが、こうした努力は、不愉快な重荷になるし、恥辱感や挫折感の源ともなり、不必要な出費を強いることもある。
 イギリスの有名な女性歌手スーザン・ボイルがイメージチェンジしたとき、マスコミが叩いた。背が低くて太っているけれど、それがスーザン・ボイル。それで何がいけないって言うの?スーザン・ボイルはそう言って開き直った。しかし、それでも周囲からの重圧に耐えかねて、ストレス治療のため入院することになった。
 性的嫌がらせを禁止する法律が出来た。その問題点は、過剰反応ではなく、被害申告があまりに少ないことだった。
 明白な容姿差別禁止令をもつ国はアメリカのほかはオーストラリア一国のみ。アメリカと同じく、オーストラリアでも、審判所に持ち込まれる容姿差別の訴えの大部分(6割)は、人種、性別、宗教、障害など、容姿以外の要因が関係している。訴えの大多数(9割)は成功していない。
女性にとっての美しさのもつ問題点を多角的に検討した本です。
(2012年3月刊。2300円+税)

福島第一原発 ―真相と展望

カテゴリー:社会

著者   アーニー・ガンダーセン 、 出版   集英社新書
 アメリカのスリーマイル島の原発事故を研究した専門家による分析ですので、説得力があります。
 3月18日の時点でメルトダウンしているとコメントしたことから、パニックに煽っていると非難された。しかし、実際には、政府や東電の方が間違っていた。メルトダウンは起きていた。福島第一原発では、今なお放熱が続いている。そして、大気や海への深刻な放射能漏れが観測されている。
 政府のいう「冷温停止」というのを額面どおりに受けとめてはいけない。
これで多くの日本人がごまかされていますよね。もう、過ぎたことだという錯覚がまん延しています。そこに原発再稼働を狙う、よこしまな経済界と政治家がつけ込んでいるのです。許せません。
 核燃料は塊と化したまま、中心部で、いまだに溶解しているだろう。
これって、恐ろしいことです。
核燃料が空気中でも溶解しないほどに冷めるには、少なくとも3年を要するだろう。
 一号機は、地震そのものから構造的なダメージをこうむった可能性が高い。そして、格納容器が破損しているということは、水がほかの容器から流出しているだけではなく、格納容器から外へ漏れているということ。この状態が何年も続く。建屋地下の放射線量が高すぎて、誰も近づけず、解決できない。汚染水が漏れ続ける。そして、いったん地下水に入った放射性物質を完全に取り出す術はない。
 二号機は見た目こそ一番ましだが、格納容器の破損は最も深刻である。
 格納容器が破損している一、二号機からは、何年にもわたって大気と地下水に放射能汚染が広がり続ける。
 三号機の格納容器のどこかに漏れがあるのは確実で、今なお蒸気が逃げている。何年にもわたって放出が続く。核燃料の大部分はメルトダウンし、さらにメルトスルーしている。建屋地下には、膨大な量の意泉水が留まっている。
 向こう10年にわたって、海中で核燃料の破片が見つかるだろう。セシウムやストロンチウムだけでなく、プルトニウムもふくんでいる。
 放射能が1000分の1になるまで25万年も付き合わなければならない。これらは、徐々に海中に溶け出す。
 一番の懸念材料は四号機である。四号機は、格納されていない炉心を冷却する機能を失っていた。
 大きな地震に再び襲われたとき倒壊する可能性が最も高い。四号機が崩れたら、即座に東京から逃げ出すほかない。
 四号機の使用済み核燃料プールは、今でも日本列島を物理的に分断する力を秘めている。直径10メートルもある格納容器の床から溶解した核燃料を剥がす方法は、誰も思いついていない。一~三号機の原子炉だけでも257トンのウランを回収しなければならない。格納容器の蓋から底までの高さは35メートルもある。その距離から遠隔操作のクレーンを用いて、溶解し金属と混じった核燃料を探し出さなければいけない。これを解決する技術はまだない。コンクリートと結合した核燃料は冷却のために水没させておく必要があり、水中ロボットを使うことになるが、そんなロボットはまだ設計すらできていない。
 核燃料を取り出すためには、必要な技術を開発して作業に着手するまでに10年、実行するのに10年ほどかかる。
 取り出しが成功するまで、放射性物質の放出は続く、その間、作業員を絶やさないよう次々に訓練しておかねばばならない。
 使用ずみフィルターは、核燃料と同じくらい危険なものである。
 処理費用20兆円という試算は過小評価かもしれない。取り出した核燃料をそのまま福島第一原発にはおいておけない。海辺なので再び津波が来る可能性があるから。
 使用ずみ核燃料は、3年間のプールでの冷却期間と30年間の中間貯蔵を経た最終処分場は決まっていない。これは人類の時間スケールをこえた話なのである。
日本では、現実を直視せず、何事もなかったように「日常」を取り戻すのが最優先になっている。それが可能なのは、実際には始まっている健康被害が直面化するまで数年かかるためだ。これから健康への悪影響が顕在化してくるかもしれない。だから、みんなが立ちあがって口を開く必要がある。
小出助教の最新の本を読むと、玄海原発が今もっとも危険だということです。40年もたって、明らかに老朽化しているからです。大事になる前に、ぜひ手当てしてほしいものです。
 深刻な現実から目をそらしたいのは私もやまやまなのですが、そういうわけにはいきません。とても怖い本でしたが、一読を強くおすすめします。
(2012年3月刊。700円+税)

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