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子育て教育を宗谷に学ぶ

カテゴリー:社会

著者    坂本 光男 、 出版   大月書店  
 8月初めに北海道・稚内に教育事情の視察に行ってきました。そのあとで、この本を読み、そうだよね、教育は学校と教師に任せていいということではなくて、家族ぐるみ、地域ぐるみで取り組むべきものだよね。改めてそう思ったことでした。
 この本は今から20年も前に出版されていますけれど、その意義は今も決して小さくなってはいません。著者は、宗谷教組の支部長から、「9月いっぱい講師にきてほしい」と要請されました。ええっ、1ヶ月間の講師って、すごいですよね。
宗谷地区の管内全域で、教師と親そして子どもたちを対象とした教育講演会が、文字どおり地域ぐるみで大盛況のうちに成功していきました。その模様が本書で紹介されています。感動に心がふるえます。
 たとえば、全校の子どもが35人、全戸数が88軒しかない地区における夜の講演会の参加者が、なんと102人でした。これはすごいことですね。教師への日頃のあつい信頼がないと、こんなこと出来ませんよね。
 宗谷には昭和53年(1978年)11月に成立した合意書があります。校長会、教頭会、教育委員会そして宗谷教組の四者が調印したものです。そこには、憲法と教育基本法の方針にもとづき、学問の自由と教育の自主性を尊重し保障することを基本として教育を進めていくことが明記されています。
そのうえで、学校運営の基本について、「なによりも子どもの教育を中心におき、校長を中心にすべての教職員の民主的協議と協力関係のもとに民主的に運営される」こととされています。
さらに、職員会議の実践的あり方についても、次のように定められています。
 「職員会議は、教育の目的を実現するために、学校運営の中心的組織として、その民主的運営と協議を基本に、校長を中心にすべての教職員の意志統一の場である。
 校長は、協議結果を尊重し、教職員の自主性・自発性が発揮されるよう努力し、教職員の合意が得られず、校長の責任で決定する場合でも、実践的検証による再協議を保障しあう」
 すごいですね、まさにこのとおりではないでしょうか。
 ところが、最近の橋下「教育改革」そして文科省の方針はそうではありません。校長がすべてを決定し、教師はその決定にひたすら従うだけの存在、しかも相互連帯ではなく、相対評価で優劣をつけられ、最下位ランクが続くと免職処分がありうるような仕組みになっています。これでは教師の自主性・自発性は発揮する余地がありません。それは、子どもたちの自主性・自発性を殺すことに直結します。
 著者は、先生たちが自由に意見を述べあい、校長がそれをリードしつつまとめていけば、学校の教育は必ず良くなると強調していますが、文部省と橋下はそれを許しません。
 第一に、子どもたちを人間として大事にする。第二に、大人たちの取り組みに民主主義のイロハを貫く。この二つが大切だと著者は強調しています。まったくそのとおりではないでしょうか。20年も前の、わずか200頁の薄い本でしたが、読んで胸の熱くなる思いのする本でした。
(1990年10月刊。1300円+税)

ルポ・出所者の現実

カテゴリー:司法

著者    斉藤 充功 、 出版    平凡社新書 
 悪いことした奴は刑務所に入れておけ。
 これが多くの人の素朴な思いでしょう。では、どんな人が「悪いこと」をしているのか、その「悪いこと」って何なのか、入れておかれる刑務所ってどんなところなのか、世間の人はあまりにも知らなすぎるように思います。
 もちろん、私だって刑務所生活を十分に知っているとは言えません。それでも、刑務所も拘置所も何回となくなかに入って見学しましたし、収容された体験者から話を聞き、さらに体験談をいくつも読んでいますので、少しばかりは分かっているつもりなのです(つもりだけではありますが・・・)。
 統計によれば、再犯率は1999年以降、30%台で推移していたが、2008年には40%をこえた。とりわけ窃盗と覚醒剤の再犯率は50%をこえている。窃盗がもっとも再犯率が高く、その動機は「生活の困窮が」7割を占めている。
栃木県大田原市にある黒羽(くろばね)刑務所は関東圏最大級の初犯刑務所。
 黒羽刑務所は独居房が1000を超える。日本で一番独居の多い刑務所。独居房でテレビを見られるのは2時間のみ。雑居房だと、8時間も見られる。そして、雑居房では本や雑誌のまわし読みもできる。
 刑務所の収容者一人にかかる費用は年46万円。全国に7万人の受刑者がいるので年間経費は321億円になる。
刑務所の世界では、服役することを「アカ落ち」という。刑務所に垢を落としにいく」という意味のようだ。
収容者同士のトラブルの原因になるのは「ペラ」。ペラとは、しゃべり屋のこと。つまり、口の軽い人間のこと。また、「空気屋」と呼ばれる仕掛人もいる。悪口を言って、ケンカするように仕向ける人のこと。
オヤジのズケをよくする。オヤジとは担当職員、ズケとは面倒みのこと。
 高松刑務所では700人の受刑者で年間3億1000万円の売り上げがある。全国の刑務所で、受刑者の生活費として180億円がかかっている。そして、受刑者が稼ぎ出したのは157億円。つまり、受刑者は、生活費の8割以上を自前で稼ぎ出している。決してムダメシを食べているのではない。作業報奨金は、月に1人平均4200円ほどでしかない。
 1989年には1万人いなかった65歳以上の検挙数が2008年には、その5倍強の4万9000人近くにまで増えた。高齢受刑者の犯罪の特徴は窃盗が50.6%と多いが、そのほとんどが無銭飲食や万引きなどの軽微な犯罪である。老人受刑者は全受刑者の3%(2092人)となった。そこで、広島、高松、大分の刑務所には高齢受刑者専用棟がある。老人介護専門職が必要とされているのも当然ですね。
2008年の外国人検挙数は23,202人で、とりわけ凶悪化した侵入盗が増えている。外国人の受刑者は1,502人(2009年)。受刑者の出身地は、中国、ブラジル、イラン、韓国、朝鮮、ベトナム、フィリピン、台湾となっている。
 美称社会復帰促進センターは刑務所だが、国の職員123人に対して、民間職員が220人いて、男子500人、女子500人のスーパー受刑者をみている。
 刑務所の体験者は次のように語る。刑務所は犯罪学校と言われるが、まさしくそのとおり。初犯刑務所も、戦果のオンパレード。話は成功談ばかりで、失敗の話を聞くことがない。
 出所してきた人が、社会で自立するのは決して容易なことではない。本人の自覚や攻勢意欲だけでは解決できない問題点があまりに多い。仮出所者がやる気を出して本気で更生する。その気持ちに火をつけてやるのが地域社会の人々だ。しかし、現実は、なかなか、それがうまくいかない。
 この現実は、弁護士だけでなく多くの人が知っておくべきものだと思います。
(2010年11月刊。740円+税)

つながりすぎた世界

カテゴリー:アメリカ

著者   ウィリアム・H・ダビドゥ 、 出版    ダイヤモンド社 
 インターネットは便利ですが、その反面とても怖いものですよね。
 2008年9月に起きたリーマンショックは、世界を震撼させた。その中心地となったがアイスランドである。アイスランド人は、長いこと漁業という当たり外れの大きい職業を生業としてきたこともあって、もともと過剰に走る国民性だった。これはあてにならない気候から産まれた国民性だ。今回も、事態がどれほど深刻であっても銀行家たちは、どうにかなるさと一向にリスクをかえりみなかった。
 大恐慌が発生した1929年当時は、アメリカの人口1億2000万人のうち株式をもっていたのは、わずか150万人の富裕層に限られていた。証券市場の暴落によって直接的に損害を受けたのは、比較的少数にとどまった。もし、当時、インターネットがあったら、中流層まで職を失い、銀行が倒産するなど、被害はもっと拡大していただろう。
 今日では、インターネットのおかげで、株式所有は、はるかに分散している。一般的なアメリカ人は401Kや引退年金制度を通じて株式を保有している。10年前には、7000万人が株式を保有していた。2008年以降の株価暴落では、多くの米国国民が損失をこうむり、経済をまわす資産をもはや持っていなかった。
 個人情報が詐欺に悪用されたという事件が次々に発生している。今日では、収入を得たいと思っている高齢者の個人情報なら330万人分、がんやアルツハイマーなどを患っている高齢者のデータなら470万人分、55歳以上のギャンブル好きのデータは50万人が売り買いされている。
 2006年に有罪判決を受けた男性は、データベースに違法に侵入して、137件の検索を実行して、16億件にのぼるデータを盗み出した。
インターネットは思考感染を促す。ネオナチの集団はフェイスブックで会員集めをしていた。
 ネット上では、匿名で自分たちの教義や主義を広めることができる。
 インターネットの有用性は私も否定しません。でも、本当に必要な情報を、よくよくかみくだきながら取り入れることができるのか、いささかの疑問も感じています。つまり付和雷同型の、自分の頭で考えない人間を増やすばかりなのではないかということです。そこに根本的な疑問があるからです。
(2012年4月刊。1800円+税)

ネゴシエイター

カテゴリー:ヨーロッパ

著者    ベン・ロペス 、 出版    柏書房 
 さすが、交渉のプロは目のつけどころが違うなと感嘆しながら読んだ本です。テーマは身代金目的の誘拐事件で、犯人といかに冷静に交渉するか、というものです。
 誘拐事件は、毎年2万件が報告され、当局に通報されるのは1割のみ。
誘拐事件の半数以上がラテンアメリカで起きている。メキシコでは毎年7000件の誘拐事件が報告されている。実際には、もっと多い。コロンビアでは1日に10件の誘拐事件が発生している。
 ラテンアメリカで救出作戦によって無事に生還する人質は21%。誘拐事件の7割は身代金の支払いで解決している。力ずくでの人質救出は10%のみ。誘拐は、ウィークデイの午前中、被害者の自宅ないし仕事場あたりで起きる。
 誘拐の被害にあうのは地元の人間であって、海外居住者や旅行者ではない。
ロンドンでは、誘拐に備える保険の保険料が年間1億3000万ドルにもなる。ブラジルは、年間の誘拐発生件数が世界第3位。サッカー選手の家族が狙われるようになった。
 ネゴシエイター(交渉人)には、破るべからず大切な二つの黄金律がある。一つは銃を使わないこと。二つ、自分自身で交換をおこなわないこと。
現場に出た交渉人は待つことに耐えなくてはならない。誘拐犯がもつ最強の武器の一つが待たせること。誘拐犯が再び連絡してくるまで、何週間もかかることがある。数ヶ月あるいは数年ということもある。たいていの場合、待つのは拷問に等しく、コンサルタントに大きなプレッシャーがかかる。しかし、どんなときにもどっしりかまえていなければならない。少なくとも、そう見えるようでなくてはいけない。
交渉人は話し上手でなければならないと思われている。しかし、もっと重要なことは、聞き上手であること。電話で、向こうの言うのに耳を傾けることだ。
睡眠を奪うことは、誘拐犯が使用できる、きわめて効果的な拷問手段だ。
 人質は、たいてい、もっとも基本的な人間の機能を奪われる。そして内に秘めた不屈の精神をくじかれる。もし、誰かを手なずけたければ睡眠を奪うのが、何よりてっとり早く、有効な方法だ。
個人富裕層を狙った誘拐は、かなり高度な計画が求められる。犯罪者たちは、時間をかけて標的となる人物の習慣や日課、警備状況などの情報を集める。
交渉人として事件を担当することを合意して最初にすることは何か?それは、小便である。合意した瞬間から、次はいつ小便するチャンスがあるか分からないからだ。
スケジュールはサディスト的にすさまじいものになり、全エネルギーと時間を事件の解決に集中させることになる。交渉人のいる部屋は、危機管理室となり、一般人の立ち入り禁止、鍵がかかり、無期限で24時間つかえ、電話とインターネットがつながっていて、コンピュータープリンターそれから、たくさんの電源ソケットがあり、誘拐犯との会話はすべて録音できることが必要だ。さらには、防音装置のあることが望ましい。
 生存確認のもっとも良い方法は、電話で人質と話すこと。人質しか答えを知りえない質問する。
 決して、こちらから電話を切らない。常に誘拐犯が電話を切るのを待つ。彼らが切り忘れる可能性があり、いつの間にか犯人たちの個人的な話が聞こえてきて、交渉の場で優位に立てるかもしれないからだ。
 交渉人は、ふつうは誘拐犯の言い値の10%にまで下げさせる。時間は交渉人の味方である。
 誘拐犯との交渉を指揮官にさせてはならない。その下位にいるものなら、「まずボスに相談しなければ・・・」と言って牛歩戦術を使える。
なーるほど、誘拐犯との交渉にあたる交渉人が職業として成り立つ理由がよく理解できました。
(2012年7月刊。2200円+税)

路上の信仰

カテゴリー:朝鮮・韓国

著者   朴 炯圭 、 出版    新教出版社 
 激動の韓国現代史を生きたキリスト者の証言とオビに書かれていますが、この本を読むとまさしくそのとおりで、心の震えるほど感動していました。こんな気骨のあるキリスト教のリーダーがいたのですね。なにしろ、何回も警察に捕まっては刑務所に入れられ、教会堂での礼拝が当局に妨害されたら、なんと警察署前で6年間も路上礼拝を続けたというのです。まさしく信念の人です。信仰を実践し続けた不屈のキリスト者です。
 『世界』に連載されていた「韓国からの通信」の裏話も紹介されています。この「通信」は1973年から1988年まで15年にわたって続いたものです。KCIAがやっきになって犯人探しをして、妨害しようとしたのですが、果たせませんでした。
 著者の「TK生」が誰なのか、ずっと謎でした。これは、キリスト教のNCCKが金観錫牧師を中心として、徹底した安全対策を講じて資料を日本に送った。送ったのは主として宣教師ときに外交官郵袋や米軍の軍事郵便も利用した。これを日本で呉在植先生のところに集め、池明観教授が原稿をかいた。それを、『世界』の安江編集長が自らないし夫人によって書き写して植字工に渡した。並々ならぬ注意が払われたのですね。15年間、よくぞ続いたものです。
 王に直言し、民衆の堕落を告発し、またそのため、ときには犠牲を受けるのが旧約聖書の予言者の伝統である。キリスト教の牧師として監獄に行くのは、聖書からすると当然のこと。旧約の時代から予言者たちは絶えず監獄に出入りするのを当然のことと考えてきた。聖書の伝統は、キリスト教が何か哲学的、仏教的な空の思想というが、世を捨てて山中にこもり神秘境にひたるというか、脱世俗的な宗教ではなく、少なくともキリスト教の正しい伝統は世俗の中に入っていき、この世の問題に関与し、その時々に神の意を明かし、それに背くものに対しては直言する。そのような伝統がある。
 なーるほど、これはよく分かる話でした。
 韓国の民主化闘争の過程においてキリスト教を信じる人々の力は大きかったと改めて認識させられた本でした。
(2012年4月刊。2381円+税)

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