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いま、憲法は「時代遅れ」か

カテゴリー:司法

著者  樋口  陽一  、  出版   平凡社
 大日本帝国憲法を制定する前、当時の首相・伊藤博文が会議の席上、次のように述べた。
 「そもそも憲法を設くる趣旨は、第一、君権を制限し、第二、臣民の権利を保全することにある」
 これに対して森有礼文部大臣が次のように反論した。
 「およそ権利なるものは、人民の天然所持するところにして、憲法により初めて与うられるものにあらず」
 両者とも、なかなかに鋭い指摘ですよね。どちらも間違いではないと私は思います。
 「君が代・日の丸」というシンボルは、それが国歌・国旗として扱われるのは、明治国家成立以降の人為の事柄である。ところが、それが、人為のものとして意識されずに、あたかも民族のアイデンティティの表現であるかのような、したがって、およそ変更不可能なものと扱われてきた。
 明治維新を担った政治家たちは、宗教が頼りにならないから、皇室を宗教のかわりに使おうというリアリズムがあった。
 アメリカでは、リベラルとは左派を指し、ヨーロッパではリベラルというと右派を指す。
 つまり、ヨーロッパでは、リベラルとは、もっぱら経済活動領域についての自由放任主義を指している。
 第一次世界大戦のあとのドイツでワイマール憲法末期に、議会が妥協と政治的な駆け引きの場となり、国民意思を統合できない状態に陥った。そこで、議会でやっているのは何のことか分からん、強力な行政権の長に運命をゆだねよう。それがヒットラーへの選挙民の喝采となった。いろいろな議論を切り捨てて強力な政治を遂行するという意味で、ポピュリズムと決断主義的との結合は、一般的な傾向となっている。
 これって、いま大阪で起きている「橋下」現象ですよね。
 「ねじれ」という表現は、正常でないというニュアンスがある。しかし、両院制を置いている以上、それは当然に起こりうる事態の一つであって、非正常ということでは決してない。
うむむ、なるほど、たしかにそうですよね。「ねじれ」イコール悪だと、いつのまにかマスコミに思い込まされてしまっていました。大いに反省します。
 「ねじれ」が悪いというのは、とにかくさっさと決めろということ。その意味で決断主義的である。プロフェッショナル攻撃と、素人を全面に立てた諮問会議、審議会支配が、政治過程を漂流させてきた。
 憲法制定権力ということで、人民が主権者なのだから、その人民が絶えず憲法を書き改める機能はだれによっても制限されないはずだという主張がある。しかし、硬性憲法の考え方は、国民といえども、自分の意のままに法秩序をその時々に変えるものではないのだという説明によって初めて理由づけられるのである。
 法科大学院(ロースクール)での講義をもとにしていますので、わずか200頁あまりで大変読みやすい憲法の本になっています。
(2011年5月刊。1500円+税)

心に入り込む技術

カテゴリー:ヨーロッパ

著者   レオ・マルティン 、 出版   阪急コミュニケーションズ 
 元ドイツの情報局がドイツ・マフィアにスパイを潜入させる工夫を語っています。人間の弱点を巧みについた心理作戦が駆使されていて、大変勉強になりました。
コミュニケーションには、必ず意図がある。何かを言う、または何かをするのは、相手にそれを伝えるためだ。思考は必ず身体に表れる。
人と出会うとき、人は、とても繊細なアンテナを使って、相手の内面と外面が一致しているかどうかをチェックする。言葉や表情がうわべだけではないかどうかを感じとる。思考と行動が一致していれば、その人は調和を発散する。それは相手に好感を与え、信頼感につながる。この人なら信頼して大丈夫。そう、青信号に変わるのだ。
 犯罪学における成功の秘訣の第一は、相手に対する心からの興味である。
 圧力や脅しや強要によって、実りのある長期的な関係を築くことは出来ない。おカネは動機としては、あまり効果がなく、長期的な動機にはなりえない。おカネで情報を買えば、むしろ害になる可能性が大きい。
 安心感、愛情、称賛・・・、これが、誰もが望む基本的な欲求だ。
接触の段階は、初めて視線が出会ったときに始まる。細部の細部まで計画された接触の瞬間に、自然で無意識な印象を与えるのが肝心だ。そして、気持ち楽にして、ほほ笑む。そうすれば楽しい会話がもっと魅力的になる。屈託のない誠実な笑顔を見れば、相手は警戒を解くだろう。
 会話の初めに避けたほうがいいのは、陳腐な決まり文句、笑顔、政治である。無味乾燥で、退屈で、ぎこちないので、気楽で軽い接触に向かない。
 あれこれ質問すると、相手はいぶかしく感じる。
 なるべく人の名前は記憶する。そして、会話をうまく進めるポイントの一つは、共通の体験だ。身体をやや前に乗り出し、視線を相手に向け、適宜うなずく。相手の言った内容をときどき自分の言葉で要約したり、質問を入れたりして、理解していることを表明する。
 人間関係の根底にある前提は責任だ。自分は頼りになるパートナーだと最初から示すこと。一度だけ、これ見よがしに見せるのではなく、繰り返し示す。
 信頼関係を築くためには、やると言ったことは必ず実行する、要求されなくても、進んで約束し、それを必ず守る。
 組織犯罪の世界にいる人間には感情の動きを失ってしまった人間が多い。この世界で暮らそうとすると、そうなってしまう。結果として、顕著なエゴイズムと権力欲、冷淡と無情につながる。大切なのはビジネスだけ。何を犠牲にしようとかまわない。商売の邪魔になるなら。人命すら価値をもたない。
 価値体系は一夜にしてできたのではない。経験とともに生育し、徐々に適応してきた。社会的な境界をこえるたびに、境界の壁は低くなる。
マフィアから復帰した人たちは、心を揺さぶる体験がその価値体系を根底から変えたことによる。子どもの誕生、重い病気、親しい人の死など・・・。これらが方向転換を促し、その結果として思いがけず再び犯罪組織の外で生活することになる。
 相手が嘘を言っているのではないかと薄々感じても、相手の面目をつぶさないように気をつける。相手を面と向かって非難して、袋小路に追いつめられたように感じさせても、得るものは何もない。
 情報局と協働する情報提供者は、緊張度が極度に高い領域で活動している。
 犯罪組織の波にもまれた筋金入りの人間ですら、裏切りは身にこたえるのだ。その罪悪感を理性で追い払うことはできない。そして、罪悪感には大きな不安が伴う。
 そこで、相手に質問を投げかけて、その後しばらく、そっとしておくのが、もっとも効果的な方法だ。
 信頼関係は一方通行では成立しない。互いに相手をよく知り、相手が何を保障してくれるかを理解することが前提となる。
スパイ獲得大作戦の手法なのでしょうが、人間心理をよく衝いていると驚嘆したことでした。
(2012年9月刊。1600円+税)

兄・かぞくのくに

カテゴリー:朝鮮・韓国

著者   ヤン ヨンヒ 、 出版   小学館 
 切ない話です。映画は残念ながら見ていません。近くて遠い国、北朝鮮と日本とは案外、身近な関係にあります。
 戦後、朝鮮総連は地上の楽園の地である北朝鮮への帰国をすすめました。そして、日本政府は、「厄介者扱い」として、それを後押ししたのです。
 そして、北朝鮮は、実は地上の楽園どころか、今もって国民が腹一杯食べられるのが理想の国のままというのです。飽食の国、日本では想像もできない事態です。
 でも、そんな北朝鮮にも人々は真剣に生きているのです。
北朝鮮の国民は3つの階層に分けられる。一つ目は、北朝鮮の建国当時に労働者や貧農、愛国烈土の家族だったものや、朝鮮労働党員からなる「核心階層」。二つ目は、知識人、民族資本家、中農、商人からなる「動揺分子」。彼らは、「要監視対象者」として当局よりマークされる。三つ目は、「敵対分子」。解放前の地主やキリスト教信者、親日家や親米家がこれに入る。彼らは「特別監視対象者」だ。
 日本からの帰国者は、長く「動揺分子」と見なされてきた。自らも望み、祖国も望んでいると信じていた「帰国者」は、北朝鮮から見れば、資本主義の思想や堕落した生活を持ち込む反乱分子だった。ちょっとでもおかしな行動をとれば、即「敵対分子」のレッテルを貼られた。相互を監視しあわせることで、北朝鮮の人々のあいだでは、常に疑心暗鬼の感情がはびこっていた。
 出身成分が低い帰国者は結婚相手として人気がなかったが、経済的には激しい貧富の格差がある状況のなかで生きのびていかなくてはならないため、「日本から定期的な仕送りのある帰国者」は縁談に困らない。
 そして、キム・ジョンイルが帰国者である高英姫(コウ・ヨンヒ)を正妻に迎えたことはセンセーションを巻き起こした。
帰国者を帰国同胞といい、略して、「帰胞」、キポ。朝鮮語で「キポ」というと泡という意味。帰国者は泡のようにすぐ消える。すぐ消せる存在だ。自分たちが見下し、蔑むために「キポ」と呼んだ。そして、帰国者のほうは、北朝鮮より進んだ国から来たという自負がある。だから、現地の人のことを原住民の「原」といって、「ゲンちゃん」と呼んでバカにした。
 うむむ、なかなか人間感情というのは複雑で、錯綜していますよね。
北朝鮮に持ち込む品物に「メイド・イン・コリア」のタグがついていると即没収される。ところが、メイド・イン・USAもメイド・イン・ジャパンも許される。公式には韓国は最貧国ということになっていて、質のいい工業製品をつくっていることが、メイド・イン・コリアの品物を通じて公然の事実となることを北朝鮮当局が恐れての措置。もちろん、北朝鮮の人々も韓国が裕福な国であることは誰でも知っていること。
 日本から北朝鮮に行くには、朝鮮総連の許可がいる。少なくとも渡航希望の1ヵ月前に総連に申請を出さないといけない。費用は20~30万円、北朝鮮に家族のいる訪問者は1回、1人あたり総計100万円をもっていくのが相場だ。家族に渡すお金のほか、担当幹部に渡す袖の下(賄賂)がいる。万景峰号に100人乗っていくとして、1人段ボールを20個もっていくので、2000個の段ボールとなる。そして、荷物検査で一日つぶされる。
 北朝鮮では、住居は政府から支給される建物になっている。アパートが足りないため、独り暮らしは基本的に認められない。毎日、水が出るアパートはほとんど不可能に近い。
三人の兄たちが北朝鮮に渡り、妹だけが日本に残った。
 そのとき、兄たちは、歯向かえなかった。父に歯向かえなかった。あのとき、学校にも、組織にも、親にも歯向かえなかったばかりに、もはや絶対に歯向かうことが許されない地で生きていくことになった兄たち・・・。その兄は、決して愚痴らない。
本当に胸の締めつけられる思いです。妹の感じる切なさがじわーんと読み手の胸に迫ってきます。
 エリート校に入った子どもは、マスゲームの動員対象から外され勉学に専念できるというのをはじめて知りました。
(2012年7月刊。1600円+税)

障害のある人と向き合う弁護

カテゴリー:司法

著者   西村 武彦 、 出版   Sプランニング 
 大変勉強になりました。知的障害のある人、とりわけアスペルガー症候群の人に向きあうときに役に立つ本です。
障害は病気ではないし、克服すべき対象でもない。障害は、その人の個性、特性の一つだ。
弁護士は親が付き添っていても、知的障害者自身から話を聞き出すべきだ。
 「どうして、私に質問してくれないのですか?私の言うことは信用できないからですか?私のことなのに、私では決められないのですか?」と、本人は心の中で叫んでいる・・・。
 本人と話をすれば、知的障害者がどういう人なのか、どういう問題があるのか、その回答のなかで理解できる。こういう質問だと質問の趣旨を理解できないのか、こういう言葉は理解できないのかこういう文字は読めないのか、こういう計算は無理なのか、そういうことを弁護士は理解できる。だから、同席している親や福祉関係の職員の説明を先に聞くのは絶対に避けるべきだ。
 知的障害のある人は、「自分は字が読めません」なんてことは、恥ずかしいから言わない。知的障害のある人は、「いいえ」「分かりません」とは、なかなか言わない。
 IQの数値は、その人の人格を測定したものではない。IQという概念は、子どもに最適の教育・療育を施すために、その子どもの抱えている問題を教育関係者が理解するための共通の目盛りである。
なぜ知的障害のある人が借金するかと言えば、そのほとんどのケースは、本人以外の誰かのせいである。
弁護士の言葉のつかい方になじめるような知的障害のある人はいない。客観的な情報で対応が可能なのであれば、知的障害のある人に難しいことを訊く必要はない。そして、楽しかったこと、うれしかったことは何ですかと訊くようにしている。
 知的障害のある人については、フレンドリーな関係を形成しないと、大事な話は聞き出せない。そして、もっと大切なことは、馬鹿にしたそぶりを見せないこと。「えっ、分からないの?」というのは、完璧に馬鹿扱いした言葉。「えっ、なんて言ったの?もう一回言って」というのも、注意したほうがいい。
 次に、難しい言葉は一切つかわないこと。アスペルガー症候群の人を、この本ではアスピィと呼んでいます。
 エジソン、アインシュタインがアスピィを代表するエリート。アスピィのなかには、場の雰囲気が読めないという特徴をもつ人がいる。臨機応変が苦手。相手の気持ちを考えるのが苦手な人がいる。
 アスピィは、相手の意志や気持ちを理解するのが得意でないだけではなく、自分の苦悩、怒り、悩みについても、自分自身が的確に把握できていない。
弁護士にとって大いに考えさせられ、実務的にも大変役に立つ貴重な本です。
(2008年3月刊。1000円+税)

オスプレイとは何か?

カテゴリー:社会

著者   石川厳、大久保康裕 ほか 、 出版   かもがわ出版 
 オスプレイとは、ミサゴという島の名前。ミサゴは魚をとって食べる島。獲物を見つけると、空中に静止し(ホバリング飛行)、その後、急降下して両足で獲物をとらえる。
オスプレイはアメリカ軍(主に海兵隊)が導入した新しい軍用機。
 海兵隊の作戦では、垂直に離着陸する軍事的な必要性が高い。戦争の初期の段階で、強襲揚陸艦に乗って適地に近づき、兵員と物質を上陸させて、アメリカ軍の作戦を遂行する拠点を築きあげる。
オスプレイは、GH-46というヘリコプターの代替機だが、行動半径は4倍、積載量は3倍、速度も2倍である。オスプレイは、イラクとアフガニスタンに派遣されている。オスプレイは、開発段階で事故が多発し乗員30人が命を失っている。「未亡人製造機」というあだ名までつけられている。
オスプレイは、輸送機なので対人兵器は着陸時の自衛用のライフル1丁、機関銃2丁しかもたない。重量がある割に、揚力があまりないので、兵器で機体の重さを増やせない。だから、作戦時は戦闘機の護衛が必要になる。
 海兵隊のオスプレイが海外に配備されるのは、日本のみ。海兵隊がまとまった戦闘部隊を配置しているのは、海外では日本だけだから。
 オスプレイの回転翼(ローター)は一般ヘリより小さい。これは強襲揚陸艦に積む場合の限度があるから。
 オスプレイは臨機応変の戦闘機動性に欠ける。これはコンピューター操縦のため。
CH-46ヘリの機体には、その平衡感覚を保つバランサーに劣化ウランが使用されている。
オスプレイが日本で事故を起こしたら、公務中だと考えられるので日本で裁判はできない。
オスプレイの低空飛行訓練は、地上の武装勢力の仕掛け爆弾設置とか、特攻自爆車が突っ込んでくるのを監視する。だから、低い上空を30分も40分もぐるぐる旋回する訓練をする。
日本地位協定にも、アメリカ軍は日本の法律を尊重する義務がありことを定めている。ドイツでは、ドイツ側の同意があって、低空飛行訓練のルートが設置されている。日本でも同じように交渉できないはずがない。
アメリカの言いなりで、何もものの言えない日本政府、民主党政権のだらしなさには呆れてしまいます。民主党政権とまったくかわりません。こんなことで日本人の生命・財産を守る政府と言えるはずもありません。腹立たしい限りです。
(2012年9月刊。1000円+税)

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