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勝てないアメリカ

カテゴリー:アメリカ

著者  大治 朋子 、 出版  岩波新書
世界中で戦争を仕掛けてまわっているアメリカは、同時に多くのアメリカ人をダメにしています。残酷な現実です。多くの戦死者を出すだけでなく、普通の日常生活を過ごせなくなった青年をたくさんかかえています。日本の自衛隊を「国防軍」にしてしまったら、アメリカのように日本もなってしまうでしょう。恐ろしいことです。
「世界最強」のアメリカ軍がこんなに長く戦い続けても勝利宣言をできないのはなぜか?ちゃちな兵器しかもたない武装勢力のゲリラ的な闘いに、圧倒的な戦力を誇る超ハイテク集団のアメリカ軍が勝てないのはなぜなのか?
 日本は、そんなアメリカの戦争に対して、2012年から5年間のうちに2400億円(130億ドル)の支援を表明している。ええーっ、ウソでしょ、そんなお金があるんだったら、福祉、年金のほうにまわしてよ、こう叫びたくなります。
 イラクやアフガニスタンでアメリカ軍を脅かしているのは、わずか10ドルでつくられる手製の路肩爆弾だ。手製爆弾はアメリカ兵の死亡(3100人)の原因の3分の2を占めている。そこで、ペンタゴン(アメリカ国防総省)は過去4年間で100億ドルを投入して対策の研究を続けている。しかし、有効な対策は見つかっていない。
アメリカの帰還兵にみられる軽度のTBI(外傷性脳損傷)の典型的な症状は、記憶障害や反応力の低下だ。
 IED(路肩爆弾)の爆発で生じる超音速(秒速340メートル以上)の爆風にあおられ、目には見えないが、脳は何らかの損傷を受けている。昔なら命を落とした爆弾攻撃でも、今の戦争では生き延びる。その結果、新たな傷病、この「見えない傷」が生まれている。
 イラクでは負傷兵の9割以上が命を取り留めるようになり、生き残る比率が高まった。
アメリカ兵は、戦場で1年に200回ほどのパトロールを行い、その過程で平均15回ほどの爆弾攻撃を受ける。そして、イラクとアフガニスタンで負傷したアメリカ兵は3万3千人ほど。そのうち4分の1、累計で2万人以上が軽度のTBIを発症した。アメリカ国防総省は、イラク・アフガニスタンでの戦争に従軍したアメリカ兵200万人のうち14万人が軽度のTBIと診断されたと発表した。
 これは莫大な治療費の負担増をアメリカ社会にもたらした。退役軍人省が2002年から2010年までに兵士の治療につかった費用は総額4700億円(60億ドル)で、2010年の1年間だけで1570億円(20億ドル)。
 路上に仕掛けられたIEDの攻撃から兵士を守るため、アメリカ軍は車体の底部が爆弾の衝撃を逃す特殊な構造の大型装甲車を開発した。2兆円近くの費用をかけて、イラクに1万台、アフガニスタンに2千台を配備した。ただ、重量が7~22トンとあまりに重く、機動性に欠けるため、地形の険しいアフガニスタンでは使えない地域が多い。
 アメリカ兵の自殺率は10万人あたり、20.2人に達している。
 戦場では、自分が「有益な人間」だと感じられるが、一般社会ではその経験は役に立たず、突然、「無益な人間」に成り下がったような感覚にとらわれる。そして、負傷して失業すると、さらに自信喪失が強くなり、家族との不和も増す。そのうえ、兵士は武器や痛みに慣れているから、一線を越えやすい。
 経済不振の続くアメリカでは、軍隊という就職口は、収入や医療保障、大学への進学補助などで大きな魅力だ。これって、日本でも同じようになってきましたね・・・。
帰還後の学費や医療費の補助を得るため、入隊する貧困家族の若者が少なくない。繰り返し戦場に行き、負傷し退役後は仕事を失う。離婚してホームレスになってしまうことも少なくない。
民間軍需会社、たとえばKBRはアメリカ軍と10年契約を結び、総額2兆7000億円を得る。イラクとアフガニスタンのアメリカ軍基地に働く民間軍需会社の民間人は計15万5千人。Kこれはアメリカ兵14万5千人を1万人も上回る。
同時に、オバマ政権は、無人航空機を活用する戦争のロボット化もすすめている。
 アメリカ政府は、イラク・アフガニスタン戦争のため仁総額307兆円(4兆ドル)を負担している。これには医療費、障害給付金をふくむ。そして、アメリカの累積債務は、2001年の5兆8千億ドルから、15兆5千億ドルにまで拡大した。
アメリカ兵と両国治安部隊の死者は3万人、戦闘による死者は25万人以上になっている。
テロ事件はなお続き、多くの市民が犠牲になっている。やはり、力ずくで抑えこもうとしても治安回復は難しいのです。武器さえあれば解決できるなんて単純な発想から一刻も早く脱却したいものです。
 それにしても、アメリカって野蛮な国ですよね。そんなアメリカの言うままにいつだって動かされている日本政府では困ります。日米安保条約のくびきから一刻も早く脱出したいものです。
(2012年9月刊。820円+税)

原発・正力・CIA

カテゴリー:社会

著者  有馬 哲夫 、 出版  新潮新書
読売新聞は、日本最大の発行部数を誇る新聞ですが、同時に改憲を積極的に主張するなど露骨に財界、右より姿勢を示しています。とても不偏、不党とは言えない紙面になっています。
その社主であった正力松太郎は、CIAの日本エージェントとして、ポダムという暗号名までついていました。CIAとは持ちつ持たれつの関係だったようです。
正力松太郎は総理大臣を目ざしていた。そのためには政治目標が必要だった。それが原子力だった。原子力を手に入れたら、手っ取り早く財界と政界に影響力をもつことができる。いや、直接、政治資金と派閥が手に入るという点で、新聞以上の切り札だった。
 アメリカの援助を背景に原子力発電所を建設し、数年以内に営業運転まで持っていけば、政治キャリアのほとんどない正力でも総理大臣になるのも夢ではない。原子力平和利用推進は、正力にとってまさしく夢を現実にする魔法の切り札だった。
 アメリカの在日情報機関は、第五福竜丸事件のあとに澎湃とわき起こった原水禁・反米運動によって窮地に立たされた。アメリカによる日本占領の終結以来、最大の心理作戦上の大敗北であった。このため、米国情報機関は右よりの読売新聞グループを頼りにした。
 CIA文書には次のようになっている。以下の要件で、ポダム(正力松太郎)の使用を許可する。メディアの分野で、日本の政治的な出来事や傾向、メディアや進部員の関係者についての情報を得るための使用。
うひゃあ、まさしく正力松太郎と読売新聞はCIAの思うままに操られていたのですね。
 正力のメディア帝国は、日本でもっとも中央集権的で、したがってもっともコントロールしやすく、大衆の心をかきたてるという点では、もっとも影響力が強い。
 これもCIA文書の言葉です。
原子力平和利用博覧会が大成功し、正力の態度がいよいよ尊大になると、CIAは正力に対する警戒を強め、関係を見直そうと動きが出ていた。
 そして、ついに正力とCIAは対決するに至ったのです。
 正力は、これまでアメリカの頼みをやめ、イギリスにパートナーを換えることを決断した。CIA文書は、アメリカ側との交渉が決裂したことが、正力をイギリス製の原子炉の購入に走らせたと分析している。そのころ、読売新聞はアメリカの外交に批判的な記事を連続してのせていた。アメリカ型の原発を日本に導入した正力松太郎にまつわる裏話が満載の本でした。
 3.11の前に書かれていることもあって、原発の恐ろしさについてはまったく触れられていません。その目から見直す必要があると思いました。
 それにしても、読売新聞ってCIAにずっと操作されていたような新聞なんですね。どうりで、アメリカべったりというのもよく理解できます。でも、嫌ですね。やっぱり、マスコミには日本の自主性を主張してほしいものですよ。
(2011年6月刊。720円+税)

ホンダ・イノベーションの神髄

カテゴリー:社会

著者   小林 三郎 、 出版   日経BP社 
 この本を読んで、車のエアバッグは火薬によって膨らまされていることを知りました。そして、高圧の窒素ガスを使うよりも火薬のほうがより安全だというのです。これには驚きました。
高圧ガスは圧縮されているので、物理的に常に高いエネルギーを保持した状態にある。それが故障で開放されたら重大な事態を生む。ところが、火薬は火が付かない限りエネルギーはもっていない。これなら暴発に至る故障モードが少ないし、点検作業も安全にできる。火薬のほうが、ともかく故障しにくい。エアバッグのような安全装置は、万一の衝突のときに絶対故障しないのが絶対の価値なのだ。その仕組みは、火薬が爆発的に燃焼して、大量の窒素ガスを発生させ、エアバッグを瞬時に膨張させる。
 そして、エアバッグは故障率100万分の1の技術を実現した。いやあ、たいしたものです。エアバッグの設計における基本は、システムを可能な限りシンプルにしておくこと。そのためには部品数を最小限に抑え、接続箇所も極力少なくする。
 部品の不良が発生しても、トレーサビリティーのシステムによってその部品を追跡できるようにしておけば、被害は最小限におさえられる。
 成果主義をとり入れたらイノベーションは全部止まってしまう。
イノベーションは、基本的に成功か失敗だ。しかも、10年かけたうえで失敗に終わることも珍しくない。イノベーションには、記憶力と論理分析力にこりかたまった人材は不適だ。それらもある程度は必要だが、それだけではダメ。たとえ何回失敗しても、長い時間がかかっても絶対価値の実現に挑戦し続ける人こそ、イノベーションに向いている。今の日本の教育は、こうした人を排除する方向にある。だから、ホンダでは学歴無用だ。
 イノベーションには掟がある。40歳を過ぎても不別のある、でも頭の固くなりつつある人は、自分でイノベーションをやろうとしてはならない。イノベーション力のある若い人に考えさせる。
 ところが、若い人は知識と経験が少ないので、提案の大半は役に立たない。そこで、技術の価値や実現可能性を見抜くのが40歳を過ぎたベテランの非常に重要な役割だ。
 とても新鮮な刺激にみちたビジネス書でした。成果主義でうまくいった会社なんてないとよく言われますよね。なるほど、と思いました。
(2012年7月刊。1800円+税)

人類の原点を求めて

カテゴリー:人間

著者   ミシェル・ブリュネ 、 出版   原書房 
 古生物学者にとって、歯はこのうえなく貴重な宝である。歯は、骨の中でもっとも硬い部分であり、時間などの侵食に耐えられる可能性がきわめて高い。しかも、哺乳類の場合、歯さえ残っていれば、その個体を識別することができる。
 歯には、無数の手がかりが隠されている。たとえば、化石の哺乳類を特定したければ、たいていは、その第二大臼歯を見れば分かる。歯冠の形、咬合面の咬頭の数や形や位置、歯根の数や長さ、エナメル質の厚さを調べれば、種やその食性を判別することが可能である。
 それだけではなく、歯の位置や大きさや数、あごの形を見れば、その哺乳類の進化の程度が分かる。エナメル質の厚さ(ゴリラやチンパンジーは薄く、先史人類や現代人は厚い)や、その組織学的な構造、歯冠の形や高さ、咬合面の形を確認すれば、その動物の食性が把握できる。
 歯髄は生きている間にだんだん小さくなっていくため、歯髄の大きさから、その個体が死んだ年齢を推測することができる。歯のエナメル質の厚さは、明らかに食性と関係がある。生肉は意外に硬い。柔らかい食べ物も硬い食べ物も食べるためには、エナメル質は厚くなければならない。ゴリラやチンパンジーのように、熟した果物ややわらかい若葉しか食べないのなら、薄いエナメル質で十分だ。
人類の起源はアフリカにあります。砂漠のなかで、ヒトの化石を求めて大変な苦労をしている学者の様子がよく描かれている本です。そのおかげで、ヒトの歩みがかなり分かってきました。ありがたいことです。
(2012年7月刊。2200円+税)

北斎

カテゴリー:社会

著者   大久保 純一 、 出版    岩波新書 
 カラー版の楽しい新書です。新書ながらも、浮世絵の素晴らしさをしっかり堪能することができました。さすがは北斎です。すばらしい絵に目を見張るばかりです。
 1988年、アメリカのグラフ誌『ライフ』が世界の人物100人をあげたうち、日本人では北斎がただ一人上げられていた。
北斎は、めまぐるしく画号を変えた。93度にも及ぶ異常なまでの転居癖。
 浮世絵風景画の代表作は「富嶽三十六景」。絵手本の代表作「北斎漫画」。この「漫画」は現代のコミックとはまったく異なるもの。
 浮世絵で、両国の花火大会を描いた絵は、その大きな構図といい群衆場面といい、さすが描写が驚嘆するほど細かい。
ヨーロッパ彫刻画(エッチング)の影響もあります。いいものは、すばやく取り入れたようです。「富嶽三十六景」の富士山を大波が襲いかかろうとする構図の大胆さには胆を抜かれます。また、あざやかなブルーを使った海洋図も、すごい迫力です。ベロ藍というそうです。
 浮世絵の到達した境地は、世界中に響きわたったのでした。
(2012年5月刊。1000円+税)

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