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なぜ、世界はルワンダを救えなかったのか

カテゴリー:アメリカ

著者  ロメオ・ダレール 、 出版  風行社
 著者はカナダの軍人として、ルワンダに駐留していました。
 運命に委ねられ、なぶり殺しにされた何十万ものルワンダの人々に捧ぐ。
 この本のはじめに書かれている言葉です。なるほど、目の前で無数の罪なき人々が当局に煽動されて暴徒化した人々によって虐殺されていくとき、精神がおかしくならないはずはないでしょうね。
 そして、著者はこの本を「私の命令に従って平和と人間性のために勇敢に死んでいった15人の国連軍兵士に捧」げています。著者はルワンダから帰国したあと、外傷後ストレス障害(PTSD)にかかったのです。
 1994年にルワンダに起きたこと。裏切り、失敗、愚直、無関心、憎悪、ジェノサイド、戦争、非人間性、そして悪に関する物語だ。
 カナダに帰国してから気力、精気を取り戻すまで7年も要した。
 アメリカ、フランス、イギリスなどの国は何もせず、すべてが起こるのをただ傍観していた。部隊を引き上げる、そもそも最初からまったく部隊を派遣しなかった。
 ラジオは、聴衆にツチ族を殺すように呼びかけ、穏健派のフツ族の死を求め、彼らを裏切り者と呼んだ。この声明は、人気歌手の録音された音楽とともに流された。その音楽は「フツが嫌いだ。フツは嫌いだ。ツチを蛇だと思っていないフツは嫌いだ」といった歌詞で、暴力を煽りたてるものだった。
 マスコミを握って煽動すると、フツーの人々が鉈(マチェーテ)をもって人を簡単に殺すようになるのですね・・・。これは日本だって決して他人事(ひとごと)ではありません。
 マスコミの一致した消費税増税、TPP参加、比例定数削減キャンペーンは本質的には同じようなものではありませんか。生活保護バッシングにしても同じです。怖いです。
 どの国連機関のある敷地にも、恐怖にかられたルワンダ人が何千人も囚われていた。虐殺は自然発生的な行為ではなかった。それは、軍・憲兵隊、インテラハムウェ、そして公務員を巻き込んで周到に実行されたものだった。
 ルワンダで金もうけし、多くのルワンダ人を召使いや労働者として雇ってきた白人が、彼らを見捨てた。そこには自己利益と自己保存があった。
 アメリカ、フランス、イギリスに率いられたこの世界がルワンダでのジェノサイドに手を貸し、そそのかした。いくら現金と援助を積んでも、決してこれらの国の手に染みついたルワンダの血は落とせない。
 これは痛切な叫びです。厳しく「人道的」大国を糾弾しています。ルワンダに天然資源があったら、これらの国も、もっと真剣に軍隊を派遣していたことでしょう・・・。
 アメリカ(ペンタゴン)の判断は、ジェノサイドによって、1日に8000人から1万人のルワンダ人が殺されていても、その生命には高い燃料代を払ったり、ルワンダの電波を妨害したりするほどの価値はないということだ。
死者の数は4月来に20万人と見積もられていたのが、5月には50万人となり、6月末には80万人に達した。
 ルワンダのネズミは今やテリアと同じサイズにまで肥大化した。ネズミは無尽蔵に供給される人間を食べたり、信じられないサイズにまで成長したのだ。
 飢えた子どもたちは生のトウモロコシを食べた。ごつごつした粒は、子どもたちの消化器官を傷つけ、内出血を起こした。子どもたちは、それが原因で腸から出血して死んでいった。
 誰もがジェノサイドで誰かを亡くしていた。紛争前の人口の10%近くが100日間に殺害された。少なくとも1人も家族を失わなかった家族はほとんどなかった。ほとんどの家族がもっと多くの人を失った。
ルワンダで生き残った90%の子どもたちは、この期間に自分の知っている人間が暴力的な死を迎えるのを目の当たりにしたと推定されている。
 ルワンダの悲劇をくりかえしてはならないと思いました。それにしてもアメリカ、イギリス、フランスの御都合主義な「人道支援」には、言うべき言葉もありません。
          (2012年8月刊。2100円+税)

政治学入門

カテゴリー:社会

著者  渡辺 治 、 出版  新日本出版社
いまの日本の政治をどうみたらよいのか。的確な分析に目を開かせられます。
 鳩山由紀夫は、岡田克也や菅直人らと比べると、支配階級としての自覚が薄い。そのため、鳩山は構造改革政治を止めてほしいという国民の期待に応え、さしたる自覚もないままに保守政党の枠を踏み破り、民主党への熱狂を生んだ。ところが、これに焦った財界やアメリカが猛烈な圧力をかけてきた。
 鳩山は、他の政治家に比べて人一倍、事態に対する甘い見通しにもとづいて行動し、アメリカの「善意」にも甘い期待を寄せ続けた。
 鳩山が「無自覚に」保守の枠を踏み出したのは、選挙めあてにつくられたマニフェストの実現に向けてこだわったこと、運動の声にある程度は向きあう感性をもっていたから。
アメリカと財界の猛反発を受けて、鳩山政権は動揺し、ジグザグの道を歩みはじめた。人々は、当然のことながら鳩山の動揺に怒り、あるいは嘲笑した。しかし、のちの菅直人や野田義彦のすばやい新自由主義復帰、軍事同盟回帰より、鳩山の動揺・逡巡のほうが、はるかに「良質」だった。
 この点は、私もまったく同感です。いつだってアメリカと財界のいいなりの政権って、あまりにも情けないでしょう・・・。
菅直人は言葉の正確な意味で「権力主義者」である。これに対して、小沢一郎は権力主義者ではない。中曽根康弘も小泉純一郎も同じように権力主義者ではない。彼らには、支配階級の政治的代表として実現すべきかなり明確な政治目標があり、権力奪取と維持は、その手段とみなしている。
 これに対して菅直人は、権力の地位、つまり首相の獲得・維持が一貫した目標となり、政策やイデオロギーは、その手段でしかない。
 みんなの党の得票増をもたらしたものは、民主党支持者であった大都市の大企業中間管理職層、ホワイトカラー層を吸収したことによる。
自民と民主という保守に大政党の地盤沈下が始まっている。この二大政党あわせて7割というお風呂が揺らいでいる。しかし、その不信層は、まだ共産党や社民党のお風呂にはいけない。それを新党が吸収し、保守のお風呂をこわさないという役割を果たした。
現代の巨大メディアは、言論機関であると同時に、巨大企業体としての性格をもっていて、この二つが矛盾したときには、経営体の論理が優先することが多い。
 マスコミ幹部には、構造改革と軍事大国化を通じて、大企業本位の日本を構築しなければ日本の浮上はあり得ないという合意が保守支配層内で強固に形成されており、「常識」として根づいている。
 マスコミの記者たちは、昇進・昇格していくなかで、言論人である前に企業人となり、企業指導部の報道方針を忖度(そんたく)し、それに反しない報道を心がけるようになる。
 野田政権になったとき、民主党の変質は完了した。野田は、鳩山のように、国民の期待に応えたいという野望も、菅のように権力に固執し、そのために「国民世論」に乗っかることを辞さないという執念もない、この二人と比べた野田の特徴は、保守支配層とくに財界の意向にひたすら忠実という点にある。その点では、菅と同じように何らかの思想など持ちあわせていない。このような人を首相にしてしまった日本は不幸だったと言うしかありませんね。
 橋下徹は本能的に新自由主義の2つの手法を駆使している。一つは、ねたみの組織化による分断の政治。新自由主義は、その被害者を相互に対立させることで矛盾の爆発を抑えようとするが、橋本は、この点について「天才」である。もう一つは、国民投票型権威主義というべき手法。「参加による同意」の調達。選挙で勝って「自紙委任」を取りつけたとして新自由主義を強行するやり方。この二つの手法によって、橋本はいま全国政治に打って出ようとしている。
 許せませんね。ひどいものです。小泉のときと同じです。
一度目は悲劇として、二度目は茶番として・・・。これはマルクスの有名な言葉です。寸鉄、人を刺すという言葉を思い出しました。
 政治学入門となっていますが、本当に目を開かされるところの多い本として、一読をおすすめします。
(2013年2月刊。1500円+税)

織田信長

カテゴリー:日本史(戦国)

著者  池上 裕子 、 出版  吉川弘文館
織田信長研究の最新到達点を明らかにした本です。といっても、それほど目新しい内容があるわけでもありません。
 信長は美濃を平定して上洛の条件がととのったとき、「天下布武」の印判を用いはじめた。永禄12年(1569年)、元亀元年(1570年)のころ。この「天下」は、日本全国を意味するものではない。京都に隣接する諸国と五幾内のこと。
 元亀3年(1572年)9月、信長は比叡山焼討ちを敢行した。山下の坂本から根本中堂をはじめとする山上へと放火・殺戮を尽くした。3,4千人は伐り捨てたという。
 この比叡山焼討ちは、古い体制を象徴する宗教勢力を否定するという目的のために破壊・殺戮したのではない。信長に味方せず、敵方を利して、信長を窮地に陥れたから、敵を徹底的に破壊する信長流の報復戦をした。もちろん、そこには計算があった。天皇と都の鎮護を担って公武の手厚い保護を受け、信仰の対象でもある比叡山でさえ容赦なく攻め滅ぼすというメッセージである。これを見て、わが身の存続をひたすら願う天皇・公家らは信長の機嫌を損ねないように努めるしかないと考えた。
 信長は比叡山を焼討ちし、本願寺と戦い、寺院勢力を自己のものに服属させようとした。しかし、仏教を否定したわけではない。
天正3年(1575年)、信長は積極的に朝廷官位の中に身をおく道を選んだ。11月4日、昇殿して徒三位権大納言に叙任され、7日には右大将に任じられた。かつて、源頼朝も武家政権の樹立にあたって権大納言と右大将に任じられている。すでに指摘されていることだが、信長はそれにならったと思われる。
 信長は天皇・朝廷を否定せず、それから官位に叙任される形をとり、天皇・朝廷を支えてきた公家寺社に新たに知行地を与えて、その経済基盤を保障する政策をとった。
 信長は朝廷を否定しなかった。天皇・公家も寺社関係者も信長に願いはするが、信長の機嫌を損ねないように気配りをかかさないし、天下の構成要素になっている。彼らは信長にとって何の障害にも不利益にもならないどころか、利用価値があった。信長は彼らを温存し、利用して天下静謐を実現しようとした。彼らを否定して、あるいは彼らから完全に独立して政権を樹立できるとは考えていなかった。
 信長の築いた安土城の最上階の七重目(6階)は、三間四方の狭い空間であるが、徳のある理想的な皇帝・学問の世界を代表する孔門十哲、知徳を備えながら世俗の利益・名誉を求めない賢人、これらをみずからの居所の最上階に配し、聖なる空間とした。信長の王権構想は、日本と天皇とを超えんとするところにあった。
 信長は中国を強く意識し、中国的世界をとりこみつくろうことで、天皇と将軍とは異なる地平に立つことを示そうとした。
 信長は天皇を安土に行幸させ、この御幸の間に迎えようとした。それが信長の居所である天主よりずっと低い所に建てられたことに意味がある。平地の少ない山に天主を頂点にヒエラルヒを明示する目的でもって築かれた安土城は、天皇にも天主を仰ぎ見せようとしたもの。
 信長の本心では、実質的に自己を天皇の上に置いていた。信長は、安土城と城下町を描かせた屏風を、見たがる天皇の求めには応じずに、宣教師ヴァリニャーノに与えた。自らの偉業をヨーロッパ世界に知らしめたいと考えたのだ。
 私と同じ団塊世代の著者の手になる本です。信長の全体像をコンパクトに知ることができる本です。
(2012年12月刊。2300円+税)

司法修習QUEST

カテゴリー:司法

著者  赤ネコ法律事務所 、 出版  新書館
司法修習生の生活実態がマンガで紹介されています。
 現役弁護士の手になるマンガですので、そこに描かれている情景にほとんど間違いはありません。リアルなマンガに、つい笑ってしまいます。でも、内容はかなりシリアスです。
 ふだん私が読むマンガと言えば、新聞の4コマ、マンガです。秀逸なのは、なんと言ってもオダ・シゲ氏でしょうね。かつては、サトウ・サンペイがすごいと思っていました。まんまる団地は、どこでもある日常的な情景がよくぞマンガでとたえられていると思って、毎朝の楽しみです。くすっと笑えるところがいいですね。最近読んだマンガ本では、『ちいさいひと』、そして『ヘルプマン』がすごく勉強になりました。
 私は、新人弁護士には、いつも『家栽の人』と『ナニワ金融道』を必須文献として推奨しています。弁護士も実はなかなか硬い本を読みませんから、せめてマンガ本くらい読んでほしいという願いがあります。今どきの若手弁護士は少なくない部分が新聞すら読んでいないし、購読していません。インターネットで十分というのですが、それでは情報が片寄る(偏る)のですが・・・。自分の趣味・志向にあわせた情報にだけ目が向きがちです。
 司法修習生のとき、それまでの本の世界から初めて現実に直面します。そのとき、経験ある先輩の手ほどきが必要になります。私は、この時期に大いに世話役活動をしなさいねと言っています。わがまま勝手の人間集団の世話役として苦労していると、それが弁護士になったときに生きてきます。人間は、誰だって複雑な存在です。とても一筋縄では処理できません。
 それを自ら体験して実感しておくと、あとで必ず生きてきます。机上の空論がいかに得意でも、それでは食べていけません。
この本には就職難のことが面白おかしく紹介されています。もちろん、それは現実です。でも、もう少し、大都会志向から目を転じてほしいと常々私は思っています。
 同時に、受け入れ側の弁護士にも安定志向が強すぎます。若い人たちと苦難をともにするという覚悟が今こそ求められていると思います。
 よく出来たマンガでした。
(2013年1月刊。740円+税)

日本統治下の台湾

カテゴリー:日本史(戦後)

著者  坂野 徳隆 、 出版  平凡社新書
この本を読んで、そうだった、台湾は戦前、日本が植民地として支配していた人だった、と思い出しました。
 ちっぽけな島国・日本が朝鮮半島のみならず、ロシアや中国に向けて侵略戦争を次々に仕掛けていったことは、私の頭のなかでしっかり認識していたつもりでした。ところが、そのとき、台湾のことがスッポリ抜け落ちていたのでした。
 この本には、戦前の台湾にいて新聞風刺漫画を描いていた国島水馬(すいば)の手になる漫画をもとに、現代日本人に侵略戦争について語り明かしてくれます。
 それにしても、小さい島国である日本が台湾を植民地にしてうまくいくなんて、本気に思っていたのでしょうか、大いにギモンです。
 そして、1930年(昭和5年)10月27日に有名な霧社事件が起きました。台湾の中央部に位置する山里の公学校で行われていた運動会のグラウンドに原住民が蕃刀や銃を持って乱入し、駐在所の警官をはじめとする日本人134人(霧社在住者の半分以上)、そして日本人と間違えられた台湾人2人が犠牲となった事件です。
 この霧社事件のあと、台湾の山地や原住民周辺における警察力は大幅に増強され、原住民の叛乱はなくなった。
 この事件のあと、親を日本人に殺された霧社の原住民の若者たちは、血判状を書いてでも日本軍兵士として太平洋戦争に参加を欲するなど、日本の皇民化政策によって洗脳されてしまった。
 戦前の日本軍占領下の台湾の様子がマンガで紹介されている貴重な本だと思います。
 そして、戦後、今度は中国本土から蒋介石の国民党軍が中共軍に敗退して渡ってきて、戒厳令を敷いたのでした。これは、なんと40年近くも続き、世界最長記録でした。
 1987年までに没獄・処刑された反政府活動家は20万人以上という苦難の時代が続きます。この点は、もちろんマンガで紹介されていません。
(2012年12月刊。780円+税)

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