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逆転無罪の事実認定

カテゴリー:司法

著者  原田 國男 、 出版  勁草書房
私より少し先輩になる元裁判官による刑事裁判のあり方を世に問う本です。
 私などは、この本を読みながら、いかにも底の浅い弁護活動をしてきたか、深い反省を迫られました。いえいえ、これまで手抜き弁護してきたつもりではありません。もっと複眼的思考で掘り下げて考えるべきだったという意味です。
 なにしろ、著者は最後につとめた東京高裁の8年間になんと20件以上の逆転無罪判決を言い渡したと言うのです。信じられません。年に2件もの無罪判決なんて、ありえません・・・。そして、いずれも検察官による上告がなくて、無罪判決は確定したというのです。いやはや、なんということでしょうか・・・。すごいです。著者は次のように述懐します。
 これほど、警察・検察の捜査や第一判決に問題があるなど、初めのうちは考えてもいなかった。ここには刑事裁判のおそろしさがある。人が人を裁くという本質的な難しさだ。
 著者は、ありきたりのような人定質問も大切にしているとのこと。
この段階こそ、相互の人間関係ができる、もっとも重要な瞬間なのである。
 そして、起訴状の朗読で地名を正しく読みあげるのは大切なこと。
証人尋問のとき、ウソを見抜くのは、なかなか難しい。韓国では、偽証罪の被疑者は138人、うち起訴されたのは9人のみ。
裁判官は、法廷で時間を気にしてはいけない。気にしていることが見抜かれ、被告人はいろいろムダな抵抗をしてくる。
 裁判官が被告人に判決を言い渡したあと控訴をすすめることがあることにも一理ある。
 判決は自信をもって言い渡すべきである。しかし、誤っている可能性は常にあるから謙虚な気持ちを失ってはならないのだから、ありうる説示なのだ。なーるほど、ですね・・・。
 とても本当とは思えないことも、一度は本当かもしれないと思ってみることだ。勘というのは非常に大切。人間の知恵の集積なのだ。冤罪を見抜く力は、いわば総合的な人間力だから、社会での経験や個々の人生経験がものを言う。毎日の新聞を読んでいないのは論外・・・。
 以下、無罪判決がコメント付きで紹介されています。いずれも、とても実践的な内容であり、明日といわず今日からの本格的な弁護活動にすぐに役立つものばかりです。
 多くの弁護士に一読を強くおすすめします。
(2012年11月刊。2800円+税)
 仏検(一級)が近づいてきました。過去問をやっています。仏作文はとても難しくて、まるで歯がたちません。いえ、文法も難問です。
 毎朝の書き取りに加えて、フランス語の勘を身につけるために仏和大辞典で類似語を調べたりもします。
 こうやって努力していても、語学力の上達はあまりなく、せいぜい低下するのを喰いとめるのに役立つくらいです。トホホ…。

ドアの向こうのカルト

カテゴリー:社会

著者  佐藤 典雅 、 出版  河出書房新社
この本でカルト教団とされているのは、日本でも全国各地で今日なお活発に布教活動している「エホバの証人」です。9歳から25年間のカルト生活を振り返った、壮絶な書物です。エホバの証人についてのコメントは、すべて著者によるものです。私のコメントではありません。念のために申し添えておきます。
 エホバの証人には、さまざまな抑圧の決まりごとがある。誕生日、クリスマス、正月など全ての行動はご法度。学校では体育の授業から運動会の騎馬戦まで禁止。国歌のみならず、校歌をうたうのも禁止。タバコはもちろんダメで、乾杯するのも禁止。信者以外の人と友達になるのも注意の対象となる。だから、多くの女性信者は独身を余儀なくされる。
 エホバは、この世はすべてサタンの配下にあると教える。世の終わりであるハルマゲドンは今にでもやってくると信者は信じている。だから、エホバの証人の子どもは、教団と親のいいつけを守らないと神によって滅ぼされると洗脳される。そして、一度、洗脳されたら信者は洗脳されたことに自覚のないまま自分の感覚を抑圧して生きていくことになる。そのため、うつ病、慢性疲労症候群、原因不明の病気に悩まされる信者が多い。
 エホバの証人は、春の記念式以外は、一切祝わない。
 エホバの証人は政治に一切関わらないので、選挙で投票はしない。
 エホバの証人は親は子どもを叩くのがあたりまえだ。
 エホバの証人は、宗教法人「ものみの塔聖書冊子協会」の一般名称である。ものみの塔はエホバの名前を擁護する唯一の真のキリスト教団体だという。
 エホバの証人は、死んだら霊魂はないと信じている。
 エホバの証人は、日本に22万人いる。
 証人の伝道は月90時間、毎日3時間、奉仕に出ると達成できる。
 エホバの証人の女性は、日よけのツバの出ている帽子をかぶり、日傘をもち、伝道カバンをもって、地味な色気のない長いスカートをはいている。
 この本には書いてありませんが必ず、数人からなるグループに、リーダーの男性がいるのも特徴の一つです。
 有名人にもエホバの証人は多い。マイケル・ジャクソン、ケビン・コスナーの妻、ジョージ・ベンソン、ラリー・グラハム。プリンス。矢野顕子。白井儀人(クレヨンしんちゃん)。
エホバの証人は霊魂不滅は信じていないが、地上の楽園は信じている。そして、14万4000人だけが特別に選ばれて、天国で永遠に生きている。
 この本には書かれていませんが、この14万4000人は、既にアメリカ人だけで満杯になっていて、日本人は入れるはずがないといいます。このように大いなる矛盾をかかえた「宗教」です。
 エホバの証人は世界中に750万人いて、日本に22万人弱の信者がいる。
どうやって、14万4000人を選抜するのでしょうか・・・。
 エホバの証人は、自分の本当の人生は楽園で始まると考えている。そして、自分をこの世においては死んだものとしている。
 まったく、わけの分からない教えです・・・。カルト宗教の怖さが伝わってくる体験記になっています。
(2013年1月刊。1800円+税)
 日曜日の午後、サボテンの世話をしました。親サボテンにくっついている子サボテンを火ばさみではさんでねじり切って、地面におろしてやります。
 こうやってサボテンは次々に代を重ねていきます。
 ふっくらした小さなサボテンの世話をすると心がなごみます。トゲにだけは注意しています。

「プロの論理力」

カテゴリー:司法

著者  荒井 裕樹 、 出版  祥伝社
まだ20歳代なのに、年収1億円という東京の弁護士が書いた本です。そこに、私とはどんな違いがあるのかと思って、恐る恐る読みはじめたのでした。すると、年収こそ桁違いではありましたが、そこに書かれていることは、年齢の差も感じさせない、至極まっとうなことばかりでした。そんな共感の思いを込めて紹介します。いえ、本当に、ジェラシーはありません。年収1億円だなんて言われても、私は本を大量に買うことしかしませんので、そんな大金の収入は必要としないのです。これは決して負け惜しみなんかではありません。衣食住があって、やるべき仕事があり、家族がみな元気で、本を好きなだけ読めれば、これ以上、何を望みましょうか・・・。
 著者の父親も弁護士です。そして、幼いころから、著者に論理力を求め、鍛えていたとのこと。すごい親父ですね・・・。
それで、父には悪いけど、弁護士にだけはなりたくないと思っていた。
 ところが、今では、心より敬愛する父に本書を捧ぐとまで書いているのです。変われば変わるものですね・・・。
どんなに論理力を鍛えても、野心のない弁護士には、前例を打ち破るような仕事はできない。そもそも野心に欠ける人間には、自分であえて高いハードルを設定することができない。平均点の仕事で満足できる人間は、いつまでたっても平均点をとり続けるものだ。
 他人(ひと)と違うことをやってやろうという野心を持った個性豊かな人材が弁護士の世界でも少なくなってきているように感じる。
 私は、弁護士になって3年あまりで独立開業しましたが、そのとき他人(ひと)と違うような分野を開拓するという決意表明を入会申込書に書きました。その思いは、クレサラ・多重債務の問題や、草の根民主主義を擁護・発展させる取り組みとして結実しました。やっぱり、他人と一味ちがうことにチャレンジしたいものですよね。
 自分でコントロールできることと、コントロールできないことをきちんと区別し、自分がコントロールできることに集中するのが大切。
 司法試験の受験勉強のときに、それを痛感しました。そして、日々のストレスフルな弁護士生活のなかで、ストレス解消の貯めに心がけることが大切だと思います。
 交渉の流れをコントロールするためには、できるかぎり自分のペースで話を進めることを心がけるべきだ。そこで大切なことは、しっかり準備して、話の展開を見すえたうえで、行動を起こすこと。
 交渉事で相手からの不意打ちを避けようと思ったら、かかってきた電話にはなるべく出ないほうがいい。受けた側は、どうしても守勢にまわってしまう。だから、プロの交渉人は、かかってきた電話には絶対に出ないと決めている人が多い。
 不意打ちをくらったとき、相手にペースを握らせないためには、あわてて対応しないこと。「その点については、ちょっと検討させてほしい」と言って電話を切るなり、席を立つなりして、準備する時間を稼ぐべきだ。次の一手を思いつくまで将棋と同じく「長考」すればいい。もっともよい交渉の仕方は、相手を一生けん命に「説得」するのではなく、自然と相手に「納得」してもらうこと。
 交渉では、相手に言質(げんち)をとられないこと、これが鉄則だ。常に冷静さを持って、十分に準備して慎重に話を進めなければいけない。
先方がEメールで問い合わせてきても、証拠を残したくないときには、容易に返信せず、電話で答える。逆に相手の回答を証拠として残したいときには、Eメールで返信せざるを得ないような問い合わせを工夫する。
 あらゆる交渉事は、国同士の外交交渉させながらの緊張感をもってのぞむべきなのだ。弁護士の場合、交渉相手とのコミュニケーションを図る前に、自分の依頼者とのあいだでしっかり意思疎通をし、目標設定や交渉の進め方について納得しておいてもらう必要がある。依頼者は報酬をいただく「お客さま」であるだけに、交渉の相手以上に「納得」が求められる。そのためには、あらかじめ弁護士の側が自分の方針を誠心誠意、説明しておくのはもちろん、依頼者の話をよく聞いて、その気持ちに深い共感を示しておくべきだ。
「弁護士」というから、しゃべる仕事というイメージが強いが、実際には書面を「書く力」がモノをいう仕事だ。こちらの力量や本気度を裁判官に認めてもらうには、どれだけインパクトのある準備書面を提出できるかが勝負だ。準備書面は裁判官に読んでもらえなければ価値がない。その論理の正しさを分かりやすく説明する懇切丁寧な解決があってこそ、その論理には相手を動かすだけの力が備わる。
 そのため、準備書面には、証拠書類を引用したり、重要な部分にアンダーラインを引いたり、文字の色を変えたり、グラフや図解などのビジュアル要素も取り入れ、「親切第一」の見せ方を心がける。
 弁護士にとって大切なのは日頃の情報収集だ。ふだんからさまざまな世界に関心をもって、状況を把握しておかなければいけない。目の前の仕事に役立ちそうもない情報でも、いつかは「使える」可能性がある。目先のことばかりを考えず、視野を広くもって、あらゆる分野に目配りしておくべきだ。日頃からアンテナを張りめぐらしている弁護士とない弁護士とでは、依頼者の話の理解のスピード、深さが異なるし、信頼の度合いがまったく違う。
 睡眠時間7時間を確保しているという点でも私と同じ著者の話は、とても共感できるものばかりでした。
(2007年2月刊。1300円+税)
 日曜日の夜、いつものところへホタルを見に出かけました。歩いて5分あまりのところです。残念なことに、ほんの少ししかホタルは飛んでいませんでした。もうシーズンは過ぎてしまったようです。また、来年を楽しみにします。

腸のふしぎ

カテゴリー:人間

著者  上野川 修一 、 出版  講談社ブルーバックス
生来、腸があまり丈夫ではありませんから、とても関心のあるテーマです。健診のとき、腸のぜん動運動が少し弱いようですと言われたときは本当にショックでした。それもあって、毎晩、寝る前には腹筋を鍛える体操をしています。
 腸には立派な神経系がある。この腸神経系は、脳からほとんど独立して行動している。腸管ぜん動運動を支える神経細胞(ニューロン)の数は1億個で、脳からつづく神経組織である脊髄のニューロン数と同じ。腸は第二の脳である。
 脳に、からだ最大規模の免疫系があるのは、腸こそが外界とやりとりをする窓口であり、からだの中でもっとも外部からの危険な侵入者と遭遇する機会が多いからだ。
腸内には100兆個をこえる細菌が星のようにきらめいている。その重さは1キログラムにもなる。
ヒトの腸は、形や働きからみて本来は肉食であったものが、進化の過程で草食も取り入れるようになったと考えられる。
 ヒトは、1年間に1トン近い食物を体内に取り入れている。空腹時の胃の容積は50~100ミリリットル。それが満腹時には2~4リットルと50倍以上に拡張する。
腸の働きは腸神経系による自律運動である。
 小腸は、胃の次に位置する消化管の中心的存在である。小腸の働きなくして、食物はからだの中に入ってはいけない。小腸の働きの中心にいるのは、1600億個の吸収細胞である。この細胞の寿命は実に短く、誕生して死ぬまで1.5日である。しかし、代わりの細胞がすぐに交代要員として用意されている。
 大腸には小腸と異なり、ひだや突起は存在しない。口から侵入した病原菌のうち、食中毒菌などはかなりの部分が胃酸によって殺される。しかし、強い胃酸に耐えた病原菌は十二指腸を経て、小腸へ侵入する。小腸に120~130個あるバイエル板は、病原菌の姿や形の情報を収集し、抗体を生産する細胞をつくり出す最強の基地である。
 腸内細菌は、もう一つの生体器官である。
ヒトの胎児は、母親の子宮にいるあいだは無菌状態で大きくなる。
 腸内細菌は、平均して4~5日間、ヒトの体内に滞在したあと、体外に排出される。腸内細菌は、ヒトの免疫力を高める。
腸というのは、からだの中にある外界なのですね。毎日毎日、お世話になっている腸の話です。とても興味深い内容でした。
(2013年5月刊。860円+税)

日本弁護士史の基本的諸問題

カテゴリー:司法

著者  古賀 正義 、 出版  日本評論社
あまりにも大層なタイトルなので、手にとって読もうという気が弱まりますよね。弁護士会の歴史に関心をもつ身として、いわば義務感から読みはじめたのでした。ところが、案外、面白い内容なのです。
最近の流行は、アメリカの弁護士とくに大ローファームの弁護士の神話化である。結論を先に言えば、イギリスのバリスターもアメリカの弁護士も、日本の現在の弁護士と知的能力・倫理水準等の個人的次元で比較したとき、格別に秀れた存在であるとは思わない。ここで「最近の」というのは、今から40年以上も前のことです。念のために・・・。
 江戸時代の公事師について、この本は、全否定する議論に疑問を投げかけています。私も、その疑問は正当だと思います。
公事宿の本場は、丸の内に近い神田日本橋区内であって、こちらは公事宿専業だった。馬鳴町の公事宿は一般旅人宿との兼業であり、丸の内近くの公事宿の主人・手代のほうが訴訟手続に習熟していた。
そして、明治期の弁護士を語るうえで、自由民権運動の重要性を欠かすわけにはいかないと強調しています。
 代言人時代は、弁護士史の暗黒時代であるどころか、黄金時代、少なくとも黄金時代を準備する時期だった。というのも、創設以来20年のうちにすぐれた人材が代言人階層に流入したのは自由民権運動にある。
自由民権運動と代言人との結びつきは、もっと注目されてよいものだと私も思いました。
 天皇制絶対主義のもとで、弁護士は法廷における言論の自由をもたなかった。裁判官に対して尊敬を欠く言行は、それが裁判官であるがゆえに、理由の有無を問わず、尊敬に値するか否かを問わず処罰された。
 大企業は弁護士全体からすると依頼者層として無縁な存在だった。そして、弁護士は大企業からみて、重要な存在ではなかった。弁護士は、日本資本主義の陽の当たらない停滞的な部分を依頼者層とする、日本資本主義からみて重要でない存在だった。
 個人の人権は、戦前の権力から見れば無価値であり、弾圧すべきものだった。弁護士は、国家的に無価値なもののために働く、無用かつ危険な存在だった。太平洋戦争中、憲兵が弁護士に対して「正業につけ」と叱った言葉は、戦前の国家権力の弁護士観を集約的に表現したものである。
弁護士自治の大切さも分からせてくれる本でもありました。
(2013年3月刊。800円+税)

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