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法服の王国(下)

カテゴリー:司法

著者  黒木 亮 、 出版  産経新聞出版
読みすすめているうちに、思わず背筋を伸ばしてしまいました。それほど緊張感にあふれる裁判所の内外の動きがつぶさに再現されています。最大の魅力は弓削晃太郎として登場する矢口洪一にあります。
 青法協を目の敵にして血も涙もない司法反動の権化と思われていた(私も、もちろん、そう思っていました)矢口洪一が、実は最晩年に、青法協裁判官部会の後身にあたる裁判官懇話会に出席して講話したのでした。この内容は判例時報で紹介されました。
 この本の末尾にある参考文献は、司法反動の実態、そして司法改革とは何だったのかを知るためには欠かせない本ばかりです。司法界と無縁だった(と思われる)著者がこれだけの本を読み込んで、小説に仕立て上げた筆力には驚嘆します。
裁判官の内情をさらけ出す小説として『お眠りの私の魂』(朔立木、光文社文庫)はショッキングでした。
 もちろん日本裁判官ネットワークの本も紹介されています。
 じん肺訴訟については、福岡の小宮学弁護士の『筑豊じん肺訴訟』(海鳥舎)が紹介されています。
 しかし、なんといってもすごいのは、原発訴訟を一貫して取りあげているところです。この点については海渡雄一弁護士は実名で登場していますし、最新作である『原発と裁判官』(朝日新聞出版)も踏まえているところが、すごいと思いました。
 つまり、裁判官も人の子。行政にタテつく判決を書くのは、とても勇気のいることなのです。これから出世できないのではないか・・・。夜も眠れないほど悩むのです。
 実名と仮名で多くの裁判官が登場する、とても刺激的な本です。司法反動そして司法改革を知りたいあなたに、必読の本です。
(2013年7月刊。1800円+税)

幕末江戸下町絵日記

カテゴリー:日本史(江戸)

著者  福原 敏男 、 出版  渡辺出版
江戸は幕末。そして、下町に生活する町絵師による絵日記です。
 幕末の京都のような殺伐とした雰囲気はまったく感じられません。のどかな下級武士の日常生活を絵日記で知ることができます。
 主人公は福田永斎という絵師。その師は佐竹永海。さらに永海の師は高名な谷文晁。
 慶応元年のころ永斎は30歳前後。明治26年ころには満60歳だった。
 明治19年まで、永斎は駒場農学校の仕事をしていた。そこで、博覧会の向けの出品害虫図を描いて博物標本画で生計を立てていた。東大の総合研究博物館が所蔵している東京大学害虫学研究室にある『昆虫飼養日誌』は永斎の作品と思われる。
 永斎は、幕末に秋葉原に住み(独身)、神田・浅草・大野・下谷・深川を行動範囲とした。絵によって日常生活が記録されている。
 ほのぼのとしたタッチで、当時の下級武士ないし町民の日常生活が描かれています。
 食事の風景、二日酔いで寝ている姿など・・・。同輩とともに、火鉢で燗をつけて楽しく飲みかわしている光景もあります。
 神田明神での相撲を見物しにも行っています。
 藤沢周平など、江戸時代に舞台とする小説を読むうえでもイメージのわいてくる貴重な絵日記です。
(2013年3月刊。2400円+税)

日本の最高裁を解剖する

カテゴリー:司法

著者  ディヴィッド・S・ロー 、 出版  現代人文社
日本の最高裁判所について、多くの裁判官は「サイコー」と呼びます。若いときの私は、それを聞くと、いつも心の中で「サイテーじゃないか」と、あざけっていました。
 ところが、今では、高裁のほうがむしろ「サイテー」で、かえって最高裁のほうが積極判断を示すことがあるようになりました。司法反動のとき、裁判官統制がききすぎるようになって、「ヒラメ裁判官」(上ばかり見て、保身か立身出世しか考えない裁判官のこと)ばかりになってしまって、むしろ上に立つ裁判官のほうがやきもきして焦っているという構図が成立していると言われるようになりました。今や、その傾向はますます強くなっている気がします。たまに覇気のある元気な裁判官にあたると、ほっとします。
 アメリカの学者が、日本の最高裁をインタビューもふくめて分析した本です。
 日本は積極的に実現するに値する憲法に恵まれている。日本国民は世界で最古の部類に属するが、にもかかわらず、最先端の憲法を有している。
 日本国憲法は、制定して66年になるが、ほとんど陳腐化していない。日本国憲法はそれが施行された当時、かなり先進的なものだったが、今でも世界に立憲主義の主流にしっかりとどまっている。
 改憲を意図する保守派は、外国からの押しつけ憲法と特徴づけることで、その正当性を掘り崩そうとしてきた。しかし、反動的な政治家に憲法を押しつけることと、日本国民に憲法を押しつけることには重要な相違点がある。
 アメリカ人の学者である著者は、このように日本国憲法を高く評価し、改憲派を厳しく批判しています。最高裁判所が1947年に発足してから、違憲無効として法令は、わずか8件のみ。ドイツの連邦憲法裁判所は600件以上の法律を違憲無効としている。
 司法部は一群のエリートの幹部裁判官に牛耳られている。彼らは最高裁長官を含む重要な司法行政ポストに就き、強大な権限を行使して、自分たちの好む見解を司法部の隅々まで常に押し通すころができる。
 彼らが統一性と継続性を達成するために用いる官僚機構は、保守的な政治のルールを保守的な司法部の行動へ常に忠実に翻訳してきた。
裁判官の再任審査を外部に対して透明化するために設置された下級裁判所裁判官指名諮問委員会は、任命過程をとりまく透明性を向上させることにはつながらなかった。委員会の議事要旨をみても、委員会の議論の中味はわからない。委員は政府のために働いている。
 日弁連から選ばれた委員は、委員会にとっての厄介者だった。弁護士からの任官が目立って拒否されている。弁護士が司法部左派であるのは広く知られているので、弁護士任官に司法部が難色を示すのは、法廷のイデオロギー的バランスからみても当然のことかもしれない。
 青法協から脱会した裁判官のなかには、その後、順調なキャリアを重ねた者も多くいる。そのなかの一人の町田顕は最高裁長官にまでのぼりつめた。
 もっとも有力な司法官僚は最高裁人事局長である。事務総局は、より人気のある任地を特定の裁判官に割りあてている。人事局長ポストは、現役局長がたいてい自分の後継者を指名する。
 日本の最高裁について、かなり踏み込んでインタビューし、分析している面白い本です。
(2013年6月刊。1900円+税)
 炎暑の夏がようやく終わったようです。お盆過ぎから大雨が続いていたせいか蝉の鳴き声もぱったり止んでいましたが、ツクツクボースが鳴きはじめました。一気に秋の気配となりました。芙蓉のピンクの花が咲き、彼岸花も見かけます。車中にある温度計も19度を表示したり、8月の36度の表示が表示が嘘のようです。
 季節の変わり目です。みなさん、風邪などひかないようにしましょう。

「暁」の謎を解く

カテゴリー:日本史(江戸)

著者  小林 賢章 、 出版  角川選書
とっても新鮮な衝撃を受けました。思い込み、というのは、こんなに恐ろしいものなんですね。
 真夜中の12時で一日が替わるのが当然だと私たちは思っています。でも、平安時代には12時ではなくて、午前3時が日付変更時だったというのです。ええーっ、そんな・・・、と思うのですが、この本はその例証を次から次に挙げていきます。いくらなんでも、いやはや降参と叫ぶしかありません。
平安時代の日付がいつ変わったのか・・・。それは、午前3時、丑の刻と寅の刻の間だった。その時間は人々が活動を始める時間だった。
 当時の30分は、時間認識の最小単位だった。「暁」は、現在は「夜明け前後」を意味するが、平安時代には午前3時から午前5時の時間帯を指して使われていた。
 暁の始まる時間、つまり一日の始まる時間は、寅の刻、現在の午前3時だった。
 日付変更時点は、平安時代に午前3時、江戸時代は1時間遅れの午前4時、そして、明治以降は今と同じ夜中の12時になった。
 「お江戸日本橋七つだち」という童謡は、午前4時に日付が変わり、旅に出発していたことを示している。
 暁は、平安時代、重要な役割を果たす時間帯だ。当時の結婚や恋愛は、男性が女性の家へ出かけ、一晩を過ごし、早朝に自宅に戻る形式だった。
 女性は、いつも待つ恋だった。平安時代、暁は大切な時間だった。
 アカツキは、奈良時代には、アカトキと言われていた。
 アカとトキの複合語だ。アカは、「明く」の活用形。アカツキは、暁と書かれることが多いが、平安時代には「あか月」と書かれていることも多かった。
 当時は、午前3時は女性のもとに出かけた男性の帰宅する時間だった。平安時代の暁は、寅の刻(午前3時~午前5時)だった。それに続いて卯の刻(午前5時~午前7時)から巳の刻(午前9時~午前11時)までが、「つとめて」だった。「暁」と「つとめて」の境は、午前5時とするのが妥当だ。
平安時代、暁という時間帯は、一日の始まりだった。恋人たちが別れる時間だったし、旅に出発する時間でもあった。とても重要な時間だった。
 有明も、午前3時から午前5時を意味する暁と同じ時間帯を意味して使用されていたはずである。
 有明は、午前3時以降の月を意味するものであった。有り明けの月が旅の出発の意味で用いられるとき、空に浮かんでいる月は三日月なのだ。動詞「明く」は、日付が変わる、午前3時になると訳したらよい。
 夜もすがらは、夜通し、一晩中という意味。夜一夜(よひとよ)も、夜もすがらと同じ意味。平安時代の今宵(こよい)には、昨晩と今晩の二つの用法があった。最初に、それを指摘したのは本居宣長だった。
 平安時代の文献、そして『今昔物語集』でも、今宵は昨晩の意味で用いられている。
 中国では、宵は昔も今も、夜の意味。その宵の字が、日本では、いつのまにか夜のはじめの部分の意味に変わってしまっていた。
午前3時までを、昔の人は夜と理解していた。夜もすがら、今宵(今夜、こよい)、夜の明くという使い方は、そのことを示している。
 「さ夜更けて」というのは、午前3時に向かって時が奥深く進んでいくことを意味している。
 ええーっ、そ、そうなんだ・・・。驚きの本でした。学問の進歩って、すごいですよね。同じ日本人でも、昔と今とで、時間の感覚がまるで違うことに改めて自覚させられました。
(2013年3月刊。1700円+税)

ビッグデータの衝撃

カテゴリー:社会

著者  城田 真琴 、 出版  東洋経済新報社
インターネットの世界は、いつのまにか、こんなことも出来るようになったのですね。要するに、すべてはビジネス・チャンスに変えられるというわけです。
 実はもう一つ、すべての個人を監視できる体制がつくられたというわけでもあります。
 グーグルは、月に900億回というウェブ検索のために、毎月、600ペタバイトのデータ量を処理している。この分析対象は、グーグルの多種サービスを利用するユーザーのありとあらゆるデータだ。
 データ分析を軸にしたサービス分析を軸にしたサービス設計が功を奏し、アマゾンは年間売上480億ドル(3兆8000億円)を稼ぎ出す(2011年度)までの巨大企業に成長した。
 テラは10の12乗、ベタは10の15乗、エクサは10の18乗。エクサバイトのレベルがビッグデータと呼ぶにふさわしいデータ量だ。
 監視カメラを利用して、買い物客の店内での行動をモニタリングして分析する試みがある。モンブランは、これまで経験を直感で商品の陳列場所を決めてきたが、監視カメラのデータを分析し、顧客の目にもっともとまりやすい場所に一番の売れ筋商品を稼働させたところ、売上が20%も増加した。
ハドゥープとは、オープンソースとして公開されている大規模データの分散処理技術である。
 ハドゥープの大きなメリットは、これまでコスト面、処理時間の面で、あきらめざるをえなかった膨大な量の非構造化データの処理を可能にした点にある。これまではサンプルデータに頼っていたデータ分析から、関連する全データを対象として分析ができるようになった。
 インターネット・オークション会社のイーベイは、世界最大のネットオークション会社である。全世界で2奥7000万人もの登録会員がいる。1日に売買されるMP3プレイヤーは3600台以上、ダイヤモンドリングは2分に1個、自動車も1分に1台が売買されている。
 フェイスブック上で展開されるソーシャルゲームで人気ランキングの上位を独占するゲーム開発会社がジンガ。ゲームで遊ぶ95%のプレイヤーは、たった5セントのお金も使わない。しかし、残る5%の熱心なファンがジンガの年間11億ドルという売上を支える。
 ユーザー2億人の5%、1000万人が5ドルのバーチャルグッズを購入すれば、5000万ドル(40億円)の売上になる。ジンガの副会長は、「我々は、ゲーム会社の皮をかぶった分析会社だ」という。
 スーパーでは、顧客の購買履歴データがあると、一定期間の累計買い物金額に応じて顧客のランク分析をして、ランクに応じた得点を付与する。たとえば、ある週の累計買い物額が1万円以上の顧客には、2日間限定の5%割引クーポン、2万円以上の顧客には5日間限定の5%割引クーポンといった具合だ。これによって、顧客の購買意欲を刺激し、購買金額のアップを狙うことができる。
 日本のマクドナルドは、会員制モバイルサイト「トクするケータイサイト」などで、顧客一人ひとりの購買履歴を詳細に分析し、購買パターンに応じて、一人ひとり内容の異なる割引クーポンをケータイ電話に配信している。
 日本マクドナルドは、300億円を投じて、2600万人の顧客情報を蓄積し分析するシステムを構築した。
 たとえば、一定期間、来店していない顧客に対しては、従来よく購入していたハンバーガーなどを割り引くクーポン。来店頻度は高いが、新発売のハンバーガーを購入していない顧客に対しては、新発売のハンバーガーを大幅に割り引くクーポンなど・・・。
 ビッグデータを分析すると、スキー場やゴルフ場の従業員なのか、客なのか判明する。
 ケータイ電話会社にとって、優良顧客が離反しそうなことが事前に予測できたら、「割引キャンペーン」「ポイント2倍付与」など、解約を防止する手を打てる。
 とっても便利なスマホ(ケータイ)の利用は、このようにして管理されていくのですね。だから私は、今でもなんでも手書き派なのです。
(2013年6月刊。1800円+税)

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