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ベルリンに一人死す

カテゴリー:ヨーロッパ

                                (霧山昴)
著者  ハンス・ファラダ 、 出版  みすず書房
 ナチスドイツに抵抗したドイツの大学生たちは、白バラ・グループと呼ばれました。大学の内外でナチスへの抵抗を呼びかけたビラをまいたのです。ところが、そのビラを読んで決起した学生・市民はほとんどいませんでした。そして、大学生の兄妹は死刑となってギロチン台で処刑されてしまいました。
 戦後になって、その行為は高く評価されたわけですが、残念ながら、同時代のドイツ人を立ち上がらせることは出来ませんでした。
 この本の主人公は、一人息子をドイツ兵として戦死させてしまった中年の夫婦です。夫は、まだ現役の労働者でした。ヒトラーを批判し、反戦を呼びかけるハガキをベルリンの町のあちこちに置いていったのです。
 ところが、そのハガキを手にした人は、恐怖のあまりほとんどが警察へすぐに届け出てしまいます。その限りでは、反戦ハガキは何の効果もありませんでした。しかし、本当に効果がなかったのかどうかは、本書のような存在が証明していることになります。
 この小説のモデルとなった実在の人物は1940年から2年にわたって、公共の建物にナチスへの抵抗を呼びかける文章をハガキに書いてベルリンの町のあちこちに置いていった。
 ベルリン中からハガキが発見されたため、ゲシュタポ(ナチスの秘密警察)は、大がかりな地下組織の存在を疑っていた。実際には、夫婦二人だけの「犯行」だった。1942年に逮捕され、形だけの裁判で死刑判決を受け、1943年にギロチンで処刑された。
 あらゆる意味で平凡な一般市民の中に、こんな絶望的とも言える勇気をもった人々がいたことに驚かされる。
 でも、よく考えてみれば、ベルリン市内には戦後までユダヤ人を隠して守り抜いた人々が少なからずいたのです。守った人々も、普通の一般市民だったのです。
 ハガキを書いて町のあちこちに置いていたオットーは、政治的信条のためではなく、「まっとうな人間」でいるためにハガキを書いたのだ。本書に登場する人物のうち、ナチスへの抵抗を試みるのは、ほとんど全員が確固たる政治的信条をもたない平凡な人物ばかり。彼らは、ただ単に「まっとうな人間」でありたいという願いから、ナチスに抵抗し、迫害を受ける。その抵抗が何の役に立ったのかと問われたとき、オットーは次のように答えた。
 「自分のためになります。死の瞬間まで、自分はまっとうな人間として行動したのだと感じることができますからね。そして、ドイツ国民の役にも立ちます。聖書に書かれているとおり、正しき者ゆえに救われるだろうからです」
 この本は、1946年に出版されています。まさに終戦直後に書かれたのです。平凡なドイツ市民、はじめはヒトラー・ナチスを賛美していた夫婦がヒトラー批判のハガキを書いて町じゅうにばらまくようになるのです。その心理的変遷を行き詰まるタッチで描き出しています。
 600頁もの分厚い本です。そのうえ上下2段組です。戦時下のドイツ、首都ベルリンの行き詰まる市民生活が丹念に再現されていて、読ませます。
(2014年10月刊。780円+税)
 次のような詩があるそうです。
 批判ばかりされた子どもは、非難することを覚える
 殴られて大きくなった子どもは、力に頼ることを覚える
 笑いものにされた子どもは、もの言わずにいることを覚える
 皮肉にさらされた子どもは、醜い良心の持ち主となる
 しかし、激励を受けた子どもは、自信を覚える
 寛容に出会った子どもは、忍耐を覚える
 賞賛を受けた子どもは、評価することを覚える
 フェアプレーを経験した子どもは、公正を覚える
 友情を知る子どもは、親切を覚える
 安心を経験した子どもは、信頼を覚える
 かわいがられ抱きしめられた子どもは、世界中の愛情を感じることを覚える
 これはスウェーデンの中学校の教科書に載っているそうです。ドロシーロー・ノルトの「子ども」という詩です。長瀬文雄氏が紹介していました。弁護士生活40年以上となった私の実感にもぴったりあいます。やはり、人間同士も国同士も信頼しあうことが大切です。安倍政権のようなあちこちに「敵」をつくり、武力によって「敵」を抑えこもうというのではいけません。

10代の憲法な毎日

カテゴリー:司法

                               (霧山昴)
著者  伊藤 真 、 出版  岩波ジュニア新書
 憲法改正のための国民投票は18歳からできるようになります。
 これは当然のことでもあります。なぜなら、徴兵制になるかどうかはともかくとして、日本人が戦場へ駆り出されるとき、その主力の兵士は20歳以上ではなく、18歳以上であることは間違いありません。
 アフリカの戦場では10代の兵士が珍しくなく、14歳にして部隊の司令官だ人間がいるというのです。恐ろしい現実です。
ということは、10代に憲法とは何なのかを知ってもらう必要があります。この本は、そんな思いで書かれていますので、とても分かりやすい内容になっています。さすが、だと感嘆しました。10代ですから、はじまりは学校生活の不満を問題とします。
集団や社会のために個人が犠牲になる社会であってはならない。
 高校生の疑問に対して著者が答えていくのですが、実に明快な答えです。
 人権というのは、元々は、人間として正しいということ、だから、権利を主張するときには、なぜその権利は正しいのかについて、みんなに分かってもらうことが大切になる。
 住民投票とか、直接民主主義には、変な誘導がなされたり、世論操作の危険性がある。
ドイツでは、ヒトラーが演説の巧みさなどから国民の圧倒的な支持を集め、圧倒的な支持を集め、ナチ党の独裁を許し、ユダヤ人の大量虐殺などの暴走につながった。だから、何でも住民投票で決められたらいいということにはならない。
 今こそ、大いに憲法について語りましょうと伊藤弁護士は若い人に呼びかけています。私も、まったく同感です。憲法は古い、死んだものではありません。きわめて新しい内容をもっているのです。ぜひ10代のあなたに読んでほしい新書です。
(2014年11月刊。840円+税)

ふくおか古墳日和

カテゴリー:日本史(古代史)

(霧山昴)
著者  吉村 靖徳 、 出版  海鳥社
 福岡県内に、こんなにたくさんの古墳があるなんて、ちっとも知りませんでした。
 県内各地の古墳が素晴らしい写真とともに紹介されています。今度の日曜日、いい天気だったら出かけてみようかな、そう思わせるだけある、青空の下の古墳たちです。
 八女古墳群に現存している岩戸山古墳は、筑紫君(つくしのきみ)の磐井(いわい)が埋葬されている古墳とされています。阿蘇山の噴火でできた凝灰(ぎょうかい)岩を丸彫りした人物や武具がたくさん見つかっているのです。
 6世紀半ばに大和朝廷の派遣した朝廷軍の磐井は敗れたのですが、そのとき根絶やしされたのではなく、その後も、筑紫君は八女丘陵に大規模な前方後円墳を築き続けた。
 武装石人、武人埴輪、力士壁画、力士埴輪などが残されているのにも、心が惹かれます。八女には巫女(みこ)埴輪もあります。
 春夏秋冬、四季の風情とともに古墳が写真で紹介されています。
 いま、九州は西のはてにある。昔は、関西よりも表玄関として文化発祥の地だった。そのことを実感させてくれる写真集でもあります。
 ぜひ、一度手にとって眺めてみてください。
(2012年12月刊。1800円+税)

希望の牧場

カテゴリー:社会

                                (霧山昴)
著者  森 絵都・吉田 尚令 、 出版  岩崎書店
 福島第一原子力発電所。そこから20キロ圏内にあった牧場。330頭の肉牛がいた。
 3.11のあと、放射能をあびた牛たちは、もう食えない。食えない牛は売れない。それでも、生きてりゃのどがかわくから、水くれ、水くれってさわぐんだ。エサくれ、エサくれって、なくんだよ。
 だれもいなくなった牧場に、オレはのこった。そりゃ放射能はこわいけど、しょうがない。だってオレ、牛飼いだからな。まったく牛たちはよく食うんだ。エサ食って、クソたれて、エサ食って、クソたれて、まいにち、それだけだ。
 それが肉牛の仕事だもんな。牧場の牛たちは、そのために生きて、死ぬ。それがこいつらの運命。人間がきめた。そして、原発事故によって、人間がくるわせた。
 国は、そんな牛について、殺処分することをきめた。オレは、そうしなかった。
 売れない牛を生かしつづける。意味がないかな。バカみたいかな。売れない牛に、まいにちエサをやる。もうからないのに、金だけかかる。
 いま、牧場には360頭もの牛がいる。原発事故の前よりもふえている。ふしぎだろ?
 知覚の牧場主からたのまれた牛や、迷子になっなってた牛を、ひきとったのだ。
力強いタッチの絵で原発事故による悲惨さを描き出した大判の絵本です。
(2014年9月刊。1500円+税)

冬を待つ城

カテゴリー:日本史(戦国)

                                (霧山昴)
著者  安部 龍太郎 、 出版  新潮社
 戦国時代の東北、陸奥(みちのく)九戸城に立てこもって豊臣秀吉勢15万を相手に見事にたたかった九戸(くのへ)政実(まさざね)が主役の小説です。なかなかに読ませます。
 秀吉は朝鮮出兵のためには、寒さに強い東北の人々を朝鮮で働かせるつもりだった。人狩りだ。ところが、それを察知した九戸政実たちは、あの手この手を使い、盛んに謀略を用いてまで、ついに自分の生命と引き換えに人狩りを実現させなかった。
 東北のたたかいが秀吉の朝鮮出兵と結びついたなんて、知りませんでした。本当に史実を反映した話なのでしょうか。それとも小説という創作なのでしょうか、誰か教えてください。
 かつては南部家と九戸家、久慈家は対等な親戚につきあいをしていた。それが秀吉の指示により南部信直の配下に九戸も久慈も立たされることになった。
 東北の雄である伊達政宗、蒲生(かもう)氏郷(うじさと)も登場します。話は謀略に次ぐ謀略として展開していきますので、面白いことこのうえありません。地形をふくめて、よく調べて書かれているので、本当に読ませます。
 3000の城兵で15万の包囲軍と戦う。しかも、玉砕ではなく、勝てるという、なんと、それも3日間で・・・。
 本当ですか、信じられません。そして、それが現実のものになっていくのです。
 二戸市、久慈市のそれぞれ市史が参考文献に上がっていますので。よく調べたことが分かります。
 クライマックスは九戸城を大軍の秀吉勢が包囲する戦いです。これにも『骨が語る奥州戦国九戸藩城』という本が参考文献としてあがっています。
 史実を基本として、あまり曲げることなく読みものに仕立てあげる。私も、ぜひ挑戦してみたいと思っています。450頁もの大作です。2日かけて、じっくり読み通しました。
(2014年10月刊。2000円+税)

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