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法廷通訳人

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  丁 海玉 、 出版  港の人
 表紙の装丁がいいですね。思わず手にとって読んでみたくなる色あいです。
 私は通訳付きの法廷というのを体験した記憶がありません。被告人が外国籍ではあっても、皆、日本語が出来る人たちでした。日本に長くいたら日本語を話せるようになるのも当然ですからね・・・。
著者は韓国(朝鮮)語の通訳を親の代からしています。在日韓国人二世です。
法廷通訳人とは、その言葉どおり、裁判所の法廷で通訳する人のこと。裁判所で定めた認定試験や資格のようなものはなく、もちろん裁判所の職員や専属でもない。
法廷通訳人の報酬は、「裁判所が相当と認めるところ」と定められているが、具体的な額は公表されていない。
ソマリア人の「海賊」を紅海で自衛隊が捕まえて日本に連れ帰り、東京地裁で刑事裁判が開かれたことがありました。ソマリア語を通訳できる人が日本には数人しかいなくて、裁判所、検察庁、弁護人で奪いあうという事態が起きました。自衛隊の海外派兵が本格化すると、もっと困難なケースがどんどん出来ることになるのでしょうね・・・。
法廷通訳人は、最初に宣誓書を朗読して、目に見えない「良心」と「誠実」を担保にしなければならない。
通訳人候補者として登録するときには、履歴書と作文を提出したうえ、面接と導入説明がなされる。
 法廷という非日常の空間のなかで、普段の生活ではなかなか見えない人間の姿があぶり出される光景を目の当たりにすることがある。そこにあるのは、言葉だ。言葉には、それを使う人の人となりや個人史、生き様が反映される。放たれる言葉によって、その人の「生」が鮮やかに浮かび上がることがある。
法廷通訳は、生きた言葉を直訳して、正確に通訳する。裁判官、検察官、弁護人そして被告人から出た言葉の全部を要約せず、すべて訳さなければならない。
 韓国から来た男性のオーバーステイは、かつては建築現場で働く人がほとんどだった。その動機も圧倒的に子どもの学費のためだった。大の男が祖国にいる子を思い出して裁判官の前で大粒の涙をこぼすことも少なくなかった。
そして、しばらくすると、ホストが登場してきた。韓流ブームに乗ったのか、韓国好きな日本の女性、日本に滞在する韓国の女性など、客層は意外に広かった。
韓国語通訳を通してみた法廷の実情がよく描かれている本だと思いました。
(2015年12月刊。1800円+税)

悲素

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  帚木 蓬生 、 出版  新潮社
和歌山カレー事件の解明に関わった医師を主人公とする小説です。
さすがに現役の医師が書いていますので、医学に関する所見や症状などは専門的です。ヒ素と青酸、タリウムそして食中毒との違いもよく分りました。
和歌山カレー事件が起きたのは1998年7月25日のことですから、もう20年近くも前のことになります。死刑判決が確定していますが、主犯の女性は再審請求しているようですので、判決に納得はしていないようです。
この本の主人公はヒ素を研究している九大医学部の教授です。地下鉄サリン事件にも関わったようです。
食中毒は、通常の食物の中に潜む病原菌が食品中や体内で繁殖して毒素を出し、病気をひき起こす。そのため、経口摂食から発症まで、時間を要する。吐き気に襲われ、腹痛と下痢が始まるのは、寝入る前か夜中。あるいは明け方だ。
これに対して青酸中毒は、吐き気やおう吐、腹痛といった生やさしい症状ではない。高濃度の青酸だったら、数秒以内に意識が消滅し、15秒以内に呼吸数が増し、30秒以内にけいれん発作に襲われる。いずれにしても、短時間で呼吸停止する。
ヒ素中毒事件として有名なのは、森永粉ミルク事件だ。製造過程にヒ素が混入していて、1万2千人をこえる子どもに被害を与え、死亡した子も130人にのぼった。もう一つは、宮崎県の土呂久(とろく)公害。
ヒ素そのものは、自然界に広く分布している。フローベールの『ボヴァリー夫人』には、ヒ素の急性中毒の症状が生々しく記述されている。フローベールは、父も兄も医師であり、少年時代を病院内で過ごした。タリウムの急性中毒の特徴は、なんといっても頭髪の脱毛。それこそ、ごっそり抜ける。
ヒ素、タリウム、アンチモンなどの中毒をしたときには、爪に「ミーズ」という名のついた白い線があらわれる。全部の爪の真ん中あたりに、ハシからハシまでつながっていて、真中あたりが少しふくらんでいる。
中世ヨーロッパでは、上流階級の奥方が夫を死に至らしめようとしたことがしばしば起きている。そのときに使われたのが、このヒ素。ヒ素の入った水を1日5,6滴ずつ夫に飲ませていくと、食欲がなくなり、全身懈怠感が出てくる。体重が減って、衰弱していく。数か月後、ろうそくの火が消えるようにして絶命する。
 当時、亜砒酸は容易に入手できた。なぜなら、化粧品として、脱毛剤として愛用されたから購入は簡単だった。
亜砒酸の特徴は、無味・無職・白色。すぐには症状があらわれない。ほんの耳かきいっぱいで、人を死に至らしめる。
ヒ素が含まれているのは、主として銅鉱石。銅を製錬する過程で、副産物としてヒ素が出てくる。
このカレー事件について、その動機は解明されていない。動機が明確にならないまま、死刑判決が出た。
動機をふくめて、なんとか全容を解明してほしいものです。540頁もの大作です。3月の休日に半日かけて一心に読みふけってしまいました。
(2015年7月刊。2000円+税)

トンヤンクイがやってきた

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者  岡崎 ひでたか 、 出版  新日本出版社
 戦争中、日本は中国で何をしたのか、そして日本人は国内でどんな生活をしていたのか、対比させながら話が進んでいきます。中学生や高校生、若い人にぜひ読んでほしいと思いました。340頁もありますが、なんとか挑戦してほしいものです。
 中国は上海近くの農村地帯で生活している子どもの目から、抗日戦争の無惨な実際が語られます。悪虐非道な日本軍は、最新兵器を駆使するので、中国軍はとてもかないません。それでも、中国の人々は、ひそかに抗日の戦いをはじめ、子どもたちもそれに関わるのです。ここらあたりは、著者が現地で取材した実話にもとづいていますので、真に迫っています。
 著者が取材に行ったとき、部屋の中は怒りの炎に包まれていた。恐ろしい燃えるような眼に囲まれた。中国の民衆にとって、まだ戦争は終わっていなかった。そうなんです。加害者は忘れても、被害者は、ずっと忘れることができないものなんですよね。
 日本が戦争を反省して、憲法9条を定めたことをふくめて、お詫びの言葉を述べると、すっかり部屋は穏やかな平和の色に包まれた。
世の中は星(陸軍)と錨(いかり。海軍)に闇に顔、ばか者のみが行列に立つ(清沢冽)
中国は、鉄鉱石にしろ石炭にしろ、日本とはケタ違いの生産量でべらぼうに安い。タダ同然。労働者はいくらでもいて、賃金はうんと安くてすむ。だから、中国で工場をはじめたら、企業はもうけ過ぎてもうけ過ぎて・・・。それに、協力するのは、つわものぞろいの関東軍。
職業軍人は、戦争を起こしたくて、待っていた。出世できるチャンスだから・・・。 職業軍人は、戦争がないと手柄をたてられず、出世が難しい。
「軍事予算をどんどん増やす。そして、献金を集める。戦争は大儲けのチャンスよ」
中国の人々は日本軍を「トンヤンクイ」と呼んだ。東洋の魂だ。
 日本軍が食料微発に来たときの対応4ヶ条。
 ① 逃げ隠れして、会うのを避ける。
 ② かくれることが出来なくなっても、粘り強く、一日でも先送りする。
 ③ コメを出すしかないときには、水にひたしてふかしておく
 ④ コメの袋のなかに、ニセ物を入れるなど、工夫する。
 いやはや、戦争というのは、まさしく生活全般を根底からひっくり返すものだと痛感しました。親子読書の一冊にしてみたらいかがでしょうか・・・?
 「自虐史観」だなんて、つべこべ言わず、この本を読んでほしいものです。いい本です。ご一読をおすすめします。
(2015年12月刊。1800円+税)

植物はすごい、七不思議篇

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 田中  修 、 出版  中公新書
 春は、なんといってもチューリップと桜です。チューリップは昔ながらの色と形、桜はソメイヨシノのピンクですよね。
桜の開花宣言が、九州より東京のほうが早いことが多いのはなぜなのか・・・。
開花宣言は、標本木として定められている木に、わずか5~6輪の花が咲いたときに出される。実際に満開となるのは、それから一週間くらいしてからのこと。
桜は、冬にきびしい寒さを感じなければ、春の暖かさを感じても開花が遅れてしまう。九州では冬でも暖かいので、春の暖かさに敏感に反応せず、開花が遅れてしまう。東京の桜は寒さがきびしいので、春の暖かさに敏感に反応して早く開花する。なーんだ、そういうことだったのですか・・・。
 北海道で、梅と桜の花が同時に咲くのは、梅の花が全国的にほぼ同じ気温(6~9度)で咲くから。梅の花が咲いた頃、北海道でも厳しい冬の寒さから少し暖かくなったと桜が感じるので花を咲かせる。
アサガオの花が夏に早朝から咲くのは、暗さを感じはじめて10時間後に咲くという習性があるから。10時間後に真っ暗な箱に入れられていても、アサガオは花を咲かす。
ゴーヤの果実の表面にブツブツがあるのは、このデコボコによって影をつくり、太陽の光が実全体に直接あたらないようにしている。強すぎる光があたると、かえって種に害を与える有害な物質が発生する。
植物の不思議な行動がとても分かりやすく解明されていました。
(2015年8月刊。820円+税)

ガラパゴス(上・下)

カテゴリー:警察

(霧山昴)
著者  相場 英雄 、 出版  小学館
 これは警察小説です。地道に犯人を追い求めてはいずりまわる警察官がいます。その対極に、利権をあさり、有利な転職先を確保しようとする警察官もいます。そして、キャリア警察官は、政権党の有力議員と談合して事件の幕引きを図ります。
 上下2冊の対策です。「警察小説史上、もっとも残酷で哀しい殺人動機」だとオビに書かれていますが、まことにそのとおりです。
 今日の非正規社員ばかりの、人間使い捨ての企業社会の実態が殺人動機そのものになっています。
 「派遣からやっと正社員になれたんだ。あんたらに分るかよ。その日暮らしの不安と、人として認めてもらえないキツさがよ」
 「今までは『派遣さん』と呼ばれていました。それが正社員になると、名前で呼んでもらえます。これが何よりうれしいのです」
 「派遣をクビになったら、ホームレスに落ちて、そこら辺の公園で野垂れ死にする人間がうじゃうじゃいるじゃないか」
 「そういう状況で、人間らしい心なんて、ここ何年かで、すっかり捨てた。そうやって生きなきゃならなかったんだ」
 「運が悪けりゃ、人間として扱ってもらえない世の中にしたのは、誰なんだよ」
 殺された派遣労働者の被害者は、殺され死んでいく過程で、「貧乏の鎖は、オレで最後にしろ」と叫んだ・・・。
 上下2冊の大作ですが、一気に読みにふさわしい内容です。警察内部の葛藤と現代社会の構造的不正がうまくかみあっていて、読ませます。
 それにしても、人間を金儲けのための手段としてのモノとしか扱わない人材派遣業なんて最悪の存在ですよね。それで金もうけしている竹中ナントカという「学者」の品性下劣さは決して許せません。
(2016年1月刊。1400円+税)

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