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クラーク・アンド・ディヴィジョン

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 平原 直美 、 出版 小学館文庫
 1944年、シカゴの地下鉄駅で事故が発生。
 著者はアメリカで生まれ育った日系3世。1962年にカリフォルニアで生まれ、スタンフォード大学を卒業してロサンゼルスの大手日系新聞社に入社して記者として活動しはじめる。その後、作家活動に入った。ジャーナリストとして、そして小説家として、日系アメリカ人のリアルを追い続けている。
 アメリカに日本が戦争を仕掛けたあと、日系人は収容所に入れられた。ただし、アウシュヴィッツのような絶滅収容所ではなかったし、シベリアに抑留して強制労働させられたというものでもない。アメリカに対して忠誠心をもつと認められたら、収容所を出ることが認められた。ただし、西海岸に戻ることはできず、行き先はアメリカ政府(戦時転住局、WRA)が定める。
 アメリカ生まれ、アメリカ育ちのアメリカ市民、日本に行ったこともないのに、ルーツが日本だというだけで差別された。収容所を出るときの出所許可申請書には、「日本国天皇に対する忠誠を拒絶することを誓えるか?」という質問がある。
 そして、戦時下で強制収容所に入れられたのは日本人と日系人だけで、同じ敵国のドイツ系もイタリア系もそれまでどおりの生活を送ることができた。
 戦時下のアメリカで日系人がどんな苦労をしていたのかが手にとるように分かる描写が満載のミステリー小説でした。そして、どこの国も警察って、あてにならない、そしてあてにしてはいけない組織だということもよく分かります。
 袴田さんの再審無罪判決で、裁判所が警察官たちが証拠を捏造(ねつぞう)したとしか考えられないと認定したのに対して、検事総長は控訴断念の声明のなかで「残念無念」とばかり言って、まったく反省の色を示していません。こんな警察・検察だったら、今後も再び証拠捏造をやってしまうんだろうなと思わざるをえません。そのため、これまでたくさんの人が泣いてきたわけですが、これからも泣かされる人が続出するということですよね、残念です。
(2024年6月刊。1210円+税)

Z世代のアメリカ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 三牧 聖子 、 出版 NHK出版新書
 アメリカの大統領選挙の投票日も間近となりました。「もしトラ」が万が一にも実現したら、本当に世の中、お先、真っ暗ですよね。私からすると、トランプなんて、見かけ倒しのインチキ不動産ブローカーにしか思えないのですが、プアホワイトが熱狂的に信奉しているようですね、怖い現象です。
 さて、Z世代とは何か…。1997年から2012年のあいだに生まれた世代のことです。
 現在、アメリカの人口の2割を占めています。
 Z世代は、アメリカの強さよりも弱さを、その善なる部分より悪しき面を存分に見て育った世代。そして、戦争なんか、もうコリゴリという反戦感情を抱いている。
 アメリカによる「テロとの戦い」のために、過去20年間でアメリカが軍事作戦を展開した国は80ヶ国に及び、支出した費用は880兆円(8兆ドル)。そして、死亡した米兵は7千人。敵対する兵士や民間人を含む全世界の死者は90万人をこえる。
 トランプは、今後はただひたすら国益を追求する、「アメリカ第一」で行くと宣言した。トランプは、「例外主義」を放棄した大統領。
 Z世代は物心がついてから、ずっと、お金がものを言う政治を見せつけられてきた。
 アメリカの社会保障制度や政治システムに関して「誇りに思えない」と回答する割合が6割をこえている。これって、Z世代に限らない割合です。それもそうですよね。アメリカには国民皆保険制度が今もなく、それを主張すると、「アカ」呼ばわりされるのですから…。
 さしずめ、ヨーロッパはフランスもイギリスも、トランプからすると「アカ」の国になってしまうのです…。おかしな話です。
 「他国への軍事介入はアメリカをより安全にするか?」という問いに対して、「安全にならない」と回答した人が40%にのぼるとのこと。アメリカ人も良識のある人も少なくないのですね、ちょっぴり安心しました。
 ロシアのプーチン大統領にとって、トランプの主張するような、アメリカが「例外主義」を放棄して「アメリカ第一」を掲げて内向きになることは、周辺国に領土や勢力圏を拡張したいので、望ましいこと。だから、トランプはプーチンと仲が良いのですね。
 アメリカでは、上位10%の世帯が国の富の72%を保有し、下位90%の世帯は国全体の富の2%しか持たない。格差は広がり、ますます固定化している。
 トランプ大統領の下で司法の保守化がすすんだ。これは「永久保守革命」とも称される。
 2022年の中間選挙でZ世代の連邦議員が初めて誕生した。マクスウェル・フロストという。
 アメリカのZ世代の活躍ぶりを知ることができました。日本では、Z世代は団塊世代2世が該当するのでしょうか。アメリカに比べて少々、活力が感じられませんね…、残念です。でも、決してあきらめているわけではありません…。
(2023年7月刊。930円+税)

学校に行かない子どもが見ている世界

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 西野 博之 、 出版 KADOKAWA
 マンガとともに不登校の子どもたちの声、そしてその対応策がとても分かりやすく紹介されています。改めて大変勉強になりました。私自身は弁護士として子どもたちの不登校問題に関わったことはありませんが、青年から中年までの引きこもりの人は今も関わっていますので、とても身近な問題です。
 不登校の子どもが全国に30万人いるそうです。
 文科省は、「不登校児童生徒が悪いという根強い偏見を払拭(ふっしょく)」すべきだという通知を全国の都道府県教育長あてに出している(2016年)。文科省は、不登校は「誰にでも起こりうる」もので、「不登校を問題行動と判断してはならない」としている。
不登校の子どもたちは、心の中ではとても苦しんでいて、みんなが当たり前にできる「ふつう」のことが出来ないと自分を追い詰めている。
 日本では、15~39歳までの死因のトップは自死。これって、やはり異常ですよね。将来ある子どもたちを自死に追いやってはいけませんよね。日本の将来がなくなってしまいます。
 義務教育の9年間でいじめが一番多い学年は小学2年生。その次に小学3年生、小学1年生と続く。小学校低学年にいじめが多いって、大変ですね…、知りませんでした。
 学校に行けない子の多くは、自分でも理由が分かっていない。だから、原因探しはほどほどにして、まずは子どもをゆっくり休ませること。ふむふむ、そうなんですか…。
子どもが昼夜逆転の生活をしていても、過剰なまでに心配しないでいい。心を守るため、朝起きられない体を作っている。
 子どもが一日中ゲームをしているからといって、唯一の楽しみを奪ったり、無用に制限すると、家庭内暴力に走ったり、親と一切会話をしなくなったというのは、よくあること。
鈍感な子どもは、「ふつうに」学校に行ける。なので、「ふつう」とか「あたりまえ」のほうを疑ってみたほうがいい。
親が唯一してあげられることは、居心地のいい家をつくること。家が子どもにとって安心、安全で、居心地のよい居場所になれば、子どもの回復は早まる。
 子どもの動き出しの合図の一つは、「ひまだー」というコトバ。
世間体を気にしているうちは、子どもは動かない。関心を世間ではなく、子どもに向ける。
 日常の、子どもとの意味もないような、どうということのない会話が実は大切。
 「生きていれば十分」。心の底からそう思えたら、ゆっくりと何かが変わり始める。
親にストレスがたまれば、それだけで子どもに負荷がかかる。親がいきいき生きている姿を見ると、子どもは、自分は自分のままでいいんだと安心して、自己肯定感が養われる。
学校には無理して行く必要がない。それが常識になる社会にしたいものですね。そして、それは会社も同じこと。カローシ(過労死)するまで働く必要はまったくないのです。嫌なら、さっさと会社を辞めて、転身して生きのびましょう。
(2024年10月刊。1500円+税)

論究・新時代の弁護士

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 髙中 正彦 ・ 石田 京子 、 出版 弘文堂
 五大事務所の活躍ぶりは目覚ましいものがあります。直近の新人(76期)は五大事務所に合計250人が入所しています(1事務所50人です)。初任給は1000万円から1300万円だと聞いていますので、1事務所だけで少なくとも5億円の人件費増となるわけですが、それでも事務所財政がパンクしたという話は出ていません。恐るべき全額です。ちなみに、裁判官81人、検察官76人が新規任官者で、76期は総数1387人です。
長野・大野・常松は弁護士555人、総勢1000人。アンダーソン・毛利友常は弁護士620人、総勢1409人。西村あさひは弁護士682人、総勢1690人。森・濱田は弁護士596人、総勢1405人、TMIは弁護士575人、総1233人。いずれも、まさしく巨大企業です。
 2006年には、弁護士は長島・大野・常松が222人、森・濱田松本が209人、西村ときわ209人、アンダーソン・毛利・友常195人、あさひ狛157人、TMI102人だった。17年間で2~3倍に増えているのです。
五大事務所は他士業との連携もすすめています。司法書士、行政書士そして弁理士、税理士です。
 TMIは知的財産権を得意の専門分野の一つとしているので、弁理士92人のほか、特許技術者、特許・商標事務スタッフ122人を抱えています。TMIは毎週月曜日は朝9時半より朝礼をし、月曜日のランチタイムには全弁護士、弁理士が参加するミーティングをしているとのこと。すごいです。
企業内弁護士は3000人をこえた(2023年6月に3184人)。全弁護士の7.1%。10年前に比べて3倍増。地方公務員になった弁護士も200人に近い。
次は、地方会の例として高知弁護士会の状況。会員92人、うち女性は12人。入会者は少なく、10年間に5人しか増えていない。そして、当番弁護士や国選事件の登録弁護士が若手のなかで減っている。これは生来を考えると「危機的状況」にあるとのこと。
 九州でも、宮崎や長崎で同じような悩みをかかえていると聞いています。
 弁護士は1万7千人(2000年)から、4万5千人(2023年)の大幅に増加した。2050年には6万3千人になると予測されていて、フランス並みの対人口比を実現していることになる。
海外では見られないのが日本の弁護士会の特徴的なプロボノ活動。たしかに全国の弁護士会は各種プロボノ活動を身銭を切って活発に展開していますよね。これも弁護士の活動の一つだと思って私もやってきましたが、その点が少し薄れているようなのが残念です。
 とはいっても、依頼者との関係に悩む弁護士の割合が増えているとのこと。10年間に17%も増えていて、60期以降でみると、6割にのぼるというアンケート結果があります。
 他者に対する共感(エンパシー)が大切だけど、この共感は弊害ももたらすことがあり、注意も要するところです。弁護士も人間を相手にするだけに、なかなか大変なのです。
 本文730頁、定価は1万円をこすという、枕のような分厚い本です。タイトルに惹かれ、また綱紀・懲戒問題に関心がありましたので日弁連会館地下の書店で購入し、帰りの飛行機のなかで、乱高下する状況に耐え、不安を感じながら読み通しました。大変勉強になりました。
(2024年10月刊。13200円)
 いつものとおりよく晴れた文化の日に庭のイモ掘りをしてみました。全部ではなく、端のほうだけ試しに掘り上げたのです。昨年は庭の別なところでしたが、大きくならず失敗しました。別の場所で、うまくいくかと恐る恐る掘り上げてみると、立派な形の芋が地中から姿を現してくれました。ヤッター!と、つい叫んでしまいました。
 さて、味はどうでしょうか…。ちょっと甘さが足りませんでした。まあ、それでもイモの味はしました。

ザトウムシ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 鶴崎 展巨 、 出版 築地書館
 クモみたいだけど、クモではない、脚長の生き物。このザトウムシを高校生のころから50年ものながいあいだ研究しているという著者による本です。すごいですね、まったく見上げた執念ですよね。
ザトウムシは座頭虫。歩くとき、最長の第2脚を前方に伸ばして周囲を探るような姿勢をとる。その姿が、前方を杖で探りながら歩く姿に似ていることから、江戸時代にザトウムシと呼ばれるようになった。
 ザトウムシは、山地の森の中で、人知れず、ひっそりと生きている。
 ところが、手塚治虫のマンガ「きりひと讃歌」に出てくるし、野田サトルの「ゴールデンカムイ」にもザトウムシが非常に正確に描かれている。手塚治虫は昆虫好きでも有名でした。
 クモとザトウムシの違いは、2つ。クモは腹部と頭胸部とのあいだが細くくびれているが、ザトウムシはずんどう。そして、眼はザトウムシは2個なのに、クモは8個か6個の単眼をもっている。
ザトウムシの細い脚は、古生代の化石として登場するときも今と同じく細く長い。
ザトウムシは、1年に1世代。
ザトウムシは、小型の昆虫やクモ、陸見、ミミズを食べる。食性幅が広いので、クモと違って食べ物には困らない。
 クモは消化した液体しか取り込まないので、不消化物が少なく、ほとんど糞が出ない。ザトウムシの糞は、白いペレットとして肛門から排泄する。
 ザトウムシを飼育するときの餌(エサ)は、カロリーメイト、食パン、魚肉ソーセージ、チーズなど、どれもよく食べる。そして、水をよく飲む。
 オスとメスは向きあって交尾する。オスはメスに餌を提供して長い交尾時間を確保している。この餌を婚姻贈呈という。メスは平均で7個体のオスと交尾している。
 ザトウムシには、メスしか見つからず、産雌単為生殖種と考えられるものが多い。日本産のザトウムシの1割にあたる8種がそうである。
 ザトウムシでは、子を保護するのをオス(父親)もする。
 ザトウムシは、世界には6300種いて、日本には80種いる。
ザトウムシは、人を咬んだり刺したりすることはないので無害だけど、人の生活に目立つ益もない。ただし、森林害虫を捕食している。
蛇足ながら、著者の長男は、TBSテレビのクイズ番組で初代の「東大王」だったそうです。マニアックなところが似たのでしょうね、きっと…。
(2024年8月刊。2400円+税)

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