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小説 司法修習生

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  霧山 昴 、 出版  花伝社
 お待たせしました。このコーナーの著者が1年がかりで書きすすめていた司法修習生(26期)の前期修習生活がついに本となりました。
 いまの最高裁長官は親子二代、はじめて長官をつとめていますが、司法修習26期生です。その26期修習生の湯島にあった司法研修所での前期修習の4ヶ月間が日記のようにして話が展開していきます。
全国の学園闘争(紛争)を経てきていますので、修習生を迎えた司法研修所はかなり緊張して身構えていた気配です。それでも、その前年の「荒れる終了式」とは違って、平穏裡にスタートします。前年に「荒れた」というのは、まったくの嘘でした。司法研修所は、当日、異例なことにわざわざテレビカメラを導入するなど、謀略的です。
司法研修所では要件事実教育がなされます。白表紙というテキストによって、民事では準備書面や判決文、刑事では弁論要旨、論告そして判決文などを修習生が起案していきます。それを5人の教官が講評するのですが、その講評がシビアなのです。
 青法協会員裁判官の再任が拒否され、24期では裁判官への新任を希望したのに拒否された7人のうち6人が青法協会員でした。青法協に入っていたら、そんな不利益を受けるのです。
司法研修所の教官は任官や任検を必死で勧誘します。そして、青法協には入るなと、口を酸っぱくしてクギを刺すのです。したがって、青法協会員は、そう簡単なことでは増やすことが出来ません。任官希望者は、例外的な修習生をのぞいて、青法協には近寄ろうともしませんでした。それでも、会員のまま裁判官になり、裁判所で冷遇されていた人もいます。
 前期の終わりころに青法協の結成総会を迎えます。25期よりも少しだけ会員が増えるのが期待されていましたが、なかなか伸びませんでした。それでもなんとか、期待にこたえて少しだけ増勢となりました。
堂々440頁もある大部な本ですが、厚さの割には1800円(税は別)という安さなのです。ぜひとも買ってお読みください。そして友人にも教えてやってくださいな。売れないと、困ってしまう人が出るのです。なにとぞよろしくお願いします。
(2016年4月刊。1800円+税)

典獄と934人のメロス

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  坂本 敏夫 、 出版  講談社
 関東大震災のとき、横浜刑務所は文字どおり全壊しました。収容されていた1000人ほどの囚人はどうしたか・・・。
刑務所から凶悪な囚徒が脱走した。そして、混乱に乗じて各所で悪事をはたらいている。そんなうわさが飛びかったようです。
 朝鮮人が移動を起こしているという噂は官製の部分もありました。それに乗せられた自警団が各地で朝鮮人を虐殺するという悲しい出来事が相次ぎました。その極致が甘粕憲兵大尉たちの大杉栄一家虐殺事件です。本当に許せない蛮行でした。
 実際には、横浜刑務所の典獄(刑務所長)が、法律にもとづき、独自の判断で24時間の開放措置をとったのでした。そして、大半の囚人は指定されたとおり戻ってきたのです。都市機能が壊滅状態になっていたため、制限時間内に戻れなかった囚人もいましたが、それでも問題を起こしていたのはありません。それどころか、船で横浜港に届いた救援物資を港で荷揚げし、被災者に分配する作業に従事するなど、解放された囚人たちは救援復興活動に役立っていたのです。
 著者は、事実を丹念に掘り起こして、感動的な物語として語ります。ここには、まさしく『走れ、メロス』の世界があります。読んでいると自然に目頭が熱くなってきます。やはり、人間って、信用されると、その期待にこたえようと頑張るんですよね・・・。根っからの悪人なんてこの世にはいないと、つくづく思わせる本です。
 実際には、逃走した囚人はゼロだった。ところが、司法省は未帰還人員は240人と発表し、その数字は訂正されることがなかった。そして、受刑者を開放して帝都一帯を大混乱に陥れたとして、椎名通蔵・典獄はすっかり悪者にされて今日に至っている。
 この本の登場人物は、ほとんど実名。それだけ史実に忠実だという自信があるわけです。
 典獄とは監獄の長。今日の刑務所長のこと。横浜刑務所の典獄になった椎名は36歳。東京帝大出身。着任して、毎日2~3回、構内をくまなく巡回し、囚人たちの名前を覚えていった。囚人も典獄の巡回を楽しみにしていた。
 当時の給料は、看守は月30~70円、看守部長が月50~80円。看守長は月85~160円。典獄は年俸制で3100円。
 椎名典獄は、囚人に鎮と縄は必要なし。刑は応報・報復ではなく、教育であるべきで、その根底には信頼がなければならないと考え、実践してきた。
 関東大震災のときに日本人が何をしたのか、その一端を知ることが出来る本としても貴重な記録だと思いました。
(2015年12月刊。1600円+税)

戦場の掟

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  スティーヴ・ファイナル 、 出版  早川書房
 アメリカの若者が、はるかに離れたイラクなどで大勢が死んでいることを鋭く告発した本です。
アメリカの民間軍事会社では、リーダーになると日給600ドル(6万円)、月2万ドル(200万円)を稼いでいる。アメリカ兵は統一軍事裁判法の下で活動している。しかし、傭兵にはそういう規制をまったく受けない。世界で通用している法律が、この「傭兵」は適用されない。
イラクは軍事会社の戦争だった。傭兵ばかりではなく、管理人、コック、トラック運転手、爆弾処理の専門家もいた。2008年には推定19万人がイラクにいた。これはアメリカ軍の3万人をはるかに上回る。
イラク戦争の開始以来、民間企業に支払ったアメリカ政府の額は850億ドルに及ぶ。
アメリカ軍工兵隊は、6社以上、数千人の武装傭兵と契約し、580億ドルをかけて、復興しているイラクの工事現場の警備に派遣している。
傭兵の仕事は三つに分類できる。場所をまもる固定警備、個人警護そして、コンボイ護衛だ。なかでもコンボイ護衛は、死の罠である。動きの鈍い大型トラックのようなものは、待ち伏せ攻撃とIEDの格好のターゲットだ。
アメリカ軍は、工兵隊の復興工事を警備させるために、2社だけで550億円もつかった。
アメリカの前途あるはずの青年がまったく無意味に死んでいき、傷つき、自死に至っているという現実は、あまりに悲惨です。日本だってアベ首相の下で、いつ、そうならないとも限りません。そうならないためには、武力に頼る政治を早くやめることしかありません。
(2015年9月刊。900円+税)

吾が青春に悔あり

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者  菅野 孝明 、 出版  ふくしま平和のための戦争展実行委員会
 日本軍の兵営のなかで無意味かつ不合理な初年兵へのリンチなどが横行していたことを、絵と文章によって体験を通じて明らかにした貴重な記録集です。
 著者は大正10年(1921年)に福島で生まれ、20歳で受けた徴兵検査では兵隊には不適な丙種合格となりました。
そして、国民徴用令による強制動員で東京の電機工場で働いていました。
ところが、ついに1944年2月に招集令状が来て、朝鮮工兵隊にとられ、翌年(1945年)2月には東京は赤羽工兵隊に転属し、東京大空襲を経験します。復員できたのは、1945年の8月ではなく、同年10月でした。
 初年兵に対する理不尽な上官のリンチの数々はすさまじいものです。ともかく兵隊の命を粗末に扱う帝国軍ですから、もう滅茶苦茶です。牛肉とかセミとか名づけられた拷問に耐えるしかありませんでした。
ところが、いじめるばかりの上等兵を仕返しに闇討ちすることもあったようです。そして、軍内では演芸大会があり、芸達者な兵は、それが我が身を助けます。
ウヨクデーは、兵士たちによる最高のほめ言葉。サヨクデーは、最低という、さげすみの言葉。どこから来た言葉でしょうか。まさか、右翼とか左翼から来ている言葉じゃないでしょうね・・・。
あまりの辛さに脱走兵が出て、それを追いかけにも行きます。
ともかく、この本は、たくさんのイラストがありますので、どうしようもなく不合理な軍隊生活の様子がよく分ります。こんな社会に戻してはいけないと痛感するばかりでした。ぜひ、あなたも手にとってご一読ください。
(2016年1月刊。1800円+税)

性のタブーのない日本

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  橋本 治 、 出版  集英社新書
戦国時代に日本にやってきた宣教師は、日本人が好奇心の強いことに驚くと同時に、女性が強いこと、性風俗が開放的なことにもショックを受けていました。ルイズプイスの報告書に書かれています。
古代に「性交」のことを「まぐわう」と書いた。これは目交(まぐわう)であり、視線が合うこと。昔は、家族は別として、男女が顔を合わせることはなかった。だから、他人である男女が顔を合わせてしまったら、もうそこに「性交の合意」が出来てしまう。視線が合うと性交渉になる。 
近代以前の日本には、「おっぱい文化」がない。西洋は、古代ギリシャの女神像以来、オッパイ文化である。しかし、日本の彫刻の中心は仏像であり、仏様は女性ではないので、オッパイがない。江戸時代の日本では、浮世絵春画にも、大の男がオッパイにむしゃぶりつく図柄はまずない。それをするのは、子ども、幼児だけ。
オッパイがボンと出てお尻がバンと張っていると、「鳩胸出っ尻」(でっちり)と言われて、バカにされた。あまり体に凹凸(おうとつ)のない「柳腰」が良いとされていた。浮世絵師は、オッパイを描いても、乳首に色をつけなかった。乳輪も乳首も、肌と同じ白のままにした。
平安時代の貴族の娘は、自分名義の土地建物をもっている。不動産の相続は父から娘へされるのが当然のこと。反対に貴族の息子は相続できない。「住む家がほしけりゃ、自分で女のところに転がり込め」というのが、当時の「通い婚」の実態なので、いつまでも親の家に住んでいられない息子たちは、必死になって女との縁を求めた。結婚が成立したら、男は女の家に転がり込み、しゅうとである女の父から様々な援助を受けて、やがては女の邸を自分のものとし、これを女が生んだ娘に相続させた。
摂関政治の時代に価値があるのは、男ではなく、女だった。この日本は、昔から女が力をもっている国である。平安時代の前に、女帝は何人もいる。桓武天皇は、初めての男の天皇を父とする天皇だった。藤原道長の栄華を支え、摂関家に全盛をもたらした女たちが、今では次代の摂関家を担うはずの男たちの足をひっぱりはじめた。道長に栄華をもたらした、彼の遺産でもある娘たちは、摂関家の息子たちには大きなストレスとなった。競争相手に姉が加わって、頼通と教通の兄弟間の争いが激化するのは、当然のことだった。
日本の女性は、昔から、決しておとなしくなんかない。源頼朝夫人の北条政子。足利義政夫人の日野富子、徳川家康の乳母の春日局。この三人を「日本三大悪女」という。
「戦うのよ、進軍よ」と号令をかけた女性の天皇が二人いる。女帝があたりまえの時代、女性は権力闘争にすすんで参加していた。
私と同じ世代の著者ですが、さすがに学識が深いのに感服します。今や、全国の法律事務所の業務量の相当割合を不倫・男女間のトラブルが占めていると思います。性のタブーは、昔も今も、日本にはあって、ないようなものなんですよね。
(2015年11月刊。780円+税)

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