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裁判官、当職そこが知りたかったのです

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  岡口基一、中村真 、 出版  学陽書房
 弁護士のつっこみに裁判官がボケることなく、まともに応答していますので、なるほど、そうなのか…と、つい思うところが多々ありました。若手にかぎらず、ベテラン弁護士が読んでも面白く、役に立つ内容になっています。少なくとも買って読んで損をすることはありません。
 裁判官は忙しいので、訴状を読んでとりあえずの心証をとってしまう。裁判官は訴状の第一印象に、少なくともしばらくは拘束される。
たいした内容でもないのに、準備書面がやたら長いと、もうそれだけでダメ・・・。
 証拠説明書は重要。裁判官は、まず証拠説明書を読んでから証拠を見る。
当事者の陳述書は証拠価値はない。それは単なる尋問のためのツールでしかない。
証人尋問の前の練習しすぎもよくない、これは言わされているなと裁判官が思ってしまう。
 代理人に信頼されていない裁判官は、和解もなかなかできない。代理人とケンカしたら和解は無理。判決は書くのが大変なので、裁判官はできたら判決を書きたくない。和解のほうがいいのは裁判官の共通認識。
 昔は(15年前までは)裁判所内に飲みニケーション文化があり、ほとんど毎日のように飲み会があっていた。いまは、裁判官は孤独になっている。
上でひっくり返されないように意識するというのは裁判官全員の共通認識。
岡口判事は大分出身で行橋支部長もしていました。父親は牧師です。その「要件事実マニュアル」を私が利用するようになったのは、この数年のことです。それまでは若手弁護士が身近にいましたので、利用しなくてすみましたが、今はいませんので、必携です。そしてFB仲間として、その情報発信の恩恵を受けています。
(2018年1月刊。2600円+税)

社会の中の新たな弁護士・弁護士会の在り方

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  司法改革研究会 、 出版  商事法務
 司法改革について、失敗だったと単純に決めつける声が強くなっているようですが、それに関わった当事者の一人として、何事にもプラスとマイナスの面があるのですから、「政治改革」と称する最悪の改革に比べたら、司法改革はよほどましだと私は考えています。
「政治改革」って、結局のところ小選挙区制にしただけではありませんか。そして、この小選挙区制こそ、「アベ一強」という、まったく民意を反映しない、適正手続無視の狂暴政治をもたらした根源です。
その次の「郵政改革」だって、ひどいものでした。郵便局を民営化して、アメリカの資本が日本に入ってきて、身近な郵便局がなくなり、働く人はへとへとになるまで酷使されている現実があります。なんでも民営化すればいいっていうものではありません。国鉄民営化だって、もうけ本位でローカル線の切り捨てが進むばかりです。新幹線のホームに駅員が不在だなんて、恐ろしいばかりです。これでテロ対策を声高に言いつのるのですから、矛盾を感じます。
本題に戻ります。弁護士とは何か・・・。独立性、有用性、学識の3つが属性。他人のための奉仕を目ざし、金銭的報酬の多寡がその成功を測定する尺度とならない職業である。
弁護士の前身が代言人であることは周知のことですが、それは、江戸時代の公事師(くじし)の流れを引き継いでいること、江戸時代も明治初期も、今からすると想像を絶するほど裁判が多く、庶民にとって裁判は身近なものであり、公事師も代言人も、そのニーズにこたえていたこと、明治の代言人は自由民権運動において大活躍していたこと(この点は6頁で少し触れられていますが…)も紹介してほしかったと私は思いました。
弁護士法1条の制定をめぐって、三ヶ月章が根拠なき非難をしている(9頁)ことを知り、残念に思いました(23頁)。私は司法試験を受験するとき、民事訴訟法の基本書は三ヶ月章としていたからです(講義を受けたのは新堂幸司)。
弁護士の特質として在野精神というものがあげられます(33頁)が、では任期付公務員になったとき、また企業内弁護士にとっては、同じように通用するものでしょうか・・・。任期付公務員は、まだ200人ほどの弁護士しかいないようですが、私は、もっと多く10倍以上になってほしいと思います。少し前に国税不服審判所の担当官として弁護士が出てきて話が早くすすんで助かったことがありました。また、企業内弁護士のほうは既に1700人を突破しています。これまた、この2倍、3倍になっていいと思います。ただし、弁護士としての経験をせずにはいるのと、法廷にたったり、依頼者との打合せ・面談の苦労をせずに企業に入るのとでは、質が違うのではないかな・・・と心配はしています。その点、企業内弁護士がジレンマを抱えながら毎日仕事をしている(360頁)というのは、よく分かります。
中尾正信論文のなかに、戦前の弁護士のなかに「不良弁護士」「不正弁護士」「背任弁護士」として叩かれていたとありましたが、これは初めて知りました。弁護士が急増して弁護士の経済状況が一気に悪化し、事件屋と提携する弁護士が増えていたことまでは知っていましたが・・・。戦前には、警察官から弁護士なんかやめて正業につけと説諭されていたという涙の出るような話もありました。
私は明賀英樹論文にまったく同感です。つまり、中小企業の激減という社会構造の変化です。個人商店が立ちゆかず、商店街がシャッター通りになってしまい、小売・製造業が半減してしまったという現実は、中小企業に依拠してきた多くの弁護士の経済状態を悪化させてしまったのです。私の住む町にも、町の中心部と郊外に二つの大きなショッピングモールがあり、あとはコンビニ、ドラッグストアー、そしてコインランドリーだけになりつつあります。そうなると、家庭内の問題をめぐって法テラスを活用し、交通事故は物損をふくめてLAC(弁護士保険)を利用していくことになります。
現在、私のLAC案件は20件です。係争額は20万円からスタートします。過失割合が7対3か95対5かということで裁判にもち込むことが不思議ではありません。
法律事務所の大規模化は私も避けられない現象だと考えています。2009年に51人以上の法律事務所にいた弁護士が290人だったのが2015年には601人となり、101人以上だと1709人が2603人になったのは自然の成り行きだと思います。ただ、これが4万人になる弁護士総数に占める比率にかかわらず、弁護士会の役員に占める比重が多過ぎると、弁護士会の運営がギクシャクしてくるようになるのではないかと心配します。
各論のなかで取りあげてほしかったのは、弁護士報酬の問題です。タイムチャージをふくめて、独禁法違反と指摘されて弁護士会の報酬規準が撤廃されたあと、どのように運用されているのか、そこで何が問題になっているのか、大量のテレビ宣伝・チラシ広告の是非とあわせて究明すべき問題点があると思います。
いずれにせよ、400頁で研究成果をぎっしり詰め込んだ濃密な書物となっています。惜しむらくは、定価7000円とは、あまりに高額なので、手にとって読む弁護士はほとんどいないと思われるところです。その点だけが残念でした。
(2018年1月刊。7000円+税)

ルポ 不法移民

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  田中研之輔 、 出版  岩波新書
 この本は社会学を研究する日本人学者がカリフォルニア大学バークレー校で学ぶかたわら、2年間にわたって路上で中南米諸国からの出稼ぎ労働者とともに働いた経験をもとにしていますので、大変なリアリティーがあり、説得力があります。著者の勇気と行動力に敬意を表します。
 立ん坊をした道路は、危険地帯ではありません。ハースト通りは、白人の中流階級の人々が穏やかに暮らす住宅街にある。雇い主の生活水準が高いので賃金トラブルが少なく、また暴力に巻き込まれることも少ない。
 路上で立って仕事を得るにはコツがある。色の暗い作業服よりも黄色や赤、白色と言った目立つ服を着て、身ぎれいにしておく。そして、いち早く自動車の運転手とアイコンタクトをとる。英語を流暢に話せることも有利。
彼らは仕事をくださいとこびることはしない。プライドがある。時給15ドルを呈示する。
 路上で立って仕事を求めているのは正規滞在資格のない不法移民たち。職種は、引っ越しの手伝い、個人宅の庭掃除や屋根掃除、家具の配置換え、建設現場の補助、コンクリート粉砕作業、剪定作業、外壁の塗装、配管清掃など、誰でも問題なく作業できるもの。日雇い労働者の平均月収は3万円ほどでしかない。
 雇い主には一切の文句を言えない。雇い主を怒らせたら、すぐに警察に通報して、たとえば、民家の軒先をこわしていると通報する。すると、それがすべて事実となり、不法移民の声が取り上げられることはない。警察が駆けつけたら、刑務所行きはまちがいない。
黒人の二人組は要注意。仕事をさせてもお金を払わない。また、ストレス発散の対象として殴る蹴るの暴行を受けることがある。しかし、それにも耐える。警察の助けは呼ばない、呼べない。
 メキシコからの不法移民は多い。1993年以降、国境で3800人が亡くなっている。そのうち1000人は身元確認できず、墓標のない墓に埋葬されている。
 メキシコで麻薬を売ってコヨーテ(密入国を手助けする案内人)に3500ドル(40万円)をつくり、アメリカに入ってきた。メキシコの最低賃金は1日430円、アメリカでは時給15ドル(1680円)というように決定的な経済格差がある。
 何をしたって、何があっても生きないと意味がない。
これは、メキシコで麻薬を密売していた不法移民のコトバ。ギャング同士の抗争で命を落としたくなかったので、アメリカにやってきた。
 グアテマラの刑務所。ここではなかで働けるし、毎週土曜日には売春婦をよんで刑務所内でセックスができる。毎月第2週の土曜日には刑務所内でダンスパーティーが開かれる。
 不法移民の半数はメキシコ出身で585万人。エルサルバドル70万人、グアテマラ53万人、ホンジュラス35万人。このほか、インド50万人、中国33万人も正規滞在資格をもたず(ビザの有効期限をこえて)アメリカで暮らしている。
 不法移民は、地元住民から罵られ、そこにたたずむことも許されず、警察に通報される。
出稼ぎに来た労働者の9割が何らかの罪で現行犯逮捕され、刑務所に入った経験がある。職歴は増えず、犯罪歴だけが増えていく。
 カリフォルニア州には270万人の不法移民が居住している。男性53%、女性47%。不法移民の66%が10年以上、アメリカで暮らしている。
 アメリカは「移民の国」だ。滞在資格をもつ正規移民と、滞在資格をもたない非正規移民の二つからなる移民国家だ。どちらの移民もアメリカを支えている。
 アメリカでは200万人もの刑務所人口がある。世界第一の経済大国アメリカで第三の巨大産業として懲罰産業が拡大成長を続けている。カリフォルニア州では、5年間に9つの監獄が新設された。監獄建設の急増は、監獄が不況の影響を受けにくく、公害も出さない新たな産業だから。
 懲罰産業複合体とは、監獄関係者、多国籍企業、巨大メディア、看守組合、議会・裁判所が相互に共生関係にある複合体だ。アメリカの厳罰化はこのような懲罰産業の拡大に役立っているというわけです。
 アメリカの底辺の生々しい実態をつぶさに実験した思いをさせてくれる貴重なレポートです。ぜひ、ご一読ください。
(2017年11月刊。820円+税)

ブラックボックス

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  伊藤 詩織 、 出版  文芸春秋
 準強姦罪で逮捕される寸前までいっていたのに、警視庁の刑事部長が待ったをかけて、容疑者は今ものうのうとしている。そして容疑者もストップをかけた警察トップもアベのお友だちというのですから、日本の政治の歪みは、ここまでひどいのかと暗たんたる気持ちに襲われます。
容疑者はTBSのワシントン支局長だった山口敬之(当然、呼び捨てです。ちなみに、夏目漱石のような歴史上の著名人物も呼び捨てにしますが、もう一つは軽蔑するしかない人間です)。トップ警察官は中村格。菅官房長官の秘書官だったこともあるキャリア組の警察官で、出世頭の一人です。警察庁長官を目ざしているとのこと。
 中村格は刑事部長として、逮捕は必要ないと決裁した。捜査の中止も当然の指揮だとマスコミに開き直って答えたとのことですから、恐れいります。いつも、この調子で警察が被疑者の人権を考慮してくれているのであれば、弁護士としてありがたい限りなのですが、日々の現実は、まったく逆でしかありません。
 事件の本筋からははずれますが、著者の勇気には驚嘆するばかりです。高校生のとき、アメリカはカンザス州でホームステイしていたときにホストマザーに言われた忠告は次のようなものだった。
「銃で脅されても車に乗ったらダメ。そこで撃たれても逃げて。車に乗ったら最後、誰もあなたを探せない。そこに血を残しておいたら、それが手がかりになる」
 いやあ、怖いですね。アメリカの母親って娘たちにこんなことを言い聞かせるのですね。本当に恐ろしい国です。ぞっとします。
 デートレイプドラッグというのをこの本を読んで私は初めて知りました。アルコールを大量に飲ませて強姦したり、睡眠薬をつかってのレイプ事件というのは知っていましたが、それとは別の薬物があるのですね。
薬を飲んだあとの一定期間、記憶が断片的になったり完全になくなったりする「前向健忘」の作用がある。
本件では、北村滋という内閣情報官という重要人物が登場します。容疑者の山口が相談していた相手です。もちろん「アベ友」の一人です。日本の警察は本当に根本から腐っているとしか言いようがありません。
いま私は被疑者の国選弁護人として毎日のように警察署に面会へ出かけています。現場の警察官のほとんどは真面目に職務を遂行していると思いますし、そう期待していますが、トップがこんなに腐っていたら、佐川国税庁長官の下で働く税務署員と同じで、やり切れないことだと同情せざるをえません。
それにしても勇気ある告発書です。引き続きジャーナリストとして検討されることを心より願います。あなたも、著者を応援するつもりで、本書を買って読んでみてください。
(2017年10月刊。1400円+税)

新・税金裁判ものがたり

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  関戸一考・関戸京子 、 出版  メディアランド
私は税務署と長くたたかってきましたが、実は税務訴訟を担当したのは残念ながらそれほど多くありません。本当は、たくさんの納税者が無理・無法な課税処分に泣かされていると思います。しかし、税務署とたたかうには、本人に強烈な怒りを持続させることが必要ですし、取引先に恵まれないといけません。
税務署は反面調査と称して取引先に嫌がらせをしますし、本人への報復措置を平気でとってきます。これらを乗りこえるだけの怒りとそれを支える体制が必要なのです。この本の著者も本人に十分な怒りがあることを第一にあげていますが、まったく同感です。
著者は30数年間にわたって税金裁判を専門としてやってきました。かつては労働弁護士だったのが、今では税金弁護士へ変身したのです。その豊富な税金裁判の経験をふまえていますので、とても実践的な手引書です。
税金裁判で対峙することになる税務署(国)側の代理人は、実は裁判官が出向してきている人が多い。そして、彼らは全国的な検討会を定期的に開いている。だから、税務署とたたかって勝つためには、納税者の側も集団的議論をして検討・対応しなければいけない。税理士と共同し、学者や裁判官出身の弁護士と共同戦線を組むということが必要なのです。
とても信じられないことですが、税務署は関係書類を閲覧させても謄写は許さないという時代がごく最近までありました。法律の根拠がないというのが、その口実でした。自らは納税者の書類をさっさとコピーしたりするのに、自分はコピーを拒否してきたのです。つい最近、ようやくコピーをとるのか法改正で認められました。
また、審査請求のとき、課税庁に直接質問できるようにもなりました。私のときには一方的に主張するだけでした。税務署のなかには「納税者の権利」だなんて…と、せせら笑う人たちがいます。その典型で世間に顔を出さない佐川・国税庁長官です。
税務訴訟に至るまでの手続の流れが具体的に解説してあり、とてもイメージをつかみやすいと思います。そして、単に手続きの流れだけでなく、扱った事件でどんな苦労をしたのか、どんな成果をあげたのかも要領よく紹介されています。
たとえば、認知症の母から贈与契約について税務署が課税してきたのに対して、その無効を主張して、支払った贈与税を取り戻したというのです。すごいですね、この発想は・・・。物納許可がなかなかおりないうちに不動産の価額が上昇し、10年以上もたったあいだの未払金(延滞金をふくむ)の処理をどうしたらよいのかを争った件は、私の想定をこえる話でした。
推計課税の争い方にしても、税務署が他の人の青色申告書をなかなか開示しないのを開示させた例も紹介されていて、本当に明日からの実践に役立つことの多い本です。税金訴訟に関心のある人には必読文献です。
シャモニーなどの登山・トレッキング・ロッククライミングの写真が巻末にあるので、これには癒されます。やはり多忙のなかにも休息は必要です。
(2017年2月刊。3500円+税)

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