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刑務所ごはん

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 汪楠、ほんにかえるプロジェクト、 出版 K&Bパブリッシャーズ
 私は福岡刑務所の食事を2回、大牟田拘置支所の食事も2回、食べたことがあります。どちらも出来たてのもので、大変美味しくいただきました。前者は弁護士会としての見学。後者は挨拶に行ったら、偶々、支所長が味見するという時間でしたので、支所長の分を少し分けてもらったのです。
 福岡刑務所では、刑務官から、受刑者の楽しみは食べることくらいですので、乏しい食材費の制約のなか一生けん命に美味しいものをつくるように努力していますとの説明があり、納得したものでした。食材費の安さを多人数でなんとかカバーしているとのことでした。いずれも20年以上も前の話です。
 ところが、今はまったく事情が異なるようです。先日、久しぶりに被告人国選を受任して拘置所で面会したとき、食事の話になりました。すると、なんと今はコンビニ弁当になっていて、しかも2種類を繰り返すだけだというのです。収容者が減ったことからのようですが、2種類しかないというのでは、本当に辛いと思います。留置場も同じようです。コンビニ弁当が繰り返されると聞きました。
 著者は、受刑者の更生を支援する目的のボランティア団体であり、個人のほうの汪楠(わんなん)は中国残留孤児2世で、13年もの受刑生活のあと、出所して2015年に設立した団体。会員は全国30ヶ所の刑務所にいる200人の受刑者で、うち女性は4人のみ。無期懲役の人が多い。
 この本によると、「犯罪白書」に、受刑者1人あたりの食費は543.21円(主食97.09円、副食446.12円)。10年前(2013年)と比べると10.38円の増額(2%増)とのこと。食材が20%以上も値上がりしているので、食事の質の低下を招いている。また、受刑者の高齢化を反映して、減塩化がすすんでいるそうです。
 20年前の食事は味付けもしっかりしていて、量も多く、料理のバリエーションも豊富で、満足感が味わえた。しかし、今ではそれが失われた。今では生の野菜や果物を食べることがない。夕食は夕方5時前に食べ、その後の夜は長く、空腹感に襲われる。
 主食は「麦(ばく)しゃり」と呼ばれる。米7麦3の割合のもの。米といっても保存期間の過ぎた備蓄米。受刑者に好評なのはカレー。味があるから。ただし、肉の塊(かたまり)が出てくることはなく、小さな肉片のみ。昼に麺が出てくるけど、のびていて、汁も冷めている。アツアツのラーメンを、フーフーしながら食べたいと受刑者は願っている。
 刑務所の食事は健康的で、糖尿病になる心配はない。クリスマスや大みそか、そして正月は特別な料理が出てくる。市販のお菓子も添えられる。受刑者にとって、お菓子が食べられるのは、とてもうれしいこと。
更生に必要なのは、社会との和解。反省は一人でも出来るが、更生は一人では出来ない。まったくそのとおりだと思います。人間らしく扱われない限り、その人は社会に恨みを抱いたままでしょう。
会員から寄せられた声をもとにして食事の再現写真があり、イメージを具体的につかむことができました。そうか、刑務所の食事は、まずくなってしまったのか…。世の中は変わった(悪いほうに…)と思いました。
(2024年11月刊。1980円)

米軍機の低空飛行を止める

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 大野 智久 、 出版 新日本出版社
 日本の空をアメリカ軍の飛行機が好き勝手に飛んでいて、現に甚大な被害が出ているというのに、日本政府も「愛国」勢力もアメリカに文句ひとつ言わない、言えないというのは実に情けないことです。
アメリカ軍の低飛行訓練は、航空法の最低安全高度をまったく無視しています。日本の航空法は、市街地の上空は300メートル、人の少ない場所で150メートルを最低安全高度と定めている。ところが、アメリカ軍は、これをまったく無視している。
 中国山地では「ブラウンルート」と呼ばれる訓練ルートそして「エリア567」という訓練空域があり、低空飛行訓練をするときの音や衝撃波はすさまじい。子どもたちは泣き出し、窓ガラスは破れ、果ては土蔵が倒壊するほど。
 低高度飛行訓練は、相手国の領土内に、レーダーに見つからないように侵入して、目的を衝撃するためのもの。つまり侵略目的のもの。「専守防衛」というものではない。
 騒音は70デシベル以上を1600回も浜田市などで記録した。これは「騒がしい街頭」に相当する。パチンコ店内に相当する、90デシベルも記録されている。
 そして、これらのアメリカ軍の飛行訓練は何の予告もなしにやられる。突然の大騒音と衝撃波が学校や保育園そして民家を襲う。まるで戦争が始まったのかと、人々は慌ててテレビやラジオに耳を傾ける。
 日本の航空自衛隊のほうは陸地上空での戦闘訓練はしていない。その空域をアメリカ軍機が利用している。
 全国知事会は、こんなアメリカ軍の低空飛行訓練を問題として、国に改善を求めている。
 ところが、自民党は「低空飛行は在日米軍の不可欠な訓練」だとしてアメリカ軍の無法訓練を容認しているのです。ひどいものです。日本人の安全・健康なんてどうでもいいという考えです。許せません。
この本が画期的で圧巻だというのは、アメリカ軍機を撮った動画や写真から、高度やコースを割り出す手法を詳細に解説しているところです。そこには中学・高校の数学で学んだ三角関数・コサインやタンジェントが出てきます。私は昔、高校で理数系クラスにいて数学Ⅲまで履修したのですが、今やまったく忘却の彼方にあります。
 ともかく、その写真等を手がかりとして、見事に飛行コースと高度を推認していくのですから、すごいものです。東京では、都庁東にある新宿三井ビルから87メートルほどしかない高度をアメリカのヘリコプターが飛んでいました。
 高知県ではダムの上240メートル上空をアメリカ軍の大型輸送機2機が飛んでいた。
奄美大島では高度100メートル以下をアメリカ軍輸送機が飛んでいた。
 青森県の小川原湖の上をオスプレイが41メートルの高度で飛んでいた。
 ひどい、ひどすぎます。これで日本は独立国と言えるんでしょうか…。トランプにゴマすりしてもダメなんです。はっきり抗議して、止めさせなくてはいけません。
怒りがふつふつと湧き上がってくる本でした。
(2024年12月刊。1900円+税)

中学生の声を聴いて主権者を育てる

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 佐々木 孝夫 、 出版 高文研
 とてもいい本に出会いました。中学生が社会にしっかり向きあっている教育実践のレポートです。この本を読むと、日本の中学生も捨てたもんじゃないんだな…、ついついうれしくなりました。やはり、大人の側にこそ問題があるのです。大胆に働きかけていくと、必ず中学生はこたえてくれるのですよね…。
 たとえば、模擬投票です。架空の政党をつくってやるのではなく、実際の政党の公約をもとに中学生でディベートをして、投票してみるのです。開票するのは、本当の選挙の開票のあとにします。そうすれば何ら問題はありません。中学生たちは自分の選んだ政党がどうなったか、現実に関わって比較し、考えることができます。きっと、選挙と投票が身近なものに感じられるでしょう。
また、市長に手紙を出し、その反応をみる。返事が来たら、それをみんなで検討する。そして可能なら、市長に代わる人に学校に来てもらって話を聞き、質疑応答する。
 外国の大使館と交流するというのも関東近辺だからできるのでしょう。大使館や公使館にも代表が出かけていって話を聞いてくる。また、中学校に大使館の人に来てもらって、質疑応答する。ちょっとした国際交流ですよね。こんな機会があったら、ヘイトスピーチなんて、とんでもないことだと中学生は実感すると思います。
 著者は早稲田大学法学部を卒業していますが、学生時代は学生セツルメント運動に没頭したそうです。私も学生セツルメント運動に3年近く、どっぷり浸っていましたので、この経歴を知ってとてもうれしくなりました。今は見かけないセツルメントですが、社会への目を大きく開かされました。
 「本当」の模擬投票では、中学生たちがアンケートを送ったところ、6つの政党から返事が返ってきたのでした。みんな喜びました。すると、中学生たちはどう考えたか…。
 「自分も国を変える一人だという責任を知りました。政党によって考えや方針が異なっていて、日本が投票によって大きく変われることが分かったからです」
 「今の政府に文句がある人もない人も、政党の考えをしっかり知って、自分の手で政治を動かすべきだと思いました」
 どうですか、これだと何も「偏向」した政治教育だと文句をつけられないでしょう。こんなホンモノの模擬投票を全国の中学校でやったら、日本も大きく変わると思います。
 各国の駐日大使館に手紙を送ったところ、まずドイツ大使館から返事が来た。そこで、中学生の代表7人がドイツ大使館に出かけて話を聞いたのです。脱原発の取り組み、難民・移民に関する政策などを質問すると、しっかり回答してもらいました。
 その前、ガーナ大使館とも交流しています。ガーナ大使が中学校までやってきて、中学生の質問に答えたのです(同時通訳)。カカオがチョコレートになるとき、児童労働があるというテレビ報道にもとづく質問にも答えてもらいました。
 ほかにも、コスタリカ、韓国などの大使館とも交流しています。まさしく国際的です。こんな意欲あふれる教師のもとで学べる中学生は本当に幸せだと思いました。
 市長への手紙を出したときには、市長からのメッセージが中学校に届いたとのことです。そうなんです。中学生だって、市に対して要求したいことはたくさんあるんです。エアコンを全教室に設置する、きれいな洋式トイレにしてほしい。スポーツ施設を充実してほしい、給食費を無料にしてほしいなどなど…。
 それぞれの部署から回答が来ました。無視はされなかったわけです。
 主権者教育というのは、こうやるものだということを教えられました。残念なことに、著者は現役の教員を退職させています。でも、こうやって実践記録としてまとめられたわけですので、心より敬意を表します。多くの人にぜひ読んでほしい元気の出る教育実践です。
(2024年11月刊。2200円)

ヘビ学

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ジャパン・スネークセンター 、 出版 小学館新書
 わが家の庭にはヘビが長く棲みついています。40年ほども前、1回だけ怖さのあまり殺してしまったことがありますが、深く反省して、その後は決して殺さないようにしています。ただ、ばったり遭遇しないようには心がけています。モグラがいますし、ミミズもいます。庭の隅にヘビの抜け殻を見たことは何回かありますし、赤と黒のブチの小さなヘビの死骸もころがっていました。この本のグラビア写真にあるヤマカガシです。ヤマカガシは毒ヘビです。ただ、その毒には血管や組織を壊す作用はなく、痛みや腫れも起こさない。ただし、強力な血液凝固作用を示し、血管内で血液を凝固させて血栓をつくってしまう。ヤマカガシに咬まれて、ある時間が経過しても、血管内に抗毒素を投与すれば、毒は短時間で中和されていく。
 ニホンマムシの毒には筋肉細胞を壊す作用がある。また、その毒には少量ながら神経毒が含まれる。マムシに咬まれる人は年3000人ほどいて、死ぬ人が毎年、数人はいる。抗毒素が適切に使われていないことによる。
 ハブに咬まれる人は年に70人ほどで、減少傾向にある。
 全世界でヘビは4100種いて、日本には、そのうち43種しかいない。島国ニッポンは、ヘビの数では小国だけど、独自の進化を遂げた「ヘビ独立国」。
アオダイショウは木に登るのが得意。なるほど、わが家の木のてっぺんにヒヨドリが巣をつくっていたとき、ヘビがするすると木をのぼっていくのを見かけました。どうして、地上を這うヘビが3メートルほどの高さの小鳥の巣を発見できたのか、今もって不思議でなりません。
ヘビの眼には「まぶた」がなく、目を閉じることが出来ない。その代わり、「アイキャップ」という、眼球を保護する膜があり、眼球の乾燥を防ぐことができる。
 ヘビの交尾は、1~3時間と長いとのことですが、私も庭で2匹のヘビがからまっているのを見たことがあります。そのときは怖いので、竿(さお)で叩いてしまいました。今となっては悪いことをしてしまったと、これまた反省しています。
 ヘビは1ヶ月くらいなら、何も食べなくても生きていける。ハブだと2~3ヶ月はもつし、水分さえあれば、半年から最長2年まで生存が可能。いやあ、これはすごいですね…。
ヘビの寿命は10~20年。ところが、大型のニシキヘビだと30~40年生きる個体がいる。
 ヘビは省エネで、捕食できる条件を待つというのが生き方の基本。つまり、待ち伏せ作戦を基本とする。
ヘビは変温動物なので、自ら熱を生み出す必要がない。そのため基礎代謝量は低め。ヘビは鼻だけでなく、舌でも匂いを嗅いでいる。なので、舌をチョロチョロさせる。
 ヘビは人間に懐(なつ)かない動物。ヘビは、どんなに慣らしても触られて喜ぶことはない。他者に対する関心が薄い。ヘビの思考は3パターン。エサとして食えるか、敵か、繁殖の対象か。どれにも当てはまらないものには無関心。ヘビはまったく賢くない。
 ヘビを飼っている女性が相談に来たことがあります。エサは冷凍ネズミだそうです。アパートの大家さんから明渡を求められているという相談だったと思います。うひゃあ、これは難問ですよね。たまに大型ヘビがアパートから逃げ出して、大騒動になることがありますからね…。いくら個人の性向・趣味だといっても、厳重に管理してほしいものです。
 ヘビのことが少し分かりました。
(2024年12月刊。1050円+税)

世界の果てまで行って喰う

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 石田 ゆうすけ 、 出版 新潮社
 地球三周の自転車旅というサブタイトルがついています。そして、オビには「衣食住の一切を自転車に鬼積みして、スマホを持たず旅をする。ペダルをこいで極限まで空かせた腹にメシと旅情が流れ込む!」とあります。
 前に『行かずに死ねるか!』という本を出しているそうです(私は読んでいません)。サラリーマンを辞め、自転車で7年半ぶっ通しで世界をまわって書いたとのこと。その本が売れたおかげで、文章だけで三食、ご飯と納豆なら食べていける目算が立ったので、それからは専業のモノカキだそうです。いやあ、同じくモノカキを自称する私には、うらやましい限りです。
 自転車の旅は「線の旅」になる。その国の素顔に会え、素の人とたくさん触れあえる。体ひとつでその世界に飛び込み、自分の足でゆっくり進むことで、景色を全身で味わい、異国の空気やにおいを体中で吸い込める。旅が色濃く記憶に刻まれる。
 自転車は運動効率がいいので、カロリーも効率よく消費され、体中のエネルギーが根こそぎもっていかれて腹が減る。食べ物が目の前に来ると、我を忘れ、無我夢中で喰う。食欲と感受性がむき出しになり、味が良ければ、泣きそうになる。
 著者はそれほどお腹が強いわけではないとのことですが、現地で生水(なまみず)も飲むそうです。生水を飲むか飲まないかの指標は、地元の人。地元の人が飲んでいたら飲む。現地に長くいたら身体が順応し、胃腸も慣れるとのこと。いやあ、私はまったく自信がありません。カキ氷とかコップに製氷器でつくった氷のカケラが入っているジュースも飲むのを遠慮します。
メキシコでは現地の人も生水は飲んでいなかったので、コーラやビールを飲んでいた。
 インドではナンはあまり食べていない。インドの大衆食堂で食べられているのはチャパティ。ナンを日常的に食べているのはパキスタン。
 インスタントラーメンは、世界の隅々にまである。アフリカや南米の僻地(へきち)にもあった。
ウズベキスタンの砂漠の中の小さな町のボロい食堂でうどんに出会った。スープには肉、ジャガイモ、トマトなどが入っていて、シチューと肉じゃがの中間のような味がする。麺は太めで、短くて不揃い。表面は少しぼそぼそしているが、中心にもっちりとした食感があり、スープとよく絡んでいる。ズルズルとすすると、やっぱりうどんだ。うどんを食べながら生きて帰ってきたという実感に浸った。
 キューバの田舎町の路上でフェスティバルが開かれていた。子豚の丸焼きが焼かれている。それを注文すると、丸焼きを削いだ肉、ご飯、芋、サラダが皿に山盛り。これが30ペソ。外国人用だと3600円になるが、国民用の人民ペソだと、なんと日本円にして150円。これはいくらなんでも安過ぎだろ…。
著者は世界中をまわって、日本に帰ってから、日々の一番のご馳走は、なんとなんと、みずみずしいサラダ。キャベツ、レタス、にんじん、玉ねぎ、セロリ、ルッコラ、春菊、パプリカ…。朝晩、欠かさない。
 そうなんですね。南極の越冬隊員にとっても生のキャベツが食事に出てくると、基地中が沸くそうです。たしかに、私も昼食に生野菜サラダをよく食べます。マヨネーズ、ドレッシングをかけると最高なんですよね…。
 世界中を自転車で走ってまわるって、若いときにしかやれませんよね。すばらしい体験です。私は、こうやって本を読んで追体験して楽しむのでいいと考えています。
(2024年10月刊。1760円)

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