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弁護士のしごと

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 永尾 広久 、 出版  しらぬひ新書
著者は25歳で弁護士になって今、71歳ですから、弁護士生活も46年間となりました。
これまで取り扱ってきた事件のうち印象に残ったものを少しずつ文章化していて、本書は読みもの編の第一弾です。
本書のトップは、勝共連合・統一協会による霊感商法でだまされた人のケースです。
主婦が32万円という高額なハンコを買わされ、600万円もの多宝塔を購入させられたのは、長男が短命で終わるとのご託宣によって心配させられ、それを回避するための行動でした。著者は洗脳の場になっているビデオセンターに乗り込み、パトカー2台が出動する騒動を起こしながらも、600万円全額を取り戻すことに成功したのでした。裁判所を待たずに弁護士も直接折衝することがあるというケースです。
二つ目のケースは、子どもの引き取りをめぐる争いです、裁判所の命令によって子どもを手放さなくてはいけない状況を打破するため不利を悟った相手方がテレビ局に駆け込んだ。ワイドショーのスタッフが東京から飛んできた。だまし打ちにあって田圃道でテレビ・カメラの皓々たるライトを浴びながら、世の中には理不尽なことも多いと実感させられた。それでも、なんとか人身保護命令の手続きのなかで、3歳の子どもを無事に取り戻すことができた。いやはやテレビ番組は怖いものです。
100万円の恐喝事件では、32回の公判を重ねて「被害者」の証言は信用できないとして、無罪判決が出て、そのまま確定した。ところが、被告人となった一人が民事で損害賠償を「被害者」に請求すると、裁判官は言語道断の請求だと決めつけて請求を棄却してしまった。
最後は、地場スーパーの倒産にともなう整理手続を裁判所の手を借りずに遂行した経緯が紹介されています。裁判所の破産手続を利用すると、手続費用(実は管財人費用)が高額なうえ、業者説明会がすぐにやれないとか、主導的に進行させられない。そこで任意清算手続で乗り切ったというケースです。
弁護士は何をしているのか、弁護士って役に立つものなのか、実例をふまえて、プライバシー保護に留意しつつ具体的に明らかにしている新書です。
いま、大学進学を希望する高校生のなかでは法学部より経済学部が人気であり、司法界の人気も低下しているといいます。とても残念なことです。地方にも人権課題はたくさんあり、それに取り組むのは人生を充実させるうえで、とてもいいことだと思います。この新書を読んで弁護士を志望する人が増えてくれることを願っています。
ですから大学生や高校生などに広く読まれてほしいものです。新書版200頁。
(2019年12月刊。500円(悪税こみ))

ドイツ軍事史、その虚像と実像

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 大木 毅 、 出版  作品社
『独ソ戦』の著者によるドイツ軍事史ですから、面白くないはずがありません。
従来の定説が次から次に覆されていく様子は小気味よく、痛快でもあります。
たとえば、日本軍による真珠湾攻撃について、ルーズベルト大統領はあらかじめ承知しておきながら、世界戦略に展開上、あえてこれをやらせたという陰謀論がある。同じように、スターリンもドイツ侵略を準備していたので、ヒトラーはそれに一歩先んじただけのこと・・・という古くて新しい主張がなされている。しかし、いずれも歴史的事実としては成り立たない。
1943年7月のプロホロフカの大戦車戦なるものの実体は・・・。
ドイツ側の装甲勢力は戦車、突撃砲、自走砲をあわせて204両だった。これに対してソ連側は850両の戦車と自走砲を保有していて、プロホロフカ戦区だけでも500両の戦車を投入してきた。しかし、結局のところ、ソ連軍の大戦車隊は大敗を喫した。
ソ連軍は、350両もの戦車と自走砲を破壊された。つまり、ソ連軍はプロホロフカで大敗北し、ドイツ軍は大勝利をおさめていた。
1944年冬、ドイツ本国にあった兵站部隊と後方勤務部隊は、保持していた小銃と拳銃の半分を前線部隊に引き渡していた。残りの半分は、1944年春、同じく手放すことになった。
ドイツの生産能力は、前線と後方の需要を同時にみたすことができる状態ではなかった。
1944年3月、ドイツの国内予備軍はなお1100両の戦車と突撃砲を有していたが、実にその半分が旧式化したⅢ号戦車、あるいは、その改造型だった。
1945年5月、アメリカ軍の捕虜となったドイツ軍10万人の将兵のうち、40%は何の武器ももっていなかった。
1944年以降、ドイツ軍は指揮官の未熟さによる失敗が目立った。というのもベテランの指揮官たちが倒れ、捕虜になっていくなかで、十分な訓練を受けていない経験不足の士官たちが占めた。
ヒトラーは、ベルリンでは虚勢を張り続けていた。そして、ヒトラーに自分の忠誠と勇猛ぶりを誇示する演技だった。
ドイツの敗戦後、アメリカ軍の捕虜となったドイツ兵たちの会話は、すべて録音されていた・・・。
1944年10月、宣伝大臣ゲッペルスは国民突撃隊創設に関するヒトラーの指令を公表した。このころ、600万人もの国民突撃隊を十分に武装させるのは不可能だった。ドイツ国防軍は既存部隊の維持で精一杯だったので、国民突撃隊は、猟銃やスポーツ用の鋭い旧式の小銃で武装するしかなかった。弾薬も不足していて、1人あたり5~10発の弾丸しか与えられない部隊すらあった。また、軍服も用意できなく、腕章をつけて軍服に代えた。
こうやって戦場に投入された国民突撃隊の末路は悲惨で、17万5000人が行方不明となった。
ドイツでは占領地で、パルチザン活動をすべく「人狼」部隊を創設しようとした。しかし、戦争に疲れ、犠牲につぐ犠牲を強いられたドイツ国民は、フランスやロシアとちがい、「侵略者」に抵抗する気運はなかった。抵抗運動としての「人狼」は、活動の基盤を失い、それを支えるはずだった親衛隊の「人狼」部隊は、消え去った。
現実には、ドイツ軍の大多数は、勝利の見込みなどかけらもないまま、奇跡なき戦場に投入され、非情な戦死のままに消滅していった。
ナチス・ドイツ支配下のドイツ国防軍の実態がよく分かる本です。よく調べてあるのには驚嘆するほかありません。
(2017年4月刊。2800円+税)

男はつらいよ お帰り寅さん

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 山田 洋次 、 出版  松竹株式会社
私は大学生のときから「男はつらいよ」を見はじめ、その全部ではありませんが、ほとんどみています。「男はつらいよ」第1作が劇場公開されたのは1969年8月27日。しかし、私の記憶では東大本郷の五月祭(ごがつさい)で先行上映されたという記憶です(間違っているのかもしれません)。
1969年1月に東大本郷では派手派手しい安田講堂攻防戦があり、3月に授業再開し、5月ころ本郷に進学したて、まだ学生の気分がすさんでいたところに笑いで吹き飛ばす映画をみんなで見たという記憶があるのです。地下に食堂「メトロ」のある法文31番教室が会場で、そこへ大勢の学生たちが詰めかけ、満員盛況でした。みんなで爆笑したように思います。
その後、郷里の福岡へUターンする前、東京の場末の映画館でみたときは、場内が爆笑して騒然とした雰囲気で、スクリーンに向かって野次を飛ばす威勢のいいオッチャンたちもいて、心地よい気分に浸ることができました。ところが、銀座の封切館でみたところ、観客があまりにお上品で、みんなでどっと笑ったりすることがなく、野次が飛ぶなんてこともありませんでしたから、いささか物足りない思いをしたこともあります。
郷里に戻ってきて、子どもたちが小学校に通うようになると、正月には欠かさず寅さん映画をみんなでみて、腹の底から笑うことができました。
渥美清が20年も前になくなってから久しぶりに苦々しい寅さんをアップで拝むことができ、本当に感激しました。そして、その登場シーンがストーリー展開に本当によく溶け込んでいて、まったく違和感がありませんでした。すごいです。たいしたものです。
寅さんが今、どこで何をしているのか、もう死んでいるとかいう話はまったく出てきません。話の展開のなかで、そのことを不思議に思わせることがないのです。これって、すごいことですよね・・・。
そして泉さんは国連難民高等弁務官事務所につとめているということで、ヨーロッパやアフリカの難民問題まで映像で紹介されます。泉さんはタクシーのなかで上司とフランス語で会話しますが、ちゃんと聞きとれて、フランス語を勉強していて良かったと思いました。やっぱり、話が分かると、うれしいのです。
国連で活躍中の中満泉さんの本『危機の現場に立つ』も参考文献として紹介されています。後藤久美子は、素敵なキャリアウーマンとして登場してきますが、初めは誰だか分かりませんでした。
主題歌をオープニングで桑田佳祐が歌い、最後に渥美清本人が歌います。しみじみと聞いて、映画の余韻に浸って映画は終わり、あたたかい気分で外に出ることができました。
疲れを吹き飛ばしてくれるすばらしい映画です。ぜひ、あなたも映画館に足を運んでみてください。
(2019年12月刊。1200円+税)

自発的対米従属

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 猿田 佐世 、 出版  角川新書
福岡県弁護士会は、昨年12月下旬に著者を招いて沖縄問題をテーマとする講演会を開きました。著者は日本の弁護士であると同時に、アメリカ・ニューヨーク州の弁護士資格を有し、民間外交に大車輪で活躍しています。少々早口すぎるのが玉にキズなのですが(ついていけない老人がいます)、その語る内容は恐るべきものがあり、圧倒されます。
外交とは「劇」である。この「劇」を切り盛りするのは外務省であり、東京の本省と各国にある大使館が舞台をつくっていく。外交では、登場人物が限られているので、「劇場」の運営が容易である。
アメリカ人は、日本に無関心で、日本についての報道も多くない。
外交の世界では、アメリカ政府はことあるごとに「日米は特別な同盟関係にある」、「日本は特別」と言うので、日本人は、アメリカから日本は特別扱いされていると勘違い(誤解)している人が多いが、実はアメリカはよその国に対しても、同じように「特別な関係」にあると言っている。つまり、日本は、アメリカにとって「特別」な国でもなんでもない。この「特別な国」とは、外交につきものの美辞麗句であり、単なる決まり文句にすぎない。決して真に受けてはいけない。
沖縄国際大学にアメリカ軍のヘリコプターが墜落したときの生々しい状況フィルムを講演会のとき初めて見ましたが、現場にいち早く駆けつけてきたアメリカ兵が現場を封鎖して日本のマスコミ、そしてなんと日本の警察官までも現場に立ち入らせなかったのです。ここはどこの国かと、情けないというより怒りが湧き立つ映像でした。ところが、日本の外務省は、それを問題視することなく受け入れ、容認してしまいました。元外交官(宮家邦彦)は日本の警察がアメリカ軍による規制線の内側に立ち入れなかったことを無視して、日米共同で捜査したと強弁したそうです。まったく奴隷根性の持ち主としか言いようがありません。捜査できなかった事実を認識しながら、それを捜査したと評価してしまう。日本の土地の汚染を、日本の警察自らが調査して日本国民の命と生活の安全を保障することができないのに、なぜ悔しく思わないのでしょうか・・・。
これは、対米従属を自ら選びながら、そのことに気付いてすらいないという状況である。「従属」があたり前になりすぎると、自分から「従属」を選んだことを忘れてしまい、疑問すら抱かなくなるのだ・・・。
沖縄のアメリカ軍基地面積の7割を海兵隊が占めている。そして、アメリカ本土では海兵隊の規模を縮小しようという動きが根強い。
アメリカにとって、辺野古に基地を絶対につくらなければならないということはない。日本がつくりたいのなら反対はしないというだけのこと。
いやはや安倍政権のアメリカべったり、沖縄県民の意思無視はひどすぎます。
著者は、アメリカの国会議員のうち日本に関心をもっているのに、せいぜい10人が20人くらいではないかと講演で述べていました。その国会議員の認識として、次のような問題が紹介されていて、驚きます。
「沖縄の人口は何人か。2千人ぐらいか」
実は2009年当時で138万人。
「飛行場を一つつくってあげたら、沖縄の人たちは飛行機を使えるようになって便利になるのではないか・・・」
沖縄には飛行場がないと思っていた、この国会議員は、なんと、アメリカの下院(国会)の外交委員会のアジア太平洋環境小委員会の委員長なのです。いやはや、それほどアメリカの国会議員にとって日本も沖縄も眼中にないということなんですよね・・・。
つまり、辺野古問題の根源はアメリカ(ワシントン)にあるのではなく、日本の東京(霞が関と永田町)にあるのです。もういい加減に対米従属一点張りはやめたいものです。
(2017年3月刊。860円+税)

武器よ、さらば

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 エマニュエル・パストリッチ 、 出版  東方出版
地球温暖化の危機と憲法九条というサブタイトルのついた本です。とてもとても 勉強になりました。すばらしい、目のさめるような指摘のオンパレードで、読んでいて、思わず胸が熱くなってきました。
平和憲法こそ日本の利点であり、日本の平和憲法は過去ではなく、未来である。
実際のところ、世界第8位の軍事費大国である日本は、すでに軍事費支出において、いかなる「普通の国」をもはるかにしのいでいる。
自衛隊を、完全に九条の真の実現をサポートする組織へと改編することは可能であり、九条を否定するものではなく、むしろ憲法九条の真の制度的革新のモデルとなりうる。たとえば、未来の陸上自衛隊は、世界中の土地の劣化や森林破壊に対処する、砂漠化という世界的な戦いに力を注ぐものとする。
海上自衛隊は、海面の温度上昇と酸性化による世界の脅威に対抗することに注力する。
航空自衛隊は、空から地球温暖化の影響を調査し、大気に関する問題への対処に、その資源を充てる。
実にすばらしい提案です。スウェーデンの16歳の少女、グレタさんの指摘をきちんと私たちは受けとめるべきだと思います。
日本の憲法九条は、素朴な平和主義ではない。現在の国際社会の現実に即した、現実的な選択肢なのだ。
私たちは、軍事を優先させることをやめ、気候変動への対応を、すべての経済と安全保障計画における主要な関心事とする必要がある。そうしなければ、人類は大量絶滅というリスクに直面する。
私たちが存続していくためには、個人や団体による誤った暴力への効果的な対応は警察力と司法によるべきものであるという共通の認識をもたなければならない。
最大の障害となっているのは、経済的にまた政治的にパワーをもっている軍需産業の存在である。実は、軍隊は、人々の利益のために自分を犠牲にする、献身的な個人の規律化された集団である。そこで重要なことは、何を目的として献身するのか、ということ。気候変動への対応には、まさに、このような献身的でパワーのある集団を必要としている。
日本の自衛隊は、100%再生可能エネルギー政策を推進し、緑の革命において重要な役割を果たす。これを第一のステップとする。
いやあ、すばらしい提言です。これを夢のようなタワゴトと簡単に片づけては決してなりません。私たちは、もっと真剣になるべきです。
アメリカは、日本や韓国を「同盟国」とみなしてはいるが、貿易に関して自分の命令に従わないときには、トランプ大統領は、その方針を簡単に変えるだろう。アメリカが中国だけを脅威として考えていて、自分たちは「同盟国」として保護されるなんて幻想に日本人は浸ってはいけない。
北朝鮮・韓国についても、著者は目のさめるような鋭い指摘をたくさんしています。
わずか174頁の薄い本です。著者は江戸時代の漢文学を専攻する学者で、日本にも7年間住み、東大で学び、韓国で教授として活動するかたわらコラムなどを発表してきた学者であり、ジャーナリストとして活動している人です。日本語、韓国語、中国語そしてフランス語を使いこなすアメリカ人でもあります。すごい才人ですね。
日本と韓国・北朝鮮が対アメリカとの関係で、いかに行動すべき、よくよく考え深められた指摘がたくさんありますので、いま広く読まれるべき本として大いに推奨します。
(2019年8月刊。1600円+税)

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