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ドレフュス事件

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 アラン・パジェス 、 出版 法制大学出版局
1894年10月、ドレフュス大尉が逮捕された。これがドレフュス事件の始まり。ドレフュスは、ユダヤ人の軍人。ドイツにフランスの軍事機密を売り渡していたという容疑。ドレフュスは3回、軍事裁判で有罪を宣告された。ドレフュスを弁護して、「私は告発する」を新聞紙上で大々的に書いたエミール・ゾラも有罪となった。ところが、真犯人の士官エステラジーのほうは、あとで逮捕されたが、軍法会議で無罪となり、イギリスへ逃げた。
ドレフュスは有罪となり、陸軍士官学校の校庭で公に軍籍を剥奪され、仏領ギアナの悪魔島に送られた。
真犯人を突きとめたピカール少佐(やがて中佐)は、解任されてチュニジアへ左遷された。その後任のアンリ少佐(これまた中佐に昇任)は、ドレフュス有罪の証拠をねつ造。それがバレて、独房で自殺した。
このころ、パリ市内には、「気送速達」というシステムがあったそうです。市内の地下にある下水道を利用して、気送管の中に薄い便せんか葉書を瞬時に送ることができました。こんなことがあったなんて、知りませんでした。
ドレフュスを有罪とした「証拠」である書面について、筆跡鑑定がなされました。私は今でも筆跡鑑定は科学的な根拠に乏しいと考えていますが、この当時は、まかり通っていたようです。
ある鑑定士はドレフュスの筆跡ではないが、それはドレフュスが故意に自分が書いているのに、自分が書いたものではないと思わせるようにしたからだ、なんて、とんでもない鑑定書を書いて、それが採用されたというのです。これでは、まるで神がかりのようなマンガです。
ドレフュスは悪魔島で快適に過ごしている、食事も専用の献立が準備されているという、見てきたかのようなキャンペーンがはられた。真実は、地面にアリやクモがはいまわるような小屋に閉じ込められ、散歩なし、足には鉄の輪をはめてベッドにしばりつけられていた。
真犯人のエステラジー少佐は、その日暮らし、たくさんの借金をかかえて追い詰められ、ドイツ大使館にいくらかの軍事情報を売って苦境を脱しようと考えた。亡命先のイギリスでは「伯爵」と名乗っていたが、貧窮の末に亡くなった。
ドレフュス有罪を叫び続けた側は、「ユダヤ組合」説を考え出した。お金持ちのユダヤ人たちは、彼らと同じユダヤ人裏切り者ドレフュスの無罪放免を得るため、莫大な資金をつかって国際的な組合をつくっているというもの。
昔も今も、ユダヤ人の陰謀、国際的謀議が展開されるのですね。
反ユダヤ主義は、今でも根深いものがありますが、これって、やはり日頃の生活のうっぷん晴らし、またユダヤ人の財産をとりあげて毎日の苦しい生活を少しでも楽にしようという発想から、間違った(事実誤認の)考えに毒されて、自己の行為を正当化するものです。
ドレフュス事件は、10年以上もフランスの世論を二分して激しく議論が展開されたのでした。この本は昔の本の復刻版ではありません。
(2021年6月刊。税込3740円)

たのしい知識

カテゴリー:人間 / 社会

(霧山昴)
著者 髙橋 源一郎 、 出版 朝日新書
著者は19歳のころ、東京拘置所にいました。その7ヶ月間、ひたすら1日12時間、本を読むのに没頭したそうです。
なんで、19歳で拘置所にいたのか…。全共闘の過激派として暴れまわっていたからです。ですから、私とは対立する関係になります(もっとも、世代が少し違います。私のほうが3歳だけ年長です)。そして、20代の著者はずっと肉体労働に従事していました。これも私とは違います。私は家具運びのアルバイト以外に肉体労働をしたことはありません。
そして、著者は30歳になって、突然、本を読みたいという気持ちになり、それ以来、ずっとずっと一日も欠かさず本を読んでいます。この点は同じですが、私のほうは、大学に入って駒場寮で読書会に参加し、さらにセツルメント・サークルに入ってから、猛烈に本を読みはじめ、今に至っています。ですから、読みの深さはともかくとして、読書習慣のほうは、いささか私のほうが早く、そして長いのです。
次に、著者は大学の教員となり、学生に14年間教え、学生たちに教えられたとのこと。ここが、私とは決定的に違います。教えることは、教えられること。それは真理だと私も考えています。この人生経験の違いは、実は大きいのではないか…、と考えています。私にも50年近い弁護士生活はあるのですが…。
コロナ禍の下、毎日毎日、大変です。でも、毎日、すさまじい量の情報を前に、実は、その大半を私たちは忘れている。必要のないものを捨て、必要だと判断したものだけを記憶して、私たちは生きている。いつも、人間は、そうだった。本当、そのとおりだと思います。でも、忘れることができるからこそ、ストレスをほどほどに抑えて、長生きすることも可能になるのです。
コロナ禍の下、多くの人たちと同じように、暮し方を変えざるをえなくなった。
コロナ禍が終わって、早く元に戻ればいいっていうけど、本当に元に戻ったとして、かつては本当に充実していたのか…。いやあ、そ、それは難しい問いかけですよね。
知識が必要だ。誰でも、そう思う。けれど、本当に、心の内側からあふれるようなものなのか、そう思わなければ、どんな知識も、ただ紙に印刷された文字の連なりにすぎない。
23歳で刑務所の中で自殺した金子文子。その父親は刑事。父は文子を戸籍にも入れなかった。そして、娘を捨てた。いやあ、ひどい親が昔も今もいるものですね…。
「たのしい知識」というタイトルは、本当なんでしょうか…と、問い返したくはなります。私は、昔は私と正反対の全共闘の活動家だった著者を今では心から尊敬しているのです。著者の人生相談の深みのある回答には、いつもいつも感動し、しびれています。
この本も、大変勉強になりました。ありがとうございました。
(2020年11月刊。税込979円)

他者の靴を履く

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ブレイディみかこ 、 出版 文芸春秋
エンパシーとシンパシーの意味の違いを説明せよ。
シンパシーは、誰かをかわいそうだと思う感情とか、行為、友情など内側から湧いてくるもの。エンパシーは、他者の感情や経験などを理解する能力。つまり、身につけるもの。その人の立場だったら、自分はどうだろうと想像してみる知的作業。
オバマ大統領は演説のなかで「エンパシー」をよく使っていたとのこと。知りませんでした。といっても、エンパシーというコトバの歴史は浅く、まだ100年になるくらいだそうです。
著者がよく本を読み、よく考えている人であることはわかるのは、金子文子がいち早く登場することにあります。金子文子は、23歳の若さで獄死しました。アナーキストの朴烈のパートナーです。関東大震災のどさくさで逮捕され、大逆罪で死刑判決を受け、恩赦で無期懲役に減刑されたものの、恩赦状を破り捨てたのでした。映画にもなっているようですが、みていません。
これまた残念ながらみていませんが、映画『プリズンサークル』という、「島根あさひ社会復帰促進センター」という男子刑務所のなかの取り組みが紹介されています。ここは、比較的軽い罪で有罪になった人たちを収容しています。私も一度だけ内部に入ったことがあります。盲導犬を訓練していました。
詐欺犯のように無意味なコトバをべらべらと羅列する人たちは、ここでTCのプログラムに参加すると、逆にしゃべらなくなり、一時的には言葉を失うことがある。これは、自分がそれまで発していたコトバの空虚さに気がつき、自分のコトバを獲得し直すまでのプロセスの一部だ。コトバを発せない時期を経て、再びしゃべることができるようになったとき、口から出てくるコトバは前とはまったく違うものになっている。
ブルシット・ジョブ。どうでもいいことをして、何をやっていると人々を説得しようとしているナンセンスな仕事。これには、オフィスで働くほとんどの人がこれにあたる。受付、秘書、人事、管理職、広報…。そして、企業内弁護士、ロビイスト、CEO、PRリサーチャー…。
これに対するのが、キーワーカー。たとえば、コロナ禍でがんばっている看護師、保育士など…。
企業内弁護士を、同じ弁護士として軽蔑する気持ちはまったく(本当に、さらさら)ありませんが、世間から「本当にあんたのやっている仕事は世のため、人のためになっているの?」という問いかけに対して胸を張って答えられるかどうかは、たまに考えてもいいんじゃないの…という気はしています。というのも、「世のため、人のため」という、人権尊重に自分の一生をかけてみようという意識が薄くなってしまっているのは、残念ながら現実だと考えているからなのです。
イギリスのサッチャー首相は、庶民出身なのに、なぜか庶民に対してエリート出身者以上に冷酷になることができた。
みじめに退任するスガ首相も公助の前に自助があるなんていう妄言を吐いていました…。
この本を読んで、私が認識して良かったのは、第二次大戦中のイギリス市民です。戦時下でモノがなく、ヒトラー・ナチスが爆撃するなかで、貧しい人々は自制心に欠け、暴力的なので、パニックを起こして逃げまどい、国を混乱状態に陥れるのではないかと、支配階級は心配していた。しかし、実は、彼らは落ち着いて、お互いを助けあい、明るくジョークをとばしあいながら、一丸となって危機を乗りこえようとしていた
日本軍が始めた中国の重慶無差別爆撃、イギリス軍によるドイツ無差別爆撃、カーチス・ルメイ将軍による日本本土無差別空襲によって、いずれも国民の戦意は喪失するどころか、大いに高揚したというのが歴史的な事実でした。
庶民は、つまり人間は上からみるほど、バカではないのです。
「他者の靴を履くこと」というのは、英語の慣用句としてあるようです。「他者の顔色をうかがうこと」と紙一重ですね。でも違います。ちょっと難しい記述があふれていましたので、苦労しながら読み終えました。
(2021年8月刊。税込1595円)

権力は腐敗する

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 前川 喜平 、 出版 毎日新聞出版
あの前川さんが、バッサバッサと権力の腐敗を切れ味も良く切り捨てていきます。
切られる相手の一人は、現在の文科省の藤原誠事務次官です。
安倍首相は、まったく独断で、科学的根拠もなく、手続的にみてもおかしい全国一斉休校を要請した。これは要請という名の指令だった。こんな官邸の独断による暴走について、藤原文科省事務次官は即座に応諾した。安倍首相に迎合したわけだ。
一斉休校は、子どもたちから学習の機会を奪い、学校という安全・安心な居場所も奪った。この人災の最大の責任者は安倍首相だが、それに追随した文科大臣、英断を気取った北海道の鈴木知事、東京の小池知事そして大阪の吉村知事の責任も重い。
前川さんは、もちろん文科省の事務次官をつとめた人です。ですから藤原事務次官は、その後輩にあたりますので、人事の流れをよく知る立場にあります。
「藤原君」はもともと事務次官候補ではなかった。別の人物が適任だった。ところが、「藤原君」は和泉洋人首相補佐官と親しい関係にあり、人事を巻き返すことに成功して、ついに事務次官となり、今なお事務次官の椅子にしがみついている。前川さんは嘆いています。そして、「藤原君」が事務次官になれたのは、法務省の黒川氏のときのような勤務・定年延長という裏技を繰り返したからだと解説しています。うひゃあ、恐ろしい…。黒川氏は新聞記者と賭けマージャンが暴露されて「自爆」してしまいましたが、藤原事務次官は今も健在。恐ろしいことです。
若者たちのなかに無関心・無自覚が広がっていることを前川さんは大変心配しています。これは、学校での人権教育や憲法教育が不十分であることにも原因がある。残念ながら、現代日本の若者には体制の現状を容認する傾向が強い。これは学校での政治教育の貧困に大きな原因がある。文科省は、、教師が右と言えば右を向き、左と言えば左を向くような、主体性のない生徒を想定している。
どうせ世の中は変えられない、どうせ世の中は良くならないとあきらめている人が多い。
「学習性無力感」と呼ばれる心理状態だ。しかし、人間は希望をもつことができる。人間は意思によって行動できる。
学習性無力感を克服するためには、小さな一歩を踏み出すことが大切だ。まずは選挙に足を運んでみよう。世の中は変えられる。あきらめてはいけない。
本当に、そうなんですよね。いま、私のすむ町にも夜間中学が復活しようとしています。いいことです。前川さんは、今も、福島市と厚木市で自主夜間中学のボランティア講師をしているとのこと。本当に頭が下がります。
安倍氏は口がうまいが、菅氏は口下手。安倍氏は嘘をつくのがうまい。菅氏は話す内容に一貫性がない。嘘をつきまくった安倍氏。何も言わない菅氏。どちらも国民への説明責任を果たしていない点では共通。
安倍氏は思い入れがないから、こだわりもなく、前言を放棄したり、放置したりできた。だから、前に言ったことについて何もしなくても、何の痛痒も感じない。無責任のきわみ。思い入れがないだけに変わり身が早いという「利点」もあった。菅氏は、自分にこだわりがあるため軌道修正ができない。いったい、この二人は、何のために政治をやっているのか。安倍氏は、名誉を得るための「家業」。菅氏は秋田で財をなした父親をこえる権力者になって「稼業」すること。父親を見返してやることが人生の目的になっていた。
なるほど、ですね。この比較・分析はとても納得できました。
アベ・スガが政権のあとも、自民党政権が続くとしたら、それはもう日本の行末は真っ暗です。そんなことにならないようにみんなが投票所に足を運ぶ必要があります。来たる総選挙で投票率75%を目ざす運動に心から賛同します。
(2021年9月刊。税込1760円)

後悔するイヌ、嘘をつくニワトリ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ペーター・ヴォールレーベン 、 出版 ハヤカワ・ノンフィクション文庫
イヌは叱られると悲しい表情をする。そして、メンドリの気を引くため、オンドリは平然と嘘をつく。ええっ、ホ、ホントなの…。
オンドリはおいしそうなものを見つけると特別な抑揚をつけてクックッと鳴きはじめる。すると、メンドリがすぐに聞きつけてやってくる。ところが、オスがその鳴き声で何もないのにやって来たメンドリに交尾を迫って成功することがある。しかし、メンドリだって、何回も騙されるわけではない。
カササギは一生涯にわたるオスとメスはつがいを守る。それでも、つがいのメスが侵入者のメスを激しく追い立てていても、オスはつがいのメスに見られていないと思えば、新しいメスに熱心に言い寄る。ふえっ、カササギのオスって、ヒトのオトコと同じなんですね…。
ヨーロッパアカヤマアリは、数匹の女王アリがいて、最大で100万匹の働きアリによって世話されている。社会階層の一番下は、翅(ハネ)のあるオス。オスは女王アリと交尾するために巣から飛び立ち、そのあと死んでいく。オスは長生きが許されていないのです。働きアリは最長6年生き、女王アリの寿命は最長なんと25年。
ワタリガラスは、80以上の異なる鳴き声を使い分ける。だから、これはカラス言葉だ。ワタリガラスは親子間だけでなく、友人とのあいだでも生涯にわたる関係をはぐくむ。
ブタに名前をつけ、エサを与えるときに名前を呼ぶと、呼ばれたブタだけがエサの入った容器へ突進していく。
馬にとって楽しくうれしいのは、うまくできたときにほめられ、なでてもらえること。間違ったことして叱られると、バツが悪そうに顔をそむけ、あくびをしたりする。きまり悪いそぶりをしているのだ。馬も恥ずかしがる…。
カラスは一緒にいたら仲間が自分を助けてくれなかったら、そのことを覚えていて、そのあとは、その仲間とはともに作業しようとはしなかった。
人間であれ、他の動物であれ、恐れを感じないものは生きのびることができない。
ウサギは、オスとメスとが、それぞれ厳格な序列にしたがって生きている。指導的な役割を果たしているオスとメスは、より攻撃的ではあるが、ストレスは少なめだ。抑圧されているものは、次の攻撃を常に恐れながら生きている。大人のウサギの寿命は平均して2年半。ところがウサギ界の上流階級にいると、7年ほど生きのびる。いちばん下位のウサギは性成熟したあと数週間で死んでしまう。これはストレスが多いか少ないかが決定的だということを示している。うひゃあ、すごい違いですね…。
動物が認知症になってしまえば、肉食獣の手頃な獲物になってしまう。
なーるほど、病気になったら、即、死に至るというわけです。
著者の飼っていたヤギはおだやかな死を自分で迎えたのですが、それは、死んだ動物の姿勢で分かるのだそうです。そのヤギは、くつろいだ態勢で腹ばいになり、力の抜けた脚がその下に折りたたまれていました。これはリラックスして眠るときの姿勢なのです。
いやあ、動物の話は、いつ読んでも面白いですよね。
ドイツで人気の職業のひとつに「森林官」があるそうです。森を管理する専門家のことです。日本にこんな職業があるのでしょうか。もし、あったとしても人気の職業ではありませんよね。いえ、決してけなしているつもりはありません。
ドイツの小・中学校の女の子の憧れの動物ナンバーワンは馬なんだそうです。えっ、ええっ、これも日本とは大違いですよね。大学に馬術部はありますが、馬に乗るって、金持ちの子女のやることっていうイメージです。
(2021年7月刊。税込990円)

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