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松川事件と「諏訪メモ」

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 北大生・スパイ冤罪事件の真相を広める会 、 出版 左同
 松川事件が起きたのは1949(昭和24)年8月17日未明のこと。団塊世代の一人である私が生まれた翌年です。国鉄(もちろんJRではありません)の東北本線で旅客列車が脱線転覆し、乗客は無事だったが、乗組員3人が死亡。線路を固定するための枕木に打ち込んである犬釘(いぬくぎ)が抜かれ、カーブ外側のレール1本が外されていた。
 警察は共産党の犯行だとして容疑者20人(うち共産党員14人)を逮捕し、検察庁は全員を起訴した。裁判所の判決(1950年12月6日)は全員有罪で、5人が死刑、5人に無期懲役刑が宣告された。
 このパンフレットは、毎日新聞福島支局にいた24歳の新米(しんまい)記者が松川事件で被告人たちにアリバイがあることを裏づける団交メモ(諏訪メモ)を掘り起こすまでの苦労話を生々しく紹介したものです。
 当時は、記者の「サツ回り」ものんびり、人間的で、おおらかだったのでした。地検の検務課で「赤銅鈴之助」のマンガ本を借りて記者が読みふける、次席検事は麻雀が大好き。そして、諏訪メモを個人的に預かりもっていた鈴木久学検事が福島地検に戻したのを目撃し、その足で受けとった検事正に正面突破で諏訪メモの存在を問いかけたのです。
 「あったのですね?」
 「うん、あった」
 「佐藤(被告人)が出席していますか?」
 「いる」
 「何時までいましたか?」
 「午前中いた」
 このやりとりだけで、諏訪メモの現物を見ることもなく、著者は毎日新聞福島版(1957年6月9日)のトップ記事として、「諏訪メモ発見さる」を一面トップで大きく報道したのです。記者は若かった世間知らず。だからこそ正義感に燃えて、(メモの現物を見なくても)踏ん切れた。
 この大スクープのあと、警察・検察官で食事をしていると、警部補から、「お前はいつからアカの手先になったのか」と大声をあげ、著者が酒をつごうとすると「アカの酒なんか飲めるか」と徳利を払いのけた。
 「なんとかメモなどと屁にもならんことを書きやがって、アカからいくらもらったのか」
 いやはや大変な大立ち回りがあったのでした。この警部補は少年の赤間被告を追い込んで「赤間自白」をとった男です。
 被告人たちの「共同謀議」が成立するためには午前11時15分松川発の列車に乗って福島に行かなければいけない。しかし、会社と労組の団交は正午ごろまで続いていて、最後に発言したのは佐藤被告。この経過を団交の場にいた会社側の人間(諏訪氏)が詳細にメモしていたのです。ということは、佐藤被告が午前11時15分発の列車にのることはありえない。つまり、「共同謀議」に参加できない。なのに有罪、しかも死刑を宣告された。そんな馬鹿な。
 この記者も「アカの手先」として警備部によって身元調査がなされていた。怖いですね。
 松川事件の被告弁護団には、地元の自民党有力者であり、県の公安委員会をつとめている袴田重司弁護士、そして田中耕太郎最高裁長官の実弟・田中吉備彦弁護士も加わっていた。まさしく超党派から成る弁護団だった。
 1959年8月10日、最高裁は原判決を破棄して差し戻す判決を言い渡した。
 宮本検事正は、諏訪メモを消滅させることは可能だった。でも、私にはできなかった。最高検から消滅せよという指示が来る前に世間に公表すれば、もはや消滅させられない。毎日新聞の記者が権力をはねのけて追及してくれることを信じて、諏訪メモの存在を認めたのだ、と語った。いやはや、どこの世界にも良心を大切にしたいと考えている人はいるものなんですね…。
 倉嶋記者と大学時代からの友人である石川元也弁護士(大阪)からいただきました。
(2022年2月刊。無料)

私がつかんだコモンと民主主義

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 岸本 聡子 、 出版 晶文社
 本年(2022年)6月に、杉並区長に当選した著者の半生を振り返った、刺激的な本です。現職区長をわずか187票差で破って当選した女性ですが、この本によると、女性のほうが政治家には向いているとのこと。なぜなら、他人への想像力が政治家の仕事の本質だから…。政治家に一番大切な資質は、自分とは違う立場の人たちをどこまで想像できるか、自分の知らない不都合を当事者から学び続ける謙虚さだ。
 なるほど、ですね。まったく異議ありません。
 著者は区長になる前は、市民運動の専従事務局のようにして活動してきました。より正確にいうと、オランダ・アムステルダムに事務所があるトランスナショナル研究所(TNI)でスタッフとして働いてきました。このTNIは、NGOというより、市民・社会運動を支援する左派系の活動家兼研究者のシンクタンクのようなもの。この団体の主要言語は英語とスペイン語。
 著者はオランダに住みながら、そして息子たちはオランダ語ペラペラなのに、自分はオランダ語は話せないし、話す努力はもう放棄したとのこと。
 人生は言語ばかり勉強するほど長くはない。これまた、なーるほどです。でも、私はフランス語だけは、今もあきらめることなく勉強を続けています。
 著者は、たとえば水道の民営化に反対する運動に取り組みました。水道を民営化すると、自治体財政は公営のときよりも結果的に悪化してしまう。それは、水質が低下する。必要な投資がなされない。水道料金が値上げされて市民生活を直撃する。企業に支払う委託料が不透明に値上がりする。自治体が水道運営・財務情報を企業に求めてもきちんとした情報が得られない。専門職をふくめた労働者が首切られる。こんな問題があるからです。
 ふむふむ、こういった実情・実態は広く知られる必要がありますよね。それの手助けをするのが、著者たちTNIなのです。
 このほか、スウェーデンの高校生だったグレタと同じように、著者は地球環境保全の取り組みにも関わっています。
 そのため、著者とパートナーは自動車を持たないどころか、運転免許も保有していないとのこと。それではベルギーで生活するのに不便なこと、このうえない。
 ベルギーで育った著者の息子はベルギーの大学に入った。その体験談は刮目(かつもく)です。まず、ベルギーには大学入試がない。といっても、入ったからといって、誰でも大学を卒業できえるわけではない。半分は2年生になれない。つまり進級試験に半分は合格できない。そして、学費はなく、年間登録料として11万円ほど納付するだけ(収入の少ない家庭は半額以下に減免される)。
 どうして、そんなことが可能なのか…。それは、教育に膨大な公費、つまり税金が投入されているから。公費で82%をまかなっている。これは日本の31%に比べると2倍以上。日本も公費負担を一気に引き上げる必要があります。軍事予算を2倍、10兆円にする前に、教育予算こそ倍増すべきです。
 222頁の本ですが、著者のはつらつとした、意気軒高な文章に圧倒されてしまいました。
(2022年9月刊。税込1760円)

タヌキって、何?

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 佐伯 緑 、 出版 東京大学出版会
 タヌキ学の黒帯的研究者が、令和のポンポコ事情を明らかにする。大いなる「狸想(りそう)」を掲げ、「真狸(しんり)」を追求。
 オビの文句は、かくも勇ましいのです。著者が空手の極真会で有段者であり、子どもたちにも空手を教える身だからです。空手をするタヌキなどのイラストも著者が描いたものです。まことに多才の人です。
 食肉目イヌ科であるタヌキの骨格は、基本的にイヌと同じ。
 タヌキは器用貧乏。走りも泳ぎも登りも狩りも、みな、ある程度こなせる。でも、同じ食肉目内の走りはオオカミ、泳ぎはカワウソやイタチ、木登りはアライグマ・ハクビジン・テン、狩りはキツネ・オオカミ、穴掘りはアナグマにはかなわない。
 タヌキの得意技は、小さな隙間を通るのがうまいこと。
 タヌキは、「溜め糞(ためふん)」と呼ばれる共同トイレを使う。ゲージ内では一つの溜め糞を家族で使い、知らないタヌキの糞があると、その上にする。つまり、自分(家族)と他狸とを臭いで識別できる。
 タヌキは、好き嫌いは言わない、食べられるときに食べるチャンスは逃がさない、これをモットーとして、しっかり生きのびてきた。
 野生のタヌキは、一日一日が死と生の選択で過ぎていく。タヌキの寿命は、野生で6~8歳、飼育下だと20年近い。野生で生きるのは、それだけ厳しい。
 イヌ科は北アメリカで、誕生した。そして、ベーリング海峡を伝って、ユーラシア、さらにアフリカへ進出していった。
 日本のタヌキは、寒さ対策がゆるんで、食べものも肉食系雑食より、昆虫・果実食系雑食になった。
 タヌキは繁殖力が強い。1腹の子が8~10頭。最高記録は16頭。1歳のメスの3分の2が出産する。出産後は、哺乳類としては珍しく父親による高度な育児がある。
 そして、タヌキはオス、メスともに遠くに広がる(分散能力)がある。20キロ、40キロは珍しくなく、ドイツでは91キロ、スウェーデンでは650キロも移動したことが確認されている。
 戦前の日本ではタヌキの養殖が盛んだった。それは、兵士の防寒装備としてタヌキの毛皮が使われていたということ。アメリカに輸出もされていた。
 キツネとタヌキは、どちらも中型のイヌ科。
 タヌキは「ロードキル」で死ぬことが多い。道路に出たところを車にはねられて死ぬ。これは、タヌキが鈍いのではなくて、防御行動として「立ち止まり型」をとる結果。
 著者はアメリカやイギリスの大学で野生生物を研究したあと、日本に戻って、千葉でタヌキを追いかける研究者になりました。これは千葉に親戚が住んでいたことが大きいようです。それにしてもタヌキを飼ったり(病気やケガをしたタヌキを養生させるため)、まことに好きじゃなければ、やってられないと思いました…。
(2022年7月刊。税込3630円)

昆虫食スタディーズ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 水野 壮 、 出版 同人選書
 地球環境を守るため、昆虫を食べよう。そんな呼びかけをしている本です。
 昆虫はこれまでの家畜と同じく栄養価が高く、かつ、地球環境免荷を軽減できるエース級の動物タンパク源だ。
 2050年までに世界の人口は90億人に達する。そして、2010年から2050年にかけて、肉と牛乳の消費量は58%も増加する。すると、肥料の需要が増加し、牛・豚・鶏肉の価格は30%以上あがる。そのうえ、地球温暖化を促進してしまう。
 家畜に代わる代替タンパク質として期待されているのが昆虫。
 実は、古くから昆虫は人類の食料として利用されてきた。現在でも、世界で20億人以上が昆虫を食べ、2000種もの食用昆虫がある。
 昆虫のタンパク質含量は乾燥重量あたり40~75%。これは牛肉・豚肉に匹敵いやそれ以上の豊富なタンパク源。しかもタンパク質を構成する必須アミノ酸の組成も悪くない。
 昆虫は、とくにビタミンB群を豊富にふくむ種が多い。
 昆虫の炭水化物は、表皮を構成するキチンが大半。キチンは機能性食物繊維としての活用が期待できる。キチンやそこから生成されるキトサンはコレステロールの体内への吸収を低下させる作用がある。昆虫由来のキチンは、カルシウム含量が少ないので、精製が容易。また、加水分解されやすいので、さまざまな用途への活用が期待できる。
 昆虫の温室効果ガス排出量は非常に低い。それはメタンガスをほとんど生成しないことのほか、変温動物のため代謝量が低いため。
 たとえば、イエバエとアメリカミズアブを養殖したら、1ヘクタールの土地で年間150トンのタンパク質が生産できる。しかも、高密度で飼育でき、発育スピードも非常に速い。さらに、昆虫の水分摂取量は非常に少ない。また、少ない餌で効率よく育つ。
 廃棄物を昆虫が食べて育つことで、廃棄物はタンパク質に変わる。
 イエバエは卵から成虫になるまで35度で1週間。アメリカミズアブは、卵から蛹まで1ヶ月。コオロギもイナゴも日本では昔から食べてきた。ハチノコも年間数キログラムが消費されている。
 昆虫食ビジネスが注目されている。そこまでは理解できます。でも、その昆虫のなかに、ゴキブリまで対象となっていると聞くと、うえーとなりそうです。だけど、そこを乗りこえないとビジネスにはならないのでしょうね、きっと…。
(2022年2月刊。税込1870円)

きのこの自然誌

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 小川 真 、 出版 山と渓谷社
 私が好きなきのこはシイタケとマイタケです。焼き鳥屋で肉厚のシイタケを焼いてもらって食べると最高ですよね。マイタケは、やっぱり天プラですね。
 マツタケなんて、何年も食べたことがありません。わざわざ超高価なマツタケを食べようとは思いません。それ以外のきのこは、毒きのこのイメージが強くて、とても手が出ません。毒をもつフグなら、ちゃんとした店で調理したものに限ります。
 フランス料理の珍味の一つのトリュフ。ブタが、このきのこの匂いにもっとも敏感。だけどブタはともかく頑固で、人間の言うことを聞かずに、見つけたトリュフをさっさと自分で食べてしまう。なので、ブタをつかってトリュフを探すのは困難すぎる。
 イタリアには、トリュフ狩り用のイヌの訓練校があるとのこと。トリュフの匂いに敏感なハエがいて、それでトリュフを探す。というか、トリュフの匂いは、このハエを招き寄せるためのもののようだ。トリュフは有史以前、ギリシャ、ローマ時代に、既に珍味中の珍味になっていた。
 トリュフは日本ではほとんど採れない。日本は土壌が酸性で、かつ雨量が多い。しかし、トリュフは湿った場所を嫌い、アルカリ性の土だけを好む。石ころ混じりの腐植の多いアルカリ性の土地を好む。年間雨量が600から900ミリの地帯にのみ発現する。このように、トリュフの栽培は、マツタケと同じように難しい。
 きのこの縄張りは、広がったり、食われたり、入れ替わったりと目まぐるしい。10年もすると、すっかり種類が変わってしまうほど。それぞれの種が、それぞれの暮らし方にしたがって、縄張りをつくり、互いに競争しながら精一杯生きている。
 マツの老齢林でマツタケが見る間に出なくなるのは、若いマツの根が少なくなり、落葉が厚くなって、地表に敵がふえ、シロが次々に攻められ、マツタケがきのこ戦争に敗れるためだと考えられている。関西では、昔からマツタケの出る場所をシロと呼びならわしている。
 マツタケの生えるマツ林にうかつに近づくと、「泥棒っ」と怒鳴られてしまう。
 マツタケのない地方では、山への出入りは勝手放題だし、人の心ものどかだ…。なーるほど、ですね。
 人を殺すほどの猛毒をもっているのは、タマゴテングダケとドクツルタケ。
 『今昔物語』に出てくるきのこは、「オオワライタケ中毒の症状」とそっくりだという。
 さすが、キノコを長年研究したことがこうやってまとめれているのです。すごいきのこ図鑑(文庫本)です。
(2022年2月刊。税込1188円)

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