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東大で教えた社会人学

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著者:草間俊介、出版社:文芸春秋
 私と同じ団塊の世代が東大工学部で学生に対して、知っておくべき社会の「暗黙知」を教えた授業が本になっています。うんうん、なるほど、そうだよな。つい我れ知らず頭を上下にふりふりさせながら面白く読みました。
 日本の土地神話は銀行の担保主義に支えられてきた。土地の資産価値は下がらない。つまり、地価は上がり続けるという幻想があったから、銀行は土地を担保に取ってきた。そして、銀行が担保にとるから土地の値段がついてきた。しかし、その銀行も今では、その土地がどれだけ収益を生むのかという評価に変わってきている。これからは収益の上がらない土地の地価上昇はないと考えるべきだ。
 対米追従は従来型システムの典型。自国の正義を声高に主張するアメリカには自分の醜さが見えていない。それがアメリカの浅はかさであり、恐ろしさだ。そんなアメリカに依存して生きなければいけない日本は危うい。
 日本の政治家や官僚には、アメリカを怒らせたくないという恐怖心が根底にある。アメリカが守ってくれるという対米従属の体質が骨の髄まで染みついている。アメリカから文句を言われると、「はい、そうですか」とすぐに言うことを聞いてしまう。こんな思考停止状態を続けていたら、日本はいつまでも国家ビジョンをもちえない。
 日本の製造業が強くなったのは、人材の有能さだけでなく、しっかりした人材育成をしていたから。誰にでも潜在能力がある。これは、トレーニングによる日々の鍛錬と本人のやる気のうえに、チャンスが重なって初めて発現する。開拓せずに放っておくと潜在能力はいつのまにか消失してしまう。だから、フリーターが潜在能力を開花させるのは至難の技だ。どこの会社でも、給与は自分の稼いだ額の3分の1しかもらえないもの。つまり、会社としては給料の3倍は働いてもらわないと人件費がペイできない。立派な戦力として評価されるには5倍は働かないといけないものだ。
 トップと同じような考え方をする人間ばかりの会社は居心地がいいかもしれないが、周囲の状況変化への対応力は極端に低い。変化の激しい今の時代で生き残るには、同じような考え方の人ばかりではダメ。
 30年前、「会社の命は永遠。その永遠のために奉仕すべき」という遺書をのこして自殺した大商社の常務がいた。しかし、会社は決して永遠ではない。昔からそうなのだ。会社に殉ずる人生など、自己満足にすぎない。まず個人として独立した考えと価値観をもつ。会社の論理や都合なんて、その次でいい。
 年齢(とし)をとると判断が早くなる。これは頭のなかでパターン認識ができるということ。だけど、パターン認識だけで仕事をしていると、いつのまにか思考の柔軟性がなくなってしまう。新しいことを経験しないと頭が固くなる。
 人は能動的に頭をつかって何かアクションをしようとする思考回路ができる。受け身のときにはできない。この思考回路を何度もつかっていると、脳内で前より200倍も早く信号が流れ、超高速で思考できるようになる。一度この思考回路ができると、別のことを思考するときにも超高速でできるようになる。
 うーん、いろいろ勉強になりました。大学時代というのは生涯の友人をつくるのに最適の時期だという指摘がなされています。私も4年間も学生セツルメントにうちこんで生涯の友人を得ることができ、人生の宝だと今も瞳のように大切にしています。

回想のドストエフスキー

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著者:アンナ・ドストエフスカヤ、出版社:みすず書房
 ドストエフスキーの奥さんが速記者だったというのを初めて知りました。「罪と罰」の作者としてすでに有名だったドストエフスキーは、大変な借金をかかえて、短期間のうちに小説を書きあげなければいけませんでした。自分で書いているヒマなんかありません。そこで、周囲の誰かが速記者を雇ったらいいと入れ知恵をしたのです。呼ばれたのは20歳になったばかりの若い女性でした。ドストエフスキーのかかえていた借金は3000ルーブル。これが払えないときには債務監獄に入れられてしまうのです。そのとき、ある出版社が3000ルーブルで全集の版権を買ってもよいと申し出ました。もちろん、ドストエフスキーはすぐに応諾。ただし、あらたに小説を一篇書き足すことが同時に条件となっていたのです。
 ドストエフスキーは、たちまちうら若い乙女の速記者に魅せられてしまいました。大作家から結婚の申し入れを受けたときの様子が本人の口から本当にういういしく語られています。その場で目撃しているかのように、読んでいるこちらの胸までドキドキときめきを感じたほどでした。
 ドストエフスキーは、たとえ話で彼女に迫りました。年をとって、借金に苦しめられている病身の画家が若くて健康で快活な娘さんに何を与えることができるでしょうか。これほど性格も年齢も違っている若い娘が、この画家のような男を好きになることがあるものでしょうか。
 彼女のこたえはこうでした。どうしてありえないわけがあるでしょう。やさしい思いやりのある人でしたら、その画家を好きにならない理由などありませんわ。その人が病気で貧しいことなど、いったい何でしょう。外見やお金だけで人を愛するということができるものでしょうか。その人が好きでありさえすれば、自分でも幸せにちがいありません。
 そこで、ドストエフスキーは、彼女にこうたずねました。その画家がわたしで、わたしがあなたに恋をうちあけ、妻になってほしいと頼んでいるとします。聞かせてください。なんと答えますか。
 彼女は、わたしだったらこう答えますわ。あなたが好きで、一生ずっと愛しつづけますわ、と。
 心をうつやりとりです。こんなことも紹介されています。
 1867年の冬。そのころできたばかりの陪審員の役割にドストエフスキーは非常な興味をいだいていました。彼らの公平で理性的な答申に感服し、感動していました。新聞を読みながら、法の生命にも関係するすぐれた実例を妻に絶えず話してきかせていたのです。
 ドストエフスキーを久しぶりに読んでみたくなりました。

日本のお金持ち研究

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橘木俊詔・森剛志/著、日本経済新聞社
 「全国規模のアンケート調査とデータから現代日本の富裕層とは誰かを浮き彫りにし、金持ちになった背景や社会制度の実態に迫る興味深い1冊」とネットで紹介されているとおり、社会学の学者による日本の金持研究です。
 目次をぱらぱらと見たところ、医師・弁護士・経営者などアンケートを踏まえて、お金持ちに関する分析がされていましたので、弁護士の欄と医者の欄を本屋で立ち読みで対比しました。
 「弁護士はなるまでのリスクやその労働時間に比べると、医師やほかの仕事に比べて経済的に報われていない。ロースクールができても、現状程度の収入であれば、優秀な人間はますます他業種に流れてしまう」「裁判官と弁護士は有名になればなるほど忙しくなるが、検事は逆にヒマになる」等等フムフムと自分と対比して納得できる部分もあれば、ええっ弁護士はこんなに他業種に比べ(金銭的に)報われていないの?と驚かされる部分もあり、買う気が失せました(TT)。高額所得弁護士の4タイプの中身は忘れましたが、自分はそののどれにも当てはまりませんでした(ガックシ)。
 眼科の業界で、白内障バブルなんて事象があったことも知りませんでした。弁護士業界の倒産バブル(東京で高額納税弁護士の相応の割合を倒産関係の弁護士が占める)のようなものなんでしょう。目次だけでも学者の論文にしては目を引くものです。読んだ上で買えたアナタの性根は強いですよ、マジ。

武装解除

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著者:伊勢崎賢治、出版社:講談社現代新書
 紛争屋という職業についている48歳の日本人男性の体験にもとづいた本です。すごい日本人だと感嘆します。いえ、日本人女性もいるそうです。すごいですね。このような人たちがいるおかげで、日本人も少しすこしは国際平和に貢献していると言えるのですね。なにも平和貢献は自衛隊の専売特許ではありません。
 東チモール、シエラレオネ、アフガニスタンの現地に出かけ、ゲリラと政府軍のあいだに入って武装解除をすすめるのです。もちろん、実際にはたびたび難問にぶつかります。それを丸腰でさばいていくのですから、たいしたものです。勇気があります。
 人道援助は、もはや戦争利権のひとつになっている。人道援助の利権をめぐって、NGOと営利企業とが競うような時世になっているのです。
 世界の紛争現場に身を置いてきた著者は憲法改憲論に組みしないと強調しています。
 海外派兵はおろか軍隊の保持をも禁止している現行憲法下でひどい状況が生まれているから、たとえ平和利用に限定するものであっても海外派兵を憲法が認めてしまったら、違憲行為はさらに拍車がかかるのではないか。
 つまり、現在の政治状況、日本の外交能力、大本営化したジャーナリズムをはじめ日本全体としての「軍の平和利用能力」をみたとき、憲法とくに9条には愚かな政治判断へのブレーキの機能を期待するしかないのではないか。あえていう。現在の日本国憲法の前文と第9条は、一句一文たりとも変えてはならない。
 世界の内戦の現場で、身を挺して平和を守ってきた著者の言葉にはズッシリとした重みがあります。

政策秘書という仕事

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著者:石原伸晃、出版社:平凡社新書
 日本の大学を卒業して、外資系銀行のディーラーとして活躍したあと、離婚の試練を経て司法試験に挑戦して合格。ところが、司法修習が終わって、川田悦子議員(無所属)の政策秘書となる。川田議員が落選して今は弁護士。そんな著者の経歴はまさに異色。
 政策秘書試験は合格率が4.7%という難関。ところが、合格しても政策秘書になれる人はほとんどいない。大半は、別の審査認定を受ける方法によっている。
 著者は秘書が議員へ献金するのを禁止すべきと提言しているが、まったく当然のこと。なぜ議員へ献金なんかするのかと不思議に思うと、実は、議員の集金方法のひとつになっているから。
 類書がたくさん出ているなか、無所属議員の秘書から見た国会という点で目新しいところがある。

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